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#28 それぞれの

開けすぎるとヤバイかなって。

とりあえず書き終わった所から載せてって、しばらく定期更新です。

 私、オリヒメっていいます。

 記憶が曖昧なんだけど、どうも私は奴隷として人間さんに捕まったみたい。覚えてないんだけどね。

 もともと、とと様と喧嘩して飛び出した私が悪いんだけど、飛び出した先はもっと悪かった。調子に乗って山越えしたら『いかにも』な人間さんにさらわれて、色々と教え込まれて、その中で言葉を覚えて……気づいたら、パァとマァに保護…なのかな?うん、保護されてた。

 ……あ、パァって言うのは獣語で『夫』とか『旦那様』の意味で、マァは『妻』か『奥様』の意味。ミィは『妾』って意味なんだけど、私…パァのミィになりたいんだぁ……えへへ、恥ずかしい。

 とにかく、今はビースティアを目指して歩いてるんだけど、ひょっとしたら迎えに来るかもね。私の煌めきは、ここまで来たら当然見つかってるだろうし、もしかしたら…とと様がパァと勝負しにくるかも。……無いか。かか様が許すはず無いもんね。

 …………今のうちに、人語覚えなきゃ。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「あー、ところで小子さぁん?一つ尋ねてもいいですかね?」

「はい、なんですか?」


 地図とにらめっこしながら先を歩く小子を呼び止め、聞くまいと決めつつ聞きたかった事を聞いた。


「ビースティアってどれくらいで着くんですかね?」

「そうですね……徒歩で半年くらいではないでしょうか」

「はいもう嫌だ!歩きたくない!疲れた!」

「あのですねぇ……これから山も越えなければならないんですよ?そんな弱気でどうするんです?」

「やる気削ぐ気しか無いですよねぇ!?」


 聞かなきゃ良かった!知らないって本当に良いことですねぇ!


「……そんなに歩きたく無いのでしたら、お得意の魔法で車でも出して下さいよ」

「あ、良いこと言うね。じゃあそうするか」

「あ、いや、あの、今のは物の例えで本当に出されると色々と大変な事になると思うんですけど」

「レッツ『召喚』!」


 幾何学な魔法陣も無くただ『召喚』と書くだけで出来てしまうのだから万能すぎて怖いです。ハイ。


「何が出るかな?何が出るかな?」

「いやいやいや……そんなに簡単に出るわけが…」


『召喚』と書かれた文字の上に、亀裂が走る。縦に伸びたソレはゆっくりと瞼を開けるように広がり、その隙間からイカともタコとも言えない、ぬらりとした触手が出現し始め。


「いあ!いあ!ふたぐん!へんぴん!いますぐ!なぁぁぁぁう!!」


 僕は名状し難い万年筆のような物で裂け目を塞いだ。幸い、ソイツは異世界へと一人で誘われたようだが。


「………」

「……ぶるぶる」

「………」


 三人まとめてSAN値が削れたところで、真面目に召喚。今度の召喚は明確に動物を思い浮かべたから、大丈夫だろう。


「…アホなんですか」

「いやぁ、あはは」

「かわいい、リメ、好き」


 次に召喚されたのは、犬。そう、牛ほどはある犬。ただし。ただし、だ。


「「「…くうん?」」」

「ケルベロスかよっ!」


 よく、番犬のイメージが強いケルベロスは題材にドーベルマンを思い浮かべるだろうが、目の前のケルベロスはセントバーナードが題材にされ、凶暴なイメージはもろくも崩れ去った。


「…もう一度言います、アホなんですか」

「まぁまぁ。魔物とはいえ召喚した以上、僕達に危害を加える事は出来ないし、リメも気に入ってるから採用だろ」


 現にケルベロスはリメを気に入ったのか、三首共にリメを舐め回す始末。その間に引いてもらう牽引車(けんいんしゃ)…いや、犬に引いてもらう車で犬引車(けんいんしゃ)を作る。

 ………………で、だ。


「ふふん、どうだ!良い出来だろ?」

「……ボロいですよね、見た目からして」

「なにおぅ!?」


 出来上がった犬引車は、日本の田舎でよく見るリヤカーというか、木箱に車輪が二つ付いてるだけのシンプルな作りだ。もちろん、引手はケルベロスが引けるように作った。


「…私たちが乗ったら壊れません?」

「ふふふのふ。侮るなかれ、この犬引車の車軸にはなんとサスペンションを搭載!砂利道を走っても振動が来ないようにスプリングとショックアブソーバーも付けた!そして極め付けは!」


 日本人の心『ZABUTON』の敷かれた荷台に乗り、木目の節にカモフラージュした部分に魔力を送る。


「座席に敷かれた『ZABUTON』と魔力を送る事で発動する結界だっ!なんとこの結界は水分を通さず空気を通し、例え豪雨の中であろうと進む事が出来るのだっ!」


 結界は網のイメージで、網目は空気分子が通れる大きさで水分子が通れないイメージだ。除湿機や最近のエアコンに搭載されているセラミックなんかが、イメージしやすいかな。


「さらに床暖房、風速制御も搭載!素晴らしいだろう?」

「見えないところに全力出してどうするんですか!常日頃からその全力を出して下さいよぉぉぉ!!!!」

「やだよ疲れる」

「あほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「リメ、一緒、叫ぶ、あほぉぉぉぉぉ」


 しかし、人は便利な物を使わずにいられないのか、結局はリヤカーに全員乗って進む事になった。小子、僕は後ろのリヤカーに乗り、リメはサドルを付けたケルベロスにまたがる。


「よぉっし!出発進行!」

「おー」

「「「わぉーん!」」」

「……もうやだ…誰か常識人を連れてきて…」


 かくして、僕達三人と一匹はビースティアに向かった。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「……意味わかんニェ…ホンットマジ意味わかんニェ」


 深い樹海の中で、俺は不満を漏らした。


「コレも修行や。根性出せ」

「暑っ苦しいニェん!クソ親父!」

「ふふっ、タイガもたくましくなったものだな」

「ばっかオメェ、まだヒヨッコだろうが」

「はっはっは!若いのう、儂から見ればリュウガ。貴様も尻の青い小童じゃ!」

「……そりゃアンタから見ればケツの青いガキだろうよ」

「クソがぁ……だいたいニャ、だいたいニャクソ親父…」


 俺はタイガ。タイガ・スノウ。スノウ一族の末裔で、伝説の英雄の末裔…らしい。いやな、そんなん知らんやん?ご先祖様とか俺に関係あらへんし。

 …そやけど、その英雄さんの能力は受け継いどる。その能力っちゅうんは獣化で、じーちゃんもクソ親父も産まれる男は全員虎に獣化出来るんや。……そう、そうなんや、俺は虎に成れるねん。せやのに!俺のクソ親父はっ!!


「馬の代わりに獣化さして荷車引かすって、どんニャ神経しとんニェん!」

「馬車馬のように働けや」

「誰が上手いこと言えいうた!!」


 その、刹那。俺は周囲を謎の気配に囲まれた。『現れる』でもなく『隠れている』でもあらへん。その場に『出現した』っちゅうのが一番近い。


「……親父」

「…………」


 どうも、親父は手を出すつもりはないらしい。まぁ、当たり前やわな。なんせ前の魔王戦で右脚がのうなってしもたんやし。マトモに戦えるわけあらへん。


「マキ姉!じーちゃん!リュウ兄!」

「…ごめん、足が痺れて立てない」

「儂も、腰を痛めた」

「戦力外通告」

「こんニャ時に何しとんニェん!」


 くそッ!俺一人で膨大な人数を相手にせえ言うんかい!…いや、こんな時こそ冷静に考えるんや。例えば…ヒコボシなら、どないする?


「………ずいぶんと物騒なご挨拶じゃニェえかよ、おお?女子供にじーさんしか乗ってニェえ貧乏荷車襲うとはよぉ?」

 ーー貴殿らは何者か。


 おおっとぉ……こいつら、俺の頭に直接話しかけて来やがった。思念波みたいなモンか?


「別に怪しいもんニャあらへん。ちょいこの先に用があるんニャ」


 嘘やない。せやけど、ホンマでもあらへん。俺は行き先も告げられんと親父の言う通りに引いとっただけやからな。


 ーーこの先は我等の国だ。何人たりて許すわけにはならぬ。

「ほぉ?ほニャら俺が引返しゃあ大人しく帰してくれる言うんか?」

 ーーそれも、ならぬ。場所を知られた貴殿らには消えてもらわねばならぬのだ。

「行くも地獄帰るも地獄ってのはよう言うたもんニャ」

 ーーどうするのだ?

「へっ!そら簡単ニャ話ニャ。そっちは国に入られるって大義名分がある、こちらは進むしか道があらへん。並行線ニャ。せやしこれはどうニャ?俺と誰か一人が戦って、勝った側の立場を飲み込む。俺が負けりゃ殺そうがニャにしようが好きにすりゃええ、俺が勝ったら大人しく通らしてもらう。大人数で俺らを殺したかて、見聞が悪なるのはそっちや思うし、ええ話ニャ思うけどニャあ?」


 圧倒的不利な状況を覆す交渉ってのは難しいらしい。せやけど、対等もしくは劣勢な状況に持って行くのはやりやすい。

 なんべんかヒコボシの交渉現場に連れてかれた俺の勝手な思い込みやろうけど、相手に考える時間を与えず、まくし立てる様にエエとこ悪いトコを喋ったら、焦る相手は特に『その考えしかない』と思い込むらしいんや。


 ーー貴殿の申し出、受け入れよう。しばし待て。


 よし、なんとか飲ませたな。こっからは俺の腕次第や……多対一(リンチ)一対一(サシ)に持ってこれた、上出来やろ。

 しばらくしたら、包囲は若干変化しよった。一人抜けて、陣形が変わったんやろ。その少し後、俺の目の前の茂みから仮面を付けた………人?いや、ようわからん『人型のナニカさん』が姿を現す。

 そいつは自分の剣を構えた。


 ーーでは、二人の真剣勝負を……

「するわけあらへんニャろ!先手必勝【咆哮】!」

 ーー卑怯なっ!


 知るかいな!ここまで来たら勝つか負けるかの命の取り合いやで?勝ったもんが正しいねん!正義やねん!!

【咆哮】は声に魔力を乗して相手を威圧する簡単な魔法や。その原理は単純なうえ対処がし易いさかいに、そない警戒はされへん。せやけど、不意打ちと初見殺しには、ちょうどええ魔法や。


「あんたには恨みはあらへんけど、悪いニャ」


 一瞬の隙があれば、俺の脚力で間合いは詰められる。そこに自分の双属剣を叩き込めば、必ず勝てる必勝の……。


「………ッ!」


 思わず踏み止まり、後方のマキ姉の所まで飛び退いた。


「大丈夫か、タイガ」

「……お、おう」


 分からへん。分からへんけど、あのまま行ったら俺が死んでた。頭の中の警報が全力で逃げろと訴えたんや。あのまま行っとったら、首が飛んどった。

 ……あの仮面には、下手な小細工は無しや。今俺が全力で出来る、全力の攻撃やないと、死ねる。


「………っーーす、ふぅ…」


 深い深呼吸とともに、俺は全身獣化を解除した。

 クソ親父め、あんたの言う通り、俺はまだ全身獣化に慣れてへんのやろ。当たり前やわな、全身獣化で自我を保ってられるようになったんも、最近の話や。そんな俺が全身獣化で敵を圧倒?寝言は寝て言えってんだ。


「……っふ!」


 まっすぐ、相手の懐へ駆ける。足だけ獣化させれば、制御は楽やし頭も冴えて余計な事考えんでええ。

 振り抜いた剣は左薙ぎの剣技をなぞり、高速の一撃は敵の懐をカスって浅い傷を残す。振り切った後の隙に反撃の唐竹が飛んでくるが、俺はその一撃を反らす。『受け止める』ではなく『反らす』。最初から力量では敵わんのは分かっとるんや。マトモに受けたら苦戦必須やからなあ、受け流すのが一番やで。


「せぇ、やあ!!」


 流れに沿って、相手の手元を狙う。ホンマは肘を打ちたかったけど、そこまでは狙いきれんから却下や。


「っ…!ちぃ!」


 ぐるりと手首を回すだけで、剣は盾の代わりを成しよる。おっそろしい手首のやわらかさと怪力やな。


「ここで諦めたら男がすたるっ!」


 弾かれた双属剣をそのまま振り抜き、左切上。このまま振り抜いたら、当然反撃が飛んでくるやろうが……来た。


「ここやっ!」

「………ッ!」


 振り切る寸前、俺は腕を獣化させる。そうすると、剣速は速なり予測した太刀筋とは違う結果を生む。つまりは。


「ッシャオラァ!!面取ったったでェ!」


 完全に力が乗る前の剣を弾き、うっとおしい仮面をまっぷたつに切り飛ばすんや!そんで、この至近距離から刺突で心臓を貫いたら、俺の勝ちや!


「これで終いじゃ!クソッタレェェェ!!!」

『そこまでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!』


 突然響いた声に、俺は動きを止めさせられた。止めた、やない。止めさせられた、や。


「………こ、この魔法、は…っ」


 俺も使うた、声に魔力を乗して相手を威圧する魔法……【咆哮】…せやけど。


「格が、違い、すぎるやろ…っ」


 ホンマやったら一秒か二秒くらいしか動きは止まらん。せやのに、この咆哮はまだ全身の硬直が解けへん。魔力の質も格も、魔力量もケタ違いや。ヒコボシとええ勝負しとるわ。


「そこまでだ、若き白虎よ」

「……ナニモン、や…あんた」


 咆哮を発した張本人やろ。樹海の隙間から日が差し、その人物を照らした。

 そいつは碧眼の獣人で、眼帯の上からでも分かるデッカイ切り傷を付けとった。


「私はガオウ。性なきガオウだ」


 ガオウ、と、そいつが名乗ると、その後ろからどんどん獣人が出て来よる。俺の気付かんうちに包囲網は解かれとったし、その包囲しとった奴ら全員がここにおると思ってええみたいやな。


「…くそ、俺の負け、や……この手数には、勝てんしな。卑怯な手、最初使うたんは俺や、早よ殺ってまえ」


 話すうちに威圧は解けたけど、今更遅いわ。こうなったら、せめて俺の命でマキ姉や親父の捕虜化をさせなアカン。死なへんかったらどうとでもなるしな。


「ふむ……」

「せやけど、一個約束して欲しいんや。命乞いなんやせんけどな、あっこにおる人らの命だけは、取らんといて欲しいねん」

「………」

「虫がええのは分かっとる。せやけどな?あんたらの国の捕虜になったら、それはもうあんたらの国の国民やろ?捕虜とまでは言わんけど、奴隷やら囚人やら、何かしらの形で生かしてやって欲しいねん」

「…その件を私達が受け入れたとして、何か良いことがあるとでも?」

「ある」

「言い切ったか。して、どのような良い事があるのだ?」

「言えへん」

「………そうか」


 負けたから、言うてなんでもかんでもベラベラ喋るんはアホのする事や。出すべき情報は出し、補足となる情報は選んで出す。交渉の基本や。


「…わかった。では彼等を持ち帰って直に聞くとしよう。最後に、言い残すことは?」

「痛くせんといてな」


 ゆっくりと腰から引き抜かれる剣を見た後、俺は目の前がチカチカし始めて、目を閉じた。チカチカが明るくなり始めた思たらそれは全部俺の記憶やった。

 走馬灯かいな、これはいよいよやで。

 ゆっくりと流れる時間の中で、俺の耳は剣が風を切る音を聞きつつ、思い出に浸った。

 あ、これは覚えとるわ。親父に初めて稽古付けてもろた日や。キツすぎて朝食ったもん吐きまくったんはオカンに悪い事してもうたな。

 うっ……めっちゃ恥ずかしいもんまで思い出させよってからに…五歳の時のやつやな。年甲斐もなくオネショしてもうた時のや。こっそり洗濯しとったんをユカ姉にバレたんやったなぁ…言いふらさんかビクビクしてたわ。

 お、これは最近の記憶やな。ヒコボシに無理矢理あっちこっち連れまわされた時のや。護衛とか言いながら商談のネタにされたんはもう慣れたもんやったわ。


「……いやいや!はよせぇや!走馬灯終わって…あぁん?」


 たまらず目を開けて見てみたら、どう言うワケか剣の先を天に掲げたままの状態で静止しとる。おまけに、俺が目を開いたのを確認してから、今度はソレを反転させて地に突き刺しよった。後ろのモブズは片膝でかしづいとるし、意味がわからんわ。


「先の無礼を、お許し下さい。これは貴方様を試す儀式なのです」

「いやいや、なおさら意味わからんし。なんなん?儀式?なんの話や」

「私から説明しよう、タイガ。……いや、こんな所で話すのも大変だな。ガオウ」

「かしこまりました、クーシャ様。では、こちらへ」

「マジ意味わかんねぇ…」


 マキ姉や親父達と一緒に、俺は樹海の中を進んで行った。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「…最近、ロクな依頼がねぇな」


 ヒュドロコオスギルドの掲示板を見ながら、酔剣ことヴォリス・ヴァレンタインはため息を吐く。それもそのはずで、張り出される依頼は薬草採取やゴブリン討伐。間違っても竜種討伐作戦や魔物大量発生は起こらず、今日も平和に日銭を稼ぐ事に。


「…そうだ、指名手配犯の確認でもしようか」


 都市外に出ると、ごくたまに賞金首を仕留める時がある。そうすると、旨い酒がボトルで買えるのだ。


「いつか樽で飲みてぇよな……っと、増えてる?」


 普段は増える事は無く、どちらかと言えば一月に一枚の手配書が減る方が多い。今回も、残った手配書を見るのが目的だったのだが……。

 思わず増えた手配書を確認する。


「おいおい嘘だろちょっと待てよ心友……」


 追加された心友の似顔絵が似てないのはどうでもいいとして、ヴォリスはそこに書かれた罪状を見た。


「えー……ギルド襲撃、国家転覆容疑に都市外逃走?他にも誘拐容疑と密偵容疑って………あのやろう、どんだけ犯してんだよ」


 とんでもない重犯罪者だとは微塵も思わないが、問題はそのトラブルを引き起こす事にあって。


「落ち着け、ヴォリス。冷静になって考えるんだ。心友の考えてる事を考えれば、何があったか大体わかるだろ」


 そもそも時系列がおかしいんだよ。おそらくは誘拐容疑からギルド襲撃、その副産物として国家転覆容疑と密偵容疑、それらを全て掛けられてから都市外逃走だな。

 ……ここから常識と自重を冥府の穴に放り投げ、究極のお人好しの思考に三度に一度の嘘を混ぜれば………。


「…誘拐ってのは魚が付いてるな。精々迷子の子どもを家まで送ろうとしたとかだな。で、その子どもがマズイ所の子どもで、それをネタにギルドと敵対した……と。その事が国にバレて国家転覆容疑とマズイ所の間者容疑で襲われ、逃げるために都市外へと出た……かな」


 色々外していることもあるだろうが、おおむねそんな所だろう。全く、あの心友には毎度毎度予想の斜め上からカウンタークリティカルを決めてくれる。あいつらしいと言えば、それまでなんだがな。


「……はぁ。あの心友はつくづく、このヴォリス様が付いていないと駄目になる一方だな」


 本人が聞いたら「何言ってんだ、かませ犬」などと悪態を吐きそうだが。


「仕方ねえ、行ってやるとするか」


 張り出された手配書を片手に、ヴォリスは受けた依頼を全部断って、心当たりのある方向へと向かってギルドを出た。

 その行き先はかなり無計画だが。


「まぁ、なんとかなるわな」


 とりあえずは、近い所の『塩湖村』に向かった。

ご愛読ありがとうございます。

次回更新は来週の日曜12時、それ以降毎週日曜の12時です。

予約し切ったら最後の更新にあとがきを載せます。

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