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十八話 僕は嫌いだっ!

「……なにしてんだ、お前ら」


「あ、ルカ君」


「おはよー」


 後ろのほうから、僕ではない男の声。

そういや、ここに来て初めて、男の声を聞いたような気がする。


「お、なんだその見かけない後頭部」


 見かけない後頭部ってなんだよ。そこは見かけない人でいいだろう。


 確かに、今、僕はうつ伏せで倒れている。ボロボロの状態で。

理由は簡単。本当に至極簡単だ。


 ――ただ、僕が兎原さんに喧嘩を売った。そして、それを買われた。それだけのこと。


「あ、その後頭部は海月君だよ」


「そうそう。へなちょこクラゲの後頭部」


 好き放題言いやがって! 


 動けない僕は反論すら出来ない。


「海月? この後頭部の名前か?」


「そうだよー。転校生なんだよ?」


「この後頭部が転校生だとっ!?」


「うん。転校生こうとうぶ


「じゃないと、知らない人(こうとうぶ)がこないでしょ」


「それもそうだな」


「あははは」

「あっはっはっは」

「はははは」


「いい加減にしろっ!!」


「おお、後頭部が前頭部に」


 なんだよ前頭部って!


「ってか、なんだよお前らは! 人のことを後頭部呼ばわりして! 後頭部の海月って! 俺は人間だっ! 種族:後頭部――じゃなーいっ!!」


「おお、怒涛のツッコミ」


「いっさい、噛まない、綺麗な発音だったね」


「力は弱いくせに、口は達者で」


 なんて言いよう。ここの住人、恐るべし。初対面の僕に、よくもまぁ、そんな悪口を……。

ん? 初対面?


「ねぇ、お前」


 僕は目の前にいた、ツンツンした黄色頭の背の高い男を指差す。


「あ? 俺か?」


「そう、お前」


「どうかしたか?」


 なんて、何事もなかったかのような顔をしている。許すまじ。


「初対面だよね? 僕たち」


「あぁ、そうだな」


「もうすこし、知らない人に対する遠慮とかを」


「興味ないな」


「……」


 なんだコイツは。

いかにもと言った、ヤンキー風な制服を着崩した格好もさることながら、性格も悪い。


 が、からからと笑っていたこいつも、悪いと思ったのか少し目を伏せている。


「……まぁ、少しは悪かった」


 む、丁寧に頭を下げられると、何も言えなくなる。

こんな奴でも、反省という文字が

「本当にすまん。許してくれ、後頭部」



「全然っ、反省してない!」


 なんて奴だ! 僕の好感度メーターも見事な放物線を描いたよ。


「お前の好感度なんか要らん」


 ……確かに。


「にしても、お前、変な奴だな」


「お前に言われたくないよ!」


「あ、でも海月君が変なのは分かるよー」


「クラゲだしな」


 あなたたちにも言われたくはありません。

決して口には出さないけど。

あんな凶悪な拳を喰らいたくない。

命を大切にできる人なんだ僕は。自分のだけど。


「俺は赤井あかい 流風るか。よろしくな、転校生」


 手を伸ばしてくる赤井君。ここの人はみんなそうなのか。

でも、握手に悪い気はしない。僕も手を伸ばし、その手を掴む。


海月うみづき あおい。よろしく、赤井君」


 手を離し、赤井君の表情をみると、なにか考えこんでいた。

……まさか。


「海月……? クラ――」

「もういいよ、その反応ネタは」


「あ? もう実行済みだったか?」


「三度目だよ」


 これから自己紹介をするたびに、僕はこれを言われ続けるのだろうか。

不安になった。


 と、そのとき。


「うぎゃああああああぁぁぁ!!」


 校舎の中の方から、男の悲鳴がきこえた。


「な、何!? 中で何が」


「あ、もう予鈴なっちゃったね」


「予鈴!?」


「ほら、急ごう? こんなとこに長く居すぎだよー」


「え、ちょっと待って。予鈴って」


「もう。予鈴も知らないの? 予鈴っていうのは、本鈴の前に」


「そういうことじゃない!」


 雪谷さんは聞こえなかったのだろうか、あの悲鳴が。


「そうじゃなくて、悲鳴だよ、悲鳴。なんなの、あれ? 放っておいたらまずいんじゃ」


「だーかーら、あれが予鈴なの」


「……」


 何を寝とぼけたことを。


「全く。予鈴もしらないなんて――って、何でアホを見るような眼でわたしをみてるの?」


「すごい! よく分かったね。普通、分からないよ」


「へへへー。凄いでしょー、じゃなーい! わたしはアホじゃない!」


 何を寝とぼけたことを。


「その”え?”みたいな顔、やめてよ!」


「あー、惜しい。みたい、じゃなくてそうなんだよ」


「うー、しまったぁー」


「でも、十分、雪谷さんは立派な人の顔読みマスターだよ」


「おー! やったー! じゃない!」


 盛大なノリツッコだな、と思ったが口には出さない。


「それ、結局わたしがアホっていってるでしょ」


「うん、まぁ、良く言ったら――だけどね」


「これで良い方なの!?」


 この人、面白い。って、そんなことしてる場合じゃない!


「いつまで、いちゃいちゃしてんの音羽。あんたが早く行こうっていったんじゃない」


「あ、そうだった。早く行かないと遅れちゃう」


 だから、なんで遅れるとかそういう呑気な話なんだよ。悲鳴が上がったっていうのに。

ただ、のほほんとしているのは、女子勢だけのようで、隣の赤井君は、わなわなと下を向き震えている。


「……いちゃいちゃだと?」 


 殺気を感じた。


「おい、兎原ウサギ。雪谷連れて、先に行っとけ」


「え?」


「俺はコイツに用がある」


「きゃっ! 男同士、二人っきりでお話……」


「「おい! 止めろ!」」


 赤井君と声が被る。でも、それもしょうがない。

頬を赤らめる、兎原さんを見ていると、嫌な予感しかしない。


「面白い! きっとそうなるって分かってたけど、面白い!」


「え、朱里ちゃん、どういうこと?」


「あんたは黙って、あたしと一緒に教室に行けばいいの!」


 兎原さんは雪谷さんの手を握り、走り出す。


「ちょ、ちょっと待って、海月君に教室を――って浮いてる! お正月のたこの初期状態みたいになってるよ!?」


「あははははは」


 恐るべき足の速さで、兎原さんと、雪谷さんは行ってしまった。

でも、あの悲鳴は結局なんだったんだ? 誰も気にしてないみたいだし、別にたいしたことじゃ――。


「ぎゃあああああああ!!」


「ひいいいい!」


 また聞こえた! おかしい! この学校は絶対おかしい!


「あ、赤井君。あれは一体」


「そんなことどうだっていい」


「よくないよ!?」


「それより、お前。……ゆ、雪谷と、ど、どんな関係だ!?」 


「へ?」


「どんな関係だって、聞いてるんだ!!」


 何故か知らないが、恐い。迫力満点の、恐ろしい形相でこちらを睨んでくる。


 にしても、どんな関係って、なんだろうな。

うーん。家に住まわせてもらっているし、居候って関係、なんて言うのはおかしいな。まぁ、強いて言えば。

「家族……かな」


「なにぃぃぃぃい!!」


 う、うるさい! 近くの音源から大音響の絶叫。ジェットコースターでもこんな声は聞けないよ。


「か、家族って、どどどどういう事だ!? あれか!? あれなのか!?」


 あ、アレ? 居候のことかな。


「う、うん。まぁ、一応」


「うおおおおおおおお!!」


「うわっ、あぶね!」


 目の前の奴は、全力で拳を振りかぶってきた。咄嗟のことに反射的によけていた。

さすがに兎原さんにアレだけボコスカやられたら、あのスピードの拳に慣れてしまう。

それに比べたら、こいつのパンチは遅い。


「……よけやがって」


 やつの拳は、雪の中に突き刺さる。そして、一瞬遅れて、その周りの半径30センチの雪が跳ねとんだ(・・・・・)


「なっ!」


 触れてないところの雪が抉れている。あのパンチ、あたったら絶対やばい。


「ど、どうしたんだよ」


「お前は、お前は……いつ、雪谷と結婚なんかしたんだー!!」


「………………は?」


 どういうことだ。結婚? 一体、こいつは何を言ってるんだ。


「殺す! 殺す! お前を殺して、お前の位置に俺がなる!」


「な、何言ってんだ!?」


 戦闘隊形をとりながら、奴が走ってきた。


「おい! 逃げるんじゃねぇ!!」


「んな形相と、ポーズとって追いかけられたら、逃げるだろ!」


 雪の積もったグラウンドを全力で走る。

雪に慣れていない僕に追いついていないところをみると、足は僕のほうが速いようだ。

なら、このまま持久戦だ。


 とりあえずは一直線上に走り、グラウンドのフェンスに着く前に止まるんだ。

ただ、単純に止まると、捕まってしまう。だから、止まる位置を大幅に前にずらし、相手の意表を突く。

完璧だ。


 よし、そろそろ止ま――。


 もふっ、と顔面につめたい感触。

やばい。これはかなりやばいんじゃないか?


「どうやら、雪にすら慣れていないようだな」


 急いで、起き上がろうとするが、上半身を起こすので精一杯だった。

なんとか、奴のほうに振り向くことが出来た、が。


 もう、すぐそこに、今にも殴りそうなポーズで、僕を見ながらおぞましい形相、殴ってきたー!!


「死ねや、このクラゲぇぇぇえええ!」


 回避は不可。


 ガードしても、やられる。



 ならば、たった一つ。

僕ができる、最後の反抗で反攻。


 拳を構えて、おもいっきり前へ


「お前が果てろ!」


 鈍い音が、二箇所から聞こえた。


 ものすごく痛い。兎原さんのより痛い。

右頬にやつのパンチを食らった僕は、雪に埋もれる。

ただ、僕のパンチも、奴の鳩尾にクリーンヒットしたようで、奴も雪の上に寝転がってうめいている。


「この、糞クラゲがぁ!」


 ……、赤井ルカ。アカイルカ。赤イルカ。


「なんだよ、この糞イルカ!」


「は?」


「お前だよ、赤井ルカ。赤いイルカ」


「はぁ? 誰がイルカだ!」


「あぁ、お前にイルカなんてイルカが可哀想だな」


「んだと!?」


「でも、せめて、イルカのようになって欲しいと願う、僕からの友情の証だ」


「はっはっは。全力で意味が分からんぞこのクラゲ野郎」


「イルカ野郎」


「バカクラゲ」


「アホイルカ」


 ……。



「「上等だこの糞やろー!!」」


 全力で吼える。が、痛みで立ち上がれない。

吼えるだけ。が、イルカ野郎もそれは一緒のようで、立ち上がる気配はない。


 雪の上は、とても寒かった。



 僕は、こいつが嫌いだ。 

1000pv突破!


ありがとうです!

とっても感謝です!!

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