第一話 起きたら一人ぼっちでした
新作投稿です。
リワードも開始されたこともあって、頑張ってみようと思いますので気長にお付き合いください。
「はぁ、はぁっ!っせえいっ!!」
メキメキと音を立てて木が倒れていく。
原始的な斧を使って時間と体力を使ってようやく一本。
あとどれくらいやらなきゃならないのか……想像してげんなりするのも仕方ないことだと思う。
「あと!2本!次は大量の石!もういやぁぁぁぁ!!」
私がここに来て3日。
絶賛迷子中、そして一人ぼっちなのです。
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私が気がついたのは、規則的になり続けるアラームの音。
霞がかかったようなぼんやりとした頭が、段々とクリアになっていくとなんの音なのかを理解した。
警告音。
そこにバイタルチェックの音が混じっている。
「……え……何、何が起きたの?」
目を開けると何も見えない。
いや見えているけど、目の前にあるのは曇ったケースの窓。
『マリア・ストークス少尉の覚醒を確認。バイタル安定。コールドスリープを解除します』
流暢な声が聞こえてくる。
あぁ、そうだ。私の専属AIのエイダね。
バシュ!と音が聞こえて気密シールドが開くと……。
そこはコールドスリープに入ったときとは違う景色だった。
私は……大型航宙巡洋艦に乗ってたはずなんだけど???
今、目の前には狭いカプセルのような空間しかない。
そしてこの警告音。
まさか!
「エイダ、状況報告を!」
『現在我々は個人脱出艇にて巡洋艦ケルビムより脱出。現在地は不明、通信可能範囲、レーダースキャン範囲に味方の信号なし。現在惑星降下に向け準備中です』
「は?……脱出……なぜ?」
『詳細は不明ですが、艦隊の前方に突如として重力場が形成され、空間が歪みました。その後正体不明の物体がその歪みから出現、即座に対応に移ったものの、高出力シールド展開前に艦内への侵入を許してしまいました』
話を聞き終えて、私は目の前が真っ暗になっていくのを感じる。
つまり。
その歪みから出てきたなにかが、艦内のみんなを次々と殺していった。
エイダは次々と消えていく生体反応と、殆ど生体センサーに引っかからない未知の敵の状況を見て危険と判断。
本来ならば私もコールドスリープを緊急解除して出撃だったんでしょうけど……そうなる前に艦長が艦の放棄を選択。
一抹の望みをかけて私達はスリープ状態のままで宇宙に放り出された。
その後、艦は意図的に暴走させたエンジンの爆発によって消失……と。
私達が脱出したときにはすでに半数が同じ運命をたどっていたらしく、ひどいところでは脱出すらもできずに爆沈したそうだ。
当然脱出してもその爆発に巻き込まれて脱出艇も多数が消滅している。
私達の後ろに配置していた旗艦はイージスの盾によりなんとか被害をまぬがれたようだ。
その他の艦も盾によって防がれているすきに体制を立て直し、反撃を開始したところで私達の脱出艇はあの歪みの方へと引っ張られて遭難した、と。
で、現在はそこから数百年経って、運良く見つかったらしい地球型惑星に降下するための準備中と……!
頭いたいんですけど!
「……とりあえず、パイロットスーツ、どこ?」
『スリープポッドの脇にあるコンテナに装備が入っています』
さっきまで低代謝状態だっただけど、生体機能は完全に停滞していない事もあって裸なのよね。
パイロットスーツを着込んでヘルメットをつけて。
狭いコクピットへと移動した。
コールドスリープとは言うものの、その実態は時間の停滞に近いレベルの引き伸ばしだからね。
「わぁ……凄い、きれいな星」
青い星だ。宇宙のと境目がぼんやりと緑色に見える。
時折ちかちかと光っているのはあれは雷だろうか。
見た感じ、海の面積がかなり多い。陸地が2で海が8って所かしら?
『脱出艇の解析能力では制限がありますが、ほぼ地球と同じです。若干酸素濃度が高いですが、酸素酔などの危険はありません。大気中にも有害な物質等は検出されませんでした。しかしながら、未知の病原体などの危険は依然としてあります。しばらくの間はパイロットスーツとヘルメットは外さないほうが良いでしょう』
「そうね。……さて。降下する前に……降下ポイントは?」
『内陸部の水辺付近をいくつかピックアップしました』
今コクピットの中から見ている惑星に、オーバーレイする形で降下ポイントが表示される。
水質は問題なさそうだし、森と山があって反対側に平原が広がるここにしよう。
サバイバルするなら色々と入用だし、あまり動かずにものが手に入るほうが良い。
『目的地をセット。降下開始します』
こうして、私のサバイバル生活が始まった。
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「こんなっ!ことならっ!私の!タロスがあればっ!すぐ終わるのに!」
『残念ながら艦の爆発とともに消失しました』
「わかってるわよ!あぁぁぁ!疲れたもう無理……」
木こりって大変……せめてチェーンソー……いや、のこぎりでいいから欲しい……。
なんでこんなことしてるかって、色々とものを作るために必要だから。
今、脱出艇は一部スラスター損傷のためまともに浮くことすらできない状況。
重力に対抗できずに多分ちょっと浮くくらい。
ポータブルコンストラクター……つまり、材料さえ揃えば色々作ってくれる便利な機械を使って、道具なんかを作りたいからだ。
ただこのポータブルコンストラクター、私の大きさくらいのものまでしか作れないのだ。
あまり大きなものは出来ないから、早急に大きいコンストラクターが必要なんだけど……そのためにはセラミックと鉄や銅なんかを含めた様々な金属類、その他諸々が必要となり……そんなものはそのへんに落ちてるわけもなく。
ある程度の材料は脱出艇に積まれているとはいえ、護身用の武器と弾薬、浄水装置やら充電器やらを作ったらほぼ枯渇した。
脱出艇はスラスターが死んでる以外は動くので、電気の供給と、簡易のシェルターとしてはまだまだ使えるけど……電気も有限だからそのための充電器でもあるし、これから作るかもしれないツールの電池を充電するのにも使う。
コンストラクターは原子まで分解して組み直すっていう錬金術みたいなことをやってくれるから、とりあえず材料放り込んでおけば何がどれくらい足りないかがわかる。
差し当たって欲しいのはマルチクッカー。
これもコンストラクターみたいに材料を入れればそれを使って食べ物を作ってくれる。
なにせ用意された非常食なんて10日分程度しかないのだ。
これが尽きたら飢える。死ぬ。
で、残った材料が木と石というわけだ。
ちなみに木と石はツール類の他にも簡易拠点のためにも必要だったりする。
現地調達できるからってことでしょうけどね!せめて道具くらいほしいわよね!
タロスがあればっ!開拓から戦闘までマルチにこなせる人型のロボット!ごつい見た目してるけど意外と器用に動かせるし、重機でやれることはほぼタロスで出来るわけで。
武器も強力なの持てるし、本当に便利なのに!
っていうかあれに乗るために頑張って軍に入って宇宙開拓のコースに入って免許取ったのに!
訓練以外で使うまもなく消滅ってどういうことなの!
「……あ、集まったわよ……」
『お疲れさまです。スキャナー、コンストラクションツール、マルチクッカーの製造を開始。残り時間34時間。更にコンクリート、板材の加工のタスクを登録、全て完了まで41時間』
「なっが……」
『あくまでも携帯用ですので、複雑なものを作ると時間がかかります』
「わかってるけどっ!」
でもこの3つが出来上がると色々と捗る。
スキャナーは銃の形をしたツールで、対象物に向けてトリガーを引くことで、その組成を調べられる。
構成されている物質や、毒の有無なんかも調べられるのでこれから食べ物を見つけに行くときには重宝するはずだ。
コンストラクションツールはそのまんまの意味で、建築や製造用のツールとなる。
コンストラクターで作り出された建築物などを、ある程度の大きさごとで出力して、設置、固定するツールだ。
これがないとコンストラクターでセメントでも作ったら、でろーっとセメントが出されるだけになる。
ツールで整形して設置することで、重量物でも重さを感じることなく設置可能なのだ。
ただ、ブロック単位で出力する都合上、あまり細かい意匠なんかは無理。
それと、このコンストラクションツールは解体も出来る。解体したものはまた分解されてコンストラクターの資材となるのだ。
地面に固定されてるとコンストラクターに分解転送出来ないの、なんとかしてほしかった……!
石は楽だったのに!
まあコンストラクションツール作ったら、資材の回収も楽になるんだけど。
木材でも石材でも金属でも何でもかんでも片っ端から分解してくれるからね。
ただ小さい分ものすごく時間がかかるのはご愛嬌。当然これの強化版みたいなのもある!
『浄水装置のタンクが残り僅かです。補充を』
「パイプとポンプ必要だったよねぇ?!」
『現状、優先順位は低いです』
「ごもっとも!」
これも道具が揃うまでの辛抱……!
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『広域スキャン開始します』
「おぉー……おぉ?」
脱出艇のスクリーンに地図が映し出され、どこにどんなものがあるかと言うのがものすごく大雑把に加えられていく。
石炭や鉄はこの近くの山にたくさんありそう。
加えて宝石類なんかの物もあるようで。色々あればそれは材料になる。レンズとか。砂質土からガラスも作れるし。そこに色々と混ぜていくことでものすごく頑丈な艦船用シールドガラスの元にもなる。
森が多いからカーボンやらセルロースやら繊維なんかは問題ない。
燃料もこれで作り出せる。
ちなみに地図は降下時に周囲の地形を記録してあるので、そのデータが元になっている。
その地図に円が描かれており、それが広域スキャン範囲。
だけどそのスキャン範囲に『不明』と書かれたものが数多くあるのだ。
「エイダ、この不明って何?」
『現時点で我々の持っている知識には無い物質かと。解析することでどういったものかわかるはずです』
「……なら早くスキャナー作らないとね……」
『また、未知のエネルギーも検出。現時点で危険性などは不明です』
「それ、宇宙人の使うエネルギーだったりしてね?ワープも私達のなんちゃってジャンプなんかじゃなくて転送並の……待って、私達その異常な重力場だかに飲み込まれたって言ってたよね?」
『はい。ここで見つかったエネルギーではないようですが』
「相手は本物のワープとかそういうの使えたってこと、よね?私達より科学力上ってことになるよね?……旗艦、勝てる?」
『不明です。ただ、こちらの科学力を上回っているとすれば、使っている武装やシールドなどは相手にとって過去のもの、という可能性は大いにあります』
彼らにとって私達の装備が……私達にとっての投石機や城壁みたいなものだとしたら。
どちらも突破するのは容易だろう。
全滅もありうる、というか、可能性高いんじゃない?
そもそも……事故からすでに数百年経ってるんだし。今の今まで救助が無いってことは。
「救助、諦めたほうが良いわね」
『救難信号は発信し続けておりますが』
「もしあの敵が見つけたりしたらまずいわ。もう、救助はないものとして自力での脱出を目指しましょう。何年かかっても絶対に宇宙に出てみせるわ」
やれないことはないのだ。
材料さえあればいい。
原子の変換は出来ないけど、分子を作り出し、物質を構成し、それを組み合わせた製品まで一気に作れる道具がこっちにはある。
つまり……ものが揃っているならば、私一人でも宇宙戦艦を作り出せる。
なんなら宇宙要塞だって作れる。
宇宙に出れれば、資源は更に増える。
巨大なものを作るには相応のコンストラクターと動力源が必要だけど、それだって作り出せるのだ。
きっと出来る。
「……よし、頑張ろ。まずは移動のための車かなにかが欲しいわね」
『電動トライクを推奨します』
「バッテリーの材料とかゴムとかあるの?」
『木材を回収したときにゴムの材料となるものも回収できています。プラスチックや火薬などは炭素、水素、酸素、窒素が主な組成ですし、バッテリーはこの脱出艇のものを一部流用します』
「なるほど……」
『ただし、金属が不足しているため現時点では制作できません』
「まあ、鉄とか銅とかよね。近くに鉱脈はあるみたいけど……掘るにもコンストラクションツール無いと無理よねぇ」
手掘りなんざ絶対にやりたくない!
でもこれでもうあの原始的な手斧で必死こいて頑張らなくていいと思うと……。
それにトライクがあれば持てる荷物は増えるし、速度も出る。
バイクと違って三輪だから安定性も抜群!
小型の偵察機とか、ホバーとか作れるようになったら、もう大体のところには行けるようになるでしょうね。
……問題はそれを作るための施設を作らなければならないってこと。
もうそれを作るってことは一つの基地を作ることになる。
これが出来上がれば、手持ちのツールじゃなくて重機を併用した大型コンストラクションツールによって大型艦の建造も見えてくるわけ。
何年、かかるのかしらね?
今は脱出艇が小さいながらも家になってるけど、収納スペースなんて無いし、そもそも調理器具なんかもない。
早い所簡易拠点を立ててある程度の設備を充実させなきゃならないわね。
そうしたら脱出艇はエンジンや外装などをすべてコンストラクターにぶち込んで分解、他のマシンなんかを作るための糧とする。
電池と発電機は残して簡易拠点の電源にすればいい。
サイズの問題はあれど、規格化されたものでブロック化されてるから、ちゃんと配線さえ繋げば結構自由が効くのだ。
「つかれた……」
簡易ベッド……というかコットみたいなのに寝っ転がると、もう立ち上がれない。
シャワー浴びたい。
美味しいご飯食べたい……。
そんなことを思いながらあれこれやりたいことを考えていると、やがて眠りについていた。




