オッパインナップル戦争
テレビをつけるのはやめておこう。現実を知ってしまう。つまり、やらかした。俺は血で汚れたオッパイン棍棒を掃除しながら思った。
俺の名前はジゴラ。ビーチク人18歳。ガキの頃に受けたIQテストで、4億という数字を叩き出してから、「4億の首」として追われる身となった。その頃、俺はまだ小学1年生だったが、親に家を追い出され、警察からも追われる始末。唯一の俺の居場所は「コンマ・コンチ社」だった。もちろん、ニュースでよく見る殺人結社「CC」のことだ。俺はIQ4億の頭脳を駆使して、CCに潜入した。それからの俺は、数々の殺人を裏で操ってきた。そして、今は......
「シャチョー、大丈夫!?」
「チッ、入るときはノックをしろと言っているだろ」
コイツは俺の相棒、ユナだ。彼女はこのチャナイで、毒ガスに毒されていない唯一の存在だ。
「だって、まさか、顔バレしちゃうなんて!」
「ネット配信者みたいなノリで言うなよ。こちとら殺人犯で、命狙われてんだぜ?」
「ユナだけに、ゆうなよってね!ぷぷっ!」
「はぁ〜あ。全く、気の抜けたやつだぜ」
現在、CCには俺とユナしかいない。他の奴らはみんな殺された。と言っても、俺が奴らを死ぬように仕向けたんだが。つまり、毒ガスはCCがばら撒いていた。俺はそれが許せなかっただけだ。
「でも、なんでチャナイ市長を殺しちゃったの?いつもなら殺さないのに」
「あいつ、なんか目がおかしかったんだ。なんか、やらなきゃヤバいって直感した。それでつい、な。ところでユナ、あれは手に入ったか?」
「ごめん、婚姻届はどこ探してもなかったの」
「違うだろ!パイナップルだよ!」
「あ、パイナップルはほら。ちーさいし、1個だけだけど」
「小さくてもありがてえ」
俺はパイナップルに齧り付いた。コレコレ、このトゲトゲ食感。堪んねえぜ。
「のんびり食べてていーの?警察がアジトを突き止めたって」
「馬鹿、あっちはダミーだ。入れても出てくるのは死体だけだ」
しかし、今日はチャナイ市長を殺した。それまではよかったのだが、まさかのパインマスクが剥がれて、俺が「4億の首」とバレてしまった。新聞にもデカデカ、「市長暗殺。犯人は4億の首!」と書かれてた。警察はビーチク人が高知能である一方、酒でIQが大幅に下がるという弱点を知っている。さて、どうしたものか......
「ねー、早く◯ックスしよーよー」
「馬鹿!今、展開としてシリアス流れだったんだぞ!ぶち壊すんじゃねえよ!」
「じゃーパイナップルのコスプレしてベッドで待ってるからね」
「パイナップルのコスプレって何!?」
そんなこんなで夜は更けて行った......
はい、多分朝になったよ。だってここ、地下だからスズメの鳴き声聞こえないもん。てかこのカッコ、ちょっと暑いなー。
「シャチョー、起きてー多分朝だよー」
「ん、もう朝か......ってまだ午前2時じゃないかあああ!」
「あ、まだフミキリに望遠鏡を担いで行く時間だった!」
「なんだその比喩は!ってかいつまでパイナップルコスしてんだよ、脱げ!」
「やーんえっち♡」
だからまた、寝ることにしたよー。おやすみー。
俺は焦げた匂いで目を覚ました。
「しまった!奇襲か!?」
「あ、シャチョーおはよー!」
「何呑気なこと言ってんだ!爆薬を仕込まれてるかも知r......ん?」
ユナがエプロンをして立っていた。ま、まさか!?
「朝メシはパイナップルの目玉焼きと、パイナップルのうどんだよ」
しかし、皿に乗っていたのは、真っ黒な塊と、水に浸かったパイナップルの繊維だった。
「だから料理はしなくていいって言ってるのに!馬鹿っ!」
俺はユナを睨みつけて怒鳴る。
「だって!シャチョーの元気付けるのが私の仕事だもん!今日も美味しいのできたし!」
「こんなもの食えるわけないだろ!パイナップルが勿体ない!」
「う、ウエーン!」
「泣くなよ!事実を言っただけだろ?」
「そうだね。私が悪かったね。このパイナップルはお葬式しておくね」
しまった。ちょっと言い過ぎたみたいだ。正論をぶちかましゃいいってもんじゃないよな。
「あー待て、近頃の葬式代は高くつくからな。俺が食って成仏させてやるよ」
「わいわいわーい!じゃあ一緒に食べよう!」
「チッ!一瞬で機嫌良くなるんだからな。まあ、俺もお前がいるおかげで、気持ちは元気でいられるんだ。いつもありがとう。じゃ、いただきます!」
「いただきまーす!」
それからのことは、思い出そうとしても思い出せない。多分、料理の味がヤバすぎて気絶したんだろう。
ん?なんだこれ。体が動かないぞ。ハッ!?俺は体を縛られ、磔にされていた。
「気が付いたか、4億の首」
「何者だ!?」
反響する声。下を見ると、そこには......ま、まさか!?
「チャナイ市長!?なぜだ!お前は俺が殺したはず!」
「驚いたよ。世間を騒がせたCCのボスが、まさか君だったとはね。そりゃ捕まらない筈だ。なんせ、君はあの4億の首だったんだ」
「質問に答えろ!お前は確かに俺が殺した。なぜ生きている!?」
「ああ、確かに殺されたよ。でも君、ちょっと甘かったね。生き返ることを考慮して、死体を破壊することをしなかった」
「ま、まさか!人間が生き返るなんて、そんなこと!......ッ!?」
「ようやく気づいたか。やれやれ。4億の首というのも所詮名ばかり。そう、私もビーチク人だ!」
「そんな、あり得ない!俺以外にビーチク人がいるなんて......」
ジョイント音が微かに響く。って、ここ地下鉄の下か!?
「さあ、お喋りはここまでだ。そろそろ終わりにしようか」
「待て、ユナはどうした!」
俺はバタバタ体を動かす。手首、足首から先は動かせるみたいだ。
「ユナ?ああ、捕まえたとき一緒にいたっていう娘か?そいつなら拷問部屋にいるぞ。色々知ってそうだったからな」
「な、なんだと......」
体の痺れ具合から考えて、磔にされて4時間くらいだ。ってことは、ユナっ!!
「ハッハッハ!そのジタバタ暴れる姿、最高だよ!IQ4億だって、身動き取れなきゃただのゴミだ!そりゃそうだ。俺たちビーチク人の平均IQはせいぜい200だ。4億なんてあり得ない数字だからな!」
「あ、UFO!」
「え?どこ?」
バァーン!その瞬間、十字架が倒れた。驚く市長。その隙に、俺は隠し持っていたオッパイン棍棒で市長を殴り倒した。
「ち、畜生、どうやって......」
「お前さあ、自分の知能に溺れすぎなんだよ」
「!?」
「この仕掛け、全部人間に作らせたんだろ?もちろん、発案はお前だろうが、そういう手抜きをするから失敗するんだ。見ろ」
俺は壊れた十字架を指差した。ステンレス製の十字架が綺麗に倒れてれている。
「そんな、そんな馬鹿な......」
「そう、この上は地下鉄だよな」
「だ、だからなんだ」
「これだけ揺れたら簡単に分かることがある。共振だ」
「共振だと!?」
「つまり、地下鉄の揺れと、この十字架が共振してたんだ。俺は列車が通過するタイミングで、この十字架に同じ周波数の振動を加えた。そして、耐えられなくなったこの十字架は倒れた」
「チッ、参ったな。流石は4億のくb......」
「ふざけんじゃねえ!お前みたいなクズは死ねえ!チクビーーーーーーーーーーーーーム!」
「待てっ、うわああああああああああああ!」
その瞬間、市長は跡形もなく消え去った。
「待ってろユナ、今助けるぞおおおおおおおおおおお!」
「エーン!痛いよー」
「痛ければ目を閉じればよいのですぞ」
「痛いのやだよー!」
「聞こえませんでしたか?誰だって痛いのは嫌です。もう、目を閉じてはいかがですか?」
「だったらなんで嫌なことすんのー!自分が嫌だからするんだったら、私に拷問するのも嫌ってことでしょー!じゃあやめてよっ!」
私はこの拷問部屋、看守のキーでございます。なんだっけ、そう、ユナさん!最近人の名前を覚えられないのに困っております。
「ユナさん。でも、シャンプーが目に染みるのは私のせいじゃないですから。目を閉じたらいいのですよ」
「目ー閉じたら怖いもん!でも痛いのキライーっ!」
しかし、なんとお利口さんな子でしょう。ここが拷問部屋だということ、分かってらっしゃるのでしょうか?
「そろそろお風呂から出てくれませんか。かれこれもう4時間ですぞ」
「アンタがそこにいるから出られないんでしょ!」
「いや、だって私は見張りを......」
「裸を見るためにそこにいるんでしょ!?」
「失敬な!いいでしょう、私は廊下にいますから、ですからもう出てください」
「ありがとう。おじいさん、優しいね」
「私は優しくなどありません。だってあなたに拷問を......」
「うん、全部知ってるから。だって、毒ガスが、みんなを......」
「ユナさん!?」
磨りガラスの扉越しに泣き声が聞こえました。あまりに千切れそうな声で、私は彼女が死んでしまうのではないかとハラハラしました。
「おじいさん、ありがとう」
「ユナさん、待って下さい!その、私も......」
「だから......知ってるって言ったでしょ。ここ、拷問部屋なんだよね。早く拷問したら?」
「ゆ、ユナさん。私は......」
「逃げて」
「えっ!?そ、そんな」
そのとき、外から強烈な光が差し込みました。
「チクビーーーーーーーーーーーム!」
俺は「拷問部屋」と書かれたドアを破壊した。中は薄暗く、電話ボックスみたいなシャワールームがひとつあるだけだった。
「お前が看守か!」
「左様でございます」
看守はのんびり答えた。コイツがユナに暴力をっ!
「お前、これがどういう状況か分かるか」
「存じております。あなたがユナさんの旦那様ですね」
「え?違うぞ。旦那様じゃない、ジゴラ様だ」
「それは失礼致しました。ユナさんからそうお伺いしておりましたものですから」
「え、ユナが?」
するとシャワールームからドカン!と音がした。
「いったーい!ずっこけちゃった!私たち夫婦じゃないのー!?」
「ユナ!生きてたのか!今助けるぞ!それと結婚した覚えはない!」
俺はシャワールームに駆け寄り、勢いよく扉を開けた。
「大丈夫かユn......」
「キャー!ジゴラさんのエッチー!」
俺はユナに平手打ちを食らった。顔面にHP-9のダメージ!(※HP=エッチポイント)
「な、何をする!エッチもなにも、俺は助けに来たんだぞ!?そして仮にも妻名乗ってんなら、裸見られたくらいでギャーギャー喚くな!」
つうこんのいちげき!ユナのハートにHP-10000のダメージ!ユナは泣いてしまった......
「あーごめん。俺が悪かった、俺がエッチでした。すいません」
「いいよー」
ユナは世界樹の葉を使わなかったのに回復した。HP+999999回復!
「さあ、分かったらさっさと逃げるぞ!」
「ヤダー!裸のまま逃げるなんて!」
「服を着ろよ!」
「ヤダー!感動のシーンでパイナップルコスなんて!」
「自業自得ってのはこのことだ」
「何言ってんの!パイナップルコスはシャチョーの性癖でしょ?」
「......いいから、早く着ろ!」
そして俺たちは慌ただしく部屋を出た。
「パイナップルコスが性癖......ぷぷっ!全く、変な方々でしたね。しかし、無事に脱出できればよいのですが」
ヴー!ヴー!
(侵入者発生!侵入者発生!新入社員は張り倒せ!)
突然警報が鳴り響いた。急がないと、ヤバい!
「ねー、新入社員は張り倒せってどういう意味?」
「いや、多分語呂で適当に言ってんじゃないか?ってそんなことより走れ!」
そして俺たちは出口まで辿り着いた。しかし!
「なっ!?シャッターが!」
「うそ!閉じ込められてる!?」
「あっ、しまった!」
(侵入者確保!侵入者確保!新入社員は逮捕!)
気づいたときにはもう遅かった。振り返ると、来た道をシャッターが塞いでいる。ということは、まさか!?
「この警報、よっぽど新入社員に恨みがあるんだね......」
「呑気にツッコんでる場合じゃないぞ!このまま俺たちを毒ガスで殺す気だ!」
「え?でも市長は死んだのに、一体誰が?」
「......毒ガスそのものだ」
「え!?」
(毒ガス噴射開始!毒ガス噴射開始!毒ガスでどうかするど!)
「ぷっ!毒ガスでどうかするどって、ぷぷぷ!」
「チクショオオオオオオ!ここまでかあああああああ!」
俺は拳で地面を叩きつけた。拳から血が流れる。詰みだ。終わった。
「まだ終わってないよ」
「え?」
見上げるとパイナップル、じゃなかったユナが微笑んでいた。
「諦めちゃダメ!最後まで闘うのっ!だって、助かりたいって思うから、助からないって絶望するんだもん。だったら素直に希望を望む方が、素敵でしょ?」
「ユ、ユナ......お前」
そういうと、ユナは警報器を睨みつけた。こんなに真剣なユナは、今まで見たことがなかった。そして、ユナは警報器に向かって叫んだ。
「素敵なステーキ!」
ズコーッ!涙が一瞬で乾いた。
「結局ダジャレかよ!期待した俺が馬鹿だったわ!」
しかし!
(プー!素敵なステーキだって!プッ、ププッ!)
なんと、警報器がダジャレにウケたのだ。そして笑っている間、毒ガスの噴射が途絶えた。そうか、つまり!
「さあ、ダジャレぶち込むよ!すっぽんはスッポンポン!」
「わ、分かった!今日の給料はきゅうり!」
「私のタワシは渡しません!」
「クラインの壷の中はとってもクライン!」
「座右の銘は、白湯飲め!」
「いとこ、遠いとこで糸買うた!」
(プアッハッハッハ!ギャアアッハッハッハアアアア!アハハッ!笑い死ぬ!)
そのとき、シャッターが開き始めた。よし、いいぞ!そしてシャッターが開き切ったところで、俺はトドメの一撃を放った。
「ダジャレコンボの果ての、オッパイン棍棒!」
(え?最後つまんな)
「いや、ウケんのかーい!」
ガッシャアン!俺は警報器を破壊した。
「今だ!逃げるぞ!」
「ブラジャー!」
そして俺たちは、なんとか毒ガスを免れ、外へ脱出することができた。
少し離れた丘の上へ来た。見上げると青空が広がっている。そよ風が毒ガスの匂いを吹き飛ばして行く。見下ろすと、毒ガスの漏れかかった研究所が見えた。気づいてはいたが、あれは元CCのアジトだ。まさかチャナイ市長がビーチク人で、CCを裏で操っていたとは知らなかった。クソ、俺としたことが、もっと早く気づいていれば。
「ねえ。あの毒ガス、どうするの?」
「研究所ごと吹っ飛ばす」
「ええっ!?」
俺は気を溜めた。そして棍棒を振りかざした。
「オッパイン光線!」
巨大な光線は、研究所を木っ端微塵に破壊した。
「うわーすごい。ってか閉じ込められたとき、これでシャッター破壊したら良かったんじゃないの?」
「威力が強すぎて、その、お前が死んでしまうかも知れなかったからな......」
「っ!もう!シャチョーったら!」
ユナは照れている。なんか、ヘンな気分だな。
「でも、さっき言った、毒ガスそのものって、どういう意味?」
「ああ、それはな」
俺は話した。CCが毒ガスの開発をしていたこと。その毒ガスは意志を持ち、CCの人々の脳を乗っ取ったこと。結果、CCは殺人集団と化し、黒幕の市長が毒ガスに侵され、チャナイ市に毒ガスを蔓延させたこと。
「だから、俺はCCに入って、内側から組織を壊滅させたんだ」
「なるほど!コ◯ンみたい!」
「いや、俺コナ◯よりIQ高いから」
しばしの沈黙。穏やかな光と、小鳥の鳴き声。幸せな光景だ。
「でも、私、ひとつだけ分かんないことがあるの」
「なんだ?」
「なんで私を、CCに入れたの?」
「ふっ、それはな......」
あのときのことを、ユナは覚えていない。土砂降りの中、俺は、工場の壁にもたれて座っている少女を見つけた。
「おにーさんこんにちは」
「こんなところで何をしている」
「家を、追い出されちゃって。パパもママも、急におかしくなっちゃった」
俺は怒りが込み上げてくるのを感じた。かつての自分が重なる。誰も、味方なんていない。誰も、味方なんて......
「ホラ、立てよ」
「え?」
「いいから来いって。そこにいたら風邪引くだろ?」
「うん」
俺は手を取った。しかし、少女は立ち上がることなく、そのまま眠ってしまった......
「それは、希望を望んだから、じゃないかな」
「え?」
「さっき言ってただろ?助かりたいから助からないって絶望するんだって。だから、お前がいると、そのな......」
「てことは、私は希望の女神様!?」
「あー、うん。そう」
俺たちの希望はまだまだ続きそうだ。この毒ガスに狂った世界を浄化する、希望の力があるから。今なら、こいつが毒ガスに毒されなかった理由がわかる。それは、ダジャレが上手いからだ。