その12 生まれ変わった二人
「ふぁ〜あ〜」
六時間目は眠い。五時間目に眠らなかった歪みが、ここにきて顕著に現れる。
モテたいな。モテなくてもいいから、白河さんと……はぁ…。
顔はイマイチ、運動神経もイマイチ、頭もイマイチ。唯一の特技は無い。これと言って無い。
我ながら、本当に残念な男。……ってオイ!!! 自虐しすぎだよ!!!
でも本当の事なんだよなぁ……。
「龍、僕の話を聞いてくれないか?」
「んー。どうしたヒロー?」
今は現国。右隣りにいるヒロが俺に話し掛けてきた。
「実は昨日さ、部屋の中で作ってた米が、部屋の中で飼ってたイナゴに食われちゃったんだ」
「そりゃイナゴは食うよなぁ…。つーか家で米を作ってんの?」
「でね、仕返しにバル〇ンを撒いたら、家で飼ってたイナゴだけじゃなくて、家で飼ってたカブトガニまで死んじゃって……」
「まぁそりゃバル〇ンだからな。つーかバル〇ン撒かずに直接対決すりゃいいじゃん」
「話はそれだけじゃ無いんだ。そのバル〇ンの煙が家中に充満しちゃって…。トモミが…」
え?
「うぅっ……優しい子だったのに…」
「ひ、ヒロ…。トモミって…お前の…」
「うん。生命力は虫一倍有るゴキブリだったよ……」
あぁ〜もう時間の無駄無駄!!!
「そうだ龍。白河さんとはお近づきになれたの?」
「……いや、全く」
俺の左斜め前。窓側の席に座っている白河さんを見た。
可愛いなぁ…。二重でぱっちりとした目。セミロングの綺麗な黒髪。白い、ゆで卵のように柔らかそうな肌。全てがストライクだ。
「そうなんだ。でも、いつまでもモタモタしてられないよ」
「そうなんだよなぁ…」
クラス…いや、学校のマドンナである白河さん。当然ライバルだらけだ。
その中でも最大にして最悪のライバルが、白河さんの右隣りに座る男。
「三杉君、この漢字何て読むの?」
「あ、これ? これはね……」
テメェー! 漢字を教えるだけなのに近寄り過ぎだぁぁぁ!!!
「ありがとう三杉君。さすが三杉君だね」
「昨日予習しといて良かったよ」
チクショー! 何が、昨日予習しといて良かったよ。だよ!
そう、俺の最大にして最悪のライバル。それは彼、三杉健太。
学校一のイケメンで、入学当時から女子達注目の的。頭も良く、テストの順位は学年一位。運動神経も抜群で、一年生ながらサッカー部のレギュラーだ。因みにサッカー部は一昨年全国大会に出場する程の名門。そのサッカー部でレギュラーなのだから、相当上手いんだろうな。
五月くらいだったか。この席になってからあの二人は急激に仲良くなった。天才イケメンと、完璧美少女。そんな二人のお似合いぶりに周りのクラスメート達は、あの二人は似合ってるよね。とか、文化祭のベストカップル賞は二人で決まりだよな。などなど、クラスメート公認カップルとなってしまった。
しかし、そんなクラスメート達に三杉はこう言う。
『黙れよ! もっと白河さんの気持ちを考えろ!』
こりゃ勝てないよなぁ…。
「龍、諦めたらそこでゲームセットだよ」
「そう言われてもなぁ…。俺みたいなイマイチ人間が、あんな奴に勝てる訳が無いよ…」
「確かに龍は顔もイマイチだし、頭も、運動神経もイマイチだ。でも、天才かイマイチか又々別の人間か。それをを選ぶのは白河さんさ。龍じゃ無ければクラスメートでも無い。問題は白河さんが誰を選ぶか、だよ。まぁ十中八九、三杉だと思うけど」
「だよな…。選ぶのは白河さ…ん………ん? 十中八九、三杉?」
結局三杉じゃねーか!!!
「はぁ……」
俺は溜め息をつき、窓の外を見た。左隣りは今日も休み。
目に入る青い空、白い雲。耳に入るセミの声。もちろん黒板と先生の声では無い。
「俺って何が出来るんだろうな……」
家を飛び出して、一人暮しをして、変わろうと思った。昔の俺を変えようと思った。
でも結局変わったのは窓の向こうに天使と悪魔……。
「サヤ!? レン!?」
「どうしたの龍?」
「あ…」
「龍之丞、お前は何言っとるんだ?」
しまった…。授業中に大声出しちゃった…。
「すいません先生…」
現国の先生は集中しろ。と言って、再び授業を始めた。
俺は再び窓を見たが、サヤとレンは居ない。
幻覚だったのかな…。確かにあいつらが見えたんだけどなぁ…。
「最近疲れてるからかな…」
「龍、保険会社に相談したらどうだい?」
「自動車保険に加入したら〜?」
「火災保険にも加入すればいいです」
「あのなヒロ。それを言うなら保険室に行け。だろ? サヤ、レン。自動車も火災も関係ないだろ?」
「そっか。ごめんね龍」
「ごめんね龍ちゃん」
「テメーには謝らないです!」
あ゛ぁ? レンの野郎は学校でも生意………。
「来ちゃった♪」
「暇だったから来てやったです」
「ギャァァァー!!!!!!」
…。
……。
………。
「マジで天使と悪魔なのか!?」
「キャー可愛い〜」
「天使も悪魔もやっぱり羽が付いてるんだな!」
放課後。やはりこいつらの周りにはクラスメートが集まって来る。そして二人は羽が付いただけじゃなく、服装も変わっていた。
サヤは白鳥のように白く小さい羽を付けている。服は白い布ではなく、白くモコモコしたビキニ姿。頭には天使の輪が付いている。
レンの服装はギザギザしたビキニ。ギザギザの尻尾に、頭には二本の角、角と言ってもサイのような固い角ではなく、犬の尻尾のような角。そして背中には翼。これらの色は全て黒っぽい紫色で統一されている。
「サヤ、レン。ちょっと来てくれ」
言って俺は二匹…もう二人でいいや。その二人を屋上へと連れて来た。
「その格好はどうした?」
「よくぞ聞いてくれましたっ!」
またデジャヴだよ…。
「実は今日、エロ親父から電話があったんだ。しかもテレビ電話でね」
エロジジイ=神様ね。
「何て言ってたんだ?」
「うん。それはね−−」
「何エロジジイ?」
「用件はさっさと済ませろです」
『今回は真面目な話じゃ。少し黙っておれ』
「真面目な話?」
『そうじゃ。真面目な話じゃ』
「で、内容は何、です?」
『結論から言うと、お前達二人を正式な天使と悪魔に任命する』
「えー!?」
「どうしてです!?」
『うむ。これは閻魔と話し合った結果でな。お前達二人はそっちの世界で学んだ方がいいのではないか。という事じゃ』
「何で何で?」
『うむ。何故お前らが地上に降りてしまったか。その原因は分からない。じゃが、これは何かの運命なのではないか。そう思ったからじゃ』
「「運命?」」
『そう。運命じゃ。とにかく、お前達天使の能力、悪魔の能力で、これから龍之丞君を助けてあげるのじゃよ』
「うん。分かったよ〜」
「あのヤローを不幸にしてやるです」
『レン、やり過ぎは…分かっておるな? 閻魔のお尻ペンペンじゃぞ?』
「うっ…」
『そうじゃそうじゃ。天使と悪魔が同時に憑く。これを何て言うか知っとるか?』
「知らないよ〜」
『それはじゃな−−』
「えんでび?」
「そう。エンジェルとデビルの頭二文字を取ったんだって」
「ふーん…」
えんでび、か…。
「と、いうことで。よろしくね龍ちゃん♪」
「これからお前を不幸にしてやるです〜。フヒヒヒヒ〜」
今まで充分不幸にさせてもらったけどな!!!
「おーい龍之丞ー!」
「龍ー!」
ん、ヒロにヒッポじゃん。どうしたんだろう。
「豊岡が呼んでるYO。その二人もだYO」
豊岡が!? つーかこいつらが一緒って事は、怒られる可能性が大きいだろ…。
豊岡は職員室で呼んでるとの事。俺達三人は早速職員室へと向かった。
コンコン
「失礼します」
言って俺は職員室を見渡し…あ、豊岡がいたぞ。
「おう龍之丞! 来たな!」
「はい、こいつらも連れて来ました。それで、用件とは?」
「校長からの伝言だ!」
…。
……。
………。
「ただいま〜」
「ただいまです〜」
「お帰りなさ〜い♪」
俺達がアパートに入ると、静華さんがリビングでテレビを見ていた。俺は靴を脱ぐが、こいつら二人は浮いているから、そんなのお構いなしだ。因みに通行人は二人を見て驚いていた。そりゃ浮いてるんですものね。驚くなって言う方が無理だよ。
「学校はどうだったかしら〜?」
「うん! また何時でも好きな時に来ていいって!」
「学校楽しかったです〜」
「そう、よかったわね♪」
良かねーよ…。最悪だよ…。
サヤが言った、何時でも出入りして良し。あの校長が二人の出入りを許可しやがったのだ。だって、天使と悪魔が出入りする学校って面白いじゃ〜ん。とか、アホかあの校長は。
「…って思い出したぁぁぁ!!!」
俺が保護者って事、白河さんに知られちゃったかな!? 今までそれ所じゃなかったから忘れてたよ!
ポンポン
誰だ俺の肩叩いたのは…。
「龍。諦めが肝心だよ」
何でヒロがいるんだよぉぉぉ!!!
いよいよ次回からえんでび本編?開始です。
今後とも宜しくお願いいたしますm(__)m
灰月でした