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えんでびっ!  作者: 灰月
10/15

その10 ゴキブリ帝国

「ウフフフフ…」


 何だ何だ?



「青い空!白い雲! いずれこの世界は私。諸星奈々子の物になるのよ!ゲフフフフ!!!」


 朝っぱらからうるせーなこの人は!


「ウフフフフ…」


 何だ何だ?


「青い空!白い雲! いずれこの世界のあんパンは全てこの私。サヤ・アンジェラスが支配するのだ!ゴハハハハ!!!」



「「イェーイ♪」」


「イェーイじゃねーよ!」


 朝ごはんくらい黙って食べろってんだよ!

 サヤも解剖されそうになったのに、よく仲良くなれるよ。さっぱりしていると言うか、危機感が足りないと言うか…。


「おい龍之丞」

「んぁ? どうしたんです鈴音さん」

「明日から新学期だろう? 何かやり残した事は無いのか?」

「それなら大丈夫」


 改まってどうしたんだろう。って思ったら、そんな事か。

 一人暮しするようになってから半年。この半年の間、鈴音さんは本当の姉のように、時には厳しく、時には優しく俺に接してくれる。同じく静華さんは母親。ナナ姉は兄。このアパートではこういう系図が、暗黙の内に出来上がっている。


「それじゃあアタシの買い物に付いて来てくれないか? 勿論アイスクリームでさえも一切奢ってやらんからな」

「そこは奢れよアホ大学生!」

「あ゛ぁ? 何か言ったか?」

「鈴音さんこそ崇高で絶対なる存在な女性であります!」

「わかってんじゃん」


 へっ! んなわけねーだろ!


「−−って心の中で言ってるです」

「あ゛ぁ!?」


 しまった! レンは読心術を使えたのかっ!

 こうなったら…!


「全軍退却だー!」


 朝ごはんという名の兵糧を放棄する事はとても心残りだが仕方ない。命より大切な物は無いんだから。


 だが逃げようとする俺に、一人の女性が立ちはだかって…。


「龍之丞ちゃん。ご飯を残すのかしら…?」

「調子こいてすいませんでした」


 静華さんはご飯を残す事に対してとても敏感。という事を忘れていた。


「龍ちゃん、今日もパン屋に連れてって〜」

「断る!」


「おい人間、昨日言ったプリンを買ってこいです」

「自分で行けと言っただろ!」


「龍ちゃ〜ん。今日は弁慶の泣き所を、トンカチで打っても泣かないのか、実験をする。って言ったわよね〜」

「それだけは勘弁して下さい!!!」


「ご飯を残すのかしら?」

「いえいえ滅相もない!」


「今日は買い物に付き合ってもらうぞ」

「分かりましたよ…。勿論見返り無しで。ですよね…?」

「少しは学習したみたいだな」


 と、いう訳で。今日は鈴音さんと買い物をする事になった。

 俺達はご飯を食べ終え、それぞれの部屋に戻った。


「それにしても龍ちゃん、あんなに美味しいご飯を無料で食べれるなんて幸せだね〜」

「本当です! 人間のくせに生意気です!」

「いや、一応食費は払ってるぞ」

「どゆこと?」


 説明しよう。俺達の食事は月一回、静華さんに食費を払う事で、ご飯を作ってくれる仕組みになっている。学校が有る日は弁当、無い日は昼食も作ってくれる。

 ご飯時に静華さんが居ない。という事は、入居してから半年。一度も無かった。


「−−っていう訳さ」

「へぇ〜。本当の家族みたいだね〜」

「家族みたいです〜」

「ああ。静華さんには本当に感謝してるよ」


 さてと、テレビでも見てこようかな。

 それにしても外出中は二人に留守番を任せなきゃいけないんだよな…。二人に留守番を任せるのはとても不安…でも致し方ないか。まっ、とにかくテレビでも見るさ。

 そして一階のリビングにあるソファーに腰掛け、テレビをつける。八チャンネルでは調度、星座占いをやっている所だった。


『今日の水瓶座はとってもラッキー。想い人と出会えるでしょう。積極的に外出してみては如何?』


「鈴音さん、早く外出しましょう!!!」


 鈴音さんが二階からゆっくり階段を下りて来た。


「うるさいな…。外出しますよ。って、まだ八時だぞ。何故外に出なくちゃいけないんだ?」

「占いでやってたんですよ! 想いを寄せる人と出会えるって!」


 あぁ…。夏休み中、一回も拝めなかった白河さんに出会えるのか…。

 ウェヘヘ…。よだれが止まりませんなぁ…。


 って俺はそんなキャラじゃないっての。


「何時に出たら会える、なんて言ってなかったんだろ。だったら何時に出ようと会える確率は同じさ。まぁ確かに、長いこと外にいれば、そりゃあ会える確率だって上がるよ」


 ん、確かに鈴音さんの言う通りかもしれない。そう考えると、占いってのは結構無責任だな、なーんて気もしてくる。


「とにかく、そんなに会いたかったら外に出てればいい。買い物は午後から行くからな」


 そう言って鈴音さんは二階へと戻って行った。


 そうか…。そりゃあ外出する時間が長ければ、当然会える確率も上がるよな。よし、決めた。河川敷に散歩でもしに行くか。


「だったら私達も一緒に行く〜」

「朝の散歩は、健康にいいです」


 出やがったな!天使と悪魔!


「やーだー。俺は一人で散歩をしたいのー」


 たまには一人で落ち着いた散歩をさせてくれよ。俺はいつもいつもお前ら二匹に振り回され…。あれ? おいレン…。お前、手に何持ってんの? ト、トンカチ? え、トンカチで何する気?


「つべこべ言わずに連れてけです!くそ人間!」


ガァーン!!!


 ノォォォー!!!


 弁慶の泣き所ー!!!


「こんにゃろー!!!」

「龍ちゃんが怒ったよ。逃げろ〜」

「逃げるです〜」

「待てー!」


 俺はアパートから出たサヤとレンを追い掛ける。いくら温厚な俺とは言え、さすがに弁慶の泣き所をトンカチで打たれたら、許す訳にはいかない。お尻ペンペン所じゃ済まさないぞレンの野郎。

 まぁ、弁慶の泣き所をトンカチで打たれても、泣かない。という結果が得られた事には感謝すべきかな。この実験結果は後でナナ姉に報告しとこっと。


 …ってそんなのどうでもいいんだよ!!!

 最近自分が自分じゃないみたいだなぁ。誰かが俺を操作してるのか?


 ん、サヤとレンが止まって誰かと話してるぞ。


「天使ちゃんと、悪魔ちゃんなのね?」

「うん。名前はサヤ」

「私はレンです」


 初対面の通行人にカミングアウトか!?


「サヤちゃんにレンちゃん、ね? 私は白河由里。よろしくね」



 ありがとう八チャンネル、ありがとう鈴音さん!!! 俺はなんて運がいいんだろう!!!


 しかし、今出るのはタイミングが悪いな。電信柱の陰に隠れて、様子を見る事にしよう。


「二人共、保護者はどうしたの?」


 よしお前ら、保護者の龍ちゃんはカッコよくて、優しいよ。と言ってくれ!



「ああ。あのおならが臭い人の事?」


 ふざけんなクソ天使がぁぁぁ!!!


「おならが臭いんだ。珍しい保護者さんだね」


 白河さーん! おならはみんな臭いですよー!

 白河さんって、少し天然が入ってるんだよね。でもまたそこが可愛いんだよなぁ…。


「それで、サヤちゃんとレンちゃんは、どこに住んでるの?」


 サヤ、レン!頼む! 頼むから変な事を言わないでくれ!



「ゴキブリ帝国です」


 もう勘弁して下さぁぁぁい!!!


「ゴ、ゴキブリ帝国…? す、凄い所に住んでるんだね…」


 ほら!!! 白河さんが引いてるじゃんかよ!!!


「何か、虐待とか受けた事はあるの?」


 そいつらは虐待をする側でーす。虐待を受けた事は一度もありませーん。



「その保護者ったら、毎日毎日私のあんパンを食べるんだよ! これってDVだよね?」


 逆だしDVはお前らだよ馬鹿野郎!!!



「顔に落書きしただけでお尻ペンペンされたです。性的虐待です」


 お尻ペンペンじゃ性的虐待にならねーよ!!!


 白河さんも、こんな嘘ばっかり言う奴らの事を信じるのか!?


「警察に通報した方がいいかしら?」


 違う違う!!!簡単に信じないで!!!


「いや、警察はちょっと…」

「勘弁してほしいです…」


 そりゃそうだろうよ!!!ボロが出るし、神と閻魔に怒られるからな!!!


「そう…。それじゃあ何かあったら私の家にいつでも来てね。住所は−−」


 はぁ…。白河さんに俺が二人の保護者、って事を知られる訳にはいかなくなってしまった…。

 どうやって隠すか…。どっちにしろ天地荘に招待する事は出来なくなっちゃったな…。どっちにしろ出来ないけどね…。

 俺は散歩を切り上げて、天地荘へと帰って行った。



「はい、私の住所」


 由里は二人に住所の書かれた紙を手渡した。


「ありがとう由里」

「ありがとうです」

「いいえ。いつでもいいから、来てね」


 サヤは受け取った紙を見ながら何かを考え、そして−−。


「うん。でも私は由里に、私達の家に来て欲しいな」

「え、もしかして軟禁されてるとか!?」

「ううん。それは来てみたら分かるよ」

「来てみたら分かる?」


 この時由里は、自分も軟禁されるんじゃないか。という考えが脳裏をよぎった。


「私達は、天地荘っていうオンボロアパートに住んでるからね〜。じゃあまたね由里」

「バイバイです」

「あ…。またね」


 サヤとレンが来た道を引き返して行った。天使と悪魔が道を歩く。なんとも奇妙な光景だ。


 と、そこで、一人になった由里は一度頭を冷やす。そして、二人から聞いた被害者の声。それを色々と考え抜いた結果、彼女は一つの結論に達した。




「そういえば、おならはみんな臭かったわよね…」

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