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えんでびっ!  作者: 灰月
7/15

その7 サヤとあんぱん

今回から本格的に物語が始動します。

「龍ちゃん、起きて〜」

「ん…」


 俺はサヤに揺すられて目を覚ます。そしてゆっくりと体を起こし、時計を見てみる。

 七時。

 ベッドを見ると、悪魔のレンが、可愛い寝顔をこちらに向けて寝ている。

 というのもレンは、神様と閻魔様から、ここに住め。と言われたからかどうなのか。真意は分からないがレンは、この部屋で寝るです。そう言い出したのだ。

 俺としては、ベッドが使えない事に変わりないので、渋々だが、了承をした。

 レンの事は後回しだ。今はサヤが俺を起こした理由を聞かなければいけない。


「どうした、サヤ?」


 俺は視線をレンからサヤに移し、そう聞いた。


「龍ちゃん、あんぱんってもう一つある?」


 あんぱん?


「いや、一つしか無いけど…って俺のあんぱん食ったの!?」

「うん。だからもう一個ちょうだ〜い」


 何だこいつは!?

 人のあんぱんを勝手に食べた事に対して謝罪をしないどころか、あまつさえもう一つを催促する。

 なんて傲慢な天使なんだ。


「その一個でおしまいだ!!!」

「なら、パン屋さんは? このオンボロアパートの近くにある?」

「ある。パン屋どころか、あんぱん専門店が。それと後で静華さんに謝っとけ」


「ごめんなさ〜い」


 すると天使は窓から、隣にある静華さんの家に向かって謝った。


「気にしなくていいのよ天使ちゃ〜ん。龍之丞ちゃんが神経質なだけよ〜♪」

「ありがとうしずっち〜」


………。


「だってさ龍ちゃん。反省したら?」


 駄目。心が折れた…。


「それじゃあそのあんぱん専門店にレッツゴー」

「ちょい待ち!」


 俺は、スキップをしながら扉に向かうサヤの肩を掴み、その動きを止めた。


「レンはいいのか?」

「いいんじゃないかな? 寝てるし」


 ですよね。この生物を、わざわざ起こしてまで連れていくなんて、馬鹿な事をしても仕方がないよな。


「よし、行くか」


 俺はサッカーのレプリカユニフォーム姿のまま、サヤと一緒にアパートを出た。

 外は早朝だというのにとても暑く、燦燦と陽光が俺達に容赦なく降り注ぐ。

しかし、サヤはこの状況下で汗一つかかないどころか、涼しい顔をしてスキップをしている。

 これはどういう事なのだろう。


「なぁサヤ、暑くないのか?」

「ぜーんぜん暑くないよ〜」

「ふーん」

「理由を知りたい?」

「いや、べつに」

「知りたい?」

「いや、べつに」


 サヤはいじけた。


「ごめんごめん! お兄さん、とぉ〜っても知りたいなぁ〜」

「本当〜!?」


 サヤが、ニパー。と、向日葵が咲いたかのような勢いで、目を輝かせながら笑った。

 まあどうせ天使七つ道具だろうけど。


「チッチッチ。甘いよ龍ちゃん。私が汗をかかない理由はこの、イツデモテキオン君をポケットに入れてるからだよ」

「へー。やっぱり天使七つ道具じゃーん」




「ふざけんなぁっ!!!」

「ひゃー!」


 俺は、ふざけた態度をとったサヤの耳元で、大声を出して叫んだ。


「ハラホロヒレハレ〜」


 サヤはそのせいで、目を回しながらフラフラしている。



「で、それはどういう機械なんだ?」

「よくぞ聞いてくれましたっ!」


 ん、デジャヴ…。


「持っている人の周りが、過ごしやすい気温になるんだよ〜」

「へ〜。サヤ、ちょっと貸して」

「いいよ。はいっ」


 俺はサヤからなんたらかんたら君を受け取ろうと手を伸ばす。そしてそれが手の平の上に乗った瞬間、蒸し暑かったのが、まるで春のような気温と湿度になった。原理は分からないが、これは凄い。


「うぉ〜。すっげぇ〜」

「でしょでしょ〜?」


 喉から手が出るほどこの機械が欲しくなった俺は、商談にもちこむ事にした。


「これいくらだ?」

「うーん。これ程の質になってくると、お値段はかなりはずむよ〜」

「それで…。いくらなんだ?」


「一億円」


 チッ。こいつ足元見やがったな。


「もう少し安くなりませんかね?」

「十回払いですね? かしこまりました」

「もう少し安くなりませんかね?」

「それではこちらにお名前、住所、生年月日、好きな人を書いて下さい」

「………」


ボゴァ!!!


「ふぎゃっ!!!」


 俺はこのアホ天使に渾身のデコピンを喰らわせる。


「お主なかなかやりおるな…。拙者をここまで追い詰めるとは…」


「ゲフフフフ…。ここまでのようだな、サヤ本武蔵…」


「かくなる上はこの腹かっさばいて−−」


ズシュゥッ!!!





「早くあんぱん屋に行かない龍ちゃん? 物語が全く進まないから」

「物語とか言っちゃ駄目だぞ」


 俺達は気を取り直し、あんぱん専門店、バタバタ走るジャム子アンアンッ。へと向かった。



カランカラン


「いらっしゃい!!!」


 店に入ると同時に、熊男とあだ名されるあんぱん屋の店長が、元気よく迎えてくれた。

 やはり熊男とあだ名されるだけあって、体毛が所狭しと生えまくっている。

 ちなみに本人はその事を気にしているらしく、以前、熊男とストレートに言ったクラスメートがボッコボコにされた事があった。

 故に、店長の前で『熊』に関係する単語はタブーなのだ。


「うわ〜。あんぱんがいっぱいあるよ〜♪」


 サヤは早速あんぱんを物色し始めた。


「ねぇ、熊のおじちゃ〜ん。この桜あんぱんって−−」


ガバッ


サササササ


ドンッ


「どうしたの龍ちゃん? ついに私を襲ってくれるの?」

「熊に関係する単語は絶対に用いるなよ!」


 俺はサヤを店の外へと引っ張ってから言った。

 つーかこのタイミングで女性を襲う人なんていねーよ!


「え〜。だってあの店長、どう見ても熊だも〜ん」

「そこをなんとか!」

「分かった。龍ちゃんがそこまで言うなら、私、熊なんてもう言わない」

「頼む! サヤはできる子だ。という事を、ちゃんと証明してくれよ?」

「うん。任せてっ」


 そうして俺達は再び店内へと入る。どうやら先程の暴言は聞かれていなかったらしく、店長はとてもニコニコ顔だった。


 俺はホッと一安心し、あんぱんを買うべくお盆とパンを掴む為−−。


「あるー日っ! 森の中っ! 熊さ−−」


ガバッ


サササササ


ドンッ


「謳う曲は選べやぁぁぁ!!!!」

「ごめん…」


 今回のサヤは素直に謝ったので、俺はそれ以上何も言わなかった。

 そして俺達は三度、店へと入る。どうやら先程の暴言は聞かれていなかったらしく、店長はとてもニコニコ顔だった。


 俺はホッと一安心し、あんぱんを買うべくお盆とパンを掴む為−−。


「ベアー! ベアー! ベアー大橋! 強いぞベアー大橋! 我らのベアーおーおーはーしー! ベ−−」



ガバッ


サササササ


ドンッ



「ベアー大橋って誰だよ!!!」

「プロレスラーだよ。龍ちゃん知らないの? 今さっきのやつがテーマ曲なんだよ」

「知らねーよ!!! どっちにしろ今歌うべき歌じゃないだろ!!!」

「うん。歌うべきじゃないよね」

「分かってるなら頼むよ! サヤはできる子なんだからさ!」

「任せてっ」


 そうして俺達は四度店へと入る。どうやら先程の暴言は聞かれていなかったらしく、店長はとてもニコニコ顔だった。

 俺はホッと一安心し、あんぱんを買うべくお盆と−−。


「ねぇ熊店長〜。熊店長って熊そっくりだね〜。前世もどうせ熊だったんでしょ〜。ほらほら、クマクマって鳴いてみな−−」


ガバッ


サササササ


ドンッ



「お・ま・え・は・馬鹿かぁぁぁ!!!」

「ごめんごめん」

「熊がクマクマ鳴くと思ったら大間違いだぞ!!!」

「ごめんごめん。でも店長さん、怒ってないみたいだよ」


 俺は店内にいる店長を見たが、ニコニコしていた。どうやら今の暴言も間一髪の所で、店長の耳に入ってなかったようだった。


「ふぅ…。間一髪だったな。サヤ、もう二度とやるなよ」

「分かった」


 俺はそれを聞いて安心し、五度、店へ入る。

 さすがにあんぱん専門店と言うだけはあって、店内はあんぱんで埋め尽くされていた。例えば、白あんぱんだったり桜あんぱん、苺あんぱんなどなど。様々な種類のあんぱんが所狭しと並んでいる。


「彼女とやってきたのかい? 可愛らしい女の子だねぇ」

「いえ、彼女は……従兄弟です」


 と、俺達がカップルに見えたのだろうか。店長がそう言ってきたので、俺は咄嗟に従兄弟だと言った。


「なんだー。てっきりおじさん、彼女と来ているのかと思っちゃったよ。ごめんな」

「アハハ…」


 俺には白河さんがいるっての! それに間違ったってこんなアホと付き合ったりしない…ってこの人に言っても仕方ないか。


「本当にあんぱんだけなんですね?」

「当たり前だ。あんぱんを作り続けて三十年。あんぱん以外のパンを作る時、それは俺が店を閉める時だ」

「へぇ〜」


 あんぱんにかける気持ちが強いんだな。

 そうでもなきゃ、あんぱんを三十年も作り続けるなんて事は、とてもじゃないけどできないよ。


「ところで、お勧めのあんぱんはありますか?」

「あるよあるよ。これこれ」


 言って店長は二つのあんぱんを持って来た。そして俺から見て右に有るあんぱんを手に取る。


「これは当店売り上げナンバーツー。餅入りあんぱんだ」

「餅入りあんぱん?」

「そう。おはぎからヒントを得て、作ったあんぱんだ。よかったら食べてみな」


 俺は店長からその、餅入りあんぱんを受け取った。しかしおはぎに使うあんが、パンに合うとは思えないのだが…。


パクッ


「…これは美味しいです」

「だろ? 意外と合うんだよこれが。伊達に当店売り上げナンバーツーじゃないって事よ」


 何ともコメントし難い味なのだが、とにかくこれは美味しい。


「それでこっちのあんぱんは?」

「こっちはこの餅入りあんぱんより人気、当店売り上げナンバーワンのあんぱんだ」

「へぇ〜。それで、どんなパンなんですか?」

「これはクリームあんぱんだ」

「クリームあんぱん?」


 まさかあんことクリームの融合とか?

 だとすると、想像するだけで気持ち悪くなるな…。


「中身はどんなあんこなんですか?」


 なんだかんだ言ってアンパン専門店の売り上げ一位商品だ。俺は内心ワクワクしながら、店長に聞いた。

 そして−−。



「このパンの中には、あんの変わりにクリームが入っているんだ。子供に大人気なんだぞ」


 ………。




「それ、クリームパンって言うんじゃ……」

「………」



「クリームパンですよね? それ」






「閉店だぁぁぁー!!!」


 うへぇぇぇー!?


…。


……。


………。


「「ただいまー」」

「あ、お帰りです。二人して朝からどこに行ってたです?」

「ちょっくら熊の巣に−−」


ゴチーン


 分からず屋には鉄拳制裁だ。


「レンにも買ってきてやったぞ」


 言って俺はレンにあんぱんを渡した。


「今食べていいです?」

「龍ちゃん、今食べていい?」

「駄目。朝ごはんが終わってから」


 俺の意見に二人はムスッとした。


「朝ごはんですよ〜♪」

「はーい!!!」

「はいですー!!!」


 と、静華さんがタイミング良く俺達を呼んだ。それと同時に、二人はいつも以上の勢いで階段を下りて行った。




「パン屋を潰しちゃったな…」


 罪悪感を感じながらの朝ご飯となってしまった。

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