表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

二十二話 僕のステータスカード

「桃色猫耳ヤンキーって……」

 と、先生とやらが引き気味に呟く。

「でも、案外的を得てるんじゃないの、茉莉?」

「なんだって!? 俺の扱いってそんな感じなのか?」

「まぁ、割と」

「断言してないとこが、余計現実感を誘ってるな!」

 兎原さんと掛け合いを見せる教師を横目に、僕は雪谷さんにたずねる。

「ねぇ、あの人、本当に先生なの?」

「うん、そうだよー」

「あの猫耳は何? なんで、あんな痛いアクセサリーつけてるの?」

 と、その答えが返ってくるよりも早く、先生に睨まれた。

「おい、少年。聞こえてるぞ。誰が痛いアクセサリーつけてるって?」

「いや、あんただ」

「それに、教師に対してその言葉遣いは良くない」

「兎原さんはいいの!?」

 タメ口どころか、名前呼び捨て。どちらが悪いのかは火を見るより明らかだと思うが。

「それに少年は誰だ」

「僕の話を聞け!」

 質問の答えが返ってこない。来たのは、更なる質問。

「ってか、僕のことしらないんですか?」

「あぁ、知らん」

 僕は無言で雪谷さんを見る。彼女は無言で目を逸らした。

「……わたしは言ったもん」

「でも、生徒どころか先生にも伝わってないんだけど!」

 と、叫びツッコミを入れたと同時に、ぐい、と肩をつかまれた。

 勿論、教師に。

「……なんです?」

 教師と目があう。こいつが覗き込むようにしている。そして、ふ、と笑うと、その手を静かに離した。

「おい、雪谷をそう攻めるな。全部、嘘だから」

「攻めてないですよ。少し聞きたいことがあっただけです」

「そうか、すまんな」

 …………あれ?

「……嘘?」

「あぁ、実を言うとお前のことは知っていた」

 なんなんだこの教師は。

 やれやれ、仕方がない。

「少年。無言で拳が震えるほどに握るのはよせ」

 まぁ、演技でさすがに殴る気はないが。

「ってか、なんでそんな嘘を」

「ちょっとした茶目っ気だ」

 やれやれ、仕方がない。

「お、おい少年! 危ないぞ!」

 僕が放った右ストレートは軽やかにかわされる。ならば、第二撃。

 右手を戻し、左手のフックを繰り出すが、いとも簡単に上体を逸らされ、あえなく空を切る。

「……そうだな。少年にこの学校の特徴を教えるのに丁度いいかもな」

「なにを訳のわかんないことを」

 当たりそうになかったので、止めた。

「どうした、少年。かかってきていいぞ」

「いや、別に喧嘩したいわけじゃないんで」

 と言うと、教師はふむ、と頷き、笑った。

「残念だな、少年」

 

 ――ゾクッ!

 悪寒。嫌悪感、寒気。背中に冷たいものが走る。

 なぜなら、目の前の教師は。

「ボコボコにしてやろうと思ったのにな」

 笑った。目に見える殺気と狂気で嗤っていた。

「なぁ、少年」

 離れていた距離が一歩近づく。あいつが、歩を進めた。

「お前」

 一歩、また一歩近づく。

 もう、そいつは、僕の目の前に居て。

 腕を大きく振り上げて。

「面白いな」

 刹那、残像が見えた。やつの手が、目にも止まらぬ速さで振り下ろされた。

 もちろん、避けれるはずもなく、僕はただ、その教師の攻撃を受けて、後ろに大きく吹っ飛ぶ――事は無かった。

 腕が僕の目の前で止まっていたからだ。

「ほら、入学――いや、編入おめでとう、海月葵君」

 とても気分の良い笑顔だった。爽やかで、晴れやかで、さっきまで、何もなかったような、泰然自若mのような。

 そして、その手は僕に一枚のカードを差し出す。

「受け取れ、少年よ」

 それはプラスチックのような材質の、手のひらサイズのカードだった。

「それは学生証の代わりだ、少年。他にも説明したいことがたくさんあるが――、ちょっとトイレに行ってくるから、彼女達から聞いておくように」

 と、雪谷さんや兎原さんを示すと、教師は間の抜けたような笑い声を上げながら、飄々と教室から出て行ってしまった。

 手のひらではカードが光っている。

 そこには、僕の写真――というよりも画像――とステータスという表記。その下にある、HPという文字が刻み込まれている。

「お、おーい。海月君?」

 カードは何とも言えない不思議な感触をしながら、窓から注ぎ込む太陽の光を、きらりと反射させた。

 一体、これは何だろう。

 そんな疑問も吹き飛ばしてしまうほど、奇妙な魅力が、そこにはあったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ