十四話 僕の本当の意味での初の食事。
テーブルには一般的な朝食が並ぶ。
ご飯、味噌汁、卵焼きと和風なありふれた料理だ。見た目はとてもおいしそうで今すぐにでも食べたいくらいだ。
しかし、油断は禁物。僕は昨日、彼女の料理によって何時間かトイレにこもる羽目になってしまったのだ。
「海月君……そんなにじろじろ見なくても」
不審者を見るような目で見てくる雪谷さん。
だが、そんな目で見られても、これは僕の命に関する。とても、とても重大な任務。ここは戦場だ!
雪谷さんを見ると、おいしそうに卵焼きをほおばっている。これだけ見たら全然大丈夫そうなのだが。
「海月君、食べないの? お母さんの料理、おいしいのに」
「へ? な、なんて?」
「海月君、食べ」
「その後」
「お母さんの料理……」
「おばさんが作ったの!?」
「うん! 朝が早いから、今日は作って行ってくれたみたい」
「……」
僕の大切な時間を返して欲しい。
「んじゃ、いただだきまーす」
「……なんでそんなに態度が急変するの?」
僕は雪谷さんの冷たい目線をあしらい、箸で卵焼きをつまむ。
そして、口をあけた時、ギュピーンと頭に稲妻が走る。
コレハ、ホントウニ、アンゼンナノカ?
考えれば、作った人は彼女の母親。つまり、雪谷さんと同じ味覚の持ち主だったりした場合だ。
目の前で美味しそうなにおいを放つ、この卵焼きに使われている卵が、どれくらいたったものなのか分からない。
「……なんでそこで固まってるの?」
そんなことを呟いた雪谷さんは、何かを決めたように、よしと頷いた。
「んがぼっ!?」
突然、彼女の手は僕の箸へと伸び、卵焼きを無理やり僕の口へ押し込める。
や、やばい。絶妙な塩加減。卵のふんわりとした食感。特有の甘い香りとがハーモニーを奏で。
「う、うまい!!」
「でしょ、でしょー」
雪谷さんがうまいというものは、信用できない。が、これは美味しい。とてもうまい。
昨日からろくに食べてない僕は、次々と料理を口へと運んでいった。
「ふー、食った食った」
「……君ってこんなに食べるんだね」
それは、殆どの体のエネルギーを水に流してしまったからに違いない。
「これから作りがいがあるなー」
と、どこか遠くを見ながら呟く彼女を見て、背筋が凍った。
「ごちそうさま」
席を立ち、洗面所へと向かう。
洗顔したり、いろいろと用意を済ませ、玄関へ。
「雪谷さん、本当に大丈夫なの?」
「うん、全然大丈夫! 問題なし、だよ。君こそいいの?」
「僕に躊躇う要素はないよ」
玄関の扉を開ける。
目の前に広がった景色は、真っ白な世界。
ちらちらと降り積もる雪は、まるで鳥の羽根のように、ひらひらと舞っていた。
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