十三話 僕の朝。
「……て」
……覚醒しかけの寝ぼけた頭。重い瞼はまだ開かずに視界は真っ暗である。
「……きて」
呟くような声が耳元で聞こえる。何言ってるか、よく分からない。
「……てよ」
肩が揺さぶられ始める。
あ、あと三分ー。
「起きて。早くおきよーよ」
むにゃむにゃ。
「おきないなら――だよ?」
……。
「……怒った。喰らえ、必殺」
……。
「溝に直撃どーんぱんち~!!」
「ぐぼろっ!?」
痛い! 呼吸が、息が詰まる! 腹部辺りに異常な痛みがぁ!!
痛みに悶え、がばっ、と布団から飛び跳ねた僕と目を合わせ、彼女は一言。
「おはよう」
「あ、うん。おはよう」
目の前には、肩まで伸びた茶色を帯びた髪を風になびかせ、朗らかに笑う少女の姿。
うん、朝、女の子が起こしに来るっていうのも悪くない。いや、良い。……と、普通なら思っているところだ。普通なら。
だが、僕は騙されない。いくら可愛い子が居ようと、とても許されざる行動は見逃せない。
僕は、覚醒したばかりの頭を使い、手に雪谷さんの肩を掴むように命令した。
「ねぇ、なんかとてつもなく痛いんだけど……」
「ん? あ、お母さんのせいじゃない?」
とぼけるか。
まぁ、確かにそれも含まれるだろう。しかし、今、現在時点での痛みは――
「雪谷さんのせいでしょ!!!」
「え? なんでわたし……?」
心底不思議そうな彼女には、言葉の弾丸を放つしかない。
「……溝に一撃入れたよね?」
「うん」
「白を切ってもだめだよ。この部屋には僕と――へ? 認めた?」
……この人、あっさり認めた! しかも、悪気なし!?
「……あのね、人は殴って起こすものじゃないんだよ? 知ってた?」
「もちろん!」
「ちょっと待て! もちろん、じゃないよ!?」
親指を立てている場合じゃない!
「しってるなら、なんで僕をなぐ――」
「早く起きないのが悪いのー」
む、それを言われたら言い返せなくなる。
「ほらっ、早くご飯食べよ。冷めちゃうよ」
「ん。りょうかーい」
雪谷さんは早く降りてきてね、と言い残し、ドアをくぐっていった。
ふぅ、と息を吐き出す。
僕は周りを、朝の日差しが眩しいぐらいに入ってきているこの部屋を眺める。
やっぱり、おかしいよな。
人って、こんな短期間で仲良くなるものだっけ。
もっと、面倒で、大変な手順を踏まないといけないのではなかったっけ。
こんな、こんなものだったっけ。
「まぁ、いっか」
手を上に組み大きく伸ばす。
僕は、彼女に借りたブルーのパジャマを脱ぎ、クローゼットの中のワイシャツとズボン、学ランを取る。
制服は、これでいいのかな。
ワイシャツを着て、ズボンを穿き、学ランに腕を通す。
よし、僕は自分の服を見回し、変なところがないかを確認する。そして、僕はリビングへと向かった。