その11 変人がいっぱい
「いってらっしゃいあなた〜」
ああ天使、お前は何故に、新婚気分。
龍之丞心の川柳。
「字が余り過ぎです。出直してこいです」
うっせーな! 少しくらいいいだろ!
この悪魔は言う事が一々細かいんだよ。よく気付くって言うか何と言うか。
「高校生は大変だな。もう夏休みが終わるんだから」
「鈴音さんは九月の中頃まで休みでしたっけ」
まったく大学生は羨ましいよ。高校より自由だし、夏休みが長いし、合コンとかもあるし。俺も早く大学生になりたいなぁ。
「それじゃ鈴音さん、二人をよろしくお願いしますね」
「ああ。アタシに任せな」
俺が学校に行っている間、鈴音さんには二人の面倒を見てもらう事になった。これはナナ姉には絶対に頼めないよね。まぁ、ナナ姉にしごいて貰うのも有りだけど。
「いってきます」
そして俺は皆に見送られて、天地荘を出た。空は晴れ渡り、気持ちのいい風が俺に吹き付け…って暑っ! そういやまだ九月の初めじゃん。なんか十一月のような気分になってた。
そして俺はなるべく影を歩くようにして、直射日光を避けながら学校に行く。
俺の通う高校は天地荘から歩いて二十分くらいの場所にある。学校名は吾土市立亜久間高校。ごっどしりつあくまこうこう、と読む。市立高校なので県立高校よりは綺麗。まっ、詳しい事は行ってみたら分かるさ。
そして俺は一年ぞう組、出席番号九と四分の三。
ツッコミ所満載だが、今回は敢えて何も言わないので、皆さんの心の中でツッコんでおいて下さい。
なんて言ってる間に俺は学校に着いた。俺の他にも、亜久間高校の生徒がちらほらと登校してきている。
もちろん俺はこの半年の間、無遅刻無欠席の皆勤賞だ。休んだ事はあるものの、小、中と、遅刻は生まれてこの方一度も無い。
俺はどうせ普通な人間ですよーだ!
「ルララララ〜。ヒェックショイ!!!」
と、音楽室から綺麗な歌声と、ど汚いクシャミが聞こえてくる。
あの声とクシャミは音楽のクシャミ先生。クシャミ先生といっても、勿論あだ名ね。
「YO! 龍之丞久しぶりだYO!」
「ん?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ、ヒッポじゃん。久しぶり」
「俺が作ったラップを聞きたいかい! 龍之丞SAY HOー!」
「聞きたくねぇ!!!」
「ソーリーソーリー古泉ソーリー。 日本に見せるぜ俺らの意地! そしてお前は切れ痔!」
「ぶっ飛ばすぞ!!!」
ったくこいつは…。まぁ面倒だけど紹介しますよ…。あと俺は切れ痔じゃ無い!
そんで彼は俺のクラスメート、名前は河東正一。皆からはヒッポって呼ばれている。ヒップホップの略が訛ってあだ名となった。
そんな彼の特技はヒップホップ…なんだけど、歌詞。彼の言うリリックというやつがとてつもなく、酷い。さっきのを聞いたら分かるよね。
「俺達ぞう組は最強! 誰にも負けない太陽の子! 昨日の晩飯数の子! そしてお前は切れ痔!」
「黙れ!!!」
まったく…。一緒に歩くだけで体力を使うよ…。
それから俺は夏の新作を延々と聞かされながら、一年ぞう組の教室に着いた。
ガラガラ
「あ、龍にヒッポ。久しぶり」
「お、ヒロ。久しぶり」
「友との再会! ぞう組の教室は三階! そしてお前は切れ痔!」
「お前はそんなに俺を切れ痔にしたいのか?」
「えっ!? 切れ痔!?」
ん、どうしたヒロ?
「実は僕も切れ痔なんだ。一緒だね」
「俺はちげーよ!!!」
こいつは唐突に変な事を言い出すから困るんだよ…。
「龍、僕の紹介はそれだけなのか?」
あーはいはい。今紹介しようと思ってたんだよ馬鹿野郎。
俺がヒロと呼んだこの男は、矢田昌弘。顔はそれなりにカッコよく、とても落ち着きがある。というか取り乱した事が生まれてこの方一度も無いそうだ。
こいつもヒッポ同様に、変。とても変。何を考えているのかが、さっぱり分からない。謎の男。といった感じだ。
「お疲れ様。お礼に明日、僕の家で栽培してるワライダケを持ってくるね」
毒キノコを栽培してんのかよ!!!
キーンコーンカーンコーン
「あ、座らなきゃ」
「俺の席はあっちだったYOな」
言ってヒッポは前の方の席へ、俺は真ん中の一番後ろに有る自分の席へ座る。右隣はヒロだ。左隣りは…また遅刻か。できれば来て欲しく無いんだけど…。
「安心して。僕の隣は龍以外認めないから」
「あーはいはい!!!言っておくが俺にそっちの気は無いからな!!!」
「そうなんだ。残念…」
あぁ…。こいつは本当に疲れる…。
「おい皆!!! 先生が来たぞ!!!」
息を切らしながら教室に駆け込んで来たクラスメートの男子が言った。それによりクラス中が一斉にテンションを下げる。
何故皆のテンションが下がるか。それは−−。
ガラガラドーン!!!
「おひさー! 元気してたー? 皆の担任、とょぉ…」
パリーン!!!
「うわぁぁぁー」
ドーン!!!
教室のドアを突き破った担任の豊岡は、その勢いで窓ガラスも突き破った。当然、豊岡は三階から落下する。
「まただよあの担任は…」
「うん。愉快だよね」
愉快?
こんな事を言うヒロの気が知れない。
ガラガラ
「トォッ!!!」
んぁ? 今度は誰が入って来たんだ?
「減給の回数はギネス記録っ! 皆の担任、豊岡だっ!!!」
ババーン!!!
生きてたか豊岡っ…。どんだけタフなんだよお前は…。
「よしっ! 早速連絡事項を言うぞっ!」
クラス中は、まるで葬式のように静かだ。それは豊岡の話しを聞く為に喋らないんじゃない。喋りたくても喋れないんだ。豊岡に絡まれたくないから。
「いじょー連絡事項終わりっ! それではまた体育館で会おうっ! フハハハハ!」
言って豊岡は教室を華麗に去ろうと、連続バク転を繰り出す。クラス中が、おぉ〜。と歓声をあげた。
「フハハハハ! 私がこの休み中に覚えた技を見せてやる! セイヤッ!」
豊岡の好物は人の視線。豊岡は調子に乗った。
「オラオラオラァ!」
調子に乗った豊岡は、夏休み中に取得した難易度Cレベルのムーンサルトを−−。
パリーン!
「うわぁぁぁ!!!」
ドーン!!!
廊下の窓を突き破り落下。でも奴は生きてるんだよなぁ…。不思議だ。
「それじゃあ体育館に行こう」
ヒロが言った。俺は分かったと言い、ヒッポも加えて三人で体育館へと向かう。そう、俺達三人はそれなりに仲がいいのだ。何でこいつらなんかと仲良くなっちゃったんだろうね。
「龍、それは神の思し召しってやつさ」
……。
さぁ体育館へ来たぞ。
体育館で行うのは勿論始業式。あの変態校長の話を聞かなきゃいけないと思うととても気が重くなるな…。
「ヒッポ…。僕、龍ごとき下等生物に無視されちゃったよ…」
「元気出しなYOヒロ」
このヒロって野郎は分からない。本当に分からない。一度脳みその中を確かめたい。
でもそしたら何が出てくるんだろう…。
『静かに。それでは江戸川校長先生のお話です』
俺達三人は前を見た。
クラスの列は一列だが、並び順が背の順なので、俺達三人は固まっている。
そして江戸川校長が来た。中年太りのスキンヘッド。髭は生やしていない。
あの校長の事だ、恐らく第一声は−−。
『お前達ー!!! 校歌を歌うぞー!!!』
やっぱりあの洗脳校歌かっ!!!
〜亜久間高校校歌〜
チャンチャチャチャン♪
おっまえの後ろに誰か居る〜♪ それ〜はえっどがわ克巳様〜♪
はい〜ご霊の〜ようにただ〜♪ 皆を見守るヒーローだ〜♪
強くて優しい皆の味方〜♪ 皆も呼ぼう彼の名を〜♪
その名は!?(その名は!?)
えっどがわかつみ〜♪ えっどがわかつみ〜♪ えっどがわか〜つ〜み〜♪
二番
足〜に痛みを感じるよ〜♪ しか〜し克巳はへのかっぱ〜♪
日本を動かすこの力〜♪ 君達の為に使うのさ〜♪
このどす黒い高校に〜♪ 一人の男が舞い降りた〜♪
その名は!? (その名は!?)
えっどがわかつみ♪ えっどがわかつみ♪ えっどがわか〜つ〜み〜♪
チャンチャチャン♪
〜亜久間高校校歌・終〜
『一日一回は絶対に歌うようにしろ。以上だ!』
何だこれ!!! 最悪だよ! 最悪な校歌だよ!!!
「えっどがわか〜つ〜み〜♪ いい曲だね。さすが我らの克巳様だ」
「うわぁぁぁ!!! 目を覚ませヒロォォォ!!!」
「完全に洗脳されてるYO!」
ヒロにかけられた洗脳を解く為に、一時間を費やしてしまった。
−−続く。
校歌に曲を付けたいという音楽好きな方が居ましたら、作者にメッセージをお願いします(笑)
もちろん冗談です(笑)