第48話 ローゼって言うカウボーイ
ローゼは結構見た目にこだわります。顔に疵があるのでそれを補う目的もあるのでしょう。
~宿屋【ストリングス】~
「ふぁあぁ~」
昼寝から目覚めた葉楽ははジョナサンの着信履歴を無視してパラムスをかぶりサイバーな雰囲気を持つホーム空間を経由し、クリエイト・ワールドにログインする。
そして欠伸をかみ殺しながら宿屋の部屋の扉を開ける。そしてロビーへと降りると、セリオとハルは既にログインしておりウィンドウを目の前に開き何かを閲覧していた。
「何見てんのぉ? 二人ともさぁ」
「あ、来たの? ローゼ」
「今日探索なのに来なくてどうするのさぁ。まぁ装備整えたりするけど二人はぁ?」
セリオの問いに答えながらローゼは二人に問う。
「掲示板は特に気になる情報はなかったし見終えるけど……私も装備整えたいのよね。まあ別行動でお願いできるかしら?」
「俺の目的の武器ここにあるからさ。俺も別行動でお願いするよ」
二人の願いを聞きローゼは時間を見る。午後2時半。十分すぎるほどに早い。
「わかったよぉ。一時間後に北門集合でおねがいねぇ?」
「承ったわ」
「Согласие! ……ってね」
セリオとハルは椅子から立ち上がりローゼに軽く手を上げて了承の意を示しながら宿屋から立ち去る。
「……さて、上着新調しないとねぇ」
ローゼも宿屋の主人に軽く会釈してから町へと繰り出すのであった。
―――――
~フォーリン・カーズ~
「……マジに、時代劇みたいな町並みだねぇ~」
ローゼはフォーリン・カーズの町並みを眺めながら歩く。長屋が立ち並び、その町並みを歩いてゆく着物姿の町人。旅人の自分が異質な存在であるとはっきりと感じ取れる町並み。
新鮮な感触だった。現代の町並みではあまりよっぽど変な姿でもない限り異物感などそう味わえない。何しろ、異形の異性人たちも平然と町を闊歩する世の中だ。江戸時代にタイムスリップしたような感覚、京都に行かなくても味わえるとは。
ローゼがそんなことを思いながら路地裏から大通りに出ると、そこには町特有の喧騒が広がっていた。呼び込みをする店員、何とか値切ろうとする買い物客、世間話をする町人、旅人。
ローゼはそんな喧騒に安らぎを感じていた。太陽も下がり始めた昼下がり。なんとも心地よい空間をローゼは歩く。心地よい日差しを浴びるためにローゼは帽子をインベントリにしまう。気持ち良い。ローゼはここまでのものを作り上げたゲームクリエイター達にお礼を言いたいような気分になった。
そんな中ローゼの目に入ったのは反物屋のような防具店。町並みにマッチした佇まいに一目惚れをしたと言っても良い。ローゼの足は一直線にその防具店へと向かっていた。
「どうもぉ」
「おぅ、いらっしゃい!」
その店の店先にいたのはなんとも威勢のいい店員。ローゼが暖簾を潜ると同時に大声でローゼを歓迎する。その店員は髷を結っていたが頭頂部を剃っていなかった。剃らなくてよかったのは武士や相撲取りだけだったはずだけど、とローゼは考えるもその考えを即座に消す。これはゲームだ。もしかしたら知らないのかもしれないし、恥ずかしくて出来なかったのかもしれない。もしくは浪人が内職的にやっていると言う設定かもしれない。他人はとやかく言う必要はない。個人の楽しみなのだから。え? ミラー? ローゼの中の違和感が許容値を越えただけのことだ。なに、気にすることはない。
「服に穴が開いてしまいましてぇ。適当に服を見繕ってもらえませんかぁ?」
「あいよっ! 採寸だけさせてもらってもいいかい? お兄さんでかいからねぇ、入るのが限られるんだよ」
「上半身だけで良いんでぇ、数値だけ言わせてもらいますねぇ?」
「あいよ、じゃあ胸囲と胴回と腰回と上枝長を頼むよ」
「胸囲三尺三寸、胴回二尺七寸、腰回二尺八寸、上枝長二尺六寸でぇす」
「……尺貫法すらすらと言われるとは思ってなかったな……」
ローゼのサイズを聞いた店員はそう言いながらも店の奥へと入っていく。脳内でメートル法かヤード・ポンド法で計算しなおしたのだろう。しばらくすると何着か和服と洋服を持ってきた。多種多様な需要にあわせて用意していたのだろう。
「言われたサイズの服はこんなもんだな。適当に体に当てて確かめてみてよ」
「ありがとうございまぁす」
ローゼは体にいくつかの服を合わせ、脳内で違和感がなく、動きに支障のないコーディネイトを構築する。
「よし、これと、これで」
ローゼは先述の条件に当てはまる二つをピックアップし、鑑定する。
ストレイトシープウールシャツ
DEF+24 POW+2 耐久値99%
荒野に生息する突撃羊の毛を素材にしたシャツ。ウール100%よ。羊の毛が癖に火に強く、断熱性を持ち、通気性も高い。荒野を行く男御用達の一品。合わせ着前提の一品
ブラッディケンタウロスコート
DEF+16 TEC+2 耐久値98%
吸血人馬の毛を使用した深紅のコート。危険な香りを醸し出す。そんな見た目とは裏腹に装備者の器用さを少し上げる。ロックに生きたいあなたに是非
「……少し耐久値減ってるのが気になるけどぉ」
「作って補修するのは95%切ってからって決めてるんだ。すまねぇな!」
「まあいいですけどぉ……お代はぁ?」
「二着あわせて3000ハヴェンだ!」
「これでお願いしまぁす」
店員の答えを聞き、ローゼはウィンドウを操作して貨幣が入った袋を取りだして店員に渡す。受け取った店員はすばやく代金を確認した後装備をローゼに渡す。
「毎度ありっ! そういやぁ知ってるかい? 昨日の晩大きな炎の竜巻が上がったんだってよ」
「へぇ。街中で馬鹿やった誰かがいるんですかね?」
「あぁ。それがあの四大ギルドの一つ、エレメンツの支部長がやらかしたんだってよ。怨恨らしいが、何やらかしたんだろうなぁ? ローゼって言うカウボーイ」
自身の名を聞いた瞬間に、ローゼの思考が一瞬だけ止まる。しかしそれを気取らせないためにローゼは営業スマイルを顔に貼り付けたまま話を続行する。そしてローゼは日差しを浴びるために帽子を脱いでいたことに安堵した。
「何も悪いことしてないのかも知れませんよぉ? もしかしたら必死になにかを成し遂げて、嫉妬されちゃったのかもぉ」
「嫉妬、ねぇ」
「何も不思議なことじゃあありません。妬み嫉みは聡明な人間を愚鈍に落とす罠ですからぁ。それを向上心に昇華できる人間が成長できるんでぇす」
「成程ねぇ。覚えとくよローゼさん?」
またローゼの思考が止まる。今度はドヤ顔の状態でぴたりと止まってしまった。流石に動揺は隠せず、声を少し震わせて店員に問う。
「な、なんで……?」
「ブーツ。カウボーイが履くようなそれだし、そもそも、掲示板には銀髪のカウボーイ、って書いてあったんでね。鎌かけた。ドストライクだったかい?」
「Oh,NO……」
鎌に引っかかり思わず頭を抱えるローゼ。そんなローゼを見て店員は思わず笑い出す。
「面白いなぁ、あんた。そうだ、これやるよ」
「えっ」
店員から投げ渡された包みをローゼは何度か掴み損ねながらも落とさずキャッチする。
「金平糖だ。甘いもの、苦手でね」
「貰い物ですかぁ? くれた人に失礼じゃあ……」
「……それ、俺が甘いもの苦手って知って送ってくる嫌がらせの品だからそんな気遣いはいらない」
「……大変なんですねぇ」
遠い目をする店員にローゼは苦笑で返しながら頷く。
「では、ありがたく頂戴しまぁす。では、どうもぉ」
「おう、またの来店待ってるよ」
ローゼは会釈しながら店を立ち去り、店員が手を振るのを見て軽く手を振る。そして装備ウィンドウを操作し買った品物を装備した。
「……ん、いい買い物をした」
手元を見たり、背中を見たりしながら違和感のなさにローゼは感動を覚える。自画自賛とも言う。そして先程店員からもらった包みから鮮やかな金平糖を何粒か取り出し口の中に放りこんだ。
「……確かに、苦手な人には苦手だろうなぁ、これ」
要するに、結構甘かった。ローゼはそんなことを思いながら町を歩く。次の目的地は、武器屋。近接武器の不足を補うためだ。流石にD・G・マグナムやEx-S・ファランクスのブレードに頼り切るのは消耗が激しい。まだ時間はある。そう思いローゼは歩く。金平糖を、舐めながら。




