十二話 僕の記憶と断片。
眠れない。
目の前には木の板の天井。
僕は今、敷布団の上に仰向けに寝ている状態だ。
ただ、どれだけ横になっても一向に眠れる気配がしない。
思えば、今日一日でいろんなことがありすぎた。
――初めて会った人の家に居候することになったこと。
――彼女の母さんに、なにかを頼まれたこと。
――記憶を、無くした事。
……一体、僕は誰なんだ。
どんなところで生活して、どんな性格で、どんな人たちと、なにをやっていたのだろう。
思い出せない。何も、何も。
目の前には消えては浮かぶ、シャボン玉。
抽象的に、なにかを混ぜあったような柄が不気味に蠢いている。
これが、僕の中の記憶?
ぐちゃぐちゃで、いろんなものが交じり合って。訳がわからなくて。
それは無数に、無数にでてくる。
世界は真っ暗。
静かに、真っ暗。
記憶の塊。
触れようとするが、触れられない。
割れる。壊れる。
一つずつ、消えていく。
最後の手がかり。
僕の記憶。
割れる。
壊れる。
消える。
笑う。
あざ笑う。
誰かが、とても不快な笑みをこちらに向ける。
不快だ。
あざ笑う。
誰だ。
僕をそんな風に笑うのは。
嫌な、嫌な笑み。
嫌い。
嫌い。
嫌い。嫌い。
その顔は、笑みは僕のほうへと向かってくる。
来るな。
誰だ。
笑みは静かに、僕の前で止まる。
その顔は、笑みを浮かべる正体は。
――僕だ。