観測ログ No.002 λ|夢と現実、まざりあう場所で
もう何日経ったのか、よくわからない。少なくとも“元に戻った”日は、一度も来ていない。壊れたまま、世界が続いている。
でも、それよりも――壊れた世界に“慣れてきてしまっている”自分の方が、よほど怖かった。
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毎朝目を開けるたびに、光が少しだけ違うように見える。まるで、そこに霧がかかっているみたいに。
霧は手を伸ばしてもつかめない。ただ、部屋の端にずっと漂ってる。
そしてその奥で、細い光の線が、ゆれていた。
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音が遅れて届くのは、もう驚かなくなった。コップを置く音。換気扇の低い唸り。自分の足音までも、微かに“遅れて反響してくる”。
世界がわたしを後から追いかけている。そんな感じがして、でもそれが、怖いというより、妙に馴染んでしまっていた。
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震える手で鏡を見た。映る私が、本当に私なのか。確かめずにいられなかった。
見たくないのに、目を離せなかった。
でも、何も答えてくれない自分の顔が、一番怖かった。
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“まだ大丈夫”って、誰かに言ってほしかった。お姉ちゃんなら、笑いながら言ってくれたかもしれない。
もう何年も呼んでないその名前が、思わず浮かんでしまった。
わたしがまだ“救われる余地”を探してるからなのかもしれない。
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何が夢で、何が現実か。何が本当で、何が嘘なのか。境界が滲んできていた。
でも、どちらでもいい。どちらであっても、わたしは確かにここにいる。
ここは、夢と現実がまざりあう場所かもしれない。
答えはないのかもしれない。でも、この一歩だけは、わたしの選択であってほしい。
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どうしても、確かめずにはいられなかった。あの光の線が、ただの錯覚なら、今日の全部をもう一度“現実”として信じられる気がした。
でも、もしも、あれが本物だったなら――それを見た“わたし”の存在を、無視できなくなる気がした。
だから、靴を履いた。
部屋のドアを開ける直前、影が自分の足元に伸びていた。
月明かりでもない。電灯でもない。
“目覚めた今も消えない影”が、今日もずっと、わたしのそばにいた。
『・・・どこから、見てるの?』
影の存在を感じると同時に、何かの視線がまとわりついているのを感じる。
それは誰のものか、まだわからない。
でも、これだけはわかる。
この世界がおかしいんじゃない。わたしが、おかしくなったんだ。
それでも、わたしは歩く。怖いからじゃない。
ただ、“わたしが見てしまったもの”から、もう目をそらせないから。
観測ログ No.002|継続記録中
対象:識別名 MIREI
分類:幻覚耐性評価ログ
状態:自我変容進行/異常視認ログ連続化中
構造:視覚・言語ログ双方に記録兆候あり
※本記録は視覚ログと並列で存在
詳しくはプロフィールから
——記録は、まだ終わっていない。