第3話 言われなくてもわかってる
戦闘描写を書いてるとなんだか言いようもない高揚感に包まれます。しかし、書き上がったのは短い文章……なぜなのでしょう?
~オネスト東の森・OWF~
オネスト東門を抜け、しばらくの間歩いていると生い茂った木々が空を覆い始め、照らす光は木漏れ日だけとなった時、ローゼがふと、口を開いた。
「ここが、新しい世界かぁ」
「まあ新しい場所っちゃあセカイだなあ」
「それはそれと索敵できる? あんたらどっちか」
セリオの問いにローゼが手を挙げた。
「射撃のために遠視スキルを習得してるからぁ、応用すれば索敵に使えるよぉ」
「それじゃあ敵が出たら教えて。どんなタイプかで攻め込むか判断するから」
「了解ィ。んじゃあ、近くの露払いよろしくゥ」
「どうしてよ。索敵するんじゃないの?」
セリオの問いにローゼは真面目な顔になりながら返した。
「もう近くにいる。でかいゴブリンタイプ1匹。普通のが3匹。小さいのが5匹。でかいのは俺が殺る。キミらは他のを頼んだ!」
「狙われてたのか……! セッさん! 普通のは僕がやる! あんまり多いのは苦手だ!」
「セっさんってあんた年上に向かって……ま、いいわ。Exp稼ぎには丁度良いわね!」
それぞれ担当の打ち合わせを終わらせると草むらから飛び出してきたゴブリンの群れに向かって三人は駆け出す。
「たぁっ!」
「げぎぁ!?」
「めぎっ!?」
セリオが剣を振るい、先頭の小さいゴブリン、スモルゴブリン2匹の首を刎ねとばすと、普通のゴブリン、ゴブリンが飛び出してくる。
そのゴブリンが繰り出す攻撃をいなしながらセリオは時間を稼ぐ。
「げぎゃ!」
「めぎゃ!」
「ぐぎゃ!」
「気持ち悪いのよあんた達!ま、あんたの担当よ、ケイト!」
「はいさァ! スキル発動、オーラナックル!」
交代すると同時に飛んできたゴブリンの攻撃を両腕、左足を獲物の側面に当て受け流し、叫んだケイトの両腕に青白い光が灯る。
「まず1匹!」
「げぎ!?」
まず、一番近くにいたゴブリンの側頭部に裏拳一撃、食らったゴブリンは横に吹き飛びながら光の粒子へと変わる。
そしてケイトはその一撃で怯んだ他のゴブリンの懐へと飛び込んだ。
「2匹!」
「めぎ!?」
腹にボディーブロー一撃、その後にアッパーで光の粒子へ変える。
そして後ろから襲い掛かってきたゴブリンに後ろ蹴りを浴びせ、振り返る。
「甘いよっ! スキル発動、破裏拳掌!」
まず腹にストレートを浴びせゴブリンの体をくの字に折り曲げるとちょうどいい位置に来た顔面に掌底を押し付け、一気に振り抜いた。
その技を食らったゴブリンの頭は吹き飛び、頭だけがなくなった状態のまま倒れ、光の粒子へ変わった。
「ノルマ達成! 手伝うよ、セっさん!」
そう言ってケイトが位置を交代したセリオの方へと顔を向けると、スモルゴブリンの眉間へと剣を突き刺すセリオの姿があった。ちなみに最後の一匹。
「今終わったわ」
「……ごめんなさい」
「ていうか、あんたの方が慣れてるはずよね。なんで倒した時間が殆ど変わらないのかしら」
「ステータスの違い考えようよ……」
そんな他愛のない言い争いをしている二人の間を、ローゼが駆け抜け、大きいゴブリン、ラージゴブリンに蹴りを浴びせる。だが、目に映るHPバーに変化は何もない。
「何!?」
「ローゼさん始めたばかりで徒手空拳スキルとってないでしょ!? ダメージ与えられない!」
「マジかよ!?」
その言葉を聞いてローゼは間合いを取るために後ろへと跳ぶが、ラージゴブリンはその巨体を揺らしながら間合いを詰め、手に持った棍棒を振り上げる。
「ぐがぁ!」
「あぶな!?」
ローゼは振り下ろされた棍棒を着地と同時に横へ飛ぶことにより回避し、銃を構えて撃鉄を起こす。そして引き金を引いて銃弾を発射するが、分厚い脂肪、筋肉に阻まれいまいちダメージを与えられない。
「マジか!?」
「弱点狙いなさいよ!」
「言われなくてもわかってる! ていうか君ら何してんだ!?」
「え、薬草拾い」
「レアなのたくさん生えてるんだ。ごめんけど足止めヨロシク。倒しても構わないから! Expがっぽがっぽだよ! ラージゴブリン!」
「Bloody Hell!」
セリオとケイトの援護も期待できない状態。そんな状況下で、ローゼの感情は冷え始め、思考速度が早くなり、世界を広く感じ始める。逆境を跳ね除ける為、脳がリミッターを外したのだ。
(考えろ! あのゴブリンの弱点を! ダメージが入りにくかった理由を!)
振り下ろされる棍棒は横に最小限の動きで躱す。薙ぎ払われる棍棒は上段なら屈んで、下段なら後ろに下がって避ける。その間も思考は止まらない。
(関節? 関節まで脂肪に覆われてる! オークかコイツは!? 眉間? 普通に脂肪も筋肉も付いてる! 胴体なんて以ての外! つまり……)「そこだぁぁぁっ!」
撃鉄を起こし、銃口を向け、引き金を引く。そうして打ち出された弾丸は、ラージゴブリンの眼球を撃ち抜いた。
「ぎぎゃぁぁぁっ!?」
「今だ!」
続け様に放たれた弾丸は、ラージゴブリンが吠え、開かれた口内へと入り、上顎を貫いてクリティカルポイントに到達。ラージゴブリンのHPバーはみるみる削れ、巨体が沈み、光の粒子へと変わる。
直後、ローゼの眼前に【LEVEL UP!1→5】というウィンドウが開かれた。ウィンドウの下部には【銃技能1→5】と【遠視技能1→3】とも書かれている。索敵の時に使ってレベルアップしたのが今表示されたのだろう。でなければ書かれている理由がなかった。
「つ、疲れたァ……」
「何言ってんのよ、結局ノーダメなくせに」
「援護なかったからじゃあん」
「ははは、ごめんって。でも、やっぱ強いな、ローゼさんは。あれ、適正レベル10だよ? よく倒せたね」
「クリティカル出さなきゃまともにダメージが通らなかったからねぇ? まぁ、運が良かったって事だよぉ」
下のほんわかした状態に戻ったローゼの元に、2人が駆け寄る。おそらく二人のインベントリの中には多くのレア薬草が入っていることだろう。
「ま、帰ろっかあ。かなり疲れたしぃ」
「ドロップアイテム含め、いくら位になるかしら」
「職人に売ったほうが高くなるかもしれないね。ま、帰ってからのお楽しみってことで」
こうして、このパーティの初戦闘は終わった。そして3人は戦利品の価値に期待を膨らませながら帰路についたのだった。