十九話 僕の顔は鳩に豆鉄砲食らったような顔だったらしい。
今回から急にファンタジーな要素が出入りしてきます。
苦手な方はお戻りください。
「……何してるの?」
目の前には雪谷さんの顔。
どうやら、倒れている僕を、覗き込んでいるようだ。
「何って……、倒れてるんだよ」
起き上がろうとしても、倒れる時に、左足をひねったようで立ち上がれない。
「そーゆーことじゃない!」
それなら、一体どういうことだろう。
僕が思案を巡らせていると、雪谷さんはイルカの方を向く。
「ルカ君?」
「ち、違うぞ? 俺は何もやってない、やってないんだ!」
「わたし何も言ってないんだけど」
「ぐっ」
まぁ、この状況で何言っても無駄だと思うけど。
「で、どーゆことかな?」
雪谷さんは、さらにイルカに詰め寄る。
「いや、そのな、落ち着いて聞いてくれよ雪谷。実は……その、組み手をしてたんだ!」
はぁ? と呟いてしまったのは僕だ。あれが組み手だって? あんなに怒りを爆発させていたのに? ってか、まず会ったばかりの人と組み手
って空手道場かなにかではないだろうに。
なんて疑問は、次の彼女の言葉で飛んでしまった。
「あのね……海月君はマギカードも持ってないんだよ?」
マギ……カード?
「分かってる。だから肉体の組み手をだな」
「はいはい。とりあえず、マツりんは怒ってたよー」
「え? う、嘘?」
「ほんとー」
「ちょ、雪谷、一生に一度のお願いだ! 俺に、俺に回復を!」
「ごめーん。レベル1が一枚しかないの? ね、分かるよね?」
「い、いやだあああ!!」
突然叫ぶイルカをよそに、雪谷さんはまた、こっちに来る。
「さて、ルカ君は放っておいて」
「い、いいの? あれ」
「うん、多分大丈夫だよー。それより、早く行かないと」
僕は立ち上がろうとしたが、先程のダメージが抜け切れておらず、上手く立てない。
「いててて。まだ、ちょっと痛みが」
「大丈夫」
雪谷さんは笑って、ポケットから一枚のカードを取り出す。
「回復」
雪谷さんの唇が閉じるのと同時に、カードが光となって消える。そしてその光は、彼女の右手へ。淡い緑色に発光している。
「あ、海月君、どこがいたいの?」
「ひ、左足……」
「おっけー」
そして、雪谷さんは僕のズボンの裾を捲し上げ、ひねった所を右手で包み込む。
緑色の光が、僕の足に溶け込んだ。
「……え?」
暖かかった。そして、痛みが消えた。
例えようのない感覚に襲われ、とても不思議な気分だった。
「ゆ、雪谷さん……?」
「なに、その顔は。昼間からお化けでも見たような顔をして」
僕は信じられず、自分の頬を抓ってみた。
ものすごく、痛かった。