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ターフに謳えば  作者: 大田牛二
2XX0年 打倒皇帝
19/20

幕間 暴走機関車の鞍上問題

「ストロングトレインの次走ですが……」


「佐々木さん。私は宝塚記念が良いと思う」


 ストロングトレインの調教師・佐々木は関勝太郎の言葉に表情を渋らせる。


「宝塚記念への出走に関しては問題があります」


「問題とは?バルバロッサがいることか?」


「そうです」


「私の愛馬はバルバロッサより弱いと?」


 そうだとは言わない。関勝太郎という人のプライドの高さもあるが、自分の調教した中で最も強いストロングトレインが劣っているとは思ってはいない。だが、それでもバルバロッサがいることで問題が起きている。


「問題は鞍上です」


「鬼童君は乗ってくれないか」


「乗ってくれないでしょう」


 自分を三冠ジョッキーにしてくれた馬から自分から降りるなど無いだろう。


「他のトップジョッキーを乗せればよいではないか」


「失礼ながらストロングトレインの鞍上は誰でも乗せればよいというわけではありません。デビューの時から気性面で鞍上選びには苦しんできました。鞍上を鬼童君に固定したことで安田記念と大阪杯を制することができたのです」


 ストロングトレインのハイペース逃げは本来、他の馬どころか自分さえもつぶれてしまうような逃げである。そのような逃げを打ちながらもG1勝利できたのは鬼童騎手の見事なベース維持と息の抜き方があってのものである。これを真似ろと言っても真似ることなどそう簡単なことではない。


「安田記念で出走すれば、鬼童は乗ってくれます。連覇を目指しましょう」


「宝塚であの真紅の皇帝に、挑んでみたいのだ」


 関勝太郎は自分の愛馬こそが最強であると思っている。だからこそ現役最強と言われているバルバロッサに勝ちたいと思っていた。


 お互いの考えがぶつかり合い、時間は過ぎていった。


「はあ」


 その後も2人の話は平行線で終わり、話は次にしようということで関勝太郎は去っていった後、佐々木はため息をついていた。


「困ったことだ」


 佐々木にとってストロングトレインは強い馬ではあったものの、入厩当初から上手くいったわけではなく、調教するのも苦労するぐらいには気性が悪く、多くの馬の中でも特に苦労をさせられた馬であった。それでも自分に初めてG1勝利をもたらしてくれた馬である。そしてそんな馬を預けてくれた関勝太郎氏への恩義もある。妥協はしなかった。


「鬼童の代わりとなると……遠藤でも乗せるか?」


 遠藤喜一、トップジョッキーの一人で、逃げの名手でもあるが、


「騎手自身のムラッけの強さがなんともなあ」


 レース事にやる気の上下がありすぎて、本気の時は手を付けられないレベルの騎乗を見せるが、それ以外の時があまりにも微妙すぎる。


「市川も安定しないし、ジャックは逃げのイメージがなさすぎるしな……」


 ある程度、繋がりがあるトップジョッキーを思い浮かべていくが、ストロングトレインに乗ってもらうには相性が悪く見えた。


「あとは淀川、乾、山村、市川の娘……うーん」


 中堅から若手の騎手たちもストロングトレインを乗せるには力不足に思えた。


「どうしたものか……」


 どの騎手を乗せればよいのか……そんな風に悩んでいるとふとある馬の世代を思い出していた。


 その世代とは皐月賞、大阪杯、安田記念を制覇した『巨漢戦車』チャレンジャー。菊花賞、宝塚記念、メルボルンカップを制覇した『怪獣戦艦』タイラントシップ。そして、日本ダービー、天皇賞春、有馬記念を制覇した『癇癪飛行機』スピットファイアという『逃げの3狂』と呼ばれた馬たちが活躍した世代のことである。


『逃げの3狂』と呼ばれたようにクラシック及び古馬重賞を暴れまわった3頭は皆、逃げ戦法であったことで有名な世代であった。


 そんな3頭のタイラントシップの鞍上は遠藤喜一、チャレンジャーの鞍上は真田丸孝彦が務めた。そしてスピットファイアの鞍上は歌川和樹という騎手が務めた。


「最近、歌川ってどうしてるんだ?」


 トップジョッキーとして活躍している遠藤と真田丸に比べ、歌川は最近、騎乗しているのを見るのは少なくなっていた。


「一昨年、落馬事故で怪我をして去年の夏に復帰したが騎乗数を減らし、最近はローカルで乗ることがあるぐらいか……」


 復帰してからの成績の悪さが騎乗数を減らしているようであった。そこで映像を確認した。


「うーんそこまで騎乗に問題はなさそうだが……」


 レース映像を見る限り、そこまで悪い騎乗をしているように見えなかったが、


「以前よりも強気な乗り方ができなくなっているか……」


 怪我を庇っているのか、落馬を恐れ過ぎているのか……


「ふむ……」


 そのような状態で乗っているのであれば、乗せるリスクは高すぎる。だが、


「あのスピットファイアを日本ダービー勝利に導いたあの逃げは見事であった」


 『逃げの3狂』の中で最も気性難であったスピットファイアと折り合いをつけながら逃げの馬が勝つのが難しい日本ダービー勝利に導いたのは歌川の実力あってのものであろう。


「ストロングトレインの鞍上を歌川にするか……」


 かつての逃げの名手の復活を願いながら佐々木は関勝太郎を説得して宝塚記念でのストロングトレインの鞍上を歌川和樹に決定した。

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