第九話 アルビオン!
仰向けに寝ているタロス……アルビオンに搭乗する。
胸部のコクピットハッチを開けて後ろ向きに座る感じで入るんだけど、寝てるから後ろ向きに落ちるような格好で入らなきゃなくてちょっと怖かった。
ハッチを閉めて室内灯をつけたら、作業用タロスとは違った見覚えのないデザインでこれまたテンションが上がる。
火器管制とかスモークとか、そんなの無いからね普通。
あとレーダーも付いてた。
ヘッドセットもごつい。
シートベルトもごつい。
何もかもが実用性と耐久性重視!って感じの組み合わせで渋い。
アイドル状態で初期登録を済ませて再起動。
システムをスタートさせると、ヘッドセット内に周囲の映像が現れ、遅れてマーカーや各種のメーター表示が現れた。
「おお……表示も結構違うのね。とりあえずいつもの配置にして……。メーター異常なし、異音なし、周囲確認……よし。……って、この辺はもう私しかいないし、いいか……」
『人はいませんが物はあります。余計な損傷を防ぐためにもチェックは欠かさずにお願いします』
「へーい。あまりよろしくはないけど、機体の状況の監視は任せるわ。本当なら私もメーター上でのチェックとか警告灯とかの確認はしなきゃ無いけど、それくらいはいいでしょ?」
『分かりました。合わせて周辺警戒もしておきます。もし、艦隊に復帰した場合は所定の手順の遵守を』
「……戻れたらね?」
戻れても、もうその母艦が無い気がするけども。
それでも何があったのかは知りたい。
スティックとペダル、そしてヘッドセットの脳波センサーなどによって機体を起こし……立ち上がった。
とりあえず、アサルトライフルは背中のホルダーへ装着。
手の動きや首の動きなどの範囲を確認して、歩行確認。
徐々に速度を上げながら森の中を枝をぶち折りながら疾走して……平原に出た所でスラスターに点火して高速機動へと移行した。
「すっごっ!!はっや!!こんな早く動けるの軍用って!?」
『二足歩行ではなく、スラスターとホバーを組み合わせて居るため、ある程度平坦なところ限定ではありますがこのような高速移動を実現できています』
「あ、ホントだ足動いてない。それならジャンプは……」
スラスターが一瞬ふかされ、全身を押し付けられるようなGがかかる。
そして次の瞬間……目線がものすごく高い位置にあることに気がついた。
「えっ、高度……20m!?」
『速度が乗っていたこともありますが、静止状態からのジャンプだと約13m程度となります』
「まあ、しょっちゅうこんな高さに上がることはないんだろうけど……。って着地の衝撃とか意外と無いのね」
色々と試しながら周辺をぐるっと走り回り……、初日の墜落地点へと戻ってきた。
ドラゴンの角とか骨格を回収した時ぶりではあるけど、生々しく残る墜落跡は未だに残っている。
……あの土砂降りによって大分消えては居るけど……それでも抉れた跡は見えてるのよね。
「もっと色々と試したいけど、これからタロス用のコンストラクションツールとか色々作らないとね」
『はい。すでに指示は出してありますが、素材がまた少なくなっていますので素材集めと並行して作業を行って下さい』
「アルビオンの装備は武器もあるから狩りとかは出来るけど、採掘なんかは無理よね?」
『現状専用装備はありませんが、一時的にATVのものを使用することを提案します』
「出来るの?」
『急ごしらえとなりますが、とりあえずは携行火器のアタッチメントとして無理やり接続します。エネルギー供給さえあればいいので問題ありません』
「なら、お願い。終わり次第習熟運転ついでに素材集めしましょ」
一旦拠点まで戻り、エイダによって改造を施されたライフルを装備してまたでかけていく。
今まではずっと、魔物……魔石持ちでも大きめの反応があるものは遭遇しないようにしてきたけど、今日からは違う。
逃げ回るのはもう終わり、これからは狩りを積極的に行っていこうと思う。
一応念のため生態系に影響が出るような事はしないつもりではあるけど。
「ラプトルが居るわね」
『3匹です。すでに射程に入っています』
「えっ?もう?結構遠いよ?」
『2000mの精密射撃が可能です。有効射程は2500m、現在の標的までは1497mです。偏差はこちらで計算しますのでまずはライフルを装備して下さい』
「……ど、どうやって……」
『まずは火器管制システムを立ち上げます。本来ならば起動時にやっておくべきですが、必要がないときにはオフにしておくほうが無難でしょう。慣れていないと暴発の危険がありますので』
「おっけ」
右下に見える火器管制の画面を選択して、エイダに言われるがままに操作を行う。
『ではこれから右スティックにある赤いトリガーには不用意に触れないようにして下さい。基本的には透明なカバーがかかっていますので、使わないときには必ずカバーを付けて暴発を防ぎます』
「これね。なんのボタンだろって思ったらトリガーなのねこれ……」
『画面上でライフルが登録してあるバックパックを選択し、Equip(装備)を選択するか、左上に表示されている数字の番号をスティックのボタンにある数字キーで選びます。素早い交換をするには数字キーを使うのがいいでしょう。現在のバックパックには4つのスロットがありますが、4番にライフルが入っていますので4番のキーを押して下さい』
押し込むと自動で腕が動いて、バックパックにあるアームがライフルを出し、それを掴んで右腕に装備した。
左スティックで同じことをすると左腕に装備する。
そしてバックパックに戻すときには戻したい数字キーを選択すればまた自動で戻してくれると。
作業用のものとはまた違った操作だから覚えなきゃ無いけど、これはこれですごく楽しい。
もうちょっとロボットもののゲームとかでもやっていればなぁ。
照準は目の前に表示されてるマーカーが新しく追加されているからわかりやすい。
「行ける……と思うわ」
『狙撃モードに設定します。各部関節固定、ズームします。すでに計算は終わっているので、十字のレティクルで狙いをつけて……トリガーを引きます』
トリガーを押し込もうとして、カバーに阻まれる。
……ちょっと恥ずかしい。
しかもラプトルが動いたせいでまた照準を動かして……カバー外して……今!!
ライフルと言うよりは少し重い音がして、軽い振動が感じられる。
画面上には一瞬で飛んでいく弾が見えて……吸い込まれるようにラプトルの胴体へと当たった。
当たった瞬間、ラプトルの胴体は吹き飛び、首が血を吹き出しながら飛んでいく。
他の2匹も突然吹き飛んだ仲間に驚いたらしい、警戒の鳴き声を上げているような動作をして何処かへと走って消えていった。
「……つっよ……」
『ATVのタレットなどとは違って、このライフルは対タロス用の装備です。タロスの装甲を貫くための装備なのでそれに見合った威力がありますが、あのドラゴンには通用しません』
「あのバッファローみたいなやつだと?」
『問題ないかと。狙撃モードを解除します、移動して回収を』
「わかったわ」
……この操作、普通はAI無しで兵士の人たちやってるのよね……凄い。
私もある程度出来るようにならないと、いちいちエイダに指示してとかやってると回避が間に合わないときが出てきそう。練習しないと。
それにしてもこのライフルの威力凄いわね……想像以上でびっくりしたし……。
……グロっ。
こんなのが人に向けられてたとか怖すぎる。
まあでも今は私の頼もしい鎧。
無茶なことしなければ問題ないわね。
回収地点に到着してから、飛び散ったものをあまり見ないようにしながら必要な部位を確保する。
今なら魔法金属を含んだものも全部まとめて拠点へ送ることが出来るから、最初に比べたらずいぶんと楽になったと思う。
しばらくウロウロしているとエイダが高エネルギー反応を検知した。
『警告。高エネルギー反応を検知。例のバッファロー様の魔物の反応と似ています』
「きた!今日は牛肉ステーキよ!!場所は?」
『レーダーに表示します』
結構遠い……けど、このアルビオンのダッシュ速度なら10分程度ってところ。
スラスター出力を上げて走っていくとやがて振動が消えてホバー移動に移行した。
「あーそうだ、あのラプトル、名前をサイスラプトルで登録。バッファローは……スパイクバッファローで。多分亜種とか居るでしょうし、名前決まってないならつけておいたほうがいいわよね」
『了解しました』
「あと高エネルギーはもう魔力ってわかったから、魔力反応とかでいいわ」
ゲームとか好きな私としては、エナジーやら何やらよりは魔力のほうが理解しやすい。
同じように低精製エナジークリスタルは下級魔力電池と呼ぶことにした。
「……そういえば、マギアジェネレーターとかマギアデバイスって言ってたけど……マギってなんか魔法とかそういう感じの意味なかった?」
『それに該当しそうなものとしては、マジックの語源となった古代イラン語のマグからギリシア語を経てラテン語に転化したものがあります。意味としては神官の呼び名であったり、新約聖書において星に導かれてやってきた東方の三博士を指すものです』
「あれ!?そうなの?……っていうか、新約聖書のって、星に導かれて?これまさかレヴィのことじゃないでしょうね?」
『もしも大昔に実はレヴィと地球が接触していた場合ですか。答えはレヴィのほうが持っているのでしょうが、今の私達ではそれを証明することは難しいですね。ただ、たしかにマギアデバイスなどの名称はレヴィの言葉の発音に地球の英語の意味を組み合わせてあるものなので、可能性はあります』
私達が知らない単語はそのままの発音……もしくは私達が発音しやすいように直して、そこに私達の言葉に対応するものを当てはめて混ぜたのがこのコンストラクターを始めとする機械類だ。
自分たちで改造できたところなんてほんの僅かなところだったし、リバースエンジニアリングは失敗に終わったって言うし。
遥かに知性が高いレヴィ達にとって、そういう地球に対する配慮なんてのもお手の物……か。
よく滅ぼされなかったわね……地球人。
いやでも、見守られていたなら……。
色々考えていたら現場に到着した。
エイダの言う通り、例のバッファロー……もとい、スパイクバッファローの群れだった。
以前はすごすごと引き返していたけど。
「エイダ、狙撃モード」
『完了しました』
「えっと、4番……カバー外して……よし!……どれ狙ったらいいかな?」
『群れからはぐれているものを。できればヘッドショットを狙っていただくと胴体が残ります』
「なるほど!頭だけなら胴体まるまる残って……私のご飯が増えるってわけね!」
なんか、エイダに色々見透かされてる気がするけど。
……よく狙って……トリガー!
エイダによって補正を加えられ、私はただ十字を頭に添えるだけ。
後はタイミングを見てトリガーを引くだけの簡単なお仕事。
『関節の固定を解除、伏せて下さい』
「え?わ、分かった」
なんでとは思ったけど、素直にすぐ伏せて観察する。
突然頭が弾け飛んだ仲間を見て、他のスパイクバッファローが警戒していた。
『警告、魔力反応。索敵しているようです』
「えっ、大丈夫なのこれ?」
『動かさないようにして下さい。流石に1000mを超えた位置までは見つけられないはずです』
「う、うん、分かった」
なにやら鳴き声を上げ、茶色いスパイクをいくつも空中に浮かべては無闇矢鱈に飛ばしていた。
射程距離はそこまでじゃないようで、300mほどで砂のようになって消えていく。
それでも実体化している間はかなりの攻撃力を持つようで、地面や岩に当たったところは対象が吹き飛んでいた。
しばらくして落ち着いてきたのか、死んだ仲間のところへ向かったかと思うと、そのままぞろぞろとどこかへと消えていった。
『警戒範囲からの離脱を確認。回収しましょう』
「そうね。……なんか、心が痛いな……」
傷ついた仲間を守るため、みんなが協力して見えない敵に立ち向かおうとしていた。
そして無駄だとわかると、その倒れた仲間の元へ行き……一声鳴いて別れを告げた。
……そういうふうに私には見えた。
多分、そうだったんだと思う。
あの魔物は知性があったんじゃないか……。
『野生動物でも同じ行動をするものがあります』
「そうなんだけどね。はぁ、あの魔物はもう狩れないなぁ。明確に敵って分かってるならいけるけど……」
でももう殺しちゃったのは仕方ない。
美味しく頂いて供養とさせていただきます。
正直食うことくらいしか楽しみ無いんだよぉ!!
「次は……ゴーレムにしましょ……」
『了解しました。素材も採れるので最優先で……いえ、警告。魔力反応、大。こちらへ向かってきます、岩の陰に移動して下さい』
「んぇ?!」
何何何何!?
『光学迷彩起動します。ジェネレーター停止、下級魔力電池カット。光学迷彩のための僅かなエネルギーのみを残して待機させます』
「え、え、え、なに、何が来るの!?」
『コクピットの緊急シャッターを開けます。そこから外が見えるはずです』
「ちっさ!え、これしか開かないの?」
『外部のカメラが破壊されたときの緊急用の窓です。狙撃されないために最低限の大きさしかありません。対象接近、声を出さないほうがよろしいかと』
「ひえぇぇ……」
しばらくすると、凄まじい咆哮が聞こえた。
かなり近い。
そして、振動。
『機体前方400mの位置に着陸したようです』
そーっと小さな窓から外を覗き込む。
400m。結構離れてるじゃないって一瞬でも思った自分をぶん殴りたくなった。
それほど遠くにいるにも関わらず、私の目線は少し上を向いている。
全長100m位あるんじゃないかって位の大きな……うん、これはもう断言していい。
ドラゴンがいた。
『分析完了。初日にあの脱出艇の近くで死んでいたドラゴンを仕留めた個体と推測します。咆哮の波長がほぼ一致します』
「マジで……?そりゃやられるよ、あんなの勝てる気がしないんだけど」
『事実、今の装備では不可能です。体表にディアダイムよりも強度の高い……情報更新、サノスールという物質を検知。金属ではないようです』
また新しい物質が出てきた。しかも金属じゃないのに魔法金属以上の強度ってもうイカれてる。
インフレしまくったバトル漫画かなんかですか。
そのうち矛盾が出てきそうね。なんでも貫ける矛になんでも防げる盾みたいな。
ただ……その物質のせいなのか、すごくキラキラと輝いていて……とても神秘的だった。
金と白が混じったような色。
羽衣を纏っているかのような羽……?オーラ的ななにか……?
ああもうなんかわからない。
色々とふわふわしているけど、何重にも薄い白に紫が混じったような透けた素材の何かがまとわりついているっていう感じの見た目になっている。
美しい。
そして同時に、恐ろしい。
暫くの間、白金のドラゴンは周囲を見回していたけど……やがてなにもないことを確認できたのか、ふわりと浮かび上がり……ひらひらしたものが羽のようにぶわーっと横に広がったかと思ったらあっという間に加速して見えなくなった。
「……もう、動いていい?」
『おそらく大丈夫です。アルビオンを再起動』
「ふう……生きてるって素晴らしい」
いや本当に。
今回は本当に生きた心地がしなかった。
圧倒的な強者の前に立たされた時って、あんな感じなんだって思った。
蛇に睨まれた蛙って言葉があるけど、蛙のこと笑えなくなったよ。
なんかもう、色々とやる気が失せてしまったので今日は一旦拠点へと戻っていった。
□□□□□□
ふう……なんだか今日はすごく疲れたなぁ。
いやアルビオンで色々出来たのは面白かったんだけどね。
ちょっと後味悪かったり死にかけたり、精神的に疲れた気がする。
しかも収穫はちょっと少なめだったし。
『拠点の燃料が2日後に尽きます。明日は素材を確保して発電施設を作らないとなりません』
「んー……確かに新しいマギアジェネレーター作るにも素材ないし……。取り敢えず今日確保した分で作れる部品だけ作っておいてもらえる?そうしたら制作時間の短縮になるし」
『了解しました。……本日の夕飯はステーキです。ライスとスープをおつけいたします』
「やった!!オニオンソースでお願いね!」
スパイクバッファローのステーキ、大変美味しゅうございました。
ちょと硬かったけどね?
たったそれだけのことで元気になっちゃう私もどうかと思うけど。
ちなみにあの一頭でしばらくの間毎日食えるレベルの量があるから、まあ数ヶ月は狩りする必要もないかな。
とりあえず、この拠点を維持するための燃料をなんとかしなきゃならないわけで。
そのために水力発電装置を設置しようとしていたわけだけど……その素材があまり集まっていない。
明日はとにかく急いで素材を集めるようにしよう……。
『材料を見直したところ、アルビオン用の掘削ツールが作れそうでしたので優先して作成しています』
「え、素材そっちに使って大丈夫なの?」
『ATV用に作ったものよりも効率が良いですので。明日の素材採集では計算ではあのままのツールで回収するよりも、アルビオン用のものを使ったほうがマイナス分を考えても5倍近くの効率アップになります』
「なるほど……。ちなみに場所とかの当たりはつけてるわけ?」
『はい。本来なら今日そこへも向かおうと思っていましたが……』
「流石にあんなのが飛んでるときにあまり動きたくなかったしね……」
ま、明日頑張ればいいかぁ。
その後エイダと今後どうしていくかを話し合い、シャワーあびて寝ることにした。




