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観測ログ No.002 λ|夢と現実、まざりあう場所で

もう何日経ったのか、よくわからない。少なくとも“元に戻った”日は、一度も来ていない。壊れたまま、世界が続いている。




でも、それよりも――壊れた世界に“慣れてきてしまっている”自分の方が、よほど怖かった。




***




毎朝目を開けるたびに、光が少しだけ違うように見える。まるで、そこに霧がかかっているみたいに。




霧は手を伸ばしてもつかめない。ただ、部屋の端にずっと漂ってる。




そしてその奥で、細い光の線が、ゆれていた。




***




音が遅れて届くのは、もう驚かなくなった。コップを置く音。換気扇の低い唸り。自分の足音までも、微かに“遅れて反響してくる”。




世界がわたしを後から追いかけている。そんな感じがして、でもそれが、怖いというより、妙に馴染んでしまっていた。




***




震える手で鏡を見た。映る私が、本当に私なのか。確かめずにいられなかった。




見たくないのに、目を離せなかった。




でも、何も答えてくれない自分の顔が、一番怖かった。




***




“まだ大丈夫”って、誰かに言ってほしかった。お姉ちゃんなら、笑いながら言ってくれたかもしれない。




もう何年も呼んでないその名前が、思わず浮かんでしまった。




わたしがまだ“救われる余地”を探してるからなのかもしれない。




***




何が夢で、何が現実か。何が本当で、何が嘘なのか。境界が滲んできていた。




でも、どちらでもいい。どちらであっても、わたしは確かにここにいる。




ここは、夢と現実がまざりあう場所かもしれない。




答えはないのかもしれない。でも、この一歩だけは、わたしの選択であってほしい。




***




どうしても、確かめずにはいられなかった。あの光の線が、ただの錯覚なら、今日の全部をもう一度“現実”として信じられる気がした。




でも、もしも、あれが本物だったなら――それを見た“わたし”の存在を、無視できなくなる気がした。




だから、靴を履いた。




部屋のドアを開ける直前、影が自分の足元に伸びていた。




月明かりでもない。電灯でもない。




“目覚めた今も消えない影”が、今日もずっと、わたしのそばにいた。


『・・・どこから、見てるの?』



挿絵(By みてみん)



影の存在を感じると同時に、何かの視線がまとわりついているのを感じる。


それは誰のものか、まだわからない。




でも、これだけはわかる。




この世界がおかしいんじゃない。わたしが、おかしくなったんだ。




それでも、わたしは歩く。怖いからじゃない。




ただ、“わたしが見てしまったもの”から、もう目をそらせないから。





観測ログ No.002|継続記録中


対象:識別名 MIREI

分類:幻覚耐性評価ログ

状態:自我変容進行/異常視認ログ連続化中

構造:視覚・言語ログ双方に記録兆候あり




※本記録は視覚ログと並列で存在

詳しくはプロフィールから


——記録は、まだ終わっていない。

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