魔獣使いの少年、捕獲されました!
「君の人生は幸せ?」
そんな怪しい宗教の勧誘の様な言葉で俺に近づいてきたのは、同い年ぐらいの綺麗な人だった。
長い黒髪を一つに纏め、目は右が黒で左が蒼という珍しいオッドアイだ。
一度みたら忘れられない、絶対的な美貌の持ち主。
そんな人に笑顔でそんな事を聞かれたら誰でもポーっとなってしまうだろ。俺だけじゃないよな…。
「何、ポーっとしてんだよ。耳悪いの?聞こえてる?」
美人のくせに声低いな…口悪いし…。
「深沙樹、そんな言い方するんじゃないの。可愛そうでしょうが。君に免疫無い子なんだから」
そう黒髪の美人をなだめる優男も金髪の美形だった、ちょっと軽そうだけど…。
「免疫って・・・ウイルスかよ。」
「深沙樹さん、由紀斗さん、少年が逃げましたけど。」
色気たっぷりな外見に合わず、冷静な女性の声に慌てて、少年を追い始めた。
「あっ逃がすか。やっと見つけた下僕候補を!追うぞ。」
なんなんだ、一体?
性別不明の綺麗なのが一人、軽薄そうだけど端整な男、それになんか色っぽくて綺麗なおね―さんが一人。
関わっちゃいけない気がする。なんて怪しい人達なんだ!
「ふっふっふ。や―っと追いついたぜ、足速いじゃねーか魔獣使い!」
「なっなんなんだよ!あんた達は!」
「深沙樹という。今日からお前の主人だ!」
「はっ?なんで俺があんたに従うんだよ?」
「まだ、下僕に魔獣使いがいないんだ。お前の名前は?」
「新城 戎だけど下僕ってなんだよ」
「よし、今から言う事を復唱しろ!『我、戎は我が名の下に深沙樹と契約を交わす。』はい、どうぞ!」
「あっああ我って言うか!馬鹿!」
「早く言え!言わないと鎖那にかわいがらさせるぞ。」
「鎖那っておねえさん?」
一縷の望みにすがる少年、戒だった。
「鎖那は僕の事だよ。少年、可愛いね。大丈夫だよ、怖くないから」
ってにっこり微笑まれても…怖すぎ。俺はどうすればいいんだーーー!!!
「だから、早く言えって」
俺様発言をする黒髪の美人にあきらめたように戒は問いかけた。
「なんだったけ?」
「我、戎は我が名の下に深沙樹と契約を交わす。つまり、俺と」
「それ言うと、どうなるんだ?」
「幸せになる。言わないと不幸になる。簡単な事だ。言ったって別に害は無いし。言った方が絶対に得だ。さあ、早く言え」
自信満々に断言する黒髪の美人に隙はなかった。
幸せか…嘘かもしんないけどまっいいか。
俺の逃げ足に付いてこられたの、こいつらが初めてだし。
なにより俺、こいつらから逃げ切れる気がしない…。
あの金髪のにーちゃん、優しそうに見えてぜってーヤバイ。
「よし!俺も男だ、覚悟を決めた!我、戎は我が名の下に深沙樹と契約を交わす!言ったぞ!」
そう叫んだ俺に冷静に彼は言った。
「よっしゃ。手出せ。」
俺の右手の上に黒髪美人の深沙樹は左手を翳した。
手を触れてはいないのに熱を感じる、俺の身体の中から力が右手の甲に凝縮している様だ。
「よし!契約完了。下僕確保!」