その5 龍之丞ダイアリー
俺は夢を見ていた−−。
「龍之丞く〜ん。ここまでおいで〜」
「待ってよ白河さーん♪」
「ウフフフフ〜」
「アハハハハ〜」
海岸沿いで追い掛けっこをする俺と、白河さん。俺は幸せだ。白河さんを一人占めできるなんて、誰が想像できただろうか。俺は、いつ死んでもいい。そう思いながら白河さんを追い掛けていた。
そして−−。
「捕まえたぞ〜♪」
「捕まっちゃった〜♪」
「アハハハハ〜」
「ウフフフフ〜」
ドゴァ!!!
「のふぁっ!」
白河さんのボディーブローが俺の内臓をえぐった。
「し、白河さん…。どうして…」
「ウフフフフ〜。龍之丞く〜ん」
バキィ!!!
「ングァ!!!」
白河さんの放ったローキックが右足の骨に響く。
「し、白河さん…」
「ウフフフフ〜」
ドガァバキィドドドドドーン!!!
「ギャアー!!!」
−−現実世界−−
「こいつなかなか起きねーです」
ドゴォ!!!
「レンちゃ〜ん、そんなに殴ったり蹴ったりしたら、龍ちゃんが死んじゃうよ〜」
「何言ってるです。さっさと起きないこいつが悪いです」
バキィ
龍之丞の部屋には、寝ている龍之丞に暴力を働く悪魔と、それを止めようとする天使がいた。
「龍ちゃん泡吹いてるよ〜」
「泡を吹くのは健康な証拠です」
「へぇ〜。そうなんだ〜」
「納得してんじゃねぇぇぇ!!!」
ガバァ!
「やっと起きたですか。寝坊にも程があるです。起こした私に感謝するです」
「ああ、ありがとうな。お前のおかげで、清々しい朝が…ってふざけんじゃねーぞ!!! お前のせいで最悪の寝起きだ!!!」
体中がギシギシいってるんですけど!
せっかく白河さんとラブラブな夢を見てたのに、このくそ悪魔が!
「その白河さんってだあれ〜?」
「へぁ?」
「今言ってたです。白河さんとラブラブな夢を見ていたって」
しまった。心の声をいつの間にか、口にしてしまったみたいだ。
「まぁそんな事はいいからさ。早く−−」
「−−白河さんって、この日記に書いてあった人〜?」
「嫌ぁぁぁー!!!」
金庫に厳重保管してあったのに、どうやって開けたんだよ!?
「サヤ、もしかして−−」
「そうだよレンちゃん。天使七つ道具の一つ。ピキピキピッキング君を使ったんだよ〜」
「やっぱりそれですか」
「どうして天使が犯罪道具持ってんの!?」
「人を幸せにする為には、ピッキングもやむないって事だよ〜」
「どういう理論だよ!!!」
「とにかく、それを見るです」
「止めろ!」
俺はサヤが持つ日記を奪い、部屋を飛び出した。
逃走なんていとも簡単と思っていた。しかし−−。
ドッテーン!!!
「いってー!」
二階の廊下に有ったバナナの皮を踏んで、コケてしまった。
「こんな事もあろうかと、バナナの皮を仕掛けておいたです」
「くっ…。お前は諸葛亮孔明か!?」
「さぁ観念してね。龍ちゃ〜ん」
「日記をこっちに渡すです〜」
「「キェッヒッヒッヒ〜」」
「や、や…止めろぉぉぉ!!! うわぁぁぁ!!!」
…。
……。
………。
「これが噂の、龍之丞ダイアリーだね」
「マニアの間ではプレミア価格が付く程のレア物−−」
え? 俺の日記ってそんな凄いの?
「−−になるのは無理です」
期待しちゃったじゃねーかコノヤロー!!!
「冷静に考えろです。そんな訳が無いです」
こいつに正論を言われるのも腹が立つな〜。しかし…。二人の隙をついて、日記を奪わないとやばい事になる。
あの日記だけは見られちゃいけないんだ! 既にサヤには見られていのだが…。
「その日記、返してくれませんか?」
「テメーが土下座するなら考えてやってもいいです」
土下座…?
土下座をするだけなら一向に構わないのだが、この悪魔に土下座をするとなると話は別だ。
俺にだってミジンコ並のプライドは有る。この悪魔に土下座をするなど、俺が持つ、その、ミジンコ並のプライドが許さない。
「サヤ。日記を返して下さい」
よって俺はサヤに土下座をする事にした。これなら俺は納得…。微妙に納得できないのだが、悪魔野郎よりはマシだ。
「返すのはいいけど、このピキピキピッキング君が有る限り、いつでも見れるんだよ〜」
それは盲点だったぁぁぁ!!!
「無駄土下座です」
「無駄骨ならぬ無駄土下座ってか。おあとがよろしいようで」
テンテケテケテケ、テンテンッホワッ
結局日記は返してもらえたとさ。