十話 僕は見た。
「ふわぁぁあ」
雪谷さんが大きな欠伸をひとつ。つられて僕もしてしまう。
時計を見ると、すでに針は一時をさそうとしている。
無言。互いに何も喋らない。
僕は緊張で何も話すことを思いつかない。雪谷さんは眠いらしく、欠伸の連続だ。
遅い時間まで起こしているからな、と少しの罪悪感があった。
カチ、コチと時計から鳴る音が大きく聞こえる。
彼女の母さんは一体いつ帰ってくるのだろうか。こんな夜遅くまで何の仕事をしているのだろうか。
ようやく思いついた、”話すこと”。雪谷さんに聞いてみたいと思ったが、あの時の――切なげな表情がそれをためらわせた。
カチ、コチと時計の針は鳴る。
僕は、彼女の母さんに何と言えばよいのだろうか。
今日、会ったばかりで住まわせてください、なんて言えるわけも無い。ましてや、雪谷さんとは恋人とかそういう類のものではなく、全くの他人。会ったばかりの他人、
何を、どう説明すればよいのか見当もつかない。
「……ねぇ海月君」
と、不意に彼女が口を開いた。
「ん? どうしたの?」
「お母さん、帰ってきたみたいだよ」
……え!?
「え、いや、ちょっと待ってよ!! まだ心の準備が――」
そんな、僕の思いも空しく――扉が、ガチャと音を立て開いた。
「おーおー、音羽。まだ、起きてたのか? さっさと寝ないと……?」
そのとき、僕は金髪の20過ぎ程度の女性と、眼が合った。
「ど、どうも……」
「お、おい! お前、誰だ!?」
怒鳴られた。ってか雪谷さんの母さん、滅茶苦茶怖い!!
金髪を長くなびかせ、耳にはピアス。服装は派手な感じで、これは、これはいわゆる――
「ヤンママじゃん!!!」
すごい眼で睨まれました。
遅いわりに短いという最低仕様!
どうぞご勘弁を><