おじいちゃんの宝箱(中編) 創業40日目
「何かのイベントかな~コスプレ清掃大会なんちゃって」
頑張ってゴミ拾いをしているお兄さんたちを見て、沙希は面白がって言った
「よくわからないけど、そんな感じかも」
でもよく見ると、女の子が一人混じっている。
白のジャージを着てる。サラサラの長い髪で肌が白く顔が小さい。
凄く綺麗な人・・・高校生ぐらいかな・・
「沙希!あまり関わらないようにしておこう!ゴミ拾いしているから、イイ人たちなんだろうけど」
「そうだね、それより、お祖父ちゃんとのツーショット写真の場所はどこかな」
「あそこだよ」
私は沙希が小さい頃に怪我をした滑り台の裏側を指差した
「お~あそこか・・確かに木が一本なくなってるね」
沙希は7枚目の写真と今の風景を見比べた。
「あれ?お姉ちゃん!この写真、春の写真だよね。桜が咲いてるし・・今は秋、真っただ中だよ」
「知ってるよ!だから、おじいちゃんは認識率を多少の誤差があってもクリアできるようにしてるんだと思う」
「なるほど、そういうことか・・」
「そういうこと、このアプリは100%を目指す必要はないんだ。95%でクリアだから、
何か立体的なものがその場所にあれば認証率が上がるかもしれない、ねえ、沙希!私が木のところに立ってみるから、アプリで撮ってみて」
「あっ、お姉ちゃんが木の代わりになるってことか!これがお姉ちゃんの作戦?」
「作戦ってほどじゃないよ・・試しにとりあえずって感じかな」
「わかった!それじゃお姉ちゃんの携帯貸して!」
そう言って沙希は手を出した
「はい、よろしく」
私はアプリを起動させ沙希に携帯を渡した
「うまくいくといいな~それじゃあ、撮るよ~」
ワクワクしながら沙希が携帯を構えた
「はいチーズ!」
私は両手をあげて木になりきった。
「あっ!」
沙希の目が大きく見開いた
「どう?認証率は」
早く結果が知りたい
「昨日は91%だったんでしょ?92%に上がったよ。すごいすごい」
沙希はすごいと言っているが私は少し残念だった。
「1%だけか・・ちょっと撮る角度とか変えてみて」
「オッケ~」
「どう?変わった?」
「う~ん、逆に認証率は下がっちゃうよ。やっぱり写真と同じ角度からが一番いいみたいだよ」
「やっぱり?」
「じゃあ、今度はポーズを変えてみる」
「あ~また下がっちゃったよ。両手を上げているのが一番みたい」
思ったよりもこれは、難問かも知れない・・
何度かポーズを変えてやってみたけど92%以上には上がらなかった
「でも、これで認証率が変えれることがわかったんだから、あとは木の大きさに近いものを探してくればいいだけだね」沙希は楽観して言う
妹ながら的確な指摘だ・・だけど・・
「そういうことだけど、それがなかなか難しいんだよね」
周りにそういうものがあるといいんだけど
正直なところ少しがっかりした自分がいる、もしかしたらうまくいくんじゃないかという期待があったから・・でも切り替えなきゃ!!まだまだこれからだぞ!
「何か木の代わりになるものを探そう!」
私は沙希に力強くいった。それは自分を鼓舞させるためたったのかもしれない
「わかった!」沙希は頷いた
私たちは周りをキョロキョロと見渡した
しばらく公園を探索していると
先ほどすれ違ったゴミ拾いをしていた一人がこちらに近づいてくるように感じた
「お姉ちゃん・・なんか、さっきゴミ拾いしてた人の一人がこっちに近づいてくるよ」
沙希も気づいたらしい
少し怖がって私の後ろに沙希は隠れた
「大丈夫だよ・・」
私はそう言ったが唐突な出来事に、少し心臓がバクバクしている
黒のスーツにグレーのサングラスをした男の人が、沙希の行動に気づいて
「やあ~お嬢ちゃんたち、俺、全然怪しい人じゃないから。安心してよ」
と言ってきた。声だけ聴くと結構若い感じがした
「こんにちは!お嬢ちゃんたち、さっきから何やってんの?」
とサングラスととりながら私と沙希に聞いてきた。
なんだか、なるべく軽い口調で私たちの警戒を解いているような話し方に感じた
「こ、こんにちは」
ちょっと怖かったので、愛想笑いをしつつ、少しぎこちない返事をした
あれ?この男の人・・まだ10代?かな・・・
サングラスを外した顔にはまだあどけなさが残っていた。
挨拶が終わるとまた男の人はサングラスをかけ直した
「写真を撮っているんだよ」顔を見て少し安心したのか沙希が答えた。
「へぇ~変なポーズをとって?」
興味本位で聞いているみたいだ
「あれは、まあいろいろとありまして、説明すると長くなりそうなので・・」
いや本当に長くなるので聞かないほうがいいです・・
{なにかあるわけ?気になるねえ~}
「ねえ、お姉ちゃん、このお兄ちゃんに手伝ってもらったらどうかな」
「えっ」
急に沙希がお兄ちゃんと呼び、手伝ってもらうことを提案したので私は驚いた
「ほら、このお兄ちゃんに木の役をやってもらえばお姉ちゃんよりも身長が高いし認証率が上がるんじゃないかな?」
それはそうだけど・・・
「認証率?なにそれ」
何のことか分からないという顔をお兄さんはした。
「確かに・・そうかも・・でも悪いよ、急にそんなこと頼んだりしても」
「俺は、全然かまわないぜ、大したことはできないけど何かあったらいいなよ。力になるぜ」
沙希はこのお兄さんのことを気に入ったみたいだし、お願いしてみようかな
「じゃあ、あの、お兄さん、ちょっと手伝ってくれませんか?」
「もちろん!そのために声をかけたんだぜ」ニッコリとお兄さんは笑った
私はペコリと頭を下げお礼を言った。
お兄さんに思い出風景認識アプリとこれまでの経緯を説明した
「つまり、七枚中六枚目までの写真はクリアして、ジイさんの作ったゲームをダウンロードすることができた、で・・七枚目のクリア報酬はおそらく、渡された箱を開けるパスワードが表示されるんじゃないかってことか」
「そうなんです」
「おもしろそうだな、手伝うぜ。で・・話を聞く限りではその辺の木をぶった切って、そこに持ってくるのが、一番確実なんじゃねえの?」
「それはさすがに、まずいですよ」
確かにそれが一番確実だけど・・そんなことできるわけない
「あ~お巡りさんだ。」
自転車を降りたお巡りさんが沙希が指差した方向からやってきた
お巡りさんはお兄さんの前までやってきて「あの~ちょっといいかな君」
「何?俺?」お兄さんはなんで?という顔をしながら、人差指で自分を指した
「君はこの子たちとどういう関係?」
どうやら、お巡りさんはお兄さんの事を不審に思ったみたい
「あ~いや、さっき知り合ったばかりで、ちょっと困ってたんで声をかけただけだよ」
心外だなという顔つきでお兄さんは反論した。
「困ってる?いやその前に君、その恰好が怪しいよ」
「スーツにサングラスのどこがおかしいんだよ。普通だろ?」
それでゴミ拾いしてるのもちょっと普通じゃない気がしたけど・・
なんだか、またややこしくなってきたので
さっきと同じ説明をお巡りさんにもう一回した
「なるほど、事情はわかった。悪かったな、不審者と思ってしまって」
少しだけ申し訳なさそうな顔をしてお巡りさんが言ったが、その後
「でも、君の木をぶった切るっていう提案は、ダメだな」
と注意した。
「ダメなのかよ?」
「当たり前でしょ、公園だよ」沙希もお兄さんに言う
「俺が考えた以上の名案があるの?お嬢ちゃん?」
「じゃあさ、お兄さんとお巡りさんが肩車してそこに立ってみるってのはどうかな?」
沙希がお兄さんに自慢げに言う
うん、沙希にしてはいい線いってる・・
高さはほとんどクリアできるから、認証率も上がりそう!
「名案だなそれ、頭いいなお嬢ちゃん!」
そういいながらお兄さんは沙希の頭をなでた。
「えへへ」褒められた沙希はなんだか嬉しそうだ
「じゃあ、私に乗れ」
お巡りさんがしゃがんだ。
でもお兄さんはため息をつきこう言った
「えっいいよ、おまわりが上に乗れよ」
「私の方が体が大きいだろ」
お巡りさんがムッとした顔で眉をひそめた
「いや、俺の方が絶対に力があるからさ」
「なんでそんなことわかるんだ?」
「もう、どっちでもいいですよ!じゃんけんで決めてください!」
言い争いになりそうなので思わず口をはさんでしまった。
結局ジャンケンでお兄さんが勝ち、上にお巡りさんが乗ることに決まった
「よし!2連勝!今日は調子がいい!」お兄さんがそう叫んだ
「2連勝って?」私は意味が分からなかったので聞いた。
「いや、なんでもない個人的なことだよ」
「よ~し、早く撮ろ~」沙希が2人に言った
「あまり動くなよ、お巡り!」
「君こそ、ちゃんと持っててくれよ」
「それじゃ、撮りますよ~」
私は携帯を構えて写真を撮った
パシャリとカメラの効果音が響き渡る
沙希が急いで携帯を覗きこみ
「お~94%もう少し・・あとはもう少し高さがあればいけそうじゃない?」
写真と画像を見比べながら言う
「よし!お嬢ちゃん、一番上に乗れよ」
「沙希、高いけど大丈夫?私が変わるよ」
「大丈夫・・だと思う。ちゃんと持ってね。お兄さん、お巡りさん!」
「任せろ」2人は口を揃えて言った。
沙希がてっぺんに上がると流石にグラグラと揺れたがすぐに安定した
たぶん二人とも体を鍛えているんだろうな。
クラスの男子だとこんなことはできないような気がする。
「それじゃいきま~す」
もう一度、携帯を構えシャッターを切った
パシャリ!!
「どう?」沙希が真っ先に聞いてくる
「わあ~認証率95%」
私はジャンプして喜んだ
「やったあ~」沙希も肩車の状態で体を揺らした
「わ!あぶね、揺らすなよ!」
一番下のお兄さんは少し焦ったみたいだ。
スマートフォンにメッセージが表示された、それを4人で覗き込む
四宮孝作より沙耶へ
このメッセージを見てるということは七枚目の写真をクリアしたということだな
木がないのは私が抜いたからだ。
ちょっといたずらをしてしまった、すまなかった。
クリア方法は何通りかあるが、たいへんだったろう?
困難をあきらめない気持ちをいつまでも忘れずにな・・・
最後の遊びに付き合ってくれてありがとう。
最後のクリア報酬は箱の解除パスワードだ。
それと、いままでダウンロードした私が作った6つのゲーム。
たまに遊んでくれると嬉しいよ。
この7枚目の写真よりも難易度は圧倒的に高いけどな。
私は、ゲームの中でいつでも遊びに来るのを待ってるぞ
「おじいちゃん・・・クリアしたよ・・」涙が頬を滑ったのがわかった
「よかったね、お姉ちゃん」沙希も目を赤くして泣いている
「でも、おじいちゃんの最後の問題を解いちゃった・・終わってみると意外と淋しいね」
「お姉ちゃん、いつでもゲームの中で待ってるって書いてあるよ」
「うん!そうだね!おじいちゃんの本当の問題はこれからだよね!ありがと沙希!お兄ちゃんもお巡りさんも」
「どういたしまいて、でも木を抜いたらまずいっしょ?なあ、お巡り?」
「もう、時効だ」
「あんた、なかなかいい奴だな」
「私は最初から市民の味方だ、それにしてもお前のおかげだ、最初はすまなかったな!不審者と間違えて!私一人では彼女たちを手伝ってやれなかった、本当にありがとう」
お巡りさんもなんだか目に涙が溜まっている。
「おまわり!俺そういうの、がらじゃないから、やめてくれよ、でも、俺もあんたが来てくれて助かったよ」
お兄さんとお巡りさんは固く握手をした。よかったあ~
「おめでとう、よかったなお嬢ちゃん達・・あっそうだ。いいこと思い出した!」
急にお兄ちゃんは何かを思い出したように言い走りだし、私達から離れていった
「あっ、ちょっと待って」
えっ!まだ、名前も聞いてないのに・・・そんなカッコよく?去って行くなんて