おじいちゃんの宝箱(前編) 創業40日目
《一枚目の写真》
駄菓子屋さんにはファミコンというものが置いてある。
昔、流行った、ゲーム機らしい
おじいちゃんは定年して暫くしてから「暇つぶしだ」と言って駄菓子屋さんを始めた
駄菓子屋さんには、おじいちゃんが作ったソフトが遊べるゲーム機が6台置いてある。
なぜ6台かというと、おじいちゃんが若いころ、そのゲーム機で遊ぶソフトをプロデューサーとして作ったソフトが6本だからだ。
私はこの駄菓子屋さんが好きで、おじいちゃんがちょっと出かける時なんかは、よくお店の番をしていた
お客さんは小学生低学年の男の子が多くて、私も一緒になってよく遊んだ
その駄菓子屋さんの玄関先で撮った、おじいちゃんとの写真
おじいちゃんの四十九日法要の日、
おばあちゃんから7枚の写真とインターネットサイトのアドレスが書かれた紙
そして、9ケタの正しいアルファベットを入力しないと、開かない箱の3つを渡された
おじいちゃんが生前、この日に私に渡してくれと頼んでいたみたい
7枚の写真には番号が振られていて
写っている場所は全部バラバラ、私が3歳のころからつい最近の中学1年までの7枚
どれも私とお爺ちゃんのツーショット!!
サイトのアドレスが記されてあった紙・・
サイトにアクセスすると「思い出風景認証アプリ」というのを、スマートフォンにダウンロードすることができた
このアプリは、おじいちゃんが一人で開発したみたい
番号が振ってある写真と同じ風景を番号順にとっていくと、クリアとなる
1つ風景をクリアするごとにおじいちゃんの作ったゲームがダウンロードすることができる
これはお爺ちゃんから私への最後の挑戦状だ。
私は学校が休みの土日を使って、思い出の場所を順に回った。
写真の場所を訪れるたびに鮮明に楽しく懐かしい思い出が溢れてくる
順調に6枚の写真をクリアし残り一枚!
問題は7枚目の写真
朝食のイワシのみりん干しを食べながら私はお母さんに聞いた
「ねえ、おかあさん。この写真って、昔住んでた、団地の近くの総合公園だよね」
そういいながら、⑦と番号が振られている大きな木の前で、私とおじいちゃんがピースサインを作って写っている写真をお母さんに見せた。
「どれどれ見せて!そうねえ、間違いないよ、昔よく遊んだじゃないお祖父ちゃんと」
写真を覗きこみながら言う
「だよねぇ・・でも、ないんだよねえ」
低いトーンの声で私が言う
「ないって?なにが」
「木がないんだ。ほら!」
私が小学2年の時、おじいちゃんと私が一緒に写った写真。
そして昨日、スマホで撮った写真の画像を横に一緒に並べた。
同じ場所なのに、そこにあるはずの木が一本無くなってる。
「ほんと、確かに木が一本ないね」
頷きながらお母さんは写真を見比べた
「木が一本ないせいで、認証率が91%にしかならないんだ」
「認証させるには95%でクリアだっけ?100%じゃなくてもいいんなら、棒でも立てたらいけるんじゃない?」
この思い出風景認証アプリで番号を選択し、風景を撮るとその番号の風景と何パーセント一致しているかを判定する機能が付いている
当然6枚の写真は簡単にクリアできたんだけど・・最後の一枚で苦戦中
「そうかなあ、そんなに簡単に行くとは思えないんだけど」
私はスマートフォンを操作し、思い出風景認証アプリを起動させた
思い出風景のうち、おばあちゃんから貰った写真の、1から6まで・・
つまり6つはすでにクリアした
なので、クリア報酬のゲーム6本のダウンロードは完了している。
となれば残りは
「さあ、次はいよいよ、この箱の解除パスワードかなあ」
「どうせ、あなたが駄菓子屋で店番してた時の、お駄賃でも入ってるんでしょ」
お母さんが箱の中身を断言した口調で言った。ほとんど見当がついてるようだ
「もう、お母さん!なんで、先に答えを言っちゃうの」
私もそれは考えたけど・・ヒドイ・・お母さんの推察力は半端じゃなく大抵の事は当たる
「ちょっと振ってみたら?小銭の音がするかもよ」
「だから、開けるまでのお楽しみを先に言わないで」
「お父さんの考えそうなことだもの、分かるわよ。娘だし、その木がないのだってお父さんの計算ずくかもしれないよ、最後に沙耶のことを苛めてやろうと思ってるんじゃないの」
鼻で笑いながら私を見る。
「そうかもしれないね、お祖父ちゃんの最後の問題だね。でも楽しいよ、イメージ通り簡単にできちゃってもつまんないし」
これは負け惜しみじゃなくホントのことだ。この7枚目の問題が解けたらおじいちゃんとの遊びが永遠に終わってしまいそうで、名残惜しかった。
「でも、沙耶、ゴメンね。お父さんもお母さんも、全然手伝えなくて」
お母さんがちょっと申し訳なさそうに言った
「ううん、大丈夫だよ!お父さんもお母さんもサービス業だから仕方ないよ。土日は稼ぎ時だしね。それに今日は沙希に手伝ってもらおうと思ってるんだ」
「それにしても沙希、起きてこないね、朝ごはん冷えちゃうし起しちゃおうか」
「沙希は、おこさないと。いつまでも寝てるからね」
「沙希~日曜だからって、いつまでも寝てるんじゃないよ~お母さん、もう仕事に行くからね」
2階に向ってお母さんが大声をあげたが返事がない・・・
「もう!しょうがないね。あっもうこんな時間!!沙耶あとはお願い。じゃあ、いってくるね」お母さんが時計を見ながら言った。9時半を回っていた。
お母さんは化粧台で身支度を素早く整え、急いで上着を羽織ってバッグを手に取った
「後片付けと、洗濯物干しやっとくね」
「ありがと、頼りになるね、お姉ちゃんは」
お母さんに褒められると悪い気はしない。
「えへへ~いってらっしゃ~い、ファイトだよ~」
そう言って、お母さんを送りだした後
二階から下りてくる足音が聞こえてきた
「お姉ちゃん、おはよ~」
「おはよ~沙希、遅いぞ、お母さんもう仕事行っちゃったよ」
「朝ごはんは?~」
「お味噌汁温めて!あとイワシのみりん干しがあるよ」
「やった~イワシイワシ」
沙希はお魚が大好きだ。
外食に行ってもハンバーグとかカレーライスとか私は頼んでしまうんだけど沙希はお魚ばっかり注文する。
だからウエイトレスが運んできたとき、私と沙希のどちらが注文した分か、迷うことがよくある
「早く朝ごはん食べて!後片付けして洗濯物干したら、一緒に出かけるよ」
「えっ!どこに行くの?」急に言われたからか沙希は驚いた
「おじいちゃんからの最後の問題を解きに・・これが結構、難問なんだ。」
「ああ、あのアプリのことだね、いいな~お姉ちゃんだけ・・お祖父ちゃんと仲良しで」
少し羨ましそうに私を見た
「沙希が全然駄菓子屋に遊びに来ないからだよ、それにまだ携帯持ってないでしょ」
沙希は来年中学に上がる。両親にはそれまで我慢しなさいと言われていた
「だって、あの雰囲気あんまり好きじゃなかったんだもん、男子が一杯いるし」
沙希は男子と話すのがあまり好きではないらしい。私もそうだけど、でもあの駄菓子屋だけは特別な空間だった。
「私は、好きだったけどな・・お祖父ちゃんのお店・・で・・沙希ちょっと今日は一緒に付き合ってくれないかな?おねがい!2人いないと私の作戦が実行できないから」
「いいよ、どうせ今日は暇だし」と言って、あっさりと了承してくれた
「行くところは小さい頃、住んでた団地の近くの公園だよ」
「ああ、あのちょっと広めの公園か・・今日は天気もいいし気持ちいいだろうな~それにお姉ちゃんと、二人だけで出かけるのって久しぶりだね」
「うん」
沙希と出かけるのはホント久しぶり
昔はよく団地近くの公園で遊んだね
最近は友達とばかり、遊んでるから・・こういう機会もめったにないね!
たまにはこういうのもいいかも
家の用事を沙希と協力して済ませた私たちは、駅に向かった
小さいころ住んでた団地は、電車に乗って2駅のところにある
電車に揺られ懐かしい風景が近づいてくるのを見ながら、その間に沙希に6つの写真はクリア済みな事、7つ目の写真は木が一本ないため認証されないことを説明をした。
「ふ~ん、認証率か・・もしかしたら、夕方とか夜とか時間によっては変わるんじゃないかな、見え方によって」小学生なのに鋭い意見!
「それは、私も思ったよ、もしかしたら時間や撮る角度によって認証率が変わってくるのかも。昨日はそう言うこと試さなかったから、やってみる価値はあるね」
とりあえず、色々試してみるしかない。
昨日は私一人しかいなかったけど、今日は沙希もいるし、何とかなりそうな気がした。
「あ~なつかしいなあ、この公園、ほらお姉ちゃん覚えてる?私、幼稚園の時、あのすべり台を滑るときに、勢いあまって顔から落ちちゃったんだよ」
赤い滑り台を指しながら沙希は言う
「覚えてるよ、あの時は沙希が気絶して、死んだんじゃないかって、私も泣いちゃったよ」
「えへへ、ごめんごめん」照れながら沙希は笑った
ホントにあの時は大変だった。
また、こうして、この公園に来ることができるなんて・・あの時は思わなかっただろうな・・
そんな事を考えていたら、なんだか変な服装の男の人たちが何人かいて何かやってる。
公園であんな服装・・何やってるんだろ
「それよりさ、お姉ちゃん!さっきから、なんだか変な人たちが、空き缶とかを拾ってるんだけど」
沙希が男の人たちを凝視して何をやっているのか確認した。沙希も気になったみたいだ・・
「そうだね・・」
あまり触れないようにしようと思っていたけど・・
なぜか、黒いスーツを着てグレーのサングラスをかけた男の人たちが
一生懸命に公園のゴミ拾いをしていた