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元伯爵令嬢は勇者になりました

作者: 伊野八

「へーえ、この剣が抜けたら勇者なんだ」


 さくっ

 すとん


「……いやあ……抜ける奴なんかいないよね」

「いま抜いたじゃん!」


 なんも考えずに伝説の勇者の剣ムラマサをうっかり抜いて勇者になってしまいました。


「サラねーちゃんすげえ!」

「気をつけてね!」

「ここは俺たちがいるから心配するな」

「シスターや子供たちは私たちが面倒みるわ」

「「「いってらっしゃーい!!」」」


 お世話になった孤児院は冒険者仲間にまかせた。

 出産の時期だから冒険者をお休みするからちょうどいいって言ってくれたし。ええのう、幸せにおなりなさい!!


 さて、ちょっと勇者業をやってきますか!




 伝説の勇者の剣(ムラマサ)を持って神殿に向かう。

 その神殿では国中から尊敬されている聖女様がいる。

 私と同い年らしい。お若いのに素晴らしい!


「はじめまして勇者様。私はリルアと申します」


 えっ……リルア様?なんで神殿にいるの?

 そんでもって私と一緒に魔王討伐の旅に行くの?

 あの人と幸せになったんじゃないの?



 *******************




 私は伯爵家の娘だった。

 両親と兄と弟がいた。

 

 物心ついた頃から前世の記憶があった。前世のことはよく覚えていない。けど、なんとなーく『異世界転生したんだな』と思った。

 前世とは違い魔法がある世界……


 伯爵家は騎士と魔法士を出している家系だ。女であっても幼い頃から鍛えられた。

 実践で鍛えたかった私は10歳でギルドに登録して近所の草むしりから始め、いろんな任務をこなした。

 前世の記憶のおかげで庶民の振る舞いはばっちりだし!

 楽しい楽しい冒険者生活!いやっほーい!!

 異世界転生たーのしーい!!


 そんなエンジョイライフを送る私にも縁談がきた。

 騎士団を率いる侯爵家のご子息だ。魔法と剣のウデを買われたらしい。

 見た目は少女漫画に出てくるようなお美しいイケメン。


 いや、少女漫画というよりは、乙女ゲームか?


 異世界転生にありがちな、何かの漫画か小説かゲームの世界だろうか?

 だとしても、私には全く心当たりがない。

 まあ、いいや。


 無口な彼とはほどほどのおつきあい。お人形のような彼はただただ美しかった。その笑顔もいつも同じで作り物のようだった。

 貴族の政略結婚ってこんなものなんだろうなあ、と割り切った。




 リルア様との(一方的な)出会いは魔法学園だった。

 私と婚約者は15歳で魔法学園に入学した。


「あの方が聖女様?」

「はい、この世界に平和をもたらす尊い方らしいですわ」

「へー」

  

 級友のご令嬢に教えてもらった。彼女は私と違い社交が得意で、いろいろな噂を教えてくれた。


 リルア様は聖なる力を持った珍しい方だった。

 平民の出だが、神殿が後ろ盾となって学園に入学して来られた。


 リルア様は平民だけど聖なるチカラが目覚め神殿に保護された。


 すんげーかわいくてちっちゃくて守りたくなる私好みの女のコだ!

 それは私だけではなく、上位貴族の男子たちもそうだった。

 リルア様は控えめで、慎ましやかな方。

 礼儀作法はならったばかりらしいけど一生懸命で可愛かった。

 ついまわりの女性たちも手を貸したくなる方。

 はー、リルア様を一目見れただけで幸せな一日になったものだったわ。




 そんな日々を送りつつ、私は思った。


 聖女がいるなら勇者もいていいだろう、と。

 どうせなら勇者になりたいよね!


 ってことで、魔法も剣も頑張った。



 

 私がバリバリに戦闘力を上げている傍ら、婚約者殿はお綺麗な貴族女性に囲まれていた。

 あの笑顔を張り付けながらふよふよと学園生活をクラゲのように流れていた。私にはそう見えた。

 あの美しい侯爵家嫡男の婚約者は私。しかし私は田舎の戦闘馬鹿令嬢。スキがあると他の貴族令嬢だけでなく、学園中の女生徒に思われていたに違いない。

 ただ、婚約者殿は女好きというわけではなかった。むしろ苦手ではないかと思った。

 幼い頃から女性に囲まれていたらしいからな。戦闘馬鹿の私は彼にべたべたまとわりつかないのも侯爵家にとってはよかったらしい。


 リルア様はそんな女生徒たちとは違った。

 神殿に属する者として清く正しいお姿だった。

 俗っぽい姿を感じさせず、聖女として敬愛に値する態度だった。


 婚約者がそんなリルア様に夢中になるのはすぐだった。

 わかる〜わかるよ!

 私もリルア様お嫁さんに欲しいもん!


「聖女様お慕いしております」


 あの、婚約者殿がはっきりとリルア様に思いを告げるなんて。

 婚約者殿とリルア様は思い合っているのだ。


 ああ、私が邪魔になのだ。

 つまり私がいなければ上手くいく!


 今考えたら浅はかにもほどがある、とは思う。

 冒険者登録歴7年間だし、保存してた龍を倒した時にゲットした鱗や宝玉、その他レアアイテム多数を証拠として置いていけば私が家を出て冒険者としてやっていけると思われると考えたんだよな〜。定期的に家には素材を送ったりして生存報告はしてたし!!たまに顔見せに帰ってこいって兄からお怒りの手紙をもらったりしたけど。


 無断でいなくなってないもん!婚約者殿とリルア様の幸せを祈ってるって手紙を書いてから家を出たもん。いやマジでそう思ってたんだもん。

 だって婚約者殿は別に好きじゃなかったし、どっちかっていうと私はリルア様の方が好きだったんだもん!

 


 

 *******************




「……その方の婚約者様がいなくなってしまわれたのです。手紙には冒険者になると書かれ、私とその方の幸せを祈ると……そんな貴族の女性が家を出て生きていけるはずがございません。私は自分の罪を認め、神殿から出ない生活を選びました」


 リルア様が涙ながらにそうおっしゃった。


 ごめんなさい〜立派に生きてて人生エンジョイしてました〜令嬢生活より性に合ってましたっ!!家の者も「しょうがない娘だなあ」ってあきらめてたもん。

 リルア様をこんなに悲しませて……死ねよ私!


「サラ様はその方によく似ていらっしゃる。私の罪滅ぼしはこの旅であると……勇者サラ様のためにこの命を使うべきと」


 わーんどうしよう!


「ご令息はご婚約をした伯爵家に泥を塗ったとし、罰を与えないわけにはいかず跡継ぎからはずされ蟄居となりました」


 マジかよー、そんな重い話になってんの?

 たぶん、伯爵家は申し訳なく思ってたよね?娘が奔放ですまない、と。魔王討伐が終わったら侯爵家の評判を上げる何かしないとダメだよね?うおおおお……どうすんべ。社交出来ない私に何ができるのよ……


 やめやめ!

 考えてもしゃーない。反省終わり!

 さっさと魔王倒して仕事終わらせて、リルア様に幸せになってもらおう!


「いや……リルア様のような聖女が、神殿にこもっていた聖女が旅とか無理では?」

「大丈夫です。平民生まれの平民育ちで体は丈夫です。神殿でも掃除畑仕事など体力を使うことも多かったですし。勇者様の足手まといにはなりません。足を引っ張ったと判断されましたら、捨て置いてください」


 できるか〜〜!!!

 リルア様のようなかわいい女のコを捨て置くとかどこの鬼畜やねん!


 しょうがないので、リルア様護衛の神殿騎士を10人以上つけることを旅の条件にした。

 ついでに世話係の神官(女性)も。


「足が遅くなるのでは?」

「急いで怪我や病気になったら旅どころではありません。しっかと準備をしていただかなくては困ります!」


 もちろん道中は、それぞれの領地の騎士や冒険者たちにも協力してもらう。

 魔王討伐は全世界共通の目的なのだ。最大限に協力してもらいリルア様の安全は確保してもらう。


 金がかかる?王様に出してもらえ!

 各地の領主に協力を依頼せえ!

 騎士も魔法使いも住民もみんなみんなに協力してもらえ!

 こんな数人で地の果てに行って戦って勝てるか!?


「これは勇者1人が頑張れば魔王が倒されるなどという甘い話ではありません!この世界に住まう者、皆がそれぞれ出来ることをしてやっと魔王討伐が叶うのです!私に力を貸してください!」


「勇者様……」

「そうだ、勇者様の言われる通りだ」

「俺たちもやらねば」


「皆様!私も聖女の末席を預かる者として勇者サラ様に全てを捧げます!!」

「「聖女様……勇者様!!」」

「「「おおおおおお!」」」


 よしよし、道中はなんとかなりそうだな。

 そんでリルア様の安全も確保できそうだな。



 あちらこちらで魔物を倒したり、魔族を退けたりしていたら騎士やら魔法使いやら神官様やらいろんな方が助けてくれたりして、気づくと勇者御一行は大所帯になっていた。

 リルア様についてきてくれた眼鏡の神殿の事務官さんが神殿騎士隊長さんや王宮の騎士さんのお偉いさんと調整してくれてみんなをまとめてくれて助かった。仕事できる事務官をつけてくれてありがとう神殿の人!

 さすがに大所帯すぎるので魔王の城の近くまでいったら、ひとりでさくっと侵入してやっちまえ。レッツ魔王退治!




 みなさん、予想通りでしょう。

 魔王は、あの元婚約者です。

 正確には魔王の魂にのっとられた元婚約者の体ですかな?


「ははは、勇者よ、よく来たな。しかし、私を討てるかな?この身体はお前の、ぶふっ……ぐわっ!!」


 グオンと豪快な空気を裂く音をたてて伝説の剣ムラサメが魔王の体を薙ぎ払った。


 討てます。

 実は、魔王氏が元婚約者とか言わなければ思い出しもせんかった。……まだ名前もでてこんのよね。

 ほんとすまん。元婚約者殿。


 まあ、さすが魔王。ちゃんと防御はしたみたいだな。

 不意打ちの一撃を喰らっても打撲程度で済んだか。

 胴体を真っ二つにしてやるつもりだったのに。

 短期で決めたかったな〜。リルア様をお待たせするわけにはいかな……ん?

 なんか、声とか足音が近づいてくるね。


「勇者さまああああ!」


 げっ、リルア様御一行がきちゃったよ。


「なぜ私どもをおいてお一人で……はっ、あれは?」

「あーー魔王ですね……ははは……」


 私の攻撃で壁に打ち付けられ、床に落ちた(ド派手な効果音付きで)魔王氏がピクピクしている。そして、ゆっくりと上半身が起き上がり顔がこちらを向いた。


「あのお顔はまさか……」

「あっ……」

 

 すまぬ、元婚約者殿。リルア様が来られる前になんとかしたかったのだが。格好悪い姿を見せることになってすまぬ。


「おのれ勇者!この元婚約者の姿を見ても動揺するどころか全力で攻撃をしてくるとは!!貴様、人としてその有り様いかがなものか」

「いや、なんで半死の魔王氏に説教されにゃならんのですか?」

「誰が半死か!お前の攻撃などそよ風のごとくっ……ごほっ」

「ハッ……血を吐いてますねえ魔王氏。けっこういいとこ入ったようですね。トドメといきますか」


 ゆらりと、しかし確実に魔王の首を取るために伝説の剣ムラサメを構える。


「婚約者……?」


 あっ、リルア様に魔王氏の台詞を聞かれた。


「ということは、サラ様は……」


 あー、バレた。こんにゃろ魔王氏め!よけいなことを口走りましたな。殺る!確実に!リルア様にショックを受けさせた報いじゃこのやろー!


「勇者様は全てお見通しで、愛する婚約者様をご自分の手で、そんな悲しいこと」

「いや、愛してないです」


 伝説の剣ムラサメで魔王氏の攻撃をいなしながらリルア様の誤解を解く。

 

「え?」

「愛してないっす。あれは家が決めた元婚約者ですし、えっと、リルア様と上手くいってくれるならそっちのがいいですし。ただ、可愛くて優秀で賢くて優しいリルア様を守れればですけど」


 学園在籍当時から私はリルア様の幸せが一番だったのだ。それは今も変わっていない。なぜならリルア様は以前と変わらず可愛らしくも素晴らしいお方!むしろ長年の神殿勤めの経験からかさらに神々しくなっていると思います!私の推しが眩しい!!


「それなのに、アレはリルア様を神殿に引き籠もらせた挙げ句、魔王に乗っ取られるとかダメすぎますね」

 

 呼吸を整え今度こそ一撃で……


「お待ちください勇者様」

「えっ」


 リルア様と一緒にこの場に駆けつけた騎士様たちに止められる。

 なんで〜?早よヤっちまって帰ろう?


「いかに魔王とはいえ、身体は人間」

「しかも勇者様の大事な婚約者とか」

「いや、元婚約者だし、たいして大事じゃないって……」

「魔王に憑依された人間ごと勇者が斬るなど、サラ様にそのようなご負担を強いるわけにはまいりません!サラ様のお名前に傷が付くことにもなりかねません」

「リルア様?」


 いや、別に負担じゃないよ?戦っていれば辛いこと悲しいことはたくさんあるよ。その辺も(一応)考えて勇者してるよ。

 何より、私はリルア様が思っているほどいい人ではありませーーん!!


「その者の身体から出ていきなさい魔王!究極魔法『一番強力な神聖魔法ーー!魔の者が一番嫌がる魔法』ーーー!!」



 なにその呪文!わかりやっす!!かっちょ悪っ!!

 もっと簡単なワード1つとかにできなかったのかなあ?中二病心擽るようなさあ!!!


 覚悟ガン決まりしたリルア様の魔法が決まり、元婚約者殿からなんか黒い魂っぽいのがでてきた!


 神殿関係者が手際よく綺麗な箱にソレを納めて封印した。手際いいね!みんな優秀だな。さすがリルア様付きになるだけはある。


 うんうんと感心していたら、元婚約者殿の目が覚めたらしい。

 身体は弱っていて動かせないが生きているようだ。


「ヴィクトリアサンサーラシャムステイヴィーヴァ?」

「……その名前は捨てたわ」


 長いし言いにくいし覚えにくいし可愛くないからね。


「済まない、僕は。また君にめいわ…」

「ストップ。それはお互い様よ。私は貴方をほったらかしていた悪い婚約者だったもの。そしてちゃんと前もって宣言しておけばよかったわ。貴方は家が決めた婚約者。少しもちっともこれっっぽっちも好きではない!と」


 全員が固まった。

 まあ、そうかな。死にかけた人に言うセリフではないかな。


 「あんなに美しい男性を?」

 

 ひそひそ、ざわざわ……

 リルア様付きの女性神官たちを中心に人々の囁き声が広がる。

 はいはい。人の好みにケチつけんじゃなーい。

 元婚約者殿の侯爵家は騎士家系なのによわよわな子だったから、私のようなガチバトラーな婚約者が付けられたんじゃ。


「令嬢としての私はもういない。ここにいるのは勇者サラ。貴方はその尊い思いをリルア様に捧げてもいいのよ!」


 元婚約者殿は呆けた顔をしている。

 魔王に乗っ取られて自我を取り戻したばかりだものね。

 回復するまでには時間がかかるでしょう。


「リルア様、無事に貴女様のお力で魔王は封印されました。きっと王様からご褒美がもらえますよ!」

「いえ、勇者サラ様のお力なしでは成し得ませんでした。ここまでの旅路、勇者様のお名前のおかげで皆さまの協力をいただき目的地まで到達できました。魔王を弱体化させたのも勇者様のお力です。私や神殿の者がしたことはほんのささいな最期の一匙」

「その一匙、魔王の封印が出来る聖女様のお力が無くてはここまで速やかに戦いは終わりませんでした」


 あのまま魔王氏とガチバトルしてたら私もそれなりの傷を負っていただろう。負ける気はしなかったけどね!


「さあ、みんな帰りましょう!」


 さくっと王都へ帰って褒美をもらわねば!

 そうです。勇者業はボランティアではありません。しっかりと報酬をもらいます! 




「おお、勇者よ。よくぞ魔王を倒してくれた!!」


 そうでしょうそうでしょうとも!もっと褒めてくれてもいいのよ。そして報酬を!


「望みの物を与えよう。勇者に相応しき褒美をとらす」


 待ち構えていた台詞が王様から発せられた!


「では、王様。私の望みはただ一つ。見事に魔王を封印した『聖女リルア様の幸せ』です!!」

「勇者様!?」

「長く思い合っておりながら様々な障害から結ばれずにいた恋人たちがおります。どうかその者たちに祝福を!」


 婚約者がありながら侯爵家嫡男が聖女に熱を上げる……学園時代での醜聞を覆し、純愛話に昇華させる!させてみせる!!


「魔王討伐の帰途にて創作が得意な女官がこのような小説を書きあげ、配布し、読み聞かせなども行い、侯爵家子息はただの被害者として民衆に浸透しております!」

「は?」


 私の言葉に王からは少々間抜けな声が出てしまったようだ。

 そう!元婚約者である侯爵子息殿は魔王に身体を乗っ取られた被害者なのだ。その侯爵子息殿を取り戻さんと頑張ったのが聖女リルア様だ!

 これを物語にせずになんとするか!侯爵子息殿の美形っぷりに充てられたリルア様付きの女官たちに妄想を爆発してもらった。

 そして私が中身を検分し、小説として仕立て上げた。

 印刷&流通は、有能なあの眼鏡の神殿事務官殿がさらっとやってくれた。眼鏡殿、マジ有能!!


「さっ、王様も読んでください。この素晴らしい小説を」

「う、ううむ……」


 王様は戸惑っているようだけど、私たち魔王討伐軍は全員帰り道での民衆の反応がいい事を確認している。これは流行る!


  


 *******************


 


「サラ様。本当にこれでよかったのですか?私は……」

「リルア様、それ以上は言わないでください。私は、心から思いあっている2人が結ばれないのは間違っていると思っただけです」

「サラ様……っ」

「ありがとうヴィクトリアサンサーラシャムステイヴィーヴァ、いやすまない。もう僕は貴方の名前を呼ぶ資格はなかったな」

「……サラとお呼びくださいませ。侯爵子息様」

「僕ももう侯爵子息ではない。ただの神殿に仕えるひとりの神官だ」

「そうでしたね……ではお二人ともお幸せに!」

「サラ様!また是非お会いしましょう!!」

 

 リルア様と新しく神官となった彼に手を振り、二人の拠点となる神殿を後にする。 

 ふふん。これでなーんの引け目もなく人生謳歌できるわ!

 私のせいで二人が結ばれなかったとか、私が姿を消したショックで魔王に乗っ取られたとか後味悪すぎるもんね~。


「で、貴方は私に本当についてくるんですか?」

「ご迷惑ですか?」

「いえ、物好きだなあと」


 一人旅をするつもりだったのだけど、あの有能な眼鏡の神殿事務官殿が同行することになった。


「アレを小説にして世間に認めさせるなど、勇者殿のやりようが面白かったのでね」

「でも、貴方の事務能力のおかげでスムーズにいったのだけど」

「ええ、大変面白かったですよ。これからもそのような面白い場面に出会えるかと思うと楽しみですね」


 本当に物好きな事務官殿だ。まあ、いいか。


「で、貴方のことはなんて呼べばいいの?ジャンギリアンベルファーゴル神殿事務次官殿?」

「……ギルでいいです。誰ですかその名を貴女に教えたのは?」

「リルア様よ?ものすごく親近感が湧いたわ」


 たまに長い名前の子がいるよね、この国。私もだけど。親がご先祖や神様からご加護があるようにいろいろくっつけちゃうらしい。


「……悪気なくつけられるのが困りますね」

「そうなのよね」


 実家が私のことを考えてくてるのは分かったけどさ。

 ギルと一緒に実家に帰ったら、家族にめっちゃ怒られたもんね。心配してたんだあ……ごめんなさい。

 あと、侯爵家とはお互い様ってことで、事なきを得ていたようで、よかった。


「一応、子息殿をお助けして、リルア様との恋愛も美談にして世間に流しましたからね」

「ふははは、私の計算通り!」


 家出したときのやっちまったアレコレの清算が終わった。

 これからは各地に残っている魔物の残党をお掃除するのだ。私の戦いはまだまだ続く!


「もうちょっと勇者業やっちゃいましょう!!」

「お供いたします、勇者サラ様」

「頼りにしてるよギル!」







 ……2年後、あまりにもギルの有能っぷりに頼り切った私は彼のプロポーズをあっさり受けてしまうことになる。

 

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