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二十一話 僕と投げられたイルカ

「あはは、ごめんね。そういう意味だって知らなかったから」

 と、笑う雪谷さん。無知とは、とても怖いものである。

「あははー、悪いね。あたしも知らなかったから」

「嘘つけ!」

 ニヤニヤと笑う兎原さん。これは雪谷さんの笑いとはまったく別の種類である。

 どこまでも、人を馬鹿にしたような笑み。そんなところだ。

「本当のことをいうと、あたしが提案したんだ」

「なお悪い!」

 雪谷さんに一般常識を教えつつ、兎原さんには一般常識を教えたい。

「ってか、ここの教室、人が少なすぎじゃないかな?」

 僕は自分の席らしい机から花を後ろに持って行きながら、訊ねた。

「え? こんなもんじゃないの?」

「こんなもんなのか……」

 僕のイメージだと、学校というのはより多い、軽く40人はいるようなイメージだったのに。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。それよりも、まだまだ聞きたいことはたくさんあるのだから。

「ねぇ、雪谷さん。このクラスは全部で6人?」

「そうだよー。で、隣のクラスは4人」

 二つもあるのかよ。一つにすればいいのに。しかも、バランスが悪いし――。

「……6人って、僕も入れて6人?」

「その通り。もう海月君もこのクラスなのです」

「なんで、僕は向こうのクラスじゃないんだろう」

 ぽつり、と呟くと、雪谷さんは不思議そうな顔をした。

 意味が分からなかったのだろう。

「だってさ、雪谷さん」

「クラゲ君が向こうに入れば、五人五人だろ? だから、おかしいんだよ」

 兎原さんに僕の台詞を奪われた!

「それは、やっぱりわたしがこのクラスだったからじゃないかなー?」

「どういうこと?」

 そう聞くと、彼女はふふんと笑って、自慢げに人差し指を立てた。

 一体、どんな理由が――。


「それはね、君にしりあいがわたししか居ないからなのです!」

 全然嬉しくなかった。決して間違ってはいないが、嬉しくない。

 そして、顔を引きつらせる僕の隣で、馬鹿笑いする兎原さんがいた。

「あははははは、そりゃそーだ」

 むかついた。決して間違ってはいないが、むかついた。

 しかし、こいつは女じゃなかったら殴っている所だ。それに、あんなに強くなかったら殴っている所だ。

「それにしても、みんなおそいねー」

 そういや、さっき予鈴――なのかは良く分からないもの――が鳴っていたが、まだ半数しか来ていない。 しかも、僕は転校生だ。普通の生徒より、先に教室に居たらみんながびっくりする――。

「そういや僕、ここにいていいの!?」

「当たり前だよー。だって、海月君はもうこのクラスの一員だから」

「いや、こういうときは普通、先に先生のところにいくもんだろ?]

「大丈夫、もう先生もみんなも知ってるから」

「「そうなのか?」」

 声が重なる。勿論、兎原さん。

「って、なんで兎原さんが驚くのさ」

「いやだって、あたしも知らなかったし」

 怪訝な表情で、首を傾げる兎原さん。

 そういえば、あのイルカ野郎も知らなかったような。

「雪谷さん。それ、絶対に伝わってないよ」

「わたしはちゃんと先生に言ったもん!」

 頬を膨らませる彼女。それは、おそらく先生が悪いのでは。

「まったく、君達の先生ってのはどんな人なの?」

「あー、茉莉まつりは、なんというか」

 兎原さんは言葉を詰まらせる。というか、茉莉というのが先生の名前だろうが、呼び捨てでいいのか?

 急に兎原さんは話をやめ、僕を見た。

「良かったな。どうやら、来たみたいだ」

 にかっと笑う。そんなのがどうやったら分かるんだ。


 瞬間、扉がガラッと開いた。そこから何かが飛んでくる。

「うわっ!?」

 黒い影が、僕の足元に落ちた。恐る恐る、目線を下にやると――。

「イルカ野郎!?」

 少し前まで、僕に突っかかってきたあいつだ。しかし、顔は傷だらけで、服もボロボロだ。僕と戦った時は全然大丈夫だったのに。

「い、一体誰が」

「俺だよ、俺」

 顔を上げると、そこに居た。

「はっはっは、ほんとにこいつはやんちゃでね、少しは懲りて欲しいもんだよ。まったく」

 やれやれ、と息を吐くそいつは身長は僕と変わらない程度。年齢は二十過ぎくらいのようで、あごひげが大人を演出しているが、髪の色、そして頭についているそれが、あまりにも異質で特殊で。

「ん? 君は誰だい?」

「桃色ヤンキー猫耳だーっ!!」


 今日、一番大声を出してしまうほどに。

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