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えんでびっ!  作者: 灰月
4/15

その4 目玉焼きと202号室

「龍ちゃん、起きてよ起きてよ」

「何だサヤ…」


 俺は重いまぶたを持ち上げ、右手人差し指の横っ腹で目を擦った。


「まだ四時じゃん…。どうした…?」

「龍ちゃんにね。大切なお話があるの…」

「どうした…? そんな深刻な顔をして…」

「龍ちゃんはさ…」


 サヤが今までに無く真剣な表情をしている。

 いつもおちゃらけている人物が急に真剣になったりすると、その人はやたらカッコよく見える。今のサヤはそんな感じだ。


「龍ちゃんは…ね…。」

「ああ…」





「目玉焼きには醤油? ソース? ケチャップ?」

「醤油。じゃあ寝るわ」



…。


……。


………。



「何が、目玉焼きには醤油? ソース? ケチャップ? だよ。わざわざ起こして聞く事か、っての!」

「それを聞く為に起こされる。なんて、たまったもんじゃないです。同情するです」

「だって〜。夢で龍ちゃんが、目玉焼きにケチャップをかけてたんだも〜ん」

「ケチャップ!? そんなのかける訳が無いだろ!」


 俺の意見にサヤも、だよね。と頷く。しかし、それに納得しない人。いや、悪魔がいた。


「何言ってるです。ケチャップをかけても美味しいですよ」

「「嘘ー!?」」

「本当です。今度かけてみるといいです」


 レンは、えっへん。といったポーズをとりながら言った。しかし目玉焼きにケチャップなんて考えられないぞ。


「本当に美味しいのか?」

「本当です。スクランブルエッグにケチャップをかけるのと一緒です」


 うーん。食べた事無いから何とも言えないが…。


「それじゃあ今から食べてみるか」

「さんせ〜」

「それがいいです」


…。


……。


………。



「あ、本当だ。美味しい」

「本当〜。美味しいね〜」


 俺達はキッチンにある冷蔵庫から卵を拝借し、目玉焼きを三つ作った。そしてそれをテーブルに座り、いただく。もちろんかけたのはケチャップだ。


「当然です。私が嘘をつくはずが無いです」

「それ自体が嘘だと思うよ俺は」

「うっせーです! 黙れです!」


ズンッ!


「いってー!!!」


 思い切り足を踏みやがったな!!!



「私は悪魔のイメージを変える存在になってやるです。テメーごときにごちゃごちゃ言われたくないです」

「悪魔のイメージを変える存在?」

「レンちゃんはね、悪魔が持つ悪いイメージを変えたいって思ってるんだ」

「ふーん」





「無理じゃね?」

「やってみなくちゃ分からないです!!! 黙れですー!!!」


ズンッ!!!


「ほら! 今だって人の足を踏んだじゃねーか! そんなんじゃ悪魔のイメージなんて変えられっこねーよ!!!」

「それはテメーがムカつくからですー! ムカつくですムカつくですー!」


ズンズンズズズンッ!!!


「イッテー!!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいー!!!」

「ようやく頭を下げたですか。いいですよ、今回は特別に許してあげるです」


 キェッキェッキェ…。油断したな…。


ズンズンズンズンズズズズズンッ!!!


「痛いですー!!!」

「フハハハハ! 油断したなこのくそ悪魔め!」

「もう許さないですー!」

「上等だ! 来い!」


ボカスカボカスカ



「また喧嘩だよ〜。止めたいけど、目玉焼きを食べてからにしよっと♪」


 サヤは何よりも食べ物が最優先のようだ。しかし、これで二人の喧嘩を止める術は無くなった。サヤが目玉焼きを食べ終わるまで待つしか無いのか?


ギィ


 しかしそんな時、アパートの入口にあるドアが開いて、人が入って来た。


「ただいまー…って、喧嘩してんの!?」


 ただいま、と。アパートに入って来たのは女性だった。その女性は喧嘩を止めるべく、レンと龍之丞の下へと向かって行く。


「おいおい龍之丞。喧嘩は止め…」


 しかしその女性は、椅子に座る一人の少女を見た途端、目を輝かせ始めた。


「なんて可愛いのかしらー!」

「ふぁ!? 何するの〜!?」

「もう可愛いすぎっ! 天使のコスプレとか、反則だぞっ!」


ギュムー


「ひゃぁー! 龍ちゃーん! 助けてぇー!」

「どうしたサヤ!?」


 俺は喧嘩を中断し、サヤの方を見た。その視線の先には、サヤに抱き着く一人の女性と、思い切り抱き着かれているらしく、苦しい表情をしているサヤの姿があった。


「やいやい! サヤを離せですー!」


 レンはサヤからその女性を引きはがそうとする。


 しかし−−。


「ウォー! この子も可愛いー!」


ギュムー


 ミイラ取りがミイラになってしまった。HAHAHA! 清々しい光景だぜ!


「人間、私達を助けろですー!」

「おいおい。助けてください、だろ?」

「テメーごときに−−」


「お持ち帰りしたいわー!」


ギュムー


「龍ちゃ〜ん! 助けて〜!」

「ったく、分かったよ」


 仕方ない。サヤがそう頼むなら、助けてあげよう。

 俺は骨を折ってしまいそうな勢いで二人を抱きしめている、その女性に近づいた。


「鈴音さーん」


 その女性の名を呼び、肩を叩いた。


「今アタシは取り込み中なんだ。黙っていろ」

「そのまま抱きしめてると、二人とも死んじゃいますよ」

「それは困る」


 その女性はパッ。と手を離した。


「死ぬかと思ったよ〜」

「九死に一生です〜」


「大丈夫かお前ら?」


 天使と悪魔は、呼吸困難に陥ったらしく、むせている。


「まぁいいや。とにかく紹介するよ。この人は音無鈴音さん。大学生だ」


「よろしく♪」


 彼女は俺の隣、202号室に住む音無鈴音さん。おとなしすずな、さんは、静華さんと同じく、ルックス、スタイル共に抜群で、身長も静華さんと同じくらいだ。

 ロングヘアーの静華さんとは反対に、ショートでシャギーが入っている髪形。

 そんな彼女は何を隠そう、大学空手の全国優勝選手だ。故に先程、抱きしめられた二人が瀕死の状態になってしまったのだ。

 そしてこれが一番重用なのだが、彼女は可愛い物に目が無い。部屋は可愛いぬいぐるみや、人形で埋め尽くされている。それ程の可愛い物好きなのだ。



「天使と悪魔なのか!?」

「まぁ…。一応そういう事です」


 俺は二人に鈴音さんの事を紹介した後、今度は鈴音さんに二人の事を紹介した。


「一応じゃないよ〜。本当だよ〜」

「そう言われても、いまいち実感が湧かないんだよ。翼とか、天使の輪とか、悪魔の尻尾とかがあれば信じられるんだけど」

「私達見習いには無いです。それらは一人前になって初めて、貰えるんです。もちろん天使も同じくです」


「うん、アタシは信じるよ」

「鈴音さん!?」

「だって、こんな可愛い子達が嘘をつく訳が無いだろう」

「ほらほら〜。信じないのは龍ちゃんだけだよ〜」


 やっぱり普通は信じるものなのかな? 信じたら負けな気がするんだけど…。


「それじゃあアタシは疲れてるから、寝てくる。天使ちゃん、悪魔ちゃん、また今度ね〜♪」


 鈴音さんは階段を上がり、自分の部屋に行ってしまった。そして俺は頭を抱える。

 遂にこの二人と、アパート住人、大家さんの二人とが出会ってしまったのだから。


「これからどうなるんだろうな…」


 俺に再び、平穏。という二文字が訪れる日はやってくるのだろうか…。


続く。

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