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誰がための存在証明(レゾンデートル)  作者: リョウト
Fourth Chapter ~Fire Fear Find~
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第69話 まだパスタも来てないよ

 最近ポケモンにはまってます。ところで、ユクシーって朝出るんですよね、8時頃行っても出ないけれど

 ~イタリアンレストラン・【Aqua Pazza】~


 レストランの一室、純白のテーブルクロスが掛けられた円いテーブルの上には一つの大きなサラダボウルに緑色の葉菜や色とりどりのパプリカ、トマトなどが盛られ、その横にはチーズとチーズを卸すための卸金、タバスコと各種ドレッシングが置かれている。

 そのテーブルの席についているのは二人。輝、ハルの姿はない。


「いやぁ本当に……特捜チームに勤めてた頃からたまに通っていたんだけれど、絶品でね。こうして親の後を継いでからもこうして偶に来てる」


 歩は自分の皿に盛られたたっぷりとチーズのかかったサラダをフォークで掬ってしゃくり、と一口で食べながら笑う。


「特捜チーム、給料はよかったんです? ここ、値段が書いてなかったんですが」

「俺の勤めていたところは実験部隊でね。安全性の保障されちゃいない試作兵器で前線に送り出される。航空機なら撃墜されなきゃボーナスが出るくらいにね。自慢じゃないが、俺の勤めてたところで俺以外じゃ撃墜を一度はされてたのさ」


 葉楽は歩のその言葉を聞いて右手に目をやる。


「その義手は」

「地上戦。兵器なんかじゃない異星人の能力による光剣でねぇ。一応長物でやってたんだけど、弾かれちゃって」


 そう言って歩は肩を竦め、葉楽は眉間に皺を刻む。


「……そろそろ、本題に入りましょうよ、会長」

「まだパスタも来てないよ? プロフェッサー」


 葉楽は赤ワインの入ったグラスを傾け、ほんの少しワインを飲んでその後グラスを置く。多少失礼なことを言ってもアルコールの所為にするための予防策だ。歩もそれを分かっているのか、自身も笑みを湛えながらワインを口に含んで応える。


「護衛といって高校生を連れてきて、そんな名目で連れてきておきながらその護衛には部屋の外で待機させておく。食事の席が二人席の個室しか取れなかったと言ってだ。それは?」

「護衛として連れて来たとはいえ、二人はまだ高校生だからね。義理堅いとは分かっていても何の弾みで口を滑らせるか分からない」


 テーブルを指で叩きながら葉楽が問うと、しれっ、とした顔で歩は事も無しに答える。まるで当然かのように。


「大きな窓があるといったって狙撃も襲撃も出来ないさ。客室よりもこのレストランの階層は上だ、そしてここより上の階にある窓はここの直上じゃあない。それと狙撃するための最適な距離は2.5キロだったっけ?」

「……正確には2450メートル。レーザーライフルHEG-175の最大射程距離……あなたの所の銃だ。しかしその距離もレーザーライフルの最大射程……晴れた乾燥した障害物の無いベストコンディションで光学に精通した人間が撃ってようやく人間に当たる程度。この曇った空、日本の夏独特の湿った空気、霧は出てないとはいえ2キロあればいいところだ」

「よくできました」


 葉楽の答えに満足したのか歩は手を叩いて笑い、一本指を立てて問う。


「さて、ここで問題。この窓から覗く大凡125度の半径2キロの扇の中、狙撃ポイントはどこにあるか。但し、この半径2キロ以内にある海は魚介類養殖のため航海禁止とする。はい、どこ?」

「……無人島も存在せず、海沿いに立てられている上にこの階層は地上80メートル、ホテルのプライベートビーチから見上げてもこの階層のましてやこの位置は見えない。故に、存在しない」

「はい、残念不正解。そうするには前提条件が足りない」

「「この空が飛べるような状態ではない事」」


 揃った声に歩は初めて驚いた顔を上げ、葉楽は笑みを浮かべてその目を見据える。


「おや、分かっていたなら何故言わなかったのかな?」


 歩むの不思議そうな声色に、葉楽は笑みを絶やさずに答える。


「プロジェクト・AAC。俺好みな目的だったようで、調べてたんですよ」

「……いちおー極秘計画なんだけどねー……」


 葉楽の口から出た名称に、歩は苦笑いを浮かべる。


「まあ、いいや。どうせ(・・・)棒田林音君だろうし。ゼミ生だろ? そんなことより。聞きたいことがあるんだろう? 例えば」


「生体CPUを使っていないか、と、か」


 それは一瞬の出来事だった。歩が言い終わるや否や、葉楽は大きなテーブルを飛び越え、歩の胸倉を掴んで壁に叩きつける。歩の足は勢いのまま浮き、歩は腰から落ちる。


「その言葉、どう取ればいいのか、少し分かりかねる」

「あー、違う違う。使っちゃ無いよあんな不幸な子供数十人単位で生み出すモノ。知ってるかい? ビジネスで最大の利益を得ようとすれば大多数の人間を幸せにしなきゃいけないの」


 歩は少し壁に日々が生まれるほどの勢いで叩きつけられたにも拘らず咳一つしないでけろっとした平気な顔で否定する。


「実験段階の有機ナノマシンを使った並列コンピュータ・動力反物質エンジンアンド新開発の粒子エンジンで動かしてるよ。多分メンテナンス入ったらかなり長いことになるだろうね。自立学習型AI組み込んでるのもあって中々に容量が大きい。君があの実験と共同開発した鶴来博士に負い目持ってるのは知ってるさ。でもね、作ったのはあくまでキミで、俺は一つも使っちゃいない。言うならば無関係さ。なんでまだ胸倉を掴んでいるのさ」

「……くっ」


 葉楽は悔しそうに顔を歪めながら胸倉を掴んだ手を離すと、歩はゆっくりと起き上がる。


「アルコールが入ってたからね。ちょっと刺激しすぎた。それは謝る」


 歩は肩を竦めて言う。しかし、その右手には拳が握られていた。


「でも、一発は一発だ」


 葉楽の顔面に歩の右ストレートが突き刺さり、葉楽は反対側の壁まで吹き飛ばされ、壁に大きなクレーターを生み出しながら突き刺さる。とりあえず、VRMMO物の現実での喧嘩描写ではない。


「……がっ」


 葉楽の口から空気が漏れ、吹き飛ばされた時に切ったのか口の端に血が滲む。


「あら、調整ミスった。ごめんごめん。いやあちょっと最近メンテナンスしてなくってねー」

「あんた―――」


 歩がひらひらと右手を振り、義手の調整ミスだと示す。そして葉楽が口の端を拭いながら立ち上がると同時に大きな音を聞きつけた二人が部屋の中に飛び込んできた。


「大きな音したが大丈夫かよロゼ、おやっさん!」

「AAC、やっぱり未完成だったんです!?」


 飛び込んできた輝とハルを見て、歩と葉楽は顔を見合わせた後二人に話し始める。


「いやぁ、プロフェッサーの顔に虫が止まろうとしたから払おうとしたら調整ミスっちゃって」

「壁で受身取ったら威力過多すぎてな」

「……つまり、どっちともとっさのことで制御できなかった、と?」

「「そうなる」」


 そう声を揃えて言う二人を輝は疑わしげに、ハルは首を傾げて眺める。


「……ま、分かりました。どうせおやっさんが不用意に突っついたんでしょうし」

「虫を?」

「なんでそうなる」


 ハルの顔を輝は信じられないものを見るような顔で見つめるが、輝は咳払いを一つして二人に向き直る。


「まあ、異常が無かったんならいいです。僕らも引き続き食事をとることにしましょう」

「いや、悪いね」


 歩が手をひらひらと振ってそういうと、輝は礼を一つした後でハルの首根っこを掴んで部屋から出て行く。


「じゃ、食事の続きを。いや悪いね、あんな威力で顔殴っちゃって。お詫びはするからさ」

「いえ、こちらも悪かったですし」

「ハハ、これからもよろしくね?」


 後日、葉楽の元に新製品らしきエンジンとホテルの壁の修理費の明細が届いた。葉楽が払うべき額はその半分。

 修理費計250万円。

 因みに、葉楽がつけた壁の傷は、歩がつけたものの約3分の1である。

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