第5話 それでどうだい?
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我が子とも言える小説を気に入ってくれる人たちがいるということは本当にありがたいことです。これからも頑張っていきたいと元気とやる気がムンムン湧いてきますね。えぇ。
~オネストメインストリート~
「……流石にログインしてる人数も疎らだねぇ」
ローゼは数時間前に見た活気ある町並みを見回しながら呟く。実際、自分も暫くの間暇があるとかでなければこんな時間までログインしてないよなぁ、とか思いながら。
「まっ、これも趣があるってことでぇ」
そう思い、口笛を吹きながら歩いていると、店仕舞いをしているプレイヤーを見つける。パッと見、銃も扱っているようだ。
「すいませぇん」
「ん?ひっ!?」
振り返るとそこに目に傷がある笑顔の強面があって、その目があった。並の神経なら即ビビる。ケイトも最初はビビっていたくらいだ。ミラーが特殊例(公式大会で顔を合わせているため、顔に見覚え自体はあった)なだけで、ローゼの顔はかなり威圧感を放っていた。
「お聞きしたいことがあるんですけどぉ」
「ショ、ショバ代でございましょうか!?お待ちくださいな!」
「ちょ、違う違う!店仕舞いみたいだけど商品見たいだけなんだって!」
本気でビビってアイテムウィンドウをいじりだした店主に焦りながら意思の疎通を行うローゼ。しかし店主が落ち着くまでにはしばしの時間を要した。
「す、すみません取り乱してしまって……」
「いえいえ、自分の外見忘れてたこちらにも非は……あるのかなぁ?まあ、自覚はしてますからぁ」
「それで、商品をお探しとのことですが、どのようなものを?」
「シングルアクションのリボルバーを。防具は運良く掘り出し物を見つけたのですが、シングルアクションは取り扱っていないとその店で聞いたものでぇ」
ローゼの言葉を聞いた店主は少し考えるような仕草を取った後、忠告する。それはローゼを困惑させるのに十分すぎる材料だった。
「それでしたら明日ログインし直してギルド【ガンホーガンズ】系列の店を当たったほうがよろしいと思われますが……何分、今の時間帯はガンホーガンズ系列の店は閉まっておりますから」
「他の店では取り扱っていないんですかぁ?」
「その、失礼なことを言いますが、需要、ないんですよ。ゲームですし手入れの事に目を当てる人など滅多にいないものですから」
「つまり、ダブルアクションやオートマの方が人気とぉ?」
「ええ。そうなります」
「そうですか……ありがとうございましたぁ」
「いえ、それほどでも」
ローゼは店主と別れたあとトボトボと道を歩く。もしかしたら、この防具一式に運を使い果たしてしまったのだろうか。そんな考えがローゼの頭の中を渦巻いた。
仕方ない、と一息吐くとステータスウィンドウを開き、スキル習得に必要な数値、RPを確認する。
このゲーム、スキル習得にはこのRPをその習得するスキルに応じた数値だけ消費する必要がある。ローゼの取得している補助スキルを例にするなら、調剤は3、遠視は5、RPを消費する。基本武具技能スキルは一律5となっている。特定の武具技能スキルを育てたりして一定条件を満たすことにより習得可能になる物はその限りではないが。
RPを増やす方法は割とたくさんある。スキルlvをアップさせる、特殊なアイテムを使う、等々。
ローゼの現在所持RPは6。目的の物に届いている。
先ほど手に入れたブーツを生かし、今日の狩りの反省を生かすために選ばれたのは徒手空拳スキル。これを習得し、武具技能スキルスロットに装備することによって初めて徒手空拳、つまりは蹴り、殴打などでダメージが加えられるようになる。
スキルスロットは武具技能、魔法、補助の三種類が存在し、スロット数はそれぞれ5、4、10個だ。そしてこのうちの一つ、魔法スキルだけは初期取得スキルの中で選ぶことはできない。条件を満たすことにより初めて取得可能となる。
とりあえず、ログアウトするために宿屋の部屋を取ろうと思い、適当な宿屋を探し始めた時だった。
「きゃぁーっ!?ど、どろぼーっ!」
「!?」
女性の声が響く。こもらなかったという事はこの通りの中にいる。そしておそらくこっちの方を向いて叫んだ……振動が髪に伝わった。そしてその泥棒は俺ではない……走る足音は二つ。被害者のものとまた別の被害者の前を走るもの……つまり恐らく泥棒のもの。推定有罪だ……違ったら謝ればいい。
そう判断したローゼは後ろへ振り向く。PKする必要はない。取り押さえればいい。新しい武具技能を試せる場でもある。銃は使わない。
「だ、誰だてめぇ!さっさとそこをどきやがれぇっ!」
「そ、そこの人間の男の人!その泥棒を捕まえて!」
女性の叫びを聞いて、ローゼは低く鼻で笑ったあと、呟いた。
「……言われなくても、わかってる」
「なにをぶつぶつとぉ!」
泥棒はすごい跳躍力でローゼの体を飛び越していこうとする。だがローゼは飛び越そうとした泥棒の足を掴むと、泥棒を無理やり地面へとぶん投げる。
泥棒は受身を取るが、それでも衝撃を殺しきれず、無様に転がり続ける。その隙を見逃すローゼではない。バネに弾かれたように駆け出し、転がっている泥棒を飛び越しながら振り返る。そして無防備な背中に向かってタイミングを合わせサッカーキックを食らわせる。
泥棒の肺の中から空気が抜ける。力が抜けた手の中からカバンの持ち手が離れ、宙に浮いたカバンを左手でローゼが受け止める。そして空いた右手の肘が振り下ろされ、泥棒の脳天に突き刺さり、泥棒は意識を手放す。光の粒子へは変わらない。気を失っただけで、死んではいないことの証明であった。
「ふむん、ちゃんとダメージは通るみたいだねぇ」
でなければ、最初のブン投げしかダメージを与えていない(それも地面との衝突ダメージのみ)事になるし、それだけで気絶するにはちょっとおかしい。あの跳躍力は、かなりのSPDを持っているか、それなりの移動強化や肉体強化系の補助スキルを持っている、それなりのレベルである証拠でもある。つまり、ダメージを与えられていることを証明できる。Q.E.D.
被害者の女性が近くまで走ってきたのを確認すると、ローゼは左手のカバンを被害者に向かって放り投げた。
「ほっ、と」
「きゃあ!?あ、あぶなっ!?」
被害者の女性は少し横にそれたカバンを飛びつきながらキャッチする。……パンツルックなのでパンチラとかはなかったが。まあボディラインは出ているので眼福である。
ローゼは女性の体を見回す。そこには変態的や紳士的な意図はない。先程女性が放った『人間の』というフレーズが気になってのことである。
足元から見ていくと、肌は浅黒く、中東系を思わせる。スラリと引き締まった足、豊満、だがふくよかではないボディー。そしてほどよく筋肉のついたそれは彼女が何らかの力仕事をする職業だというのを思わせる。
だが、それよりもローゼの目を引いたものがあった。それは頭。普通の同じくらいの背丈の実に一回り程上のサイズの頭が、彼女の頭身を下げていた。つまり、遠目から見たときの印象よりも明らかにデカイのである。
「うぅ、なんで私の商売道具を投げるのよぉ」
「ごめん、男性恐怖症で自分のカバン触れられるのすら嫌な子でぇ、殴られたらどうしよっかって考えたらついぃ」
「そんなわけないじゃない……ぐすっ」
実際にはすぐに立ち上がれないようにしてじっくり外見を見て違うところを確かめるためであったが、この場は適当なことを言ってごまかすほうがいいと考えたローゼは、頭の中に浮かんだ言い訳をする。すると、被害者の女性が涙目になって今にも泣き始めそうになったので話題を変える。
「それよりも、君、俺のことを人間の、っていったよねぇ。君は、異種族なのかい?」
「えっと、うん、そうよ。半分だけだけどね。そのせいで里の大人には舐められるし……あ、そうだ!貴方、腰の中を見るに銃士よね!私の作った銃、見てくれないかな!まだシンプルなものしか作れないけど……」
そう言って女性がカバンから取り出したものはローゼが諦めかけていたものだった。
「トリガーの長さを見るにシングルアクションのリボルバー?」
「そう!まだダブルアクションは作れないけど、精密性なら大人にだって負けないんだから!」
ふんす、と豊満な胸をはる女性よりも、今のローゼには黒光りする無骨な銃の方がとても魅力的に見えた。
「確かにこれは……!(ちょっと礼儀知らずだけど、スキル発動!武具鑑定!)」
ローゼはスキルを使い、銃のステータスを確認する。
無骨な銃
ATK+5 射撃精度補正1% 耐久値 93%
ハーフドワーフの若い娘が作ったシングルアクションのリボルバー銃。最大装弾数8。
取り回しや芸術性よりも一発の威力と精密度にこだわられ作られている。しかし、粗悪な素材で作られているためあまり性能には期待できない。
「(この娘、ハーフドワーフなのか。多分、大体は人間の特色が出て、手先の器用さ、頭とカラダの比率にドワーフの血の影響が出ているんだろうか。そうしたら人間の血強すぎるけど)……これ、粗末な鉱石で作られてるねぇ」
「う!やっぱり、見る人が見ればわかっちゃうかぁ」
「まあ(ズルしたけど)ねぇ。でも、銃作りの腕はいいみたいだ」
「!そう!そうでしょ!……でも、お金ないし、いい鉱石は手に入らないの。やっぱり、女独りで生きていくのには無理があるのかなぁ」
(……ふむ)
テンションが上がったり下がったりしている女性を見ながらローゼは思考する。
シングルアクションは明日ガンホーガンズの店に行けば手に入るだろう。しかし、よくいる客の一人として取引することとなる。それに比べると、これはチャンスなのではないだろうか。おそらくこの娘はNPCだ。種族選択がなかったことから、PCは人間以外にはなれないだろう。
つまり、現実の人間が操るPCはログインしてないこともある。しかし、このNPCを手助けし、店舗の一つでも持てるほどにすれば、もうそこから先は安泰だ。店で生計を立てるわけだから、休むことは殆どないだろう。つまり、ほかのNPCの店と同じように休む日なく、店が開いてる時間ならばいつでも取引できる。そして、多少無茶な注文をしても引き受けてくれることだろう。横暴な真似さえしなければ、最初の投資を成功さえすれば、あとはメリットだらけの優良株だ。殺す必要も絞り取る必要もない。
「……俺、冒険者なんだァ~。依頼さえ受ければなんでもするねぇ」
「え?」
結論を出したローゼは口を開き、結論の結果に至るため、相手を怪しませないように気を配りながら話す。
「冒険者ってのは自分のメリット、依頼者のメリット、両方確保して依頼を受けるんだぁ。これをWin-Winの精神と言うんだけどねぇ」
「つまり、一体……?」
「鉱山の場所は知ってるぅ?」
「えぇ。でもあそこにはたくさんのモンスターが……」
「なら、簡単な話じゃないか」
真面目な顔になりながらも、その口元には笑みを湛える。最終的に自分の思い通りになれば良い。モンスターの群れ?屠ればいい。掘るための時間?どうせ一週間後まで予定は空いてる。時間はある。
「俺に依頼すればいい。『鉱石掘りの護衛をしろ』ってさ。君が支払う報酬は、そうさなぁ、その銃を先払いに、そして掘った鉱石の一部を使って俺に一丁マグナムを拵える。そのマグナムに対する報酬は払おう。只働きは嫌だろうし。それでどうだい?」
女性は、目を輝かせながら頷いた。