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ターフに謳えば  作者: 大田牛二
2XX0年 打倒皇帝
5/20

幕間 ある地方騎手の独白

3月某日


 『本日の大井のメインレースを制したのは一番人気……鞍上の獅戸壮太はこれで今日は8戦8勝。大井ナンバー1ジョッキーの名は伊達じゃない』


 実況の声が大井競馬場に響く。観客の歓声や馬券を外した者の声も轟く。


「獅戸先輩には適わないっすね」


 2着の騎手が獅戸壮太にそう言った。


「全くだ。これでは相手にならんな」


「よっ大井の天才騎手」


 他の騎手たちも口々にそう言う。


「いえいえ、馬のおかげですよ」


 獅戸壮太はそう言いながら騎手たちから離れていった。


(ああ、何が天才だ。何が適わないだ。当たり前だろ。お前たちが何の工夫もせずに乗ってるからだよ)


 彼は苛立つと同時に呆れてもいた。馬に合わせてしっかりと乗れば勝てるにも関わらず、ただ乗ってるだけのやつや気性難だからと抑え込むだけの騎乗をするやる。ペースや馬場読みも浅く、他の馬との力関係を理解できない。そんな連中ばかりを相手に良い成績を納めたところで何が天才か。


 最近の地方の騎手のレベル低下を感じながら彼は厩舎へ戻っていった。


「どうしたそんなに苛立ついて」


 獅戸壮太に向かってそう言ったのは獅戸健太、壮太の父にして大井の調教師である。獅戸壮太は父の厩舎に所属している騎手である。


「別に……」


 さっきまで考えていたことを口に出すほど、壮太は子供ではない。


「まあいいさ。さっさと馬の世話を手伝え」


「はいはい」


 手伝いを終え、獅戸壮太は家に戻るとタブレットを見た。内容は今年のサウジカップである。


 今年のサウジカップに出走したのは暴走機関車・ストロングトレインである。


 去年の安田記念勝利馬であり、天皇賞秋2着の成績を持っている現5歳の馬である。そして今回のサウジカップが初のダート戦であった。


『サウジカップに電撃参戦したストロングトレイン、初のダート戦ですがどのような活躍を見せてくれるのか。楽しみですねぇ』


 因みにダートを走ったこともないにも関わらず、サウジカップに挑むことにした理由はこの馬のオーナーである関勝太郎氏が、


「日本の馬が一頭も出ないなら私の馬を出場させてみようではないか」


 と、言い出したためである。


『さあ、サウジカップスタートしました。さあ、いったいったストロングトレインがいったやはりハナを切ったのはストロングトレインです』


 ストロングトレインがサウジやアメリカの強豪馬を尻目に一気にスタートから先頭にたった。


 ここからなぜ、ストロングトレインが暴走機関車などという二つ名を与えられているのかがわかるレースを見せる。


『さあ、ストロングトレイン先頭を走ります。コーナーを回りここまでラップタイムは正にハイペース。いつものように暴走かと思えるほどのラップタイムを刻みながら先頭を走っていきます』


 この馬は常に先頭を走り、かつ一切、ペースを落とさずに走っていくのである。その狂気と呼ぶべき逃げ戦法を行いながらG1勝利してみせたことから、人々はストロングトレインを暴走機関車と呼ぶようになったのである。


『さあ、最終コーナーに至る依然として先頭をいくストロングトレイン、ペースを緩めないままゴールに向かっていきます。各馬、それを許さないとばかりに猛追していきます』


「すげぇな。こんな馬がいるのか」


 獅戸壮太は思わずそう呟く。ストロングトレインに迫る各国の馬たちであったが、そのほとんどがストロングトレインのペースを前にバテバテ状態であった。


『ストロングトレイン、流石にバテてきたか。脚が上がり始める。しかし、しかし先頭を譲りません。後方勢、届くかしかし、ストロングトレインなおも逃げる。14番・バルクスホーンが最後方から突っ込んできた。しかし、ここでストロングトレイン一着でゴールイン。やりました。初ダート、初海外遠征にも関わらず、ストロングトレイン見事逃げきって勝って見せたぞー』


「中央の馬はこんなヤバい馬がいるのか……」


 地方でこれほどの狂気とも呼ぶような逃げをやる馬はいない。


(果たしてこの馬に俺が乗るとした乗りこなせるだろうか……)


 鞍上の鬼童良和騎手もこれほどの逃げを打ちながらも粘らせて見せている。


「そう言えば、サウジカップを勝ったストロングトレインって次走が大阪杯らしいな」


 多くのファンがドバイワールドカップへの出走を望んだが、


「俺の地元で愛馬が勝つ姿が見たい」


 オーナーはそう言って断固として大阪杯への出走を曲げなかったという。


「大阪杯でも同じような逃げを見せるのだろうか……いやそうするべきであろうな。あの馬はそう言う馬だ」


 壮太はそう呟きながら次に今年のフェブラリーSを見る。こっちのレースでも強い馬の強さが見れたが同時に騎手同士の凌ぎ合いも見ることができた。


「凄い、俺でも知っている気性難のドンキホーテを完全に折り合いをつけているし、スコールナイトのイン突きを内を閉めて塞ぎにいっている遠藤騎手、それに対して結果としてスコールナイトを助けることになったが内を閉めることを許さないポジションを取り続けたジャック騎手」


 恐らくジャック騎手があのポジションを選んだのは馬の順位を少しでも上げるためであろう。もしも遠藤騎手のプラン通りに内を閉める動きをされていたら外を回すことになるスコールナイトに、ヨーロレイ、五着に来ていたサミダレジオ―と順位争いをすることになってマグナスの順位を下げてしまう可能性がある。だからこそドンキホーテを牽制しヨーロレイよりも前で競馬をすることにしたのだろう。


「本当にここまでスタートから予想してドンキホーテの近くに控えたのかジャック騎手……そんな中、ヨーロレイの左に膨れる癖を見抜き、イン突きを行う雨川騎手もすげぇよ」


 中央ではここまでの駆け引きを行っているように獅戸壮太には思えた。


「凄いな。俺がもしこのレースに参加していたら」


 どのような競馬をしていただろうか。想像はいくらでもできた。しかしながらそんなことは無意味であうr。


「俺は頭悪いから中央に移るなって無理な話だしなあ」


 それに父親のこともあった。小さい頃に母を亡くし、父は自分を育てるために現役バリバリであった騎手を止めて調教師になって自分との時間を作ってくれた。そんな父の代わりに騎手として活躍して父の厩舎のために勝っていきたいと思っていた。


「それでいいのさ」


 騎手としての向上心と挑戦心、父への恩返しという思い、その狭間の中に彼はいた。


 翌日


「今回、厩舎に新しい馬がやってくる」


 朝食を一緒に食べながら獅戸健太は息子へそう言った。


「へぇ、中央の馬?」


「そうだ」


 中央で勝てなくなった馬が地方へ移籍することはよくある話である。


「名前は確かノートンという馬だそうだ」


「うーん重賞馬ではないな」


 有名な馬ではないと思ったのである。


「ああ、2勝クラスでふらふらしていた馬だな」


「何歳?」


「5歳だ」


「5歳かあ、フェブラリー勝ったスコールナイトも二着のドンキホーテも、サウジカップ勝ったストロングトレインも5歳よなあ」


 現在の5歳世代は強いと獅戸壮太は思っていた。その5歳世代とて、地方に流れる馬はいるものである。


「さっそく調教を任せる。いいな」


「おう」


 獅戸壮太はこの日のことを忘れることはなく、後にこう語っている。


「彼との出会いは運命だった」と。

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