表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/23

二話 僕はだれ? 君もだれ?

「あ、暖かい。ストーブの力って絶大だね~。ほんとに尊敬するよ、神だ! 生まれ変わったらストーブになりたい」


「ストーブを崇めるの? 誰もそんな宗教入らないって」


 彼女の家に入れてもらい、とても暖かな熱を発しているストーブの傍で学ランを乾かしていたら、そんなツッコミをされた。


「……で、君は誰なのよ」


 台所の方から戻ってきた彼女はそう訊ねた。


「誰って……僕は僕だよ」


 我思うゆえに我あり。と、誰かは言っていた。


「君が君じゃなかったら驚きよ」


「確かに……」


 上手く切り返された。


「君、一体どこから来たの? 町の唯一の出入り口はこないだ大岩でふさがちゃったのに」


「どこから……? どこからだっけ」


「おいおい」


 いやいや、本当に分からない。


「え、えっと……」


「ほ、本当に分からないとか?」


「わ、分からないとか」


 彼女は少し困惑した表情を見せた。


「じゃあ名前は? 君の名前」


「僕は……」


 僕は?


「僕は……」


 誰だ?



「……きおくそーしつ?」


「……そうかも」


「た、大変だわ」


「大変だね」


「……」


「……」


「人事か!!」


 怒鳴られた。


「なんで、君はもっと危機感を持たないの!? 記憶が、過去が無くなっちゃったんでしょ!?」


 過去を失くす、の方が適切かもしれないと思った。


「君は記憶喪失じゃないんでしょ?」


「当たり前だよ!」


「なら、先に君の名前から聞きたいかな」


「……そうね、先にね」


 目の前の少女は茶色の、ショートの髪を揺らしながら微笑んだ。


「わたしは雪谷ゆきがや 音羽おとは。花の女子高生、十六歳です。キラッ」


 横ピース……。痛たたた。


「コラッ! 恥ずかしいものを見るような眼で見るなっ!」


 雪谷さんか……。ツッコミは言うまでもなく、ボケといてツッコミを入れるという技術。この人――


「Mだね!!」


「ほ、ほぼ初対面の人にまでMって言われるとは……」


 何故かショックを受けている雪谷さんを見て、僕は思う。確かに、彼女とは数分前に会ったばかりだ。でも、なんだかノリが良いというか、打ち解けるというか。僕が記憶を失っているせいなのかは分からないが、少なくとも彼女には人と仲良くなれる能力が備わっているのだろう。普通、見知らぬ人にこんなこと言うはずないからね。今までも、多分ないと思う。


「と、まぁ、それは置いといて。……ここはどこ? 僕はどうしてたの?」


「ここ? それはもちろん……日本なのです!!」


「いや、知ってるから。そんぐらい」


「ええぇ!?」


「ええぇって、ええ!?」


 僕が記憶喪失だから知らないとでも思ったのだろうか。


 多分、現在の僕の状態は全生活史健忘。簡単に言うと、自分に関する記憶だけ吹っ飛んでいる状態だ。知識とかはあるんだけど、名前、生い立ち、これまでどんなことをしてきたのか、そんなことが綺麗さっぱり頭の中から消える。そんな状態。


 だから、ここが日本だってことがわかる。僕が生まれたのが、日本かどうかについては分からないが、恐らくそうだろう。


 彼女にはここが、日本のどこなのかという事を聞かないと――。


「こ、こないだならったばかりの知識だったのに……」


 度肝を抜かれました。はい。


「う、嘘でしょ? と、都道府県。都道府県は?」


「とどーふ犬?」


 だ、駄目だ。イントネーションからして、犬の種類だと勘違いしている。


「ごめん、なんでもない」


 とりあえず、分かっている情報をまとめよう。ここは、雪国である。ここは他の町へのつながりが一つしかない。つまり、この町は人が越えられない何か(おそらく山)で囲まれている。で、そのつながりを大岩によって防がれている。


 うん、なるほど。全然わからん。北のほうってことぐらいしかわかんないよ。


 ってか、そもそも僕は

「どうやって入ったの!?」


 考えてみれば、出入り口が無いのに、どうやって僕はここに。


「ね、ねぇ雪谷さん。僕は、一体どうなってたの!?」


 ニヤッと、口元を歪める雪谷さん。


「話すには二時間ばかし」

「濃縮して話してください」


「我が儘」


「……」


 どうしよう、間違っているのに何もいえない。いや、我が儘ではないと思うけど。我が儘なのか? とても不思議な気分。


「まぁ、いいよ。君を見つけたのが、学校へ行く途中だったんだ」


「ちょっと待って」


 始まりがおかしい。


「何?」


「君は僕を放置して行ったの?」


「まぁ、話は最後まで聞こうよ」


「……」


 君、僕を放置していないのなら、サボり魔だからね。家でぬくぬくと暖まっているサボり魔だからね。


「で、わたしが学校へ行こうと雪を掻き分け進んでいたとき」


「とき?」


「まるで、シンクロナイズドスイミングのように雪からでた足が」

「ちょっと待て!!」


「何?」


「ま、まさかそれ、僕?」


「話は最後まで聞こうよ」


「……」


 僕、すごい状態だったんだな。


「で、大変だ、と思って引き上げて耳元で大声出しながら往復ビンタをしていたら」

「僕が起きたって訳だね!!」


 道理で、耳鳴りと頬が痛いなと思ってたわけだよコンチクショー。


「その通り。後は君も知っての通り」


「この家まで来るってことか」


 ……それだと、まさか。


「雪谷さん……」


「どうしたの?」


「学校は、ちゃんと」

「正当防衛よ」


「……」


 それは、違うと思った。



短い!! 以外のツッコミを大歓迎です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ