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十七話 埋もれた僕と小学生な彼女。

「いやーごめんごめん」


「つい、話に夢中になっちゃてたよ」


 一人の高校生と、一人の小学生が笑いながら言う。


「笑い事じゃない!!」


 あうやく死にかけた。なんでこんな所で小学生に殺されなきゃいけないんだ。


「そうは言うけどな、お前が人のことを小学生なんていうから」


「雪谷さん。高校生」


「へ?」


「怒った?」


「何が?」


「ほら、怒ってない。あのね、君。普通、ほんとのことを言ったぐらいで」


「また殴られたいのか!!」


「ひぃっ!」

 

 凄く、殺気を感じる。

マンガとかじゃなくて、マジで殺されそうな気がする。


「あたしは高校生だっ!」


「……」


「あ? どうした?」


「たまに、いるよね。自分のことを大人と勘違いしている小」


「やっぱり、殺すか」


「ごめんなさいぃ!」


 小学生が拳を振り上げた。


 やっぱり駄目だ。何が駄目かも分からずに、きっと一生を終えるんだ。

ごめんなさい、お父さん、お母さん。顔も声も何もかも知らないけど。

僕は、もう駄目です。どうか、お元気で。



「あはは。海月君。朱里ちゃんは本当に高校生だよ」


 と、ほわほわ笑いながら雪谷さんは言う。

 

 ん? 高校生?


「……まさか、ただ単に背の低いだけの」


 と、そこまで言って、口をつぐむ。

隣が恐いからだ。


「ねぇ、音羽。やっぱり、こいつ、埋めなおしていい?」  


「んー、どうしよっかなー」


「なんで雪谷さんが選択権をもっているんだよ!」


「さすがに、昨日と今日で痛めつけられてるから、勘弁してあげて」


 三分の一は貴方です。


「ふーん。……ってか、そういや、ふと思ったけどさ」


 と、目の前の女子高校生(仮)はこっちを見る。

あれ、そういえば。


「そういや僕も思った」


「ん? 二人ともどうしたの?」


 僕が人差し指を彼女に向けたのと同時に、彼女の人差し指も、僕に向けられていた。


「「こいつ誰?」」 


 声が重なる。


 そりゃ、そうだ。まだ互いに名乗ってないのだから。

僕が彼女について知っている情報は、朱里という名前。そして、とても本当に大変極めて非常に至極超絶あまりにも、小学生のようだが実は高校生らしい、と言う事だけ。

 

 殴られたり罵倒されたり、自己紹介すらしていない他人にここまでされる僕も僕だが、それにしてもここの住人は人と関わるのに積極的にだと思う。

 

 普通、知らない人に叫び声をあげたり、雪の中に埋めたりしないもん。


 でも、悪い人ではなさそうだ。話してみて、そう思った。

だから、僕は名乗る。


「海月 葵、らしいです」


兎原うはら 朱里あかり。よろしく」


 彼女の手が差し出される。僕はその手をとる。


 ここの人たちは手が暖かい。

手袋越しでも感じる、暖かさは、一体何なのだろうか。


「海月……」


 僕の苗字を呟いては何かを考え出す少女。

やがて、何かを思いついたように僕を見る。


「ねぇ、漢字でどう書くの?」


「えっと、地球上の約七割を占める海に、大体地球の四分の一の大きさである月を書いて海月だよ」


 彼女が顔をしかめた。

恐らく、僕の言ったことを理解していない。


「えっと、要するに、普通の海に普通の月でいいんだよな」


「んー、多分」


「海月……、海月――あ!」


 素っ頓狂な声が上がる。


「クラゲ! クラゲ君だ」


「……またか」


 どうやら、本当に習っていたらしい。


「また?」


「うん。だって、それは」

「わたしが先に言ったのです」


「なんだ、実行済みのネタだったか」


「わたしは呼ばないけど」


「あたしはそう呼ぶ。いいでしょ、クラゲ君?」 


「まぁ、いいけど」


 名前も思い出せなかったぐらいだから、あだ名で呼ばれても違和感はない。

だけど、いささか不思議な気分だった。


「ねーねー。そろそろ、行こうよ。寒いよ」


「うん、そうだね」


 僕らは歩き出す。目の前にそびえたつ、校舎へ。

並んで歩く二人の後ろをついて行く。


 不意に、兎原さんが立ち止まる。


 彼女は笑った。快活な笑顔で。

いつの間にか降り出していた雪が、目の前を落ちる。


 とても、美しい笑顔だった。


 そんな、少女は僕に言った。


「クラゲってあだ名、変だよなっ!」


 



 ………………。


 



 僕は、今まで彼女について思っていたことを、全て撤回させて、叫ぶ。


「上等だ、この小学生ーっ!!」

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