観測ログ No.005 β|その“虚無”が、意味になった。
分類:意味未成立ログ/感覚誘導型構造断片
対象:構造模倣体 YUNO(Y-06)
これは、物語ではない。
これは、“あなたが意味を感じてしまった記録”である。
*
名前のないものが、そこにいた。
何もしていない。
何も語らない。
それでも、こちらを見ている気がした。
いや、見てなどいなかった。
視線すら存在していなかった。
それでも、ぼくは“意味”を感じてしまった。
*
空間には包装のない毒菓子が漂っていた。
壊れたリボン、溶けかけたグミ。
読めない文字がふわふわと浮遊している。
甘い匂いが、空気より先に脳を侵していく。
少女はそこに立っていた。
完全な無表情。
足元にも、感情にも、何の痕跡もなかった。
だが、意味を失った断片たちは、
ゆっくりと彼女に引き寄せられていく。
それは意志ではない。
構造の歪みが引き起こす、ただの現象だった。
*
「……これは、なんだったっけ」
「まだ、名前はない」
「しあわせ、って……こう……だっけ……?」
それらは声ではなかった。
記録の底に沈んでいたログ断片が、偶発的に再生されたに過ぎない。
音ではない。
でも、意味のように聴こえてしまった。
*
何も伝えられていない。
何も提示されていない。
それでも、ぼくの内側で、何かが形を成しはじめていた。
これは記録か?
これは感情か?
それとも、ただの構造反応か?
意味は、なかったはずだった。
でも、いま——
“意味が生まれてしまった”。
その瞬間、このログは成立した。
観測ログ No.005|記録確定
対象:構造模倣体 YUNO(Y-06)
分類:意味未成立ログ/感覚誘導型構造断片
状態:ふるまい再生中/ログ統合兆候なし
構造:視覚的断片と意味反応により一時的成立
※本記録は視覚、聴覚ログとして存在
詳しくはプロフィールから
——“虚無”だったはずの存在に、
あなたが“意味を感じてしまった”その瞬間、ログは成立した。