第四話 基地を作りました
到着してまず最初に行ったこと。
それは……。
「おぅぇ……オロロロ……」
ゲロでした。
色んな所にぶつかったり、軽く落下したり、浮き上がったり、ぶつかったりシェイクされたりしたらそうなるでしょ普通に考えて!
気持ち悪い……視界がぐらぐらする……。
『燃料残り3%です。エンジンの始動は不可能です』
「ですよね」
まあそれは予想の範囲内だから問題なし。
で、これが崖ね……。
崖の下のところにちょうど私達がいて、その岸壁を掘って基地にしてしまおうという計画。
とりあえず中に入るためのドアと、照明、換気装置なんかは必要かな。
後は周りの壁を崩れたりしないようにするためにも壁や天井のコンクリートパネルも。
「まずは設計図を作らなきゃならないけど……」
『こちらの方で当面の最小限必要な設備と空間を持ったものを作成してあります』
「助かるわー私そういうの苦手だし。どれどれ……結構広いけど大丈夫これ?」
『問題ありません。材料はそこにありますので。まずはスキャナーによる調査を』
「はいはい」
岸壁に向かってスキャナーを起動する。
奥の方までスキャンするため、壁にアンカーで固定してしばらく放置ね。
待っている間イガイガする喉が気持ち悪かったので、ジュースを作って飲んでいたら終了の音が聞こえてきた。
『データを受信しました。ここから100m四方の岸壁内は脆弱な部分はなく、非常に強度の高い岩盤になっています。その岩盤の中に鉄などが含まれる層がいくつかあります』
「基本的なものは作れそうね!これはラッキー。しかも硬い岩盤なら壁の強度あまり気にしなくて済みそう」
では早速作業開始だ。
まずスタート位置を決める。
今回は岸壁に作るドアの位置を基準として進める。……この辺でいいかな。
そしたら位置をツールに記憶させて、コンストラクションツールの中にさっきの設計図を読み込ませて掘削モードへ。
排土は全てコンストラクターへ転送して、全部材料として変換させる。
余剰分はとりあえずブロック状に固めて入り口からちょっと離れたところに排出するように設定。
気密スーツを着て準備おっけぇ!
「いっくよー!」
コンストラクションツールの設定と、設計図をミスってなければ後は簡単。
ドア部分にコンストラクションツールを向けてトリガーを引くと……幅が広いレーザーが出て岩盤を分解していく。
ドアの形に自分で調節する必要はなく、設計図どおりの空間になるように自分の向きや位置を認識して調節してくれるのだ。
だからこうして適当に上下左右に振れば……入り口周りが綺麗に四角く掘れてしまうというわけ!超!簡単!
楽しい!
「ふう、区画の掘削は100%完了っと」
『建築モードへ変更し、コンストラクターとリンクを繋げてください』
「はいはい」
『まずは床と給排水設備の設置を同時に行います。下に向けてトリガーを引くとユニットごとに設置されていきます』
トリガーを引くとレーザーがその場所に設置される予定の形を形作り、もう一度トリガーを引くとその形通りにじわーっと完成物が設置されていく。
……これ、面白い。
ちゃんと使ったのは初めてだったんだけども、これは楽ね!
ちょっと時間はかかったものの、ちゃんと床が設置されたのを確認する。
給排水設備もちゃんとパイプや穴がしっかり出ているので多分設置されてる。
次は壁、天井、すでにこの時点で電気系統の配線も出来ている充実っぷり。
『次は設備関連の設置となります。設計図の方にすべて組み込んでありますが、その前に脱出艇をコンストラクションツールで回収分解してください。制作したばかりではありますが冷蔵庫やマルチクッカーなども』
「ついにこの脱出艇ともお別れね」
脱出艇に向けてコンストラクションツールを向けて解体モードへ。
コクピットが消え、居住部が消え……全てが消えた。
今まで私を守ってくれていた脱出艇は、この新しい基地の設備の一部として生まれ変わる。
またコンストラクションツールを建設モードに変えて、残った設備を設置していった。
「終わった!」
『簡易ですが、基地が完成しました』
「うんうん。コンクリむき出しの殺風景な感じなのはまあ仕方ないけど、結構住みやすそうじゃない」
ベッドやデスクが設置された私の部屋もあるし、マルチクッカーが設置された簡易キッチン、携帯用コンストラクターが置かれたガレージ。
ちゃんとトイレもあるし、浄水装置を置くスペースもある。
浄水装置壊れたもんねぇ……。
まあ、新しい浄水装置は、近くの湖までパイプを伸ばして使うことになると思うけど。
『材料が溜まっているため、小型コンストラクターの制作を開始します。完了まで50時間』
「待って長い長い」
しかもそれ作ってる間何も作れないんだけど。
『時間はかかりますが効率が全く違いますし、作れるものが大幅に増えます』
「あーそれもそうか……」
『それに小型コンストラクターは複数のタスクを同時に実行できます』
今まで使ってたやつは一個タスクを突っ込むとそれが終わるまで何も出来ないんだけど、小型コンストラクターは据え付け型の大きいやつになる。
それもあって3つ位は同時に制作できるのだ。
小型とはいえ、今で来ている部屋を半分位占有する程度の大きさはある。けど、……中型は一つの部屋くらいあるからね……。
大型になると縦横が更に倍になる。
めちゃくちゃ大きいけど保存容量も大きいし、生成速度も段違いだし、何よりも大きくて複雑なものを作ることが出来る。
速度としては……携帯用コンストラクターで小型コンストラクターを作ろうとすると50時間。
大型だと選択して実行押したらもう出来てるレベル。
さらに大型には成分分析などの機能もついているのでいくつかの設備がまとまったようなものだと思っていい。
まあ、とりあえず……小型コンストラクターが出来上がるまで寝よう!
疲れた……。
□□□□□□
んあ……本気で寝てた……。
外は……あーそうか、今はもう脱出艇じゃなかったっけ。
窓欲しいわね……。
「エイダ、時間は?」
『現在は深夜です。25時間と38秒で1日となります』
「そういえば今の今まで時間気にしたことなかったわね……。時計あったほうがいいかしら。きりよく25時間で1日にして秒の基準ずらしてカウントとか出来る?余った秒数は閏日みたいな感じでうまく処理できれば……」
『問題ありません。……この世界の基準時計を作成、現在時刻午前2時31分です』
「ほんとに深夜だ……。んーちょっとお腹すいたし少しだけ食べて寝なおそうっと。朝7時にアラームセットしておいて」
『朝7時にアラームをセットしました。サイドテーブルの時計をリプログラミングして、この世界の基準時間を表示、アラームのセットが可能となりました』
めっちゃ助かる!
いちいちエイダに聞かなくていいのは楽だね。
ただやっぱり外の様子見れる窓がほしい。
「あと、この部屋って確か岸壁の真裏よね?岸壁側に小さくていいから窓作りたいんだけど」
『岸壁側の壁の窓を設置したい場所を選び、その場所の壁パネルを分解、窓付きのパネルと交換してください。その際、岸壁側にも窓の位置に穴を開け、シールドガラスと防護シールドを追加しておくことを推奨します』
「……確かに……光が漏れてそこにあのでかいのが突っ込んできたらヤバいもんね……」
岸壁の壁の厚さは3m位取ってあるけど、特に補強しているわけじゃないし……。
出来るようになったら補強も考えておかなきゃマズそう。
しかもよくよく考えたら距離ありすぎて光もあまり入らないのかぁ。
「じゃぁ、外の様子が分かるように、カメラとか付けられる?」
『脱出艇のカメラとモニタ、カメラの制御装置をそのまま流用可能です。配線のみ新規作成が必要です』
「ならそれでいいわ。っていうかそっちのほうが光漏れないし良いわね」
カメラは中からある程度動かして見ることが出来るし、熱源感知も出来る。
惑星突入時の高温にも耐えられるケースに入ってるから、まぁ……まともに使ってる分には壊れることもないでしょ。
マルチクッカーでハンバーガーを作って食べる。
そういえばパンの原料も残り少ないのか……穀物が欲しいわねー。
種籾位用意しててくれれば育てられるのに。……私の母艦とともに爆散したんだっけ。
ちょっとお腹も満たされたことでまた眠くなってきたので、エイダにおこされるまで熟睡した。
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おはようございます。
自分の居場所があるって素晴らしいですね。
小型コンストラクターが出来るまでやることがないので、余った資材を使ったりしながら基地の拡張なんかをします。
具体的には資材置き場を作りましょう。
余剰分の土や石なんかのブロックは外に積み上げてありますが、それらを中で保管できるようにしておきたいのですよね。
後、鉱床の金属回収も。
ジェネレーターには植物から抽出したバイオエタノールを入れて動かしてるんで、木やらも確保しておきたい所。
コンストラクションツールがあると、そういう伐採も出来たりするのでものすごく楽!
ご飯食べてる間に設計図はエイダに書いてもらったし、後は私が実行すればいい。
「さてまずはコンストラクションツールを掘削モードにしてっと……違う解体モードだ」
今回は地下に作っていくから、まずは作った床を剥がさなきゃならなかった。
剥がした床は後でドア付きのものに変えておこう。
床を剥がして掘削モード。
斜め下に向かって降りていく斜面を作るけど……これ、急すぎて登れない!
下から階段設置しながら上がるしか無いねこりゃ。
二回目なんでサクッと終了。
電源入れればライトが付いて……広い倉庫が出来上がった。
「ストレージがあれば分解状態で溜め込めるんだけどなぁ……。今はそのままブロック状に固めた状態でしか置けないし仕方ないわね」
ちなみにこういう壁やらなんやらはコンストラクションツールが出力しながら作り出しているから、コンストラクターは関わってない。
機械類なんかの複雑なもの担当がコンストラクターだと思っていればいいかな。
家具もコンストラクションツールで選択して設置できる。
バッテリーやジェネレーターみたいなのは一旦コンストラクターで制作して、ツールから出力して設置する。
小さいのは直接コンストラクターから出せるけど……大きいものはその場で作りながら出力するしか無いってことね。
だからやり方さえ分かればこのコンストラクションツールで何でも作り出せるのよね。
限界はあるけど。
後は素材だけ。
未知の物質はここに置いといて、分析器を使ってその性質などが判明するまで塩漬けになる。
『ブロック状に固めた素材を移動させるには、排出先を指定し、掘削モードで素材を分解してください』
「あぁそうすればいいのね」
外にでて、外に積まれた素材を見る。
……排出されたやつ見るの初めてだけど、なんかやたらカラフル……。
『元素や化合物の状態で不純物を除きブロックにしています。薄い被膜で一つ一つ囲まれているので空気中の酸素などと反応して炎上などはしません。ガスは圧縮して液化もしくは固形化してシールドガラスによって密閉されています。内部は外の影響を全く受け付けない状態になっているので安全です』
「すごくたくさんあるんだけど……こんなにあるもんなの?」
『少量ながらも植物や土壌、岩石には様々な金属や物質が混じっているので。化合物として結合しているものを分解し、分けるとこうなります。掘削した岩盤が多いのでシリコンや鉄が多くなっています』
ガラスが作りやすいのはそのせいか!
ものすごく量が少ないものもあるけど、これは含まれる量がそもそも少ないものだったりなんでしょうね……。
とはいえ、数種類だけが無駄に増えていくだけっていうのもあるから……やっぱりちゃんとした鉱脈を見つけて掘りたい所。
量が違うからね……。
しばらくは……基地を充実させつつ、外の探索をしよう。
まだスキャンしてないのは無数にあるし。
この辺の土壌とか水質、空気なんかはスキャンしたけど、木とかの植物は全然終わってない。
あの変なヤバそうな生き物がいるかも知れない森の中に入っていくのがちょっと怖い……。
「……とはいえ、食べれるものとかを増やすにはなんとかしたい所よねぇ」
『自家栽培が出来るようになれば、安定して安全な食の供給も可能です。また、品種改良により様々な操作が可能になります』
「品種改良できるの!?」
『遺伝子改変シミュレーションと成長促進の組み合わせにより、短期間での改良が可能です。アグリテックデバイスが必要です』
「小型コンストラクターで作れるの?」
『小規模なものであれば出来ます』
「おぉ……原種とか見つかれば、私達が食べてるものまで再現できそうね……よし!」
芋とか果物は手に入ってるから……そういうのをスキャンしまくれば良いのが出来るかも。
甘くしたり、皮を薄くしたり、色々と操作ができるっぽいからチャレンジしたいな。
一気に拠点が完成しました。
流石にこのレベルの拠点をサクッと作れないと、こんなところではサバイバルは無理ですし、この技術レベルがあれば当然それくらいは考慮されています。
本来ならば複数人数で組織だって数日で軍の基地を建設するためのツールなので。
段階的に出力できるようになっているのも、緊急時のために材料さえ確保できれば色々作って生存可能な状況に出来るように設計されているからですね。
もし、外が有害な空気や真空の場合、さっさと気密の取れた部屋が作れないと即座に死にますので。




