高松宮記念に向けて 不安材料の多い馬たち
騒がしい繁華街を安西、坂井、高坂の三人組は歩いていた。
「今日、どこで食べるよ」
「いつもの酒場にします?」
「たまには中華とかいいっすよね」
仕事終わりに夕食を一緒に食べようということになり、店を探していた。
「中華なら、餃子の美味しい店を知ってますよ」
「いいねぇ、ただ俺は餃子にはうるさいぞ」
「意外っす」
「意外ってなんだ。意外って」
三人は坂井のおススメの中華屋・春秋で食事を行うことにした。
「美味い、これは美味いわ」
「マジっす。マジで美味いっす」
安西と高坂の二人は餃子や他の中華料理を食べながらそう言って騒いでいた。
「でしょ。量もあってコスパいいんですよ」
「それな。最近、ふところ寂しい俺たち庶民の味方よ」
「最高っす」
メインを食べてからビールとつまみを頼んでから彼らは話し始めた。
「さて、次のG1は高松宮記念だが、本命は決めたか?」
「まだっす」
「私も悩んでますね」
「実は俺もなんだ」
ダート戦線もそうであったが、短距離戦線には主役はいない。しかもその期間が長かったと言って良かった。数年だけ見ても常に勝ち馬がコロコロ変わり、馬券内でも連続して入る馬でさえ稀というレベルである。
「まあどの馬も強みが無いわけではないんですけどね。こうこれだって言うほどの馬がいないというか……」
「そうっすねぇどうもぱっとしないというか」
「ふむ、二人もそんな感じか。まあ良いさ取りあえず三人寄れば文殊の知恵って言うし、三人で話していこうぜ。先ずは馬場の想定から始めよう」
安西はそう言うと坂井がスマホの画面を見せる。
『土曜の夜から雨が降りますがそこまで激しなく、日曜には止んでいるでしょう。それでは皆さん、。レッツ競馬ライフを~』
緑髪の女性・競馬大好きお天気お姉さん美衣さんが胸を揺らしながらそう言ってた。
「美衣たんの天気予報を見る限り、稍重というところでしょうか」
「まあ、連年通りって感じだな。まあこの人の天気予報微妙に外れることもあるから信頼できないが……」
「そこが可愛いんじゃないですか」
「そういうことじゃねぇよ」
メガネをすっと上げながら言う坂井に安西は呆れながら言う。
「そうっすね。でも雨川騎手は今回、中京ではなく中山っすもね。流石に大丈夫じゃないっすか?」
「因みに中山競馬場の方は晴れだそうです」
「雨川がメインレースに出る以上、どうせ雨降るだろ」
今回の高松宮記念での馬場条件、天気はいつもの高松宮記念のようである。時期的なものはあるが、稍重で行われることの多い中京1200mのG1レースであるこのレースへの考え方に特殊性は無さそうである。
「てことは馬の実力勝負になるってわけだ」
「そうですね。まあその実力というところで悩んでいるわけですが」
「そうっすね」
「では、次は人気順で見ていくとするか」
安西はそう言ってタブレットを出して出走表を見せる。
「1番人気はアカキラグーン、4歳の馬だな」
「阪急杯を勝ち、鞍上にカルロス騎手を迎えて、調教も中々ですね」
坂井が別にタブレットを出して調教映像を見せる。そこには1番人気らしいタイムを出しているのが見えた。
「確かにいいな」
「俺は疑ってるっす」
「ほうその心は?」
高坂にそう聞くと高坂はこう言った。
「アカキラグーンは強いか強くないかでは、強い馬だとは思ってるっす。でもこの馬、気性面で問題があって、葵Sを勝った時の鞍上は淀川騎手だったっすけど、そこから鞍上が変わってから重賞を連敗、鞍上を淀川騎手に戻したらオープン戦で勝ち上がって阪急杯を勝ったっす。鞍上を変えることがプラスにならないタイプの馬っす」
鞍上を変えるという行為は良いことも悪いこともある。
「なるほど、まあその等の淀川騎手はスラッシャージオ―の鞍上なわけだが」
「では、次はスラッシャージオ―の話をしましょうか」
「現在の5番人気の5歳馬っすね」
「俺はこっちのが怪しく思うんよな」
安西は難しそうな顔をしながら言う。
「何せこの馬が勝ったレース昨年の阪神Cだぜ」
「霧の中で行われたレースでしたね」
「そうそう。正直、レース本当にやるんかってレベルだったんだぜ。そんなレースで勝った馬を純粋に評価するの難しくないか?それにこの馬、阪急杯でアカキラグーンに負けてるし、鞍上も変わっている」
「同じ考えの人が多くて、5番人気なのかもしれませんね」
特殊な条件で勝った馬は警戒されるものである。
「それでも5番人気ってのがよくわからんが」
「馬格のある馬っすからね。馬体重視派の評価は高いっす」
スラッシャージオ―は馬体重524キロという巨漢馬である。
「次は人気繋がりで2番人気はマルローはどう思います?」
「4歳前半までは2勝クラスをうろうろしていたが、後半から掲示板常連になり、11月から4連勝と今、勢いのある馬だな」
「しっかりとした先行力のある馬っす」
「個人的にはこの馬に対して思うのはローテですね。この馬、一月に一回ペースで走り続けているんですよね」
現代の競馬でのローテとは思えないローテである。疲労面での考慮は必要であろう。
「さて、そんな中、3番人気は4歳のロロノアです」
「ロロノアかあ……」
「スタートがヤバくなってるっす」
ロロノアは中山記念の際に出遅れをしてから次走は中山記念へ出走した。しかし、そのレースで大出遅れをし、大敗を喫した馬である。
「あそこまで出遅れが酷くなるとはなあ。それに一応、1200m走ったことはあったものの新馬戦と下級条件戦での話だろう。あのスタートかつG1での1200m戦……なんで3番人気なんだ?」
「逃げ馬でレースのペースを握るからですかね?」
「おいおいあのスタートのやばさを見てないのか。スタートの好さだけでいいなら10番人気のマガノジャスミンじゃねぇの?確か逃げたこともなかったか?」
マガノジャスミンは5歳牝馬である。
「マガノジャスミンが逃げやっていたのは下級条件で走っていた時の話ですね。オープン入りしてからは差しになったんですよね。シルクロードSで2着になったあと、愛知杯に出走しようとしてトラブルがあったとかで高松宮に登録して除外対象でしたが、回避馬が出てきたために出走できるようになったんですよね」
「うーん重賞で結果は出したあるっすけど、元々G1出走予定がなかった上に事前にトラブルあったというのは買いたくないっすね……」
「でもよ。厩舎のコメント見るとマガノジャスミン逃げ宣言してないか?」
安西が出走前コメントの一覧を見せる。
『ハナをきる馬がいないため、いっそうちの馬にハナをきってもらおうと思いまして』
「コメント軽いっすね」
「品川調教師っていつもこんな感じの人ですよ」
「陣営含めて戦法が決まっていてもう一頭の逃げ馬は信用ならない。俺はマガノジャスミンを本命にしようかな」
安西はビールを飲みながらそう言う。
「そうですね……私はスラッシャージオ―にします。阪神Cは確かに特殊条件ではありましたが、勝ち方自体は強い勝ち方だったとは思いますので……まあ正直、自信はないですね」
坂井は自信無さそうにそう言った。
「俺はマルローで行くっす。勝ち続けている馬は負けるまで買えって言いますからね。先行力もあるのも評価っす」
高坂はそう言った後、
「そう言えば、シルヴィアシルバーはどう思います?」
その言葉に二人は難しそうな顔をする。
「実力はありますが、1200mは初めてですね。引退する予定ですし、無理させないでしょうし、買ってもヒモまでですかね」
「怖いのは市川が乗ることだな」
安西の言葉に高坂は聞いた。
「市川騎手ってどんな騎手なんですか?平場で乗っているのは見たことありますけど、G1どころか重賞でも見たことないというか」
「ああ、お前は市川の全盛期を知らないのか……」
「それでもG1に出て来るのは稀でしたからね」
そんな風に二人が言うのを高坂は首を傾げる。
「彼はどの騎手よりも優れや騎乗能力がありましたが、それ故に気性的に、虚弱的に乗り難しい馬に乗ることが多く、それ故に勝ち星を落とすことが多かったです」
「そうそう、だから負けている印象のが強いんだよな」
「ですが、馬上での彼の騎乗スタイルを見た誰もが美しいと称しています」
「馬へ一切負担を残さない乗り方ができている騎手なんだ。だからこそ、そんな市川の騎乗がばっちりと嵌まる馬が時々出て来るんだよな。そういう時がマジで怖い」
「そうなんっすね」
高坂が二人の言葉に静かに頷くと安西はビールを飲んで笑いながら言った。
「でも早々嵌まる馬なんていないっし、そもそもG1に出るようなレベルの馬を任されるのも稀だからな。ヒモにするぐらいだな俺は」
「私もです」
「なるほどっす」
「さて、三人の本命も決まったし、そろそろ帰るとするか」
安西が立ち上がると二人も立ち上がる。
「ごちっす」
「いや今日は割り勘だ」
「ケチっす」
「ケチじゃねぇよ」
「早く支払いしますよ」