その8 変人集結!
「あっちぃな〜」
「暑いです〜」
「暑いよ〜」
夏休みのとある一日。天地荘202号室にいる俺達に、紫外線、湿気、猛暑が束となり、容赦無く襲い掛かってくる。
勿論俺達に手向かう為の策など無く、ただただ体内から出る水分に対して、気化熱による体温低下の任務を課せる事しか出来ない。
いや、厳密に言えば、対抗策は有る。この場所からクーラーの効いている場所に移動すればいいだけの事。いっその事、その策を実行に移せればどれだけ楽なのだろうか。
しかしそれは出来ない。何故なら、夏は『汗をかかなければいけない季節』なのだ。
熱中症に気をつけながら汗をかく。これが理想的な夏の過ごし方なのだ。
「龍ちゃ〜ん。イツデモテキオン君、使っちゃだめ〜?」
「若いんだから我慢しろっての」
「扇風機がガンジーに思えてくるです〜」
お、レンはガンジーを知ってるのか。それなりに教養は有るみたいだな。
「ねぇ龍ちゃん。空ってどうして青いの〜?」
と、窓にもたれ掛かりながら空を見ていたサヤが、唐突に聞いてきた。
「サヤはそんな事も分からないですか? サヤは勉強不足です〜」
「え、レンちゃんは分かるの?」
「当たり前です。朝飯さいさいです」
朝飯前とおちゃのこさいさい、が混ざったんだな。
まぁレンはガンジーを知ってたし。空が青い理由も分かるだろう。
「空が青いのは、オゾンが青いからです」
「オゾン?」
こりゃまた頭の良い間違え方だな。海の青が反射して、とかじゃ無いんだな。
「違う違う。オゾンは確かに青いけれど、空が青い理由じゃ無い」
「そうだったですか?」
「そうだ。空が青い理由がオゾンじゃ無いなら、何だと思う?」
この質問に二人は腕を組んで考え込み出した。そしてサヤが手を挙げる。
「はい、空が青い理由は?」
「あんぱん食べた〜い」
………。
バチーン!!!
「ふぎゃっ!!!」
俺は例のデコピンを、サヤに喰らわせた。ふざけた生徒に対しては容赦無く体罰を行う。それが俺の教育方針だ。
「分かったです」
「はい、レン」
「昔昔、ある所に二人の男女がいたです…」
…。
……。
………。
二人の男女の名は、アンドレとキャサリン。
二人はお互いをとても深く愛し、ある時は湖で水面を眺め、またある時は丘に登り街を眺め。
二人は時間さえあれば、常に一緒にいたです。
しかし、現実とは残酷です。その残酷な現実は、愛し合っている二人に対してでも、容赦無く襲い掛かるです。
「キャサリン! お前はまたあの男と会っていたのか!!!」
「………」
「お前はいずれこの国を担う存在なんだぞ!!! 分かってるのか!!!」
「はい…。存じております…」
「それなら何故、あのような平民と愛し合っているのだ!!!」
そうです。二人の恋は、許されざる恋だったです。
キャサリンは国王の一人娘。アンドレはただの一平民。勿論この恋を、国王が許す筈もありませんです。そして国王はキャサリンを城から出すまいと、常に衛兵に見張らせたです。
国王に軟禁されてしまったキャサリン。そのキャサリンはもう二度とアンドレに会えない。そう思ったです。
…。
……。
………。
「だから空は青いです」
「そんな事より、その後の二人はどうなったの?」
「ああ、俺も気になる。ちなみに不正解な」
「続きは請うご期待です」
くぅ〜。続きが気になるぜ〜。
「あ、そうそう。空が青い理由だけど、それはだな…」
二人とも正解にカスりもしなかったので、俺は太陽光は七つの色を含む事から説明をした。馬鹿な俺が何故分かるかって? 実は丁度昨日授業でやってたんだよね。
「虹が七色なのもそれが理由なんだ。それで空が青い理由だけど、その太陽光が空気中の酸素分子や窒素分子にぶつかって散乱し…」
「産卵? 太陽も子供を作るんだね〜」
「その子が力士になったら山太陽です〜」
あぁ〜はいはい! 詰まらない話をしてすいませんでしたね〜!
バタンッ
「ただいまぁ…」
と、その時、アパートのドアが閉まる音と共に、女性の声が聞こえて来た。この声は間違いない。あの人だ…。
「誰が来たのかな。見に行こうよ」
「行くです」
二人は早速、部屋を出て階段を下りて行った。俺も二人に遅れて、階段を下りる。
すると、馬鹿二匹がどこから持ち出したのか分からないが、アパートに入って来た女性にエアガンを向けていた。
「このサヤがいる限り、このアパートには傷一つ付けさせないぞ! 不法侵入者め!」
「覚悟するです!」
何やってんのこいつら。不法侵入者は、ただいま。なんて言わねーよ。
とにかく俺はこの馬鹿を無視し、ドアの入口に立っていた人物に言った。
「お帰りナナ姉さん」
「久しぶりね龍ちゃん」
俺に久しぶり。と言った、妖艶な雰囲気を放つ女性。やはりアパートに入って来たのはナナ姉だった。
「やっとナナ姉が帰って来たのか!?」
ドタドタ
と、俺の声が聞こえたのだろうか。二階から鈴音さんが下りて来た。
「おかえり! 今まで何やってたんだナナ姉!?」
「あら、鈴音。ただいま。それで……」
ナナ姉は天使と悪魔をじろじろ見つめた。
「何?」
「何です?」
「このカワイ娘ちゃん達はどちら様かしら?」
…。
……。
………。
「クフフフ…。天使と悪魔。とっても興味深いわねぇ〜。ンフフフ…」
夕食の時間。俺達住人は久しぶりに全員揃った。サヤとレンが来てからは初めての事だ。そして俺はナナ姉に、二人は天使と悪魔。と、紹介した。
「名前はサヤとレン。サヤはとびきりアホで、レンはとびきり腹黒い。こんな感じ」
「ンフフフ…。アホに腹黒。いいわよ〜。とってもいいわよ〜」
「こ、恐いよ鈴っち…」
「恐いです静華…」
ナナ姉が放つ異様な雰囲気に、二人はたじろいでいた。
「そうそう。まだ私の名前を紹介してなかったわね」
紹介しよう。彼女はこのアパートで最も変人な、ナナ姉こと、諸星奈々子。もろぼしななこ、だ。鈴音さんの一つ上で、大学二年生。オカルトが大好きな、超変態大学生だ。
顔、スタイル共に妖艶で、大人の色気を放つナナ姉は、とても男性にモテるのだが、この性格が災いし−−。
「龍ちゃんには新しい薬の実験台になってもらおうかな〜。クフフ…」
マジすいません。マジすいません。マジすいません。
「それじゃあ全員揃った所で、改めて自己紹介するわね〜。私は安芸静華。このアパートの大家さんよ〜♪」
「アタシは音無鈴音。大学生だ」
「そんで俺が相良龍之丞だ」
「サヤで〜す。職業は天使と、とある小説のモデルをやってま〜す」
「同じくレンです。職業は悪魔と、とある駄目駄目小説のモデルをやってるです」
それを言わないでぇぇぇー!!!
「よろしく。サヤちゃん、レンちゃん」
言ってナナ姉は、スッ。と手を差し出した。どうやら握手を求めているようだ。
サヤがそれに応え、手を差し出した。
「よろしくね。ナナ」
が−−。
カシャン
「えっ!?」
ナナ姉がサヤに手錠をかけた。
「天使の解剖ができるなんて、なんてラッキーなのかしら〜」
「私を解剖〜!?」
ナナ姉は天使を解剖する気か!!!
「サヤを解剖なんてさせないですー!」
サヤを抱えたまま部屋に行こうとするナナ姉に、レンは勇敢にも立ちはだかった。
「いくらで解剖させてくれるのかしらっ?」
「そうですね…。サヤ程の天使になると、お値段は弾むですよ」
お前は友達を売るのか!?
カタカタ
チーン!
「税込み百円です」
「安すぎだよレンちゃ〜ん!」
うーん…。いや、妥当だろ…。
「そう。じゃあ十回払いでお願いねっ」
「分割金利手数料はジャパネットアクマが負担しますです。だから月十円です」
「はいっ十円」
「まいどありです」
商談が成立した。
「これで十ヵ月後にガチャポンができるです…。フヒヒヒヒ〜」
ガチャポンの為に友達売ったの!? 最低だなこいつ!
「待ちなナナ姉。レンちゃんが許してもアタシが許さないよ」
と、今度は鈴音さんが、ナナ姉に立ちはだかった。
「そう…。調度いいわ。貴女とはいずれ決着をつけようと思ってたの」
「アタシもさ」
ナナ姉は床にサヤを置いた。そして睨み合う二人。
−−最初に動いたのは鈴音さん。
「はぁっ! 奥義・皇帝掌!」
鈴音さんは下段キックで相手の体制を崩した瞬間、両手の手の平で相手の水月を狙う奥義、皇帝掌を繰り出した。
「甘いわっ!」
しかしナナ姉はジーパンの右ポケットから鉄の盾を出し、これを防ぐ。
因みに、ナナ姉は存在そのものが四次元なので、あまりツッコまないで欲しい。
「相変わらず、硬い盾だ…」
「貴女も、素晴らしい奥義ね」
正直この二人は人間離れしている。今さっきの攻防も目で追うのがやっと。反応なんてとてもじゃないけど出来っこない。
「今度はこっちから行くわよっ!」
言ってナナ姉がポケットに手を入れた。そして取り出したのが−−。
「エクスカリバ〜」
ナナ姉がのぶ代の声と共に取り出した物。それは古より伝りし秘剣、エクスカリバーだった。一体何の剣なのかよく分からないが、そこも深くツッコまないで欲しい。とにかく凄い剣なのだ。
「行くわよっ。奈々子流剣術奥義!」
奈々子流剣術なんて初めて聞いたのだが、そこはあまり深くツッコまないで欲しい。とにかく、今閃いた剣術なのだ。
「龍一門!」
なんかよく分からないが、とにかく斬撃が飛んで、衝撃波となった。そしてなんかよく分からないが、鈴音さんはその見えない衝撃波を交わした。
何故斬撃を飛ばせるか。何故見えない斬撃を交わせるか。という事には、あまり深くツッコまないで欲しい。二人は超人なのだ。
しかし、その超人にも予想だにしなかった出来事が起きた。
パリーン!!!
なんと鈴音さんが飛ぶ斬撃を交わした事によって、アパートの花瓶が割れてしまった。
二人は驚いた顔をして目を大きく見開き、割れた花瓶を見た。
そして−−。
「鈴音…」
「勝負はおあずけか…」
そしてその二人と俺は、とある人物を同時に見た。
「あなた達、花瓶を割ったわね…?」
ま、マズイ!!!
「おい龍之丞! 囮になってくれ!」
「龍ちゃん。あなたをしんがりに任命するわ」
「ちょっ! 二人共逃げるのか!?」
「「さいならー」」
「よく分からないけど、私も逃げるですー」
「私も〜」
二人と二匹はアパートから退避してしまった。
逃げなきゃマズイ。俺もそう思い、アパートから退避しようとしたが−−。
ガシィィ!!!
何者かに肩を掴まれる。それを振り払おうとしても、全くびくともしない。
俺は恐る恐る肩を掴んでいる人物を見た。
「あの…。やったのは鈴音さんとナナ姉であってですね…。俺は何もしてない…」
「問答無用じゃぁぁぁい!!!」
ドァァァン!!!
「ンギャァァァ!!!」
「ねぇ鈴っち。何で逃げたの?」
「静華さんがちょっとね…」
「静華がどうしたです?」
「静華はキレると鬼になって、見境なく人を襲うのよ」
「「鬼?」」
「そう。あれは、対峙してみないと分からない」
「確実に言える事は、静華を怒らせちゃ駄目って事。二人とも気をつけるのよ」
「「はーい」」
「おんどりゃあぁぁぁ!!!」
ズォッコーン!!!ドガガガァァァン!!!
「ごめんなさい静華さーん!!!」
誰か助けてぇぇぇー!!!
肋骨を数本もっていかれた龍之丞だったとさ。
−−続く。
レッツスタディーのコーナー
サヤ『ねぇねぇ〜。しんがりって何〜?』
鈴音『お姉さんが教えてあげ−−』
奈々子『殿は、負け戦などの時に敗走する総大将を守る為、敵の追撃を阻止する役目よ』
サヤ『なるへそ〜』
鈴音『うぅ…。アタシがサヤちゃんに教えようとしたのに…』
レン『じゃあ空が青い理由は何、です?』
鈴音『お姉さんが教え−−』
奈々子『太陽の光が空気中にある酸素分子や窒素分子にぶつかると、光が散乱するのよ。散乱は、太陽光が含む七色の光がそれぞれの色に散る。って言ったら分かりやすいかしら』
龍之丞『青っぽい色は散乱されやすく、赤っぽい色は散乱されにくい。昼間は太陽の光が大気中を通過する距離が短いよな? だから、太陽光が厚い大気の層を通り抜ける時に、散らされやすい青っぽい色の光が散らされて、目に見えるんだ』
奈々子『逆に朝・夕方になると、太陽の光が空気中を通過する距離が長くなるわ。だから空の色は、散らされにくい、赤っぽい色になるの。他の色は早くに分散し、衰退するから見えなくなっちゃうのよ』
サヤ『う〜。よく分かんないよ〜』
龍之丞『うーん。教える為には人の何倍も理解しなきゃいけないって事か…』
鈴音『アタシだったら上手に説明でき−−』
静華『字数が足りないから今回はここまでね♪』
鈴音『静華さんまで…』
全員『次回をお楽しみに!』