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居場所


 工事に参加してからの一週間はあっという間だった。

 帝国の「街道」の形は帝国法で厳密に定められている。

 まず街道の中央部分が馬車のための高速移動用の道になっている。これは対向に走る二台の馬車が街道上ですれ違うことができる幅だと決められている。

 その馬車道の両側に歩道がある。この歩道の幅は厳密には決められておらず、都に近い場所では交通量が多いので馬車道よりも広く取られることもある。タウリノ村近くのこの場所は見渡す限り牧草地で交通量は少ないため、歩道は馬車道の半分くらいの幅に設定されていた。

 俺たちの仕事は、地面を掘り返して、砂利を詰め、上に石を敷き詰める。それをずっと繰り返していく。


 工事責任者の名前はイズニヤというらしいが、現場の人間はみな「隊長」と呼んでいた。昔、帝国軍の百人隊長だったらしい。きっと俺とは違う軍団にいたに違いないが、隊長の由来を聞いてからは、同じ元軍人ということで親近感を覚えたものだ。

 一週間の間に、「道路敷設隊」の連中とはずいぶんと距離が近づいた自負があったが、特に気が合ったのはリウニスとハカルの二人だ。

 リウニスは俺よりも十は年下の細身の男だ。ここに来るまでは東国で商いをしていたらしいが、事業に失敗して借金取りに追われてここまで逃げてきたらしい。リウニスというのも、借金取りから逃げるための新しい名前で、本当の名前は何度聞いても教えてくれなかった。

 ハカルは、リウニスよりもさらに若い。異国からやってきた探検家で、とある大盗賊が帝国のどこかに隠したと伝承でうたわれる「未明の財宝」を探してあちこちを旅しているらしい。

 二人とも、ここでの仕事は路銀を稼ぐための一時的なものだという。

「ライゼルは? 何かやりたいことがあるの?」

 昼食休憩のとき、ハカルに無邪気にそう聞かれて、俺は返事に窮した。

「まあ……今は色々と考えてる時期なんだよ」

「ライゼルも一緒に財宝を探しに行かない? もし見つけたら3:7でいいよ」

「そこは折半であれよ」

 リウニスが突っ込んだ。

「ダメ。先に船に乗った特権を手放す気はないよ」

 俺は笑って、「悪いが、俺は地に足のついた生活がしたいんだ」とやんわり断った。

「まあ、奥方がいると生活を守るのが一番重要だよな」

 リウニスはリナールをちらと見て言った。

 俺は口に入れた粥をもどかしく飲み込む。

「何度も言うが、これは俺の配偶者ではない」

 配偶者ぁ? と、二人が繰り返した。

「何度も聞くけど、じゃあどういう関係なの?」

 とハカル。

「俺とこいつの関係は、無関係だ」

「えー。無関係なのにここまでついてきたの?」

 後半はリナールに問いかけるように言った。リナールはニコニコ笑って首をかしげる仕草をした。

「リナールさんはライゼルのことどう思ってるの?」

「んー? 好きー!」

 と、リナールは即答した。ハカルもリウニスも、ニヤニヤと笑って俺たちを見ている。

「ここまで言わせて、甲斐性なしめ」

 と、リウニスのくせに倫理的なことを言った。

 俺は肩をすくめて、

「リナール、どの人間が一番好きか?」

 と問うた。リナールは迷うことなく。

「人間、みんな好き!」

 俺はそれみたことかと二人を見返した。

 そのとき、隊長が鐘をガラガラと鳴らした。昼休憩が終わって、勤勉な俺たちは会話を切り上げて立ち上がった。




 日が沈めばその日の仕事は終わりだ。

 夕飯当番の作ったクズ野菜入りの麦粥とチーズが配られる。

 いつものように三人(と食事をしないリナール)で食べようとしていたら、リウニスの姿がない。

 いちおうリウニスの分の食事も受け取っておいて、先に二人で夕食を始めていたら、リウニスが姿を見せたのは俺たちが食べ終わるころだった。

「なあ、ライゼル、ハカル」

 と、リウニスは声と姿勢を低くして言った。その雰囲気を察して俺とハカルも小さくなる。

「どうした?」

「これを見てくれ」

 と、リウニスは持っていた麻袋の口を広げて中を見せた。薄暗い中を目を凝らすと、人間の肩幅くらいはありそうなキジを締めたものが入っていた。

「どこから盗んできた?」

 盗みは重罪だ。そして隊長は現場の規律に厳しい。ここに来てから、手癖の悪いやつが隊長にしょっぴかれているのを見たことがあった。

 しかし俺の心配とは裏腹に、リウニスは笑ってそれを否定した。

「違う違う、近くに住んでる農夫からもらったんだよ」

「……へええ、そりゃ、よっぽど博愛精神のある農夫だったんだね」

 と、ハカルは疑いを隠さずに言った。リウニスは心外とばかりに、

「タダで貰ったわけじゃない、交換だよ。私が手紙の代筆を引き受けたんだ。これでも文才には自信がある」

「借金取りには通じなかったみたいだけどね」

「あんまりごたごた言うとキジを食いそびれるぞ」

「え、分けてくれるのか?」

 と俺は驚いて言った。俺たちは何もしていない。

 リウニスは照れたように、

「いくら私でも一人で食べるには多すぎる。それにキジを焼く間に他のやつらにバレないように見張りが必要だ」

「いや絶対バレるだろ」

「地面に埋めてその上で焚き火を燃やせばいいんじゃない? そういう調理方法を聞いたことがあるよ」

「おお、さすが探検家」

 ハカルの提案が採用された。



 結果としてホクホクに火の通ったキジの肉は香ばしい香りを周囲に漂わせ、結局他の仲間たちにも見つかって、キジ肉は全員で分けることになってしまった。

「くそう……タダ飯を食いやがって」

 と、リウニスはほぞを噛んでいた。

 全員で等分したキジ肉は、満腹になるには程遠い量だったが、俺は満足だった。



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