その1 えんでびっ!
「ナイスシュート!」
夏。辺りにはアブラゼミ、ミンミンゼミなどの蝉が不協和音を奏でている。
そんな暑い日の午後。俺は食後の運動としていつもの散歩コースを歩く。河川敷では少年達がサッカーをしていて、見ているだけで暑苦しくなってくる。少年達と言っても、俺と二つ三つしか違わない、中学生なんだけどね…。
「あっちーなー」
立っている事さえかったるくなる程の暑さ。いっそのこと、図書館やコンビニなどに逃げてしまいたいのだが、一度入ると出る時が大変なので我慢をする。
俺は相良家の跡取り。こんな暑さに屈する訳にはいかないんだ。
俺は負けないぞ!!!
「やっぱコンビニ行こっと」
数秒で心が折れた。
いや、だって暑いんだもん。仕方ないじゃん。
「いっその事、雪とか降ってくればいいのにな」
この相良家に代々伝わる、雨乞いならぬ雪乞いの儀式を始める時が来たようだな。
俺は空に手をかざして、呪文を唱えた。
「アンダーミドルーミノルハキレジー。クラスノマドンナ、シラカワサーン!!! アンダーミドルーミノルハミズムシー。クラスノマドンナ、シラカワサーン!!!」
俺は必死に天を仰ぎながら、呪文を唱える。
ちなみに相良家代々伝わる、と言ったが、相良はべつに神社の家系でも何でもない。もちろんこの呪文だってインチキ。
しかし、まさかこの適当な呪文が、俺の平凡で在り来りな人生をがらっと変えてしまうとは、誰が予想できただろうか。
「……スキデスシラカワサーン!!!」
ふぅ。と一息つく。
それにしても、呪文を唱えていたはずが、いつの間にか白河さんへの告白になってしまった…。
キョロキョロ
辺りを見回したが、誰にも聞かれていないようだった。
もしも今のをクラス中に聞かれてみろ、男子からは冷やかしの嵐だ。顔はイマイチ。運動神経はゼロ。性格は普通。性格が普通ってのも変な言い方だが、それでも俺は普通なのだ。そんな駄目駄目人間ゴンが、絶世の美女である白河さんと付き合えるはずが無いってな。
だから、クラス中にこの事が知れ渡るのがとても怖いんだよな。
「あぁあ〜。やっぱり人間は顔なのかな〜」
言って俺は空を見上げた。青空が広がり、右側には入道雲。
そして…。
「ん?」
俺は雲ではない、何かの姿を空に発見した。
「人?」
いやいやいや。人が空から降ってくる訳が無い。でもあれはどう見ても…。
その物体はどんどん高度を下げて、俺に向かってくる。
「おいおい…。おれは雪乞いをしたんだぞ…」
やはり俺に向かって落ちてくる物体、それは人間だった。
「うわぁぁぁー!!!」
ドッカーン!!!
「着地かんりょー」
「着地完了です」
キョロキョロ
「あれ、それで私達を呼んだ人は何処かな?」
「やいやい、早く姿を見せるです! それとも怖じけづいたですか!」
下に瀕死状態な人が居る事に、こいつらは気付かないのかぁぁぁ!!!
「俺からどけぇぇぇ!!!」
「キャー!」
「ですー!」
俺は一気に起き上がって、二人を退かした。
「お前らはいきなり何だよ! 空から降って…きて……」
起き上がって言った俺は、地面に尻餅をついている二人の姿を見た途端、言葉を失った。
「どうしたの?」
「文句があるならさっさと言えです!」
「も、文句って言うか…」
お前らは…。
「天使と悪魔!?」
俺の言い放った適当な呪文。そしてこの出会いが、俺の駄目駄目人生を百八十度変える事になる。