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ターフに謳えば  作者: 大田牛二
2XX0年 打倒皇帝
18/20

桜花賞 小さな体に大きな夢を乗せて

『今年も桜咲くこの季節に可憐なる乙女たちが揃いました』


 実況が言葉を発する。


『今年は桜も散ることなく、彼女たちを見守っている中、今年の桜の女王は誰になるのでしょうか。2歳女王か、名牝の子か。それとも別の馬か。どの馬が女王になるか実に楽しみです』


 実況の声が響く中、各馬がゲートに入っていく。


『さあ、各馬ゲートに入りました……さあ、今年の桜の女王を決める一戦、桜花賞、スタートしました』


 ゲートから各馬が一斉に飛び出す。


『各馬、綺麗なスタート。先ずハナを取りますのは鞍上山村に促されて8番クロマメが取る。それに続く2番手に7番メリルジティ、鞍上鎧塚上手く折り合いつけられるか。3番手は4番マガノアリシア、どうもかかっているようだが鞍上若林どのように抑えながら導けるか。4番手2番……』

 

 クロマメがハナを取る展開に対し、これにメリルジティを始め4頭が続く。


『距離が空きまして中団グループに4番アリノネメシア、鞍上真田丸、初めて乗るこの馬にどのようなアプローチをかけるのか。その後ろに10番クリスタルガーデン、1番人気のこの馬をどのように導くかジャック騎手。内に控えるのはドナッチ、鞍上・カルロス騎手、どのように内を捌いていくのか。その後ろに1番……』


 中団グループ先頭を走るのはアリノネメシアを始め11頭が固まって進んでいく。


『後方に12番……最後方にブルーベリースカイ、鞍上鬼童はどのようにゴールまで導くのか』


 後方グループ3頭、特に最後方にブルーベリースカイであった。


「思ったよりも前にいかないな……」


 鬼童はそう呟く。これは厳しいレースになりそうだと思いながらレースを進める。


『さあ、先頭から最後方まで10馬身というところ、600mを超えて以前として先頭はクロマメですがマガノアリシアが2番手に上がり、競りかける。ペースはやや早いといったところか』


 先頭を走るクロマメにマガノアリシアがプレッシャーをかけていく。その後ろにメリルジティを鎧塚は我慢させながら進む。


『800mを超えて、アリノネメシアとクリスタルガーデン、先頭集団へ動いていく。ドナッチはまだ動かないようだ。ブルーベリースカイもまだ最後方』


「前目決着っすかね」


「どうだろうな。ちょっとマガノアリシアがクロマメにちょっかいかけていることもあってペースが速いからまだ後方からでも来れるだろう」


「最終直線、どのようにポジション取りするかですね」


 実況を見ているサラリーマン3人組は口々に言っていく。


『第4コーナーを超えて、最終直線。マガノアリシアが先頭に立つ。クロマメは苦しいか。メリルジティ、内から伸びる。馬場の真ん中からアリノネメシア、クリスタルガーデンが上がっていく。ドナッチも上がる。最後方に控えていたここで動いていく』


 クロマメが足を鈍らせていくのを横目にマガノアリシアが先頭に立ったが、その後ろから各馬がそれぞれ上がっていき、集団となって最終直線を進んでいく。


『マガノアリシアも苦しくなっていく。今度は内から進んでいくメリルジティが伸びて先頭に立つ。ここで馬場の真ん中から上がってきたアリノネメシア、クリスタルガーデンの2頭が伸びていく』


 マガノアリシアも足が上がっていき、内を進んでいたメリルジティが先頭に立ったと思ったところでアリノネメシアとクリスタルガーデンの2頭が上がっていく。


 ここで僅かにアリノネメシア鞍上真田丸はクリスタルガーデンへ身を寄せる。


『さあ、アリノネメシアとクリスタルガーデンの2頭の争いになったか、いやそこに大外から飛んできたのはブルーベリースカイだ。最後方から届くことはできるのか』


 先頭を走る2頭に迫るのは最後方にいたブルーベリースカイであった。


『残り200m、アリノネメシアとクリスタルガーデン、迫るブルーベリースカイ、3頭の戦いになった。2歳女王の意地か、名牝の娘の執念か。クリスタルガーデン、僅かに脚が鈍った。代わりにブルーベリースカイ迫る。しかし、しかしアリノネメシアだ。アリノネメシア、ゴールイン。小さな花なれど、数多の花に負けない美しさ、強さがあることをここに証明してみせたぞ、アリノネメシア。2着はブルーベリースカイ、3着はクリスタルガーデン』


 有野遊里は涙を流した。ついに牧場の悲願だったクラシック勝利馬の誕生と、あの小柄で走らないと思ってしまった子が勝利してくれたことが嬉しかった。


「ありがとうございました」


 彼は藍川調教師にお礼を言う。


「こちらこそ、素晴らしい馬を預けて下さってありがとうございます。さあ、行きましょう。あの子の晴れ姿を見に行きましょう」


「ええ」


 そう言って彼らはアリノネメシアの元へ向かって行った。


「ふう、競り負けましたねぇ」


 ジャック騎手はそう呟く。真田丸騎手はアリノネメシアを寄せて、根性勝負に持ち込まれてしまった。


「まあいいでーす。この子にとっての本番はオークスでーす」


 彼はそう言って割り切っていた。


「2着までとはな……」


 鬼童はアリノネメシアまで届かなかったことを嘆いた。流石に後ろ過ぎたのであろう。


「まあ賞金も稼げたし、叩きにもなっただろう。次のオークスで結果を出せばいい」


 彼はそう言ってブルーベリースカイを促し戻っていった。


「4着はドナッチ、5着はメリルジティと、地味にカルロス騎手権利取り成功ってわけか、上手いねぇ」


 桜坂リーナは掲示板の結果を見てそう呟く。


『インでじっと我慢していてどうかなあと思ったけど、よくもまあ4着に来たもんだ』


『POG指名馬だからオークスに進んで嬉しい』


『アリノネメシアめっちゃ根性あったね』


 リスナーたちのコメントと勝利騎手のインタビューを見ながらリーナは頷く。


「馬券は外したけど、いいレースだったんじゃない?ちょっと馬体重みんなマイナスなんていうものを見せられたからやべぇと思ったけど、レース自体は良かったよ」


 世代戦ではあるもののG1としてのレベルの高いレースだったとリーナは馬券を外したがそう思った。


「今回は反省点が多いね」


 馬体派として須藤カミラはため息をついた。


「馬体重の全頭マイナスという事態で馬体診断に甘さが出てしまった。本来、一番馬体重のマイナスが少なかったアリノネメシアは馬体面において評価できたんじゃないかと思うんだよね。うーんブルーベリースカイがちょっと難しかったね」


 彼女は今回のレースでの予想の甘さを反省して配信を終えた。


「ブルーベリースカイの2着によって結果としてはアリノネメシアの単勝だけでした……」


 青澤セイナは僅かにため息をつく。


「評価した馬が勝ってくれたのは嬉しかったですが、最初に評価していたブルーベリースカイにやられるとはこれは正直、悔しいですね」


 まあそういう日もある彼女はそう思いながら配信を終えた。


「いえぇーい」


 派手に大喜びしているのは紫藤マーナである。


『流石姫』


『本命をぶらさずによくぞ3連単を取られた』


『見事、見事、見事ですぞ~』


 リスナーたちは一斉に彼女を誉めたてた。


「へへん、言ったでしょアリノネメシアが勝つってふふ、みんな厳しいって言ってたのに、勝っちゃったよ~私の一人勝ち~」


 マーナはそれはもう浮かれていた。久しぶりの完全勝利であったからである。そんな彼女の様子にリスナーたちは苦笑しながらも誉めたてた。


「この調子で次の皐月賞も当てるぞ~」


『本命決まってるの?』


「うん、決めてるの」


 彼女は自信満々に言った。


「何せ、皐月賞にはあの『先生』と一緒に調教している子がいるからね。その子を本命にするわ」







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