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#4 初依頼受注

「おっす。しばらくぶりだなぁ、えぇと…」

「顔は覚えてて名前忘れたのかよ…」

「うん、ごめん。なんだっけ名前」

「名乗ってないから知ってたら困る」

「神様をからかうんじゃないっ!」


 この時点で気付いた方もいるだろうか。そう、ここはいつか来た神の寝床だ。ただし今回は、桂さんも一緒であると付け加えて。

 ここへの入り方は、とても簡単だった。なにせ、寝る前に女神の書と神の万年筆をそれぞれ枕の下に入れて眠るだけなのだから。


「ハァーイ、小子ちゃん。しばらくね、三日ぶり?」

「はい、女神様も元気そうで」

「ウフフ、いつ見てもいいものね。魔力の象徴は」

「ちょ、女神様!?どこ見てるんですか!」


 そう言って、桂さんは自分の胸部を手で覆い隠す。魔力の象徴…ってことは、デカければデカいほど魔力を多く持っているって事なのか?


「それで?今日俺たちを呼び出したのは、どういう了見で?」

「ちょっとあなた。何今更神様気取ってんのよぉ。いつも暇だ暇だってつぶやいてたじゃない」

「…お、おいおい。あのな、こういうのは最初の印象が大事なんだよ。ほら、神様の威厳とか知名度とかな」


 神様と女神様の夫婦会話がダダ漏れである。女神様の威厳は保たれているようだが、神様の威厳とやらは既に墜落しているのは、明白だった。


「…あー、げふんげふん。それで、人間よ…今日我等を呼び出したのはどういう了見で?」

「あのさ、僕たちが異世界に飛ばされた理由が知りたいんだけど」

「…あのさぁ、神様にタメ口ってどうよ?…はぁ、もういいや。それで、何?君達を異世界に飛ばした理由…だっけ?えっとな、迫り来る厄災から世界守ってくれ」

「…うん、厄災って?」

「知らない」


 お前神様だろ!そんな適当な事で良いのか!?


「女神様、私も一つ良いですか?」

「ドゾー」

「異世界に飛ばされたのは、なぜ私達だったのですか?」

「それはね、この女神様の夫が召喚者も決めないまま与える能力を作ったからなのよ。で、女神様も一緒に流れで能力作っちゃったんだけど…それが適応するのが、小子ちゃんとそこにいる野郎だったのよ」


 名乗らなかったのは失敗だったかもしれない。この女神様、容赦ねぇよ。


「あ、そうだ神」

「様がどっかいったぞ」

「異世界行ってから気になってたんだけどさ、僕たちがここに戻って来ているってことは、元の世界に帰れるよな?」

「うん」

「で、その時に得た知識や記憶は、どうなるんだ?」

「強い記憶は残って、弱い記憶は消える。全部、君次第だよ」

「じゃ、他の質問。僕たちがいた世界の方は今どうなってる?いきなり行方不明者2名だぜ?」

「その辺は大丈夫だ。そこには、既に終わらせた君達が送り込まれている」

「…終わらせた?」

「つまり、異世界を救った勇者だよ。未来の君達だ」


 なるほど、時間軸を弄ったのか。随分都合のいい紙だな。


「なぁ、今俺の事、神様じゃなくて紙って思わなかった?」

「いや?ぜぇんぜん」

「そ、そうか?他に質問は?」

「あの万年筆について。書く文字で役割や具現化、さらに書く場所で持続力や追加指令が送れたりするのは、万年筆持った時に分かったんだが…これ、結局何なの?」

「異世界に混在する摂理」

「せつり…」

「あの世界に魔法が存在するが故に、書くだけで具現化し、その姿を見せる。君達の世界に行けば、その万年筆はただの万年筆に成り代わる」

「つまり、摂理を自由にいじったり出来るのか?」

「たかが人間が、一人の力で俺の世界が書き換えられてたまるかよ。例えば、一時的に空間に穴あけたって、五分もすりゃあピッタリ閉じてるっての」


 神様、少しお怒りのようです。でもまぁ、かなり現実的な話だよな。神に作られたとされる人間が、神以上の力を持ってたら…本末転倒である。


「なるほど、よくわかった。じゃ、取り敢えず今日は帰るわ。時間もそろそろ朝になるだろうし、今聞きたいことは全部聞いたからな…帰るぞ、桂さん」

「え…先生はもう帰るんですか?」

「まだ聞きたいことがあるのか?なら無理にとは言わないが。だけどまあ、朝起きた時に落書きされてても知らんからな」

「ダメですダメです!女神様、また今度っ!」

「じゃあな、紙様」

「だから字が違うと…もういいか。たまには、顔出せよ」

「気が向いたらな」


 その言葉を最後に、神の寝床での会話はぷっつりと途切れてしまった。次に意識が回復したのは、言うまでも無く僕たちの部屋だ。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 …ぐぉ……なんだ、顔が、顔が焼けるように熱い…。


「…って熱っ!」


 何か、ジリジリと熱で顔を焼かれる感覚に駆られ、僕は夢から目覚める。

 熱の正体は、窓から差し込む朝の日光で、危うく僕の柔肌が黒く染まるところだった。


「…これは、早々にカーテンを取り付けるか自分の家を持つかしないと……」


 さて、僕は朝日を浴びて目覚めたが、隣ではまだ桂さんが寝息を立てている。結局、僕より早く起きる事は出来なかったらしい。無防備な桂さんを見ていると、なんだか悪戯したくなるのは、もうお決まりのようです。


「…取り敢えず、おでこに〈肉〉とでも書いておこう。万年筆で書くのは……何が起こるかわからんな。羽ペンにするか」


 油性マジックなんて無いファンタジー世界では、人間の身体に落書きなどという文化は、存在しないだろうな。


 寝返りをうたないよう、桂さんの上に馬乗りとなり、羽ペンを手に取る。インクを着けて起きない事を祈りつつ、そっと、ゆっくり、顔に近付いていく。


「二人とも、失礼するよ。朝食を……」

「あ、マキさん。おはようございます」


 僕たちの部屋の扉を開けたまま、マキさんは硬直している。朝食の準備が出来たのか、それを知らせに来てくれたのだろう。


「……失礼した」

「あ、ちょ、マキさん?朝食がなんですって?」

「いや、いや、もう、本当、うん。ごちそうさま」


 と、マキさんは虚ろな目のまま扉を閉めようとする。


「マキさん!?」

「気にしないで続けてくれ。その…夫婦の結晶は、早いうちがいい」

「なんの話ですか!」

「違うのか?」

「違いますよ!」

「ならばなぜ、ショウコちゃんに馬乗りしている?」

「無防備な桂さんに少し悪戯してやろうかと思いまして……」


 そうしてどうにかマキさんの誤解を解き、事態の収縮が終わる頃には、桂さんも起き出していて。


「…ふぁぁ……あ、おはようございますマキさん」

「…あぁ、ショウコちゃん、おはよう。朝食出来てるからね」

「あ、はい。ありがとうございます」

「…ち、起きたか」

「え…あ、先生!私が起きるまでに、変な事しませんでしたよね!?」


 夢の内容を思い出したのか、慌てて洗面台へと桂さんは走る。やがて、安堵の溜息が聞こえた。


「特に何も無くて良かったです。先生の前で例え1分でも無防備になれば、容赦しませんからね」

「もうちょい信用しても、いいんじゃね?」

「信用が欲しいなら、日常の行動に気を配る事です。さ、マキさん。行きましょう」

「あ、あぁ……もう、この夫婦に驚かないぞ絶対に」


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 お世辞にも美味しいと言えない朝食を腹に溜め、いつか絶対この料理を改善させてみせると心密かに誓ったところで。


「先生は、今日はどうするつもりです?」

「何かクエスト受けようと思う。商業隊(キャラバン)の護衛とか、いいと思うんだけど」

「護衛任務ですか。そうですね…先生はBランクですから、日帰りから一泊二日ですし、いいんじゃないでしょうか」

「そうか、ありがとな。あ、それともう一つ…この辺で武器店てあるか?」

「さすがにそれは…マキさんに聞いた方が良いと思います」


 なるほど。じゃあ、マキさんを探すか。

 僕一人、マキさんを探していると、依頼受理窓口で係の人と駄弁っているのを見つける。


「マキさん」

「お、ヒコボシ。どうした?」

「マキちゃん、その子が超大物新人?」

「あぁ、そうだ。っと、すまんなヒコボシ。紹介しよう、こちら依頼受理窓口の〈シエン・ユーカリ〉さんだ」

「初めまして、ヒコボシ君。シエン・ユーカリです。皆からは親しみこめてユカちゃんって呼ばれてるよっ!」

「初めまして、シエン・ユーカリさん。今後ともよろしく」

「ユーカリさんじゃなくて、ユカちゃん」

「それで、マキさん。この辺りに武器店はありますか?」

「ユカちゃん、無視はいけないと思うよ」


 こういう、かまってちゃんは、あまり相手にしないに限る。


「どうして?ヒコボシなら、魔法で出せるだろう?」

「そうですけど、ずっと出せるワケでは無いですし…戦ってる途中で、いきなり武器が消えたら危ないですから」

「なるほど」

「ね、マキちゃんもそう思うでしょ?」

「武器店か…この辺りだと、表通りかな?案内しよう」

「おーい、マキちゃーん?もしもーし」

「助かります。案内お願いします」

「警告!マキニウムが不足しています!速やかにマキちゃんはユカちゃんの相手をしなさい!」

「行こうか」

「そうですね」

「ふふふ、いいでしょう。今日は見逃してあげます。いずれ来るユカちゃん覚醒のその日まで…」


 なんて面倒な人なんだ。僕、この後ユーカリさんに依頼受注しなきゃいけないのに…。

 そんな、僕の葛藤とは無関係にマキさんは案内を始める。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「さっきの、ユカちゃんだけど」

「え、あ、はい」


 ギルドホールから表通りに抜け、歩きながらマキさんは話を進める。


「あんまり、変な奴だとか思ってると、痛い目見るからな?」

「…思ってませんよ」

「なら良いんだ。多分、知らないから教えてあげるけど、窓口の人はほぼ全員Aランクだと思った方が良いよ」

「えぇ!?」

「BランクからAランクになるには、それなりの腕と知名度が必要なんだ。窓口の人達は、知名度が低かったからAランクになれなかっただけで、実力なら、あなどれないぞ」

「…そ、そうですか」


 しかしまぁ、考えてみれば当たり前かもしれない。どこの世界にも悪質なクレーマーや、血の気の多い奴等はいるのだから、見下されて違法な報酬の値上げでもされたらギルドの信頼に関わる。そうならない為の、つまりは脅しだな。


「…さて、着いたぞヒコボシ。武器店だ」

「あ、道案内ありがとうございました」

「まてまて。なぜあたしを帰そうとする。ヒコボシのBランクに祝いの一つもさせて貰えないのか?」

「…そういう事でしたら」


 マキさんと一緒に、武器店の中へと入る。

 僕とマキさんの他に、お客は一人しかおらず、何やら店主と話し込んでいた。


「……これは、魔法崩壊(マギクラッシュ)で壊れてますね」

「そんなん、他の店でも言われたわ!俺の剣がバッキバキに粉砕されんのも見とるんや!」

「ですが、修理となりますと…この位になります」

「高いっちゅうねん!これ買うてまだ一月も経っとらんから、戦闘保険が利くやろ!」

「と、申されましても…属性付与装備に追加属性など、聞いたこともございません。戦闘保険は戦闘中に装備が使い物にならなくなった場合に適用されますので…お客様の私情で壊したのではありませんか?」

「俺がどないして属性付与すんねん!見てくれからしたかて、魔法適性は皆無やろ!」


 なにやら、もめているらしい。他の客に迷惑だから、少し注意してやろう。


「あー、君。そこの、訛りの激しいそこの君」

「あぁん?なんやねん今めっちゃ忙しい……」

「自分の武器が壊れたからって、苛立つのはよくわかるけど、他の客に迷惑だから怒鳴り散らすのは良くないよ」


 さて、上手くすれば自身の醜態を見直して怒鳴るのだけは止めてくれるだろうが…まぁ、それはありえないな。可能性として一番大きいのは、怒りの矛先が僕に向くことだ。


「…お前か。別に俺は壊されたから怒っとるんとちゃう、俺の話を信じひん事に怒っとるんや。しかしまさか粉砕した張本人とまた会うとはな」

「ん?どこかで会いましたっけ?」

「…覚えとらんのか?昨日の適性検査で炎の剣(フレイム・ソード)振りかざしとった相手や」


 フレイム…あぁ、あの関西弁の…忘れてた。確かに昨日、僕はあの剣を粉々に粉砕した…というより、勝手に壊れた。僕自身も、そこまで壊れるとは思わなかったからだ。


「…思い出したか?〈ヒコボシ・ユーカワ〉」

「…あぁ、思い出した。でも名前はわからない」

「対戦相手の名前くらい覚えとけや。対戦トーナメントの板に書いてあったやろ…まぁええわ、俺は〈タイガ・スノウ〉や」


 タイガ・スノウ……雪虎かな?


「ヒコボシ、いい武器は見つかったか?」

「いえ、まだです」

「あり?マキ姉さんやないけ」

「やぁ、タイガ。久しぶりだなぁ…大きくなって」

「マキさん、知り合いですか?」

「そういうヒコボシかて、マキ姉さんと知り合いか?」


 聞くところによると、マキさんの友人にハクガと言う人がいて、その息子がタイガらしい。昔は、よくハクガさんの家に訪れていたから、タイガの事は生まれた時から知っているそうな。


「で、なんだっけ?壊れた武器を直すのに、法外な料金を請求されてるんだっけ?」

「おう、せやで」

「その武器、見せてくれ」

「ん?ほれ、これや」


 タイガの剣は、やはり根元からポッキリと折れており、折れた剣味もひび割れて修復不可能に見えた。


「…本当、すまない。勝負とはいえ、ここまでやってしまうとは……」

「かまへん、俺が未熟で招いた結果や。おかげで、属性付与武器の弱点もわかったさかいな」

「そう言ってもらえると、助かる。それで、提案なんだが、僕がその武器直そうか?」

「そんなこと出来るんか?」

「やってみない事には、なんとも」


 自分の胸ポケットから万年筆を取り出し、ひび割れた剣味に “ 復 ” と書く。そうすると、ひび割れた剣味は涸れた土地の如く、まるで水を飲むように大気中から何かを吸い上げ、復活した。さすがに、属性までは戻らなかったが。


「ヒコボシお前、スゲェな!俺、買い換えようかとも考えとったんやで?」

「って言っても、見た目だけだし。属性は戻らなかった。すまん」

「そこまで戻ったら、ヒコボシの魔法は最強やな」


 戻せなくも無い…が、そこまでやると色々と面倒な事になりそうだし。


「盛り上がっているところ悪いけど、二人とも周りに気を使え。ヒコボシも、魔法をそんなに多用するな」

「…周り?」


 マキさんに言われ、店主の方も見る。店主は、文字通り空いた口が塞がらずに目を見開いて、心ここに在らずと言った状態だった。


「…………あんたら、何もんだ。そんな、ホイホイ修復魔法を使って…………それに、スノウ…だと?まさか……」

「やべ。マキ姉さん、ほなまた。ヒコボシも、このお礼は今度必ずな!じゃあの!」

「お、おぅ。またな」


 タイガは、逃げるようにその場を後にした。


「…結局、なんだったんでしょう」

「なに、ヒコボシは気にするな。いつもの事だよ。それより、いい武器は見つかったか?」

「いえ、特には…僕は、刀が良かったんですが…どうも、この世界…あ、いえ、この地方には無いようです」

「カタナ…それは、ヒコボシの故郷独特の剣なのか?」

「ええ、まあ」

「それなら、ここより良いところを紹介しよう。店主殿、失礼した」

「……あ、はい。今後ともマキ様とは、よしなに…」


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 表通りの武器店を出て、先行くマキさんの後ろを歩く。その足は、表通りからそれ始め、裏通り…いわゆる、スラム街と呼べそうな場所に出た。


「ここは、スラム街ですか?」

「そうだよ。けど、治安は良いんだ。みんな貧乏だけど、根っこまでは腐ってないからな」


 言われてみれば、なるほど。表通りを歩く人々とは華やかさに欠けれど、活気そのものは表通りのそれを上回る。


「さあ、ここだ」

「…ここは」

「そう、鍛冶屋。今は、鋳造(ちゅうぞう)による大量生産が基本だが、ここでは鉄塊から全部打ってくれる。その分、お金もかかるが…なに、心配するな金額はあたしが出す」

「…そうですか」


 鋳造とは、溶かした鉄を型に流して造る製法で、包丁や中華鍋などの日用品はほぼ全てこの製法で作られている。

 マキさんがサビれた鉄の扉を開け、中に入ると、先程の武器店とは違い、蒸し風呂のような熱気が全身を包んだ。


「おーい、リュウガ!いる?」

「…誰だァ!俺様の事を気安く呼んだ奴はァ…おぅ、マキじゃねぇか!久々だな!またそのナマクラ剣が折れたのか?」


 マキさんが名前を呼ぶと、店の奥からボサボサ頭の中年男性が出てくる。ただし、その体は鍛え抜かれた職人の肉付きだ。


「いや、今回は別件だよ。ヒコボシ…この子の、武器を打って欲しいんだ」

「ほほぅ、俺様に一振り打って欲しいと。構わねぇが、金は有るんだろうな?」

「法的な額なら」

「はっ、ここはスラム街だぜ?表の法が通じるかよ…と言いたいところだが、馴染みの頼みだからな。割引しといてやる」

「恩にきる。さぁ、ヒコボシ。どんな武器が欲しい?さっきも言ったが、あたしからのプレゼントだからな。遠慮はいらないぞ」

「ええと、それでは…これと同じか、もしくはこれ以上でお願いします」


 造ってもらうサンプルを見せるため、先日と同じく、宙に刀と書いて、出現させる。鍛冶屋の人…リュウガさんは、僕の魔法には微動だにせず、現れた刀をまじまじと観察し始めた。


「…ほほぅ、こいつは……ふぅン………確かに、これは鋳造出来ねぇなぁ…」

「どうです?出来ますか?」

「俺様に打てねぇ剣があるかよ。ナメてんのかテメェ」

「…すみません」

「リュウガ、どれくらいで出来上がる?」

「…こいつと同じ剣を打つとなると……最低でも一年、長けりゃ五年だな」

「そ、そんなにかかるんですか!?」

「他の鍛冶屋なら、そう言うだろうぜ。ヒコボシ…と言ったな。お前、この剣をどこで見た」

「これは、僕の故郷の剣です。刀って言う剣でして……」

「こいつを造った人間に一度お目通りを願いてぇな。はっきり言って、天才だぜ…。安心しな、俺なら、一週間もすれば出来る。どうせ、他の仕事なんざこねぇんだからな」

「あ、あはは…お目通りは……ちょっと」


 無理かもしれない。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 とりあえず、僕の武器に関しては問題無いとし、再びギルドホールに戻る。マキさんは、リュウガさんの鍛冶屋にもう少しいるそうだ。まぁ、旧友に会えたのだから、つのる話でもあるのだろう。

 それはさておき、そのまま依頼受注窓口に行けば……不本意だが、ユーカリさんが窓口に立っている。今ちょうど誰かの相手をしているから、後で話しかけよう。

 そう思って、依頼を受けに来た他のギルド会員の後ろに立つ。


「あれ、先生じゃないですか」

「…あ、桂さんか」

「あ、ってなんですか。あ、って」


 僕の前で依頼を受けていたのは、桂さんだった。


「あー!ヒコボシ君だ!マキちゃんは?」

「……ユーカリさん、マキさんは今鍛冶屋さんで昔の友人と話し込んでますよ」

「え、リュウガのとこ?また剣壊れたのかなぁ…そうは見えなかったけど」

「ユカさん、先生とお知り合いですか?」

「だから、ショウコちゃんは堅いんだって。ユカちゃんでいいよっ!」

「ダメです。百万歩ゆずって愛称はいいですけど、ユカさんです」

「はぁ、もういいよ。ユカさんで…それで、何か依頼受ける?」

「私は、先生と同じで。構いませんよね、先生」


 桂さんと同じクエストか……まぁ、回復役は欲しいし、別にいいかな。


「あぁ、いいよ」

「じゃ、ヒコボシ君。依頼は、採取?お使い?」

商業隊(キャラバン)護衛で。僕、Bランクの剣士です」

商業隊(キャラバン)護衛か…うん、ちょっと待ってね…Bランク剣士で護衛、と……あぁ、あったあった。これなんてどう?」


 そう言われ、一枚の書類を見せられる。

 ふんふん、この街から数十キロ離れた隣街に、食料と織製品を納品しに行くのか。で、僕達はその護衛、と…昼刻に出発し、早ければ今日の夜、遅ければ翌朝に帰還。その日の状況と馬の気分により変化あり…か。

 いや、馬の気分ってなんだ。たかだか数十キロで馬が風邪でも引くのか。


「どうする?受ける?嫌なら他の紹介するけど?」

「いえ、この依頼でお願いします…あ、食料とかどうしよう」

「受けてくれるなら、携帯食料と野宿セット貸すよ?有料で」

「そこは無料って言えよ…」

「うん、ユカちゃんもそうしたいんだけど…ギルドってね、維持費がバカにならないのよ。寄付金も支援金もあるけど、まだ足りなくて…ごめんね、これもビジネスだから」


 お金って、どこの世界でも大切ですね。身をもって感じるよちくせう。僕、まだ一銭も持ってねぇってんだ。


「私、出しましょうか?」

「いや、いい。あの、ユーカリさん。依頼達成したら、報酬金貰えますよね?」

「うん、出るよ。出なかったら、詐欺だね」

「携帯食料とか、借りたいんですけど…持ち合わせが無くて。で、報酬金から後で払うのは、ダメですか?」

「…ユカちゃんって、呼んでくれたら考えようかなぁ……」

「ユカちゃん、お願いします」

「うん、いいよっ!って言っても、そういうシステムは既にあるから、呼ばなくても出来たけどね」

「ありがとうございます、ユーカリさん」

「手のひら返しの早さ!」


 依頼受注の書類にサインをし、レンタル証をとレンタル品を貰って依頼を受けた。もちろん、桂さんも一緒に。


「じゃ、ヒコボシ君。この番号札を持って、ギルドホールの前に建ってる宿舎に行ってね。受付の人にその番号札を渡せば、依頼主が来るから、粗相(そそう)の無いように。あと、これはユカちゃんからのプレゼント」


 ユーカリさんから、数字の書かれた番号札と、小さなカードを渡される。


「…これは?」

「ギルド会員証明書。ヒコボシ君が、ヒコボシ君である事を、証明するものだよ。それが無いと、街の出入りとか大きな買い物とかは出来ないから、注意してね」

「…私たちの世界の、身分証明書ですよ、先生」


 なるほど、そういう事か。桂さんあざっす。


「…でも、これを取られたらどうするんだろ」

「そういう事にならないように、自分の魔力を流し込むんです。人によって、魔力の質は千差万別ですから、すぐに本人かどうか分かります」

「…指紋とかと同じなのか?そもそも魔力ってどうやるんだろう」

「魔力の流し方が今一度分からなければ、血液を一滴付着させるだけでも良いそうです」


 そう言って、桂さんは針を貸してくれた。指に穴開けろって事なんですね…。

 チクリとする痛みに耐え、指の先から血を出す。それをギルド会員証明書に付着させ、ポケットにしまった。


 その後、桂さんと共にギルドホール向かいの宿舎に入り、受付の人に番号札を渡して、しばらく待つ。少しして、小太りのターバンを巻いたおじさんがやって来る。


「おや、今回は君達二人だけかい?」

「はい、そうです」

「そう。隣町までだけど、しっかり護衛をお願いするよ」


 軽く挨拶を交わし、僕と桂さんは宿の外に停泊していた商業隊(キャラバン)のもとまで案内された。

ご愛読いただきありがとうございます。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


最後の描写に小太りのおじさんのセリフを追加。手を抜いてすみませんでした。

クズで低脳な作者を、どうぞ気の済むまでいぢめてくだちぃ…。


嘘です。いぢめないでください。

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