六話 僕と部屋の片付け
「ふぅー。よいしょっと」
雪谷さんは妙な声を出しながら、少しだけ量が減ったダンボールの上に腰を下ろす。
本当なら僕が一人でやらないといけないが、彼女の手伝ってくれている所を見ると根は良い人のように見える。
よし、彼女が休んでいるうちに、次のダンボールを運ぶか。……なんかでかいな。ここにあるダンボール箱よりふた回りほど大きい。まぁ、持てるだろうから別にいいけど。
「雪谷さんー。これはどこ持っていけば――」
と、持ち上げようとした時だった。
「重っ!! なにコレ!? すごく重い」
持ち上げようとも持ち上がらない。どう力を入れても、持ち方を変えても、筋肉が悲鳴を上げるだけ。一体何が入っているんだ?
「あ、それは海月君じゃ無理かも……」
「へ? じゃあ、雪谷さんは持てるの?」
「当たり前だよー。普通だよ」
「いやいや、嘘でしょ?」
「まぁ、とりあえず置いといていいよ。わたしが持っていくから」
いや、流石にそれは無理でしょ。軽く大人一人分の重さはあるよ。
なんて、思っていたら彼女がこっちにやってくる。
「おーおー、これか。ここにあったんだね。懐かしいなー」
「何が入ってんの?」
「ん?」
雪谷さんは動きを止め、少し俯く。
「わたしにとっての、思い出の品だよ」
「……え?」
不意に彼女は表情を変えた。少し切なくて、憂いを帯びていて。僕が追求することを拒むような。そんな表情。
しかし、次の瞬間。彼女は何事も無かったかのように朗らかに笑う。
「んじゃ、これも持っていきますかー」
ひょい、と段ボールを両手で抱きかかえる彼女。って、嘘だろ!? 雪谷さんの華奢な体のどこにそんな力が……。
「よいしょ、よいしょ」
そう掛け声をしながら、彼女は部屋の外へと運びに行ってしまった。
「あれ、60キロはあったよ……?」
絶対、彼女を怒らせない。命を守るための教訓が一つ、できました。