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ターフに謳えば  作者: 大田牛二
2XX0年 打倒皇帝
16/20

桜花賞に向けて ある配信者の雑談配信

4月某日


 「いやあお嬢の騎乗、感動したよなあ」


 酔いが回っている口調でお姫様のような恰好をした紫の髪の女性が画面上で揺れている。


 彼女の名前は紫藤マーナ、競馬歴は短いものの地方競馬も含めて競馬実況を行っている人気がある個人VTuberである。リスナーからは『姫』または『マーナ姫』と言われている。


 そんな彼女の今日の配信タイトルは川崎記念敗戦雑談配信となっていた。彼女は川崎記念で馬券を外しヤケ酒をしながら雑談を行っていた。


「大阪杯めっちゃ応援していたわ皇朱音ちゃんとスメラギスワロー」


『応援していたけど、馬券は外す姫』


『姫さあ、馬連か複勝買っておけば良かったのに』


 リスナーたちがからかうようなコメントを残していく。


「うるさいうるさい。三連単を狙っていたんだ。それをマガノスクリューに、くっそ~」


 彼女は顔を真っ赤にしながらヤケ酒をする。


『姫はさあ、そんな買い方してるから馬券外すんだよ~』


『狙っている馬は結構、馬券に来るのにな』


 紫藤マーナは競馬歴は短く、本命にした馬はよく馬券内に来ることが多かった。しかしながら馬券の買い方が悪かったり、対抗が来なかったりすることが多く、配信においての的中率は低く、今のような馬券を外してからのヤケ酒配信を行うことが多かった。


「はあ、川崎記念もさあ本命のサガノルーカスは勝ったんだよ~でも2着目と3着目が反対でさあ」


 川崎記念を勝ったのは鞍上・鬼童良和騎手の7歳馬のサガノルークスであった。彼女はこの馬を本命にしたが、3連単を取ろうとして2,3着の買い方が逆になってしまい外していた。


『マーナ姫、本命にした馬の単勝は持ては至言だぞ』


「いやあ3番人気だし、4.6倍の単勝はちょっとなあ」


『そこで張るのが馬券師よ』


「うーんでもなあ単勝買うならせめて8倍は欲しいよ~」


 ぐびぐび酒を飲みながら彼女はそう言う。


『マーナ姫は今回の桜花賞の本命はどうするの?』


 そんなコメントが流れてきた。


「桜花賞まだ見てなかったなあ。今、見るねぇ」


 紫藤マーナは桜花賞のメンバー表を見る。


「へぇこんな人気順なんだ。ふうん、なんだ簡単じゃん」


 彼女はメンバー表を見て、難しいレースではないと思った。


「こんなんアリノネメシアを買えばよくない?てか、なんでこんなに人気無いの阪神JF勝った子じゃん?」


『早熟だと思われて嫌われている』


『めっちゃ根性ある馬だから本命にしなくても警戒すべきだと思うけどなあ』


「早熟ねぇよくわからないけど、前走負けたけど叩きでしょ?」


『まあ普通はそうなんだけどフィリーズレビューでの負け方でクロマメさえ捉えられなかったのがねぇ』


『血統的に疑問視している人もいるね』


「ふうん」


 彼女は血統はよくわからない。馬体にも詳しいわけではない。レースを見ても叩きだったという感想とポジションが後ろ過ぎたのと馬群を無理に突っ込んでいる騎手のミスに見えた。そんな彼女からすれば、そこまでアリノネメシアを軽視する理由はよくわからなかった。


「うーん阪神1600であの子に叶わないと思うけどなあ……」


『そう言えば、アリノネメシアの鞍上変わるんだよな。乾騎手から真田丸孝彦騎手に』


「ええ、ここで変わるの~」


 紫藤マーナは競馬、レースにドラマ性を求めるところがあり、デビューからずっと乗っていた鞍上が変わるっていうのはあまり好きではなかった。


『チューリップ賞で盛大にミスっていたというのもあると思うよ姫』


 チューリップ賞で後方から馬群で突っ込む様からレースを見ていた者たちから騎乗を批判されていた。


『まあ鉄人を鞍上にするのは良くね。めっちゃプラスでしょ』


 今回乗り替わりで乗る真田丸孝彦は通称『鉄人』と言われていた。その由来はあるレースの日に馬から振り落とされたり、落馬したり、挙句の果てには馬に蹴られたりしたにも関わらず、全レース馬に乗り続けた。その後、病院に連れてこられた後、一切異常なしという結果だったことから、『鉄人』と言われるようになったのである。


「でもでも、デビューから乗っていたから乗り替わり可愛そうだなあ」


『馬主さんの有野遊里さん、そして有野牧場にとっての悲願のクラシックだろうから勝ち取りたいんだろうなあ。有野さん代替わりしたばかりだし』


『有野牧場にとってもあれだけ繁殖の総入れ替えしてから生まれた子が阪神JF制覇して、桜花賞に進んでくれたんだからなあ』


 馬主の有野遊里氏はオーナブリーダーをやっている一族の人で、代替わりをして馬主業を引き継いだ人物である。引き継いだ頃の有野牧場の成績は低迷していた。長く重賞馬を出していない状態であった。そこを代替わりしたタイミングで牧場にて所有していた繁殖牝馬を総入れ替えを断行。外国産馬の繁殖牝馬を輸入したのである。その新しく輸入した繁殖牝馬から産まれたのがアリノネメシアであった。


『アリノネメシアの藍川調教師も気合入っているのかめっちゃ強気なコメント出してるよな』


「ふうん、そうだったんだあ」


 ビールをチビチビ飲みながら彼女は言った。


「鞍上変わるって言えば、クリスタルガーデンの鞍上も変わるんだねぇ。カルロス騎手かあ」


『ジャック騎手がブルーベリースカイだからな』


『相変わらず、外国人騎手好きだよなあ。井間調教師』


 井間調教師は外国人騎手を良く乗せることで有名な調教師である。


『井間調教師ってさ。クリスタルガーデンはオークス直行って言ってたのに桜花賞にしたのが気になるんよね』


『まあ母子制覇がかかっているしな。行きたくはあるわな』


『ローズガーデンって桜花賞は向いてないって言われてたからクリスタルガーデンも怪しく見えるけどなあ』


『父・クリスタルランサーでワンチャン?』


『クリスタルランサーって良い種牡馬だけど、あまり主張強くないからなあ』


 クリスタルランサーは現役時代、春秋マイル制覇を成し遂げ、香港マイルでも勝利した名馬である。種牡馬としても多くの馬を輩出している。


『ブルーベリースカイの権藤調教師のコメントがさ不穏だよ』


『権藤調教師っていつも自信無いコメントじゃね?』


『なんか思ったりもピリッとしてないとか。うーん秋かなあとか言ってるよな』


 権藤調教師は弱気なコメントが多い調教師で知られていたが、今回のブルーベリースカイに関しても特に弱気なコメントが多かった。


「なんか調教師サイドで不穏なの多くない?」


『他にもマガノマリアの数使いすぎ問題もあるぞ。まああれは勝ちきれないのが悪いんだが』


『でも、確か阪神JFに行く前で、ちょっと休ませようとした品川調教師に対して馬主さんが阪神JF行くようにしちゃったんだよな』


『マジで品川調教師、曲野オーナーに振り回されてばかりで可哀そう』


「へぇみんなよく知ってるんだねぇ」


 関心したようにマーナはそう言う。


 紫藤マーナのリスナーは通称『親衛隊』と呼ばれており、奇妙なぐらいに情報通なリスナーが多いことで有名であった。

 

 そんなリスナーたちに囲まれているためか彼女は競馬歴が短いものの、競馬への理解度をどんどん深めていっていた。


「取り合えず、桜花賞楽しみだねぇ。当てたいなあ」

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