苺
「誕生日おめでとー」
友人達の楽しそうな声。日の差し込む窓。
俺は友人のお祝いに呼ばれていた。
「ありがとう!」
嬉しそうな声。
テーブルの上に、ショートケーキ。
ありふれた誕生日の光景。
その中で俺は一人だけ、色彩を奪われたような感覚に陥る。
―苺は嫌いだ。思い出すから。
「好きなの?ショートケーキ」
偶々寄ったケーキ屋。
「いや、別に」
「私は好きだよ、ショートケーキ。苺とクリームがマッチして―」
語るクラスメートは楽しげだ。
「苺が好きなんだろ、それ」
「あはは。そうかも」
「よし、帰る。…バイト頑張れよ」
「うん! また来てね」
…楽しそうな顔が忘れられず、しばしば店に足を運んだ。
とある日
「今日はもう上がりなんだ」
「そうか。…ケーキ二つ買っちまったからやるよ。差し入れ」
嘘だ。シフトを聞いて用意した。
店長の笑みが見えて癪に障る。
「ほら、店のテラス行こうぜ」
「~っ!ありがと!」
嬉しそうな顔だ。
「ふぅ、美味しかった」
帰途に着く。あの笑顔。俺も満足だ。
突然何かに包まれ、唇を奪われた。
「お礼。…大好き」
囁くと彼女は走りだした。
顔が真赤で、苺みたいだ。
と思ったが我に返る。
「…おい待て!」
それは俺が言おうと思っていた事だ。
俺の感情を伝えないまま逃げられては困る。
道の真ん中、彼女が振り返る。
緊張からか、涙目だ。
俺は息を吸う。
「俺も―
刹那、世界が凍る。
いきなり出てきた鉄塊のふりをした悪魔が鎌を、振り下ろした。
残酷で理不尽な鮮やかな赤色。俺は麻痺する頭で
―まるで熟した苺みたいだ、と思った。
「―おい!どうした!?」
声で気が付く。陽光に目が眩む。
俺は涙を零したらしい。
「…今日は帰るわ。…悪い」
「ああ…」
俺はフラフラと部屋を後にする。
何かに引かれるように歩いた。
ふと道の真ん中で騒がしい音がした。
眼前に白と赤の、鉄塊。
―乗っかった赤色灯が苺みたいだ。