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えんでびっ!  作者: 灰月
13/15

その13 強盗から姫を救え!

 確かに二人の見た目は変わった。自分の持つイメージ通りの天使と悪魔、それは認めるよ。浮いてるし尻尾も輪っかもあるし。


「レンちゃ〜ん! 私のあんパン返してよ〜!」

「嫌です〜。もう食べちゃうです〜」


パクリ


「デリシャスです〜」

「うわ〜ん! 龍ちゃ〜ん、私めっちゃ悔しいよ〜! 金がいいですぅ〜!」


 でも中身は何一つ変わらないんだね。本当に残念だよ。

 そんじゃ、昼食後の散歩に行ってくるかな。


「俺は散歩行くけど、どうする?」


「行くー!」

「仕方ないから付いて行ってやるですー!」


 即答。聞いてからコンマ一秒だもんな。

 そのまま二人は、ワーイ。とか言って、アパートを勢いよく出て行った。

 俺も靴を履き、外に出ようとしたがしかし、静華さんに呼び止められた。

 一体どうしたんだ?


「どうしたんです静華さん?」

「龍之丞ちゃん、これを見て頂戴」


 静華さんはテレビを指差し言った。


「今、そこの銀行に銀行強盗が立て篭もってるみたいよ」

「本当ですか!?」


 俺はテレビを見た。そこには見慣れた駅前に有る銀行が映っていた。状況を伝えるリポーターの後ろには、警察や、やじ馬達で溢れている。


「どうしたの? 早く散歩に行こうよ」

「モタモタすんじゃねーです」


 と、先にアパートを出ていた二人が、俺を待ち切れずに再びアパートの中へ入って来た。


「ごめんな。なんかそこの銀行で強盗が立て篭もってるらしいんだよ」


 それを聞いて二人も驚いたのか、テレビに近づいて来た。


「あ、本当だね」


『現在犯行グループは人質を取り、立て篭もっています。見えますでしょうか−−』


 人質か…。その人達も不運だよな…。


「ねぇレンちゃん。あれって由里じゃない?」

「あっ、本当です! 由里です!」

「嘘っ!?」


 俺は目を懲らしてリポーターの後ろに映っている銀行を見た。ガラスの向こうには人質が十人程度見えるけど…。


 居た!白河さんだ!


「助けに行こうよ!」

「合点承知です!」


 助けに行く? 何言ってんだよ。相手は銃を持ってるんだぞ。お前達が行って何とかなる相手じゃない……あれ? 何で俺の手を引っ張るの?


「ほらほら、早く行くよ龍ちゃん」

「モタモタするなです」


 へっ?


「俺も行くの?」

「龍ちゃんは由里を助けたくないの?」

「愛しの由里が死んでもいいですか?」


 そんな訳無いだろ! 白河さんが死んだら、俺も死ぬと心の中で誓ったんだ。


「警察に任せるぞ」


 ああヘタレだよ。俺はヘタレさ。でもじっくり考えてみろよ。ミイラ取りがミイラになったりでも……あれ……なんだか眠くなってきたぞ……。


「悪魔七つ…具。眠れララバイ君……」

「さ…がレン……」


 そして俺の意識は途絶えた。


…。


……。


………。


「はっ! と目が覚めレンジで三分!」


 …ってうわぁぁぁー!!! 銀行前に来ちゃったよー!!!


「調度三分眠って貰ったです」

「おはよう龍ちゃん♪」


 最悪だよ…。最悪の目覚めだよ…。


「よし、それじゃあ由里を銀行強盗から救うよっ!」

「だから警察に−−」

「作戦は、テメーが突っ込む。以上です」


 死ぬー!!! 俺絶対に死ぬー!!!


「大丈夫。私が龍ちゃんを幸運にしてあげるから」

「え、だってレンも居るじゃん」

「そうです。だからサヤは一時的に、テメーの運の良さを爆発的に高めるんです」


 なるへそね。


「でも注意してね。私の力を使った後は反動があるから」

「反動?」

「うん。一時的に龍ちゃんの運の良さを爆発的に高めるから、その反動で龍ちゃんは運が悪くなるの」

「しかも私が憑いてるです。だからテメーは一時的に超強運になる代わり、暫くは超不幸になるです」


 なるほど。

今までは天使と悪魔の二人が憑いていたから、均衡が取れていた。でもサヤが一時的に俺を強運にすることで、俺は強運になれる。だが、それには勿論リスクを伴う。サヤがもたらす幸運が無くなるどころか、反動でサヤは不幸をもたらす存在になってしまう。それに、レンがもたらす不幸が加わって、俺は超不幸になる、と。そういう事か。


「大丈夫なの龍ちゃん? 超不幸って、下手したら死んじゃうくらい不幸になるんだよ?」


 え!? そんなに不幸になるの!?


「でもまぁ…いいよ。それで白河さんが救えるなら」


 後の事なんて考えていられない。とにかく目の前のすべき事をやるだけだ。


「よく言ったです龍之丞!」

「おうっ! …ってレン、今俺の名前…」

「あ。しまったです!」


 意外と可愛い所があるじゃねーかよ。こいつ。


「と、とにかくテメーを眠らせた時に使った、この眠れララバイ君を使うです」


 俺はレンから眠れララバイ君を受け取った。つーかこれ、ただのデンデン太鼓なんだけど…。


「その音を聞いた全ての人間が寝てしまう道具です。ちなみにこのダイヤルを回せば寝る時間も設定出来るです」


 言ってレンはダイヤルを指差した。


「龍ちゃん、私が龍ちゃんを超強運にするから正面から入っても大丈夫だよ」

「でも警察が入れさせてくれないんじゃないのか…?」

「そんなの眠らせればいいだけの話です」


 あ、そっか。それじゃあダイヤルを…十分くらいかな。よし、設定完了。


「それじゃあ頼む。サヤ」

「分かったよ。ふむっ! 幸運になれっ!」


 サヤの体が、ふむっ。で光り、幸運になれ。で消えた。

 これで終わり?


「時間は今から十分。反動期間は三十分だよ」

「なぁ…。何が変わったんだ?」

「いいから早くしろです! 時間が勿体ねーです!」


 あ、そうか。

 俺はサヤとレンに耳を閉じてもらった。そして眠れララバイ君を鳴らしながら銀行の入口へと向かって行った。結局、この銀行近くに居た人は全員寝てしまった。


 俺は幸運だから大丈夫だ。俺は幸運だから大丈夫だ。

 それに、銀行に入ったと同時にこの眠れララバイ君を使えば大丈夫。


 よし、入るぞ!


ガー


「手を挙げろ!」

「やれやれ…早速銃を突き付けて手を挙げろ、ですか。あなた達は芸が無いんですね」


 俺は言いながら銀行内を見渡し…居た。白河さん含め、人質、銀行員は全員ロープで縛られていた。

 白河さんは俺の名前を呼ばない。さすが白河さんだな。


「いいからさっさと手を挙げやがれ!!!」

「まったくうるさい人だ。少し寝てて下さい」


デンデンデンデン


「何やってんだ!!!」


 あれ?


デンデンデンデンデンデンデンデン


「さっさと手を挙げろ!!!」


 ん?


デンデンデンデンデンデンデンデンデンデンデンデンデンデンデンデン…


 これでどうだっ!?






「手を挙げろぉぉぉ!!!」

「このポンコツがぁぁぁ!!!」


 …ん、よく見たら注意書きが書いてあるぞ。


『用法用量を守って正しくお使い下さい』


 それじゃ何も分かんねーよ!!!


「はっ! どうやら死にたいらしいな! 死ねっ!」


 うわぁぁぁ!!!


 俺は撃たれて死ぬかと思い、目をつむった。が、その瞬間−−。


ビュウー!


「うわっ! 前が見えない!」


 なんと銀行内へと強風が吹きつける。その風が外に落ちていた新聞紙を運び、俺に銃を向けていた人の顔にへばり付けた。

 いや、俺って本当にラッキーになったんだな。


 強風は間もなく止んだ。


「くそっ!」


 顔に付いていた新聞紙を取り除いた。つーかこれ、時間稼ぎにしかならねーじゃん。これからどうしようかな…。


 …って俺死ぬだろー!!! 何でこんなに冷静なのー!!!


「死ねっ!」


 ああ…もう駄目だ…。調子に乗って銀行強盗に立ち向かって…。結局時間稼ぎしかでき……。あれ? なんだか眠くなってきた……ぞ……。



「龍ちゃん、ナイス囮だよ」

「こいつが偽物デンデン太鼓を使った時の顔は面白かったです〜」


 銀行にはサヤとレンの姿。そしてその二人以外は全員寝てしまっていた。

 レンの手にはデンデン太鼓がある。


「とりあえずこのままで大丈夫だよね?」

「大丈夫です。警察の方が早く起きるです」

「そっか。じゃああんパン買いに行こうよ」

「プリンも買いに行くです」


 そうして銀行、人の命を救った名も無き…。名前は有るが、名も無き二人のヒーローは、空腹を満たすべく去って行った。


…。


……。


………。


 んっ…。ここは…。


「龍之丞君!?」


 あれ…白河さんが居る…。そうか、これは夢だな。夢。


「…って生きてんの!?」


 お腹は? 痛くない。

 どこか痛い箇所は? 無い。


「龍之丞君が救ったんだよ。この銀行を」

「俺が救った?」


 いやいや、俺は寝てただけなんだけど。


「でもそんな事より私…」


 うおっ! この展開はまさかっ!


−−妄想−−


『私、龍之丞君が死んじゃったらって思うと…』

『白河さん…』

『私、龍之丞君無しじゃ生きれないの!』

『分かったよ…』

『龍之丞君?』

『二人で築こう。愛の楽園を』

『龍之丞君…。大好きっ』



 ヨッシャァァァー!!! 二人はフォーリンラブだぜー!!!


「私……」

「白河さん、二人で築きましょう。愛の楽園−−」

「−−トイレに行きたいから、帰るね。バイバイ」


 え!? トイレ!?


「トイレって白河さ…」

「じゃあまた明日。学校で会おうね〜」


 行っちゃった。そう簡単にはいかないよなぁ。

 まっ、白河さんが無事だったからいいか。やるべき事はやったし、俺も帰るとするかな。

 しかしサヤとレンはどこに行ったんだ?


ドドドドドドドド!!!


 ん…? 何だこの音は…。


「キャー!!!ライオンよー!!!」


 ライオン!? 動物園から逃げ出したのか!?


 銀行の周りにいた人々は逃げ惑う。そして俺もそのライオンの姿を捉らえた。

 ふさふさと風になびくたて髪。凛々しくも愛嬌のある目。やっぱり百獣の王と呼ばれるだけはあるよね。うん。






 なんでお前こっち来んの?






「ガァァァァ!!!」

「ンギャァァァー!!!」


 死ぬー!!! 誰か助けてー!!!


「サヤー!レンー! 助けてくれー!!!」




「龍ちゃん大丈夫かな〜?」


 その頃、サヤとレンは部屋で大量のあんパンとプリンを食べていた。お金は勿論龍之丞の財布から出ている。


「そんなに気になるんだったら、行けばいいです。ただしこの部屋に帰った時、あんパンが残ってる保証は無いです〜」

「うぅ〜」


 追い詰められたサヤ。大好きなあんパンを取るか、それとも−−。


「龍ちゃん頑張ってね〜」


 龍之丞よりあんパンを選んだサヤだったとさ。


「うわぁぁぁ! 空から隕石がぁぁぁ!」



−−続く。

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