夏休み前の高校生
どうも、しせんどうです。
最後まで読んでいただけたらすごく、それはもうすごく嬉しいです。
どれくらい嬉しいかと言うと死ぬほど嬉しいです。
恋愛一色。
あっちでもこっちでも恋愛恋愛。
嫌になる。
なぜ高校生になるといたるところでカップルが出来上がってしまうのだろうか。
謎だ。ミステリーだ。
「お~い、鈴木~」
鈴木とは俺の名前だ。
なぜこんなどこにでもいるような名前になってしまったのか。
もっと特殊な名前がよかった。たとえば小鳥遊とか。
これは「ことりあそび」と読むのではなく「たかなし」と読む。
なぜこのような呼び方なのかと言うと、
小鳥が安全に遊んでいられるところには鷹がいない。
つまり鷹がいないところからたかなしが来ているのだ。
というわけで小鳥遊になりたい。
「・・・お前何一人で語ってんだよ・・・」
どうやらぶつぶつとつぶやいているのが聞こえてしまったようだ。
彼は俺の唯一の友達であり親友の小鳥遊信之助だ。
こいつは俺の望んだ苗字を持っている。
むかつくやつだ。
学校の帰り道、ふと彼はつぶやいた。
「はぁ~俺の苗字ってなんで小鳥遊なんだろうなぁ~」
それは俺に対しての嫌味なのだろうか。
と、思った時期もあったが、真剣に悩んでいるようだ。
なんせ彼は身長187cm、体格もかなり良い。いわゆるマッチョだ。
そして勇ましく濃い顔をしていてさらにはレスリング部なのだ。
それもあってか小鳥遊などという弱弱しい名前は嫌らしい。
むしろ鷹有とかいう名前が良かったとか本人は言っていた。
そんな彼のことを俺はマッチョと呼んでいる。そのままだ。
本人も小鳥遊と呼ばれるよりはずっと良いと思っているらしく、最近はむしろ気に入っている。
おかしな奴だ。
そしてこんなおかしな奴しか友達がいない俺もおかしな奴だ。
1年間一体何をしていたのだろうと思う。ろくに友達も作れずに2年生だ。
「ところでマッチョ」
「ん?なんだ?」
「もうすぐ夏休みなんだけど、お前予定とかある?」
そうだ。もうすぐ夏休み。
そしてこの予定ある?にはある意味が隠されている。
「ねえよ!はぁ~今年も彼女ゲットできなかったなぁ・・・」
そういうことだ。
この予定とは
「お前今年の夏休み女の子と過ごす予定ある?」
という意味だ。
ちなみに俺は無い。
「鈴木はあんの?」
「ねえよ」
「そうか」
「そう」
帰り道はとても悲しいものになった。
例えるなら彼女がほしい男二人組みがお互い夏休みの予定を女の子無しで悲しくすごすということを確認しあいながら家までおよそ20分かけて帰るくらい悲しいものだった。
そのままだ。
別段俺は彼女がほしいわけでもない。
強がりじゃない。
家に帰ると飼い猫の「ねこ」が迎えてくれた。
「ニャァ」
和む。
<プルルルルル>
ケータイの着信音。
どうやら誰かが呼び出しているよう。
どうせ相手なんてマッチョか母さんくらいしかいないのだろうけども。
「はい」
『ああ、俺、マッチョだけど』
とうとう自分からマッチョとまで言い始めるレベルになってきた。
そこまで気に入られるとは思わなかった。
「わかる。それでなに?」
「明日の宿題見せて」
「却下で」
プツと電話を切る。
俺も終わってないのだ。宿題。
「あー欝だ」
宿題が終わってないことを気づかされ、というか宿題の存在に気づかされ、机へと向かう。
ところで、宿題って何があったっけ。
「あーもしもしマッチョ?宿題って何があったっけ?」
「・・・・お前さっき」
プツ
電話を切る。
さっきのことをまだひきずっているようだった。未練がましい男は嫌われるんだぞ。
「あ、もしもしマッチョ?宿題のことなんだけどさ」
2回戦目。
さすがにまた切られると思ったのだろうか。マッチョもさっきのことは言ってこなかった。
その代わりに2秒で切られた。
心が狭い奴だ。
仕方ないのでサボることにした。
他に宿題の内容を聞ける友達なんていない。
時計を見るとまだ午後の4時だ。
どうせサボるなら時間を無駄にしてはもったいない。
家を出た。
コンビにで立ち読み。
今日は月曜日だ。ジャンプを読む。
「あ、鈴木君」
話しかけてきたのはクラスの中でもそこまで目立たないメガネをかけている女子。
身長も目立たない155cmで微妙な身長だ。
顔立ちも特別美人と言うわけでも不細工というわけでもない。普通だ。
そんな目立たないような特徴を持っている彼女だが、一つだけ特徴がある。
メガネだ。
珍しいことに200人いるうちの学年のなかでメガネをかけている女子は彼女一人だけなのだ。
目が悪い女子は他に何人もいるのだが、みんなコンタクトをしているようでメガネをかけるのは彼女しかいない。
そんなわけで俺は彼女のことをメガネさんと呼んでいる。
ちなみにこのあだ名をつけたのは俺ではない。マッチョだ。
メガネさんは友達の少ない、というか1人しかいない俺にも気兼ねなく話しかけてくれる。
が、それは俺が1人孤独であまりにもかわいそうだからとかいう理由だと思う。
相変わらずネガティブシンキング。
「何読んでるの?」
ジャンプのことを訊いているらしい。
漫画を読んでいる人なら誰でも知ってそうなジャンプ。
メガネさんは漫画を読まないのだろうか。
「ジャンプ」
「知ってるよ~」
知ってた。
どうやら話のネタのために訊いたよう。
「それ、面白い?」
「まぁ」
「ふぅん」
「・・・・」
早くどこかへ行ってほしい。
集中して立ち読みができない。
「それいつも読んでるの?」
「立ち読みなら」
ふと思ったのだけど、彼女に宿題の内容を聞けば良いのではないのだろうか。
「メガネさん」
「ちょっと、その呼び方やめてよ、確かにメガネかけてるの私しかいないけどさぁ」
少し照れたように肩を軽くペしっと叩いてくる。
あうやくジャンプを落とすところだった。
それって全然軽くなくね。
「で、なに?」
「今日の宿題ってなんだっけ」
「え?宿題なんて出てないよ?」
家に帰ってから電話した。
「もしもし。鈴木だけど。ああ、マッチョ?お前嘘ついてたろ」
マッチョの嘘だった。
腹立つやつだ。
ぶちのめしてやろうか。
といってもぶちのめしてやろうと思っても体格的に返り討ちにあってしまう。
このイライラをどこにぶつければいいのだろう。
やるせない気持ちだ。
「ニャア」
ねこだ。
和む。
ねこをひざの上でなでながらテレビを見ること1時間。
母さんが帰ってきた。
「ただいまー。あれ、あんた今日部活は?」
ちなみに俺は部活に所属してない。
「だから帰宅部だって」
「あれ、そうだったっけ。まあいいや。おかえり」
「いやおかえりは俺のセリフだろう。おかえり」
母さんはてきとうな人だ。
仕事はしていない。
専業主婦だ。
そういえばこないだ専業主婦も仕事だと言う人を見た気がする。
正直どっちでもいい。
父さんの職業は教師だ。
父さんも結構いいかげんな人で、あの人に教師が務まるのかと思う。
でも生徒からも人気のようで他の先生からも信頼が厚いそうな。
「ご飯何がいい?」
「なんでもいい」
包丁片手に今晩のメニューを考える母。
怖い。
おはよう朝。
こんにちは朝。
カーテンを開けるとまぶしい朝日が目をちくちくさせる。
体がだるい。
「おっはよう相棒!」
マッチョは今日も元気だ。
あと相棒じゃない。
「いや~昨日は悪かったなーあっはっは!」
「もういいよ。それより宿題が無くてよかったって言う安心感の方が多いから」
「そ、そうか、それはよかった!ところで、1時間目選択だから教室で寝てるとまずいんじゃないのか?」
「・・・そうだったっけか・・・」
選択は嫌いだ。
美術なんておもしろくない。
一番楽そうだと思って選んだのは間違いだった。
マッチョは音楽を選択していないし、美術は女子しかいない。
気まずい。
「はぁ・・・」
ふいにため息をつく。
4人まで座れる机なのだが、俺はいつも1人。
孤独です。
と思ったが孤独なのは俺だけじゃなかった。
向かい側の席にも1人で4人用の机についている女子がいた。
たしか・・・
「天川さん・・・?」
つい呼んでしまった。
といっても自分の座っている席から少し距離があるし、つぶやいたくらいでは聞こえないだろう。
ましてや友達がいるからという理由で選んだ、俺と天川さん以外の周りの女子生徒が会話している美術室。少しさわがしいくらいだし、俺のつぶやきなんて聞こえないはず。
はず。
天川さんはおもむろに席を立つと、俺のついている席へと移動してきた。
どうやら聞こえていたようだ。
すっと席に着くやいなや
「何?」
「何といわれても・・・」
「さっき私のこと呼んだでしょ?」
「まぁ、はい・・・」
「で、何?」
「えっと・・・なんでもないです」
「・・・そう」
何も無かったかのように自分の席へと戻っていく天川さん。
俺がポカンとした顔をしているなか、
隣の席から女子の会話が聞こえてきた。
「天川ってよくわかんないよね~」
「わかるそれ。ていうか友達いんのかな?」
「いないんじゃない?」
「いつも1人だしね。昼休みとかも1人で外に行って食べてるし」
「え?外食?」
「いや~弁当は作ってきてるっぽいけどさ~」
「やっぱ友達いないときついよねぇ~」
天川さんは友達がいないわけではない。と思う。
いや、作れないわけではないのだと思うけど。
自ら一人を望んでいるような・・・そんな感じがした。
フィーリングだけど。
昼休み。
いつもならマッチョと一緒に食べるのだけど、委員会の仕事だとかでマッチョはいない。
1人教室で食べるのも虚しいから外へ出た。
校庭の近くにあるベンチで昼食を食べるつもりだったのだけど、先客がいた。
「・・・どうも」
天川さん。
「どうも」
モソモソと弁当を食べる。
2人並んでベンチで昼食をとっていたら、はたから見れば仲の良さそうな男女に見える。
実際会話もない。
きまずい。
必死に話題を探す。
「あ、天川さんは何か部活に入ってるの?」
「・・・別に」
「へぇ・・・」
「・・・」
「・・・」
「なんで選択美術選んだの?」
「さあ」
「弁当いつも自分で作ってるんだって?」
「さあ」
会話のキャッチボールが成立しない。
ボールを投げても投げ返してくれない。
投げても天川さんはよける。
ボールはポトポトと音をたてて落ち、地面を転がる。比喩。
「あ、天川さ」
「鈴木」
「え?」
遮られた。
「あんたって他にやることないの?」
他にやることないの?とは、「私に話しかけること以外他にやることないの?あ、ごめん友達いなかったんだっけ☆」
と言うことだろう。
ネガティブシンキング。
「・・・ないな」
「・・・そう」
「そう」
蝉が鳴いている。
「暑いな」
思ったことを口にしてみる。
「...暑いね」
オウム。
「・・・」
「・・・」
沈黙。
ところで天川さんは自分の食事はすでに終えているのにベンチから動かない。
普通嫌だったらどくよね。
ということは。
つまりは。
ちょっと嬉しくなる。
「最初から私がいたのになんであんたのためにどかなきゃいけないの」
「ですよね・・・」
コンビニで買ったパンをかじりながら頷く。
このコッペパンのように俺の心もカサカサになりそう。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「あんた、いつもそれなの?」
コッペパンを指差しながら天川さんは訊いた。
「うん、まあ、そうだけど」
「弁当は?」
「親の気まぐれ。といっても母さんは寝坊が多いし、俺もこういうの憧れてたから別にいいかなって」
「へぇ・・・」
「天川さんはなんで自分で作ってるの?」
「趣味」
意外。
クールなイメージがある天川さんだったのだけど、結構可愛らしい趣味をお持ちのよう。
「意外って顔してる」
「え!?いや、そんなことは」
「・・・」
ジト目。
「・・・すみません」
「うん」
「じゃあ、もうすぐチャイム鳴るし」
そういうと天川さんはベンチから立ち上がる。
それと同時に神風が吹いた。
神風と言うのは女の子のスカートをめくってくれるとか言うそういう類のもので、マッチョと俺はその風のことを神風と呼んでいる。
「あ・・・・・白」
バッと赤くなってスカートを隠す。
天川さんにも照れると言うのはあるらしい。
そりゃあるか。人間だもの。
「・・・・見た?」
「白」
「見たの・・・」
「白」
「・・・」
「白」
「最低」
「白」
「・・・」
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
アドバイス訂正等ありましたらおしえてください。