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ターフに謳えば  作者: 大田牛二
2XX0年 打倒皇帝
3/20

フェブラリーS 雪への困惑と修正

土曜日は雨が降っていた。気温は低く、凍える程の寒さであった。馬場はその1日中降った雨により、重馬場で進行していった。雨に降れた馬場のために凍らないように凍結防止剤も撒かれていた。


 そこから日曜の朝から雨は雪に変わった。


「うーん雪……」


 ピンクの髪の女の子、桜坂リーナが画面の中で難しい表情を浮かべながらそう言った。


『中止になるか?』


『微妙だなあ。降り積もるレベルならと思うが』


『今のところ、降り積もるレベルじゃないし。除雪できているならやるだろう』


 リスナーたちがそのようなコメントを残していく。


 雪が降ることによって延期になることはある。コース内が極端に滑るようになるという状態や除雪ができない状態。終了後の輸送に問題が起きるレベルであった場合である。


 さて、今回の雪に関してだが、降ってはいるものの強烈な量が降っているわけではなかった。除雪もできており、


『本日は雪が降り続きますが、降り積もるレベルではなく、夕方には止むでしょう~フェブラリー終わりぐらいかなあ~』


 緑の髪のお天気お姉さん美衣はそう言っていた。


『美衣たんのお天気予報だと、夕方には止むんだろう?』


『あのお姉さんの天気予報、微妙に外れることがあるけどな』


『土日は99%です~→日曜日雪』


『1%の可能性は言及していたから(震え声)』


「延期にはならそうね」


 リーナはコメントを尻目にそう呟いた。明らか運営側は本日の中止はせず、続行するようである。


「積りはしないようであろうけど、馬場には影響は出るだろうね」


 凍結防止剤を撒きながらもドロドロな馬場かつ雪による強い寒さ、影響が出ないというには様々な状況が重なってしまっている。


「予想に修正をかけないといけない……考えることが多い、考えることが多すぎる」


 考慮しなければいけないことがあまりにも多すぎる。リーナとしては頭を抱えるしかない。リーナはシンプルに馬の強さで予想を立てるタイプである。しかしながら今回のフェブラリーは純粋な実力勝負というより、特殊な馬場における適正も求められている。


「苦手なんだよなあ。こういう時の予想。取り合えず、予想として現時点で修正をかけるとしたら……」


 当然、今日のメインまでのレースを見ながらではあるが、


「後ろからの馬は難しい。スコールナイトとドンキホーテの評価を下げるべきね」


 彼女はそう断言した。







 同時刻。


「もし私の予想している馬場になるならば、スコールナイトの高評価は変わらず、対抗としてドンキホーテの評価を上げなければならないわね」


 青い髪に眼鏡をかけた女性が画面の中でそう言った。彼女は個人勢Vtuberで血統からの競馬予想を行っている青澤セイナと言う。


『ドンキホーテ評価を上げるんですか?』


『確か昨日の予想配信でドンキホーテに重馬場適正の血があることは述べられていましたが、脚質的に難しいのでは?』


『気性の問題としては遠藤騎手を鞍上にしたことで緩和されるだろうという意見も出されていましたが、それでも厳しい勝負になるのではないでしょうか?』


 彼女のリスナーたちがコメントを残していく。それに対しセイナは答える。


「君たちの懸念点は理解している。しかしながら私としてはこの馬場であるならば、評価を上げざる負えない。理由としてはドンキホーテの母方の血に昨日の配信で述べらせていただきましたが、重馬場に対応するための血があります。その血に関しましてはスコールナイトとも共有しているところがあります」


 彼女の競馬での予想する上での軸は血統である。細かく血統の中にいる要素を拾い、組み立てる。


「ドンキホーテに関して、それに加え母方の奥の方に更に重馬場適正の血が重なってもあります。更にこれもスコールナイトにも共通するところではありますが、パワーの血もあります。こういう馬場で求められるのはパワーです。馬場への力強さが必要になるでしょう」


 セイナの持論では強い馬とは自身の血統図の中に眠る様々な血の要素を総合的に出て来ることによって強いというものである。


「スコールナイトは父方及び母方に重馬場適正及び必要とされているパワーの血もバランスよく含まれている。ドンキホーテは重馬場適正の血が更に特化している上にパワーを持っている。私としてはそこが評価を高めている要因です」


『なるほど~』


『ただ脚質が後ろからだからなあ』


 彼女の言葉に感心するリスナーたちの中には脚質的な問題でドンキホーテへの評価に納得できない者もいた。


『重馬場と言えば、バックスクラッチャーは?』


「私はバックスクラッチャーを重馬場適正が強いとは判断してません。この馬が勝った大雨の後の重馬場での平安Sはメンバーレベルに疑問があるのと、前にいった馬たちが軒並み全滅するという展開利があったと判断しています。ただ高齢馬にとって重馬場になることによってついてこれなくなっているのを経験でカバーする場合もありますがね」


 血統の要素が常にレース結果全て反映されるとはセイナとて思ってはいない。スペックによるごり押し、展開によっての問題、鞍上と馬の相性による失敗等、様々な要因があるだろう。


「また評価を下げなくてはいけないのはヨーロレイです。昨日の予想配信においてヨーロレイには微妙な馬場をこなすアベレージ型の血があると述べさせていただきましたが、ここまで馬場が際立つと流石に適正外となる可能性が高いです」


 (それにあの馬には懸念点が一つある……)


 セイナはヨーロレイの前走の根岸Sの走りを見て一つ懸念するべき要素があると判断していた。しかし確証がなかったため配信上では言わなかった。確証を持てない要因となっているのはヨーロレイは左回りの経験が根岸Sだけということである。だが同じ懸念点を抱いている予想家やリスナーもいたことからほぼほぼ確かであろうとも思っている。


『マグナスは?』


 思考を巡らせているとそのようなコメントを残すリスナーがいた。


「マグナスは……難しいです。適正外と呼ぶにはうっすらと適正を持つ血が入っている馬ではあります。ただその血が発揮されているかと言われると微妙です。この馬の父・ルガスという馬は種牡馬としては主張が強く、母型の血の主張を凌駕してしまうところがあります。後方脚質ですし、評価としては上げれないですね」


『脚質的な評価ならやっぱドンキホーテ難しいんじゃ』


 リスナーのコメントを見て。セイナは呟くように答えた。


「私は、ドンキホーテを後方脚質の馬だと思っていません」













パドックにフェブラリーS出走馬が回っている。


「雪だあ。なあなあ雪だぜ」


 遠藤喜一がそう言って笑っている。


「そうですね。雪ですね」


 雨川洋一がそう答える。


「なあなあ、みんな雨川がいるから雪が降っているって言ってるけど、本当に降らせてるん?」


「そんなことできるなら私は騎手なんてやってませんよ」


「でも、雨川のレースってこんなんばっかじゃん」


 遠藤はそう言いながら雨川に絡んでいた。


「遠藤さん。G1だというのに余裕っすね。自分は緊張しっぱなしというのに」


 乾はその様子を見ながら緊張している自分に自嘲した。


「イヌイさあん。リラックス、リラックスねぇ」


 このレース出走馬の鞍上・ジャック・クラウザーがそう言う。


「エンドウさあん。雪を見てベリーハッピーみたいねえ。楽しそうだねぇ」


 ジャックはそう言う。


「ジャック君わかってるじゃーん」


 遠藤はジャックの言葉を聞くやジャックの方に絡みだした。


「やれやれ……」


 やっと離れてくれたと思いながら雨川は思う。


(こういうテンションの高い遠藤さんは怖い……)


 だが、自分の仕事は自分の相方の力を引き出すことである。それ以外に考える必要はないはずだ。そう思いながら









『さあ、競馬ファンの皆様、今年初めてG1レースが始まろうとしています』


 実況がそう述べていく。


『今年は雪舞う中での決戦になります。寒さ厳しい中で熱き戦いが始まります』


 各馬がゲートの中に入っていく。そして全頭入った。


『さあ、全頭ゲートインしました。フェブラリーS……スタートしました。さあ早速、前目につこうとする馬たちがいる中、ハナを切ったのは……ドンキホーテ、ハナを切ったのはドンキホーテです。これは果たして暴走か陣営の思惑通りか。それとも鞍上・遠藤喜一のきまぐれか』

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