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放課後スゥイーツ(後編) 創業13日目

駅を降りた後、商店街を通り抜けまたしばらく歩いた。

どの高校も今日は中間テスト最終日なのだろうか、ゲームセンターや喫茶店に入っていく高校生の姿が目立つような気がした


店まで行く途中歩きながら携帯で

食べログをチェック・・してもコメントは0件

そりゃそうだ。まだ開店したばかりだもんね

あ~なんだか不安になってきた


「ねぇ~アミアミは、部活やってないんだよね?いつも放課後は何をしているの?」


「そうですね~わりと本屋に行くことが多いですね、新宿で途中下車して紀伊国屋書店に寄ったりもします」


「どんな本を読むの?」

学年トップの柏木さんが読む本にとても興味があった


「そうですねぇ、本というか・・ファッション雑誌が多いですね」


本当か?てっきり参考書なんかを読み漁っているのかと思った。

それにしても、全く柏木さんの私服のイメージがわかないんだけど・・

でもファッションと聞いて思わず、さっき教室で見た柏木さんのしている腕時計に目がいった。

唯一、制服じゃなくて、私物アイテムと言ったら腕時計だったから・・


「ああ、これですか?」

私の目線に気づいた柏木さんが腕時計を指した。


「綺麗で可愛いい時計だね」

でもよく見ると大人の女性がつけるブレスレットのようなお洒落なデザイン

卵型のフレームがピンク色をした小さな時計・・・


「ありがとうございます、この時計、私のお気に入りなんです。制服と合わせるといいなって雑誌を見て思わず買ってしまいました」


「アミアミによく似合ってるよ」お世辞じゃなくホントに・・・


そんなこんなで、ガールズトークをしながら歩いていると

あっという間に・・・店に到着~!!



うっ、これは、確かに入りにくい。プリン屋のイメージと違うくない?

本当にまんまキャバクラじゃん

あ~みんなと来てよかったぁ。


「さて、この一筋縄にはいかない怪しげな外観!どう攻める?」

私はみんなに聞いた。これは絶対作戦を立てたほうがいい。

中にはヤバい連中がいるに違いない!


「よぉ~し、ハスミー突撃するぞぉ~私に続けぇええ」西野さんはそう言って、

店のドアを指差し突撃の合図をした。そして躊躇せずにドアノブに手をかけた


えっもう行くのかよ!というか私の話、聞いてないじゃん!!

でも、こう言うときは何も考えない方が得なのね


「は、ハイ、西野さん。ついていきます」

お~葉澄も行った。だけど少し不安が顔に出てるぞ。


「お!葉澄男らしいぞ、いけ~。アミアミもどうぞ。わたしはしんがりを務めます」


「エミ~ルさん。別に後ろに敵はいないと思いますが・・」


「いやいや、アミアミ。油断は禁物ですぞ。この得体のしれないプリン屋。普通じゃないですからね」


そう言ってる間に西野さんと葉澄が店に入ってしまった。


「もう、二人とも行ってしまいましたよ。私たちも行きましょうか」


「そ、そうだね」




「いらっしゃいませ」


入っていきなり不意を突かれた。

いや、ある程度の変な人がいることは予想して、心構えは持っていたつもりだけど・・・・

黒のスーツに薄いグレーのサングラスをつけたイケメン店員が頭を下げ挨拶をしてきたのだ



店の中も完全にキャバクラだ・・

いやキャバクラなんて行ったことないけど、テレビでよく見るキャバクラはこんな感じだ。


まてよ、見渡すと店員は6人、しかも全員男で同じ服装


キャバというよりホストクラブだな・・テーブル席は20席以上ある。

当然席は全く埋まっていない。


「ねえねえ、お客さんって私たちだけ?」

西野さんが店長らしき男に聞いた。


というか店長だ。


だって店長って書いてある大きなバッチを、胸の目立つところにしているんだもん。

へぇ~牧島さんっていうんだ。

超イケメン・・いや、残りの5人もかなりイケメンだ。

グレーのサングラス越しで目が何とか見える程度だけど私にはわかる

私のイケメンセンサーがビンビンに反応している。


「今日はあなた方が初めてです。久しぶりのお客様でして、開店してから、あなた方で5人、6人、7人、8人目です」


「そんなにすくないの、私たち4人で半分行ってるじゃん!大丈夫か?このお店」

しまった!本音を思わず口に出してしまった。


「あら、意外と多いじゃないですか、こんな外観でもお店に入ろうと思われる方がいらっしゃるんですね」

私の発言にかぶせるように柏木さんが店長の牧島さんに店の外観を遠まわしに注意したというか嫌味を投げた


あ~柏木さん、怒らせちゃダメだよ。

うっかり失言の私が言うのもなんだけど・・こんな謎の組織、敵に回すと厄介だぞ

残りの5人の店員は微動だにせず直立不動でこちらを見ている。

なにか、いちゃもんをつけられるのではないだろうな・・ちょっと怖いぞ


そんな心配をよそにやさしく丁寧に牧島さんは説明してくれた

「いえ、うちのプリンは味で勝負するのがコンセプトですから広告も配っていませんし、お店の外観にも力を入れていません。これから口コミで徐々に美味しさが広まっていけばいいと思っているんですよ」


それで、まんまキャバクラなんだな

「なんでキャバクラの跡地に店を出そうとしたの」


「潰れたお店で格安で譲ってもらえたからです」


なるほどね、そういうわけか・・

「ところでプリンはどこですか?」

入口にはプリンらしきものが見当たらなかったので私は聞いた


「キャバクラの時バーカウンターがあったんですが、そこで販売しております。それではご案内しましょう」

よ~し、いよいよプリンとご対面だ・・たのしみぃ~さあ、みんないくぞ~・・・と

あれ、西野さんがいなくなってる?

トイレにでも行ったか?まいっか。


って、もうプリンの前にいるし!!でも、あれ?何だか様子が変だ。

プリンが綺麗に陳列されているショーケースの前で西野さんは泣きそうな顔をしていた

財布の中身とプリンを交互に見ながら・・


まさか、プリン買うお金、持ってきてないのか?

最初に柏木さんとプリン屋に行こうと言ったのはあんただぞ!と思いながら

「どうしたの?ユナぽん」と優しく聞いてみた。


「うぇ~ん、お金足りないよ~」

もう、泣く一歩手前だ・・

値段を見ると税込1200円

高っっっつ!!!!


「ユナ720円しか持ってないよ」

そういいながら西野さんは縋るように私と葉澄、そして柏木さんを見つめた


えっ720円ってあんた3歳児か?

今時の幼稚園児だって1200円ぐらいは持ってるぞ。

まったく!仕方ないな、ここはお金貸しておいてやるか。

ここまで折角来たんだから。食べて帰らないと後悔するでしょ。


私がそう考えていると

「大丈夫ですよ。ユナさん今日は私が出しますから」あっさりと柏木さんが言った。

しかも貸しではなく奢りだ。何という男気・・



「ほんと?わ~いありがと~アミっち大好き大好き~、このご恩は一生忘れないよ~」

さっきまで泣きそうだったのに別人のような妙に明るい声で言った


おいおい、切り替え早いな~

それにしても、たった1200円で一生忘れないのかよ、適当なこと言ってんじゃないよ


「よかったら、エミールさんと葉澄君の分も私が出しますけど」

え?マジですか・・柏木さんの舎弟になりたくなってきた・・

柏木姉さんに付いていきます。でも・・・ダメダメ!

「いやいや、わたしが勝手に二人についてきたんだから悪いよ、それに私は二つ買うから」


「二つ?」柏木さんと西野さんは不思議そうに私を見た


「今食べる用と、家で研究する用」葉澄が横から私が二つ買う理由を言った


そう!!わたしはデザート研究家!自称だけど・・

どんな、デザートも二つ買いは日常なのだ


「僕も大丈夫、お気遣いありがとうございます柏木さん」



「せっかく四人で来たんですから、お店で食べていきましょうか」

柏木さんが提案した。


「店長さん。お店で食べれる?」西野さんがため口でイケメン店長に聞いた


「もちろんですよ。ごゆっくりどうぞ」


おいおい、もしかして席料なんか取るんじゃないだろうな

一人30分3000円とか・・

「あの~ここってお酒なんか出ないですよね」

念のため、心配なので聞いてみた


「申し訳ありません、このような内装のお店ですが。お酒は取り扱っておりません」


「エミールさん、私たち未成年ですよ」

柏木さんが真顔で爽やかに私に突っ込んでくる


わかってますよ。

ちょっと別料金取られないか牽制入れただけだよ


「コーヒー、紅茶や緑茶などのお飲み物ならサービス致しますが、いかがいたしましょう」


「では私は紅茶をお願いいたします」柏木さんが言った

「じゃあユナも」

「あっ僕も」

「えと・・私はお冷お願いします」


「エミールお水好きなの?」

西野さんが聞いてきた


ふっ愚問だな、初体験デザートを味わうには水が一番なのだ

「まあね、プリンを味わうのはお水が一番よ」


「通ですね、エミールさんは」


席に着いてしばらくすると

青色の瓶に入ったプリンが運ばれてきた

それと紅茶が3つと水が1つ。


「それでは、中間テストのお疲れ様会をかねて・・乾杯っ!」

西野さんが音頭を取った。「乾杯!」私たちがそれに続く。

私だけ水で乾杯した。

でも紅茶で乾杯ってのもおかしいだろ!



「あら、いい香り」

ティーカップを口元まで運んだ柏木さんが紅茶の香りを褒めた


「ホントだ」

葉澄も同意する。


私も紅茶にしておけばよかったかな・・と思ったが、あれ?

旨いなこの水・・どこのミネラルウォーターだ?でも今はプリンに集中!!


それにしても綺麗な瓶だ。プリンを包むのは透明な澄みきった青空の色・・


瓶に見とれている間に、一番最初に手を伸ばしたのは柏木さんだ。

ピカピカのスプーンで丁寧にプリンをすくいあげ一口食べた。

そして空色の瓶に残っているプリンを見つめながら思わずため息を漏らした。

「あぁっ~」

なんだか色っぽいぞ、女の私が見てもドキッとした・・


「美味しい・・・あの、あと4つ持ち帰りで貰えますか」

柏木さんは一番若そうな店員にそう注文した。

「かしこまりました」

あれ、声を聞くと、さらに若く感じる・・まだ10代だろうか・・


「お父様とお母様、それとお姉さまにお土産です。そ、それともう一回、私も食べたかったので・・」少し恥ずかしそうに柏木さんは言った



そんなに美味しいのかよ!!食べて3秒で即決かよ!!


「うわ~~~~~~~~おいし~~~~~~」

西野さんが叫んでる。というか絶叫している

「ユナさん、声大きいですよ」

流石は柏木さん常識を心得ていらっしゃる。


「ほんとうだ、これは・・・」

葉澄も顔が真剣だ・・料理魂に火がついたか?

これは本物だな・・

さて、わたしも最初の一口を食べるとしようか

ミネラルウォーター喉に流し込み、口をゆすいで

満を持して私は柔らかなプリンをスプーンですくい上げ口に運んだ


あれ?なんでだろ・・・・・・・・涙がでてきた・・


私はいままで、いったい何をやってきたのだろう。

なんちゃってデザート研究?とかやっていたのが無意味に思えるぐらい。

いや!むしろ、今までの人生自体が無意味に思えるくらい


絶望的な美味しさ


わからない。なんの素材でどう作ればこんな味が出せるのか



「大丈夫ですか?エミールさん」

私の涙を見て心配した柏木さんが声をかけてきた


「・・・・」

だけど、何も話せない・・声を出す余裕がないのかもしれない・・


「どうした?エミール?」

西野さんも私を心配している。


はっと我に返った!

「だ、大丈夫!!ごめんびっくりさせちゃって・・」涙を手で拭いながら私はそう言った。

本当は全然大丈夫じゃない。

なんだろう、感動と悔しさが一緒に来る感覚・・


「ハンカチ使ってください。エミールさん」

綺麗で高そうなハンカチを私に差し出した


「ありがと、アミアミ!でも自分のハンカチあるから大丈夫だよ」

よだれで汚れた答案用紙を拭いたハンカチをポケットから取り出した


「滝川さん・・これ・・凄いね・・」

葉澄だけは私がなんで泣いているのかわかっていた


「うん」一言だけ言うのが精いっぱいだった。


「何を使っているんだろ・・」そう言いながら葉澄はプリンをもう一口味わった


わたしも涙を流しながらスプーンに山盛りに載せたプリンを口いっぱいにかき込んだ。

食感、味、香り・・すべてを感じるために・・


黙々と一点を見つめプリンを味わう

舌で転がし、奥歯ですり潰したり、のどごしを確認したり・・

最高・・至高・・・究極?なんて表現したらいいのだろう

ペロペロ甘味料さんが感動しすぎて味を説明できないといった理由が今ならよくわかる。

ただ、この美味しさは夢の世界の話ではなく、紛れもなく今ここにある現実だということを2口目を食べて再認識した。


「プリンっていうのは使う材料は限られているはずですよね・確か・・卵に、牛乳、グラニュー糖・・バニラビーンズ」

柏木さんが言う。


「あとは生クリームとかレモンの皮、粉ゼラチンを使う時もあります、でもこのプリンはそういったたぐいのものじゃなく、とてもシンプルです」

葉澄が困った顔をしながら言った。


「そうだね、柏木さんの言った材料しか使ってないね。このプリンは」

なのに、なのになんでこんなプリンが作れるの?作り方に秘密が?あるのかな・・


「あ~~~~~おいしかったああああ。ご馳走様でした」

西野さんがとても笑顔になっていた。

いいな、あんたはなにも考えずに食べれて、いや本来何も考えずに食べるのが普通か・・


「たぶん僕の推測なんだけど、このプリンは卵のブレンド、牛乳のブレンド、砂糖のブレンドをしていますね。どんなブレンドかは全く見当が付きませんが」


「おお!そうか!同じ素材を何種類も使っているわけか。すごいな葉澄。少し見直したぞ」


それにしても、大分見直したよ葉澄、ブレンドを明言したところ!

私はブレンドしていることすら気づかなかったよ


「僕、卵焼き作るとき、そういう感じでたまに遊んでるんだ」


なるほどたまに貰う葉澄の弁当が旨いのはそういうわけか

ブレンドブレンドっと脳内メモ帳に書きこみ完了だ・・


「あ~明日から部活また頑張れそうだにゃ~このプリンで充電完了!!」

西野さんはガッツポーズを作っている。すごいなこのプリンの力は・・


「私はお店を外観で判断したことを反省しなくては・・こんな素晴らしいお菓子との出会いがあるなんて、今日はなんていい日なんでしょう。エミールさんともお友達になれましたし」柏木さんが私とプリンを交互に見ながら言った


私はプリンのついでかい!


だけど、今日はなんていい日ってのは同感だ。

私は今日生まれ変わったのだ、このプリンを食べて新たな目標ができた。

絶対に越えてやる!!このプリンを・・そのためには・・

「な、なあ葉澄。」


「なんですか滝川さん。」


「今度私に料理教えてよ、卵のブレンドとかさ・・」

そう!もっと、いろんな料理を学んで知識を取り入れていかないと柔軟な発想ができない


「どうしたんですか?急に・・気持ち悪いなあ・・僕の知っている卵のブレンドを教えてもいいですけど卵焼き用ですよ」


「い、いいんだよ、それで」


「分かりました。いいですよ!料理部でいつでも待ってます」


「ああ、お菓子じゃない日でも、暇な日はなるべく行くようにするよ」


柏木さんが優雅に紅茶を飲み終わりソーサーにティーカップを置いた

「ご馳走様でした」と私たち4人は手を合わせた

幸せの余韻がまだ体中に響き渡っている


「お味は、いかがでした」

店長の牧島さんが私達に聞いてきた。


「と~っても、おいしかったぁ~最高でーすぅ」西野さんがテンション高めに言った


「あの、このプリンって卵や砂糖を何種類も使ってますよね?」

思い切って聞いてみたら

気のせいか牧島さんのサングラスの奥の目が少し光ったような気がした。


「ええ、そのとおりです。素晴らしい味覚ですね」

ちょっと驚いた表情を見せて店長の牧島さんが答えた。


見破ったのは葉澄だけどな

「レシピ教えてもらえないですか?」

もっと思い切って聞いてみた。


「申し訳ございません。当店の売りは味だけですので、企業秘密です」


「そうですよね~すいません変なこと言っちゃって」

まあいい、家に帰ってお持ち帰りのプリンで研究だ。


「いえいえ、今後とも御贔屓に、またのお越しをお待ちしております。」

店長の牧島は頭を下げて席を外した


「また、4人でこのお店にきましょうね!」

柏木さんが言った。


「お~毎日でも食べたいにゃ~」


「もぅ~ユナぽんは毎日行くほどお金ないでしょ」

きっぱりと事実を告げてあげた


「にゃはは、確かに。毎日行きたいけどお小遣いが足りないのだ、それに明日からはユナは毎日部活だったのだ」頭をかきながら、照れくさそうに言った。



「僕たちも部活でしょ?ね滝川さん。」


「そ、そうだったな」

確かにまずは部活で葉澄の料理技術を盗まねばならない

それが私のデザート道・・・


「それじゃあ、今度は期末テストが終わった日にまた来ませんか」

葉澄が今度行く日を提案した


「それまでに、1200円用意しておくのだぞ、ユナぽん!」


「了解だにゃ。エミールパルフェ殿!」


あ~その名前は忘れろ!!っていうか変なことに限って物覚えがいいな。

クラスに広めるんじゃないぞ!ユナぽん!


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