テスト終わりのご褒美の話
まだまだ日が昇っているタイミング。
普段に比べて短い時間で終わったものの、疲れ果てたその身体をベンチに預ける。
今日もやってきた奥宮も、普段に比べれば大分猫背だ。ベンチに座った瞬間、大きく手を上げる。
「ついに、テスト終了です!」
そう宣言する奥宮に合わせて、拍手を送る。
そう、あの辛かった日々はようやく終わりを告げた。
何故かガンマンの真似とかしてる時もあったけど、普段よりはやれたんじゃないだろうか。
「お疲れ〜」
「いやー、本当に疲れましたよ……。
先輩、何か私にご褒美ください」
「ご褒美?何それ、カツアゲ?」
「……別に、お金をせびってるわけじゃないです」
ああなんだ、思ったよりも純粋な気持ちらしい。
とはいってもな……奥宮に俺がしてやれることも特に思いつかない。
「何か言ってみてよ。
もしかしたらやるかも」
「えー何でも良いって言われると逆に難しいですね。
じゃあスマホでランダムワードメーカーとか使ってそれに沿った対価をいただきます!」
なんか思っていた方向と別ベクトルでことが進んでいく。
運が絡んでくると、やらなきゃいけない気持ちになるからやめて欲しい。
どんぐりとか出ろ……。
「それじゃ、スタート!
………………セミ?じゃあ、セミください」
「いや、今もう十一月だから。
流石にセミはちょっと厳しいかもなぁ」
っていうかセミ渡されるの嫌だろ。
奥宮も完全に、ランダム要素が混じったことで要求が限定的になってしまっている。
これはもう誰が得をしているのか分からない。
「ちょっともう一回回させてください。
………………自動販売機、ジュース奢ってください」
「ああ、ジュース奢りね。良いじゃん」
とりあえず奇跡的に良い塩梅のやつが出てきた。
まあ、奥宮もそれなりに今回のテストは苦労していたみたいだし、ジュース一本くらいなら自主的に奢りたい気分だ。
「え〜、なんかもうちょっと面白いやつが良かったです」
「そんな、ランダムワードメーカーに期待しすぎだな」
「……あ、分かりました」
「分かった?何が?」
奥宮は嬉しそうに立ち上がる。
この顔は、何かを思いついた時の顔だ。
「じゃあ、セミさんが来る。
つまり夏の暑い時期になったらジュース奢ってください。
とりあえず、それまでは今みたいに楽しく話すの継続ってことでお願いします!」
「おお、なんて可愛い後輩なんだ」
「でしょ?」
来年の夏か、その間にテスト何個かあるけど今となってはその事実はそんなに気にならない。
こうして、長く付き合いを持っていきたいと思われているのは嬉しいことだ。
「先に夏の話しちゃいましたけど、今年の冬休みとかどうなるんですかね?」
「どうだろうな、俺はどうせいつものメンバーと変わらずダラダラすごすんだろうな」
「……私とは、会ってくれないんですか?」
奥宮と?
……そういえば、ここ数年あまりに関係性が増えなすぎて、他の誰かと過ごすことなんて考えもしなかった。
もし、奥宮と遊んだりしたら楽しいとは思う。
「じゃあ、連絡先交換するか?」
「……はい!したいです!」
連絡先を交換してすぐ、スタンプが飛んでくる。
……奥宮ってこんな名前だったんだ。
「先輩のフルネーム初めて知りました……」
「でも、これからも先輩って呼ぶんだろ?」
「それは……もちろんです」
テストが終わったその日、やっぱりいつもと同じく過ごす奥宮との時間。
それが、冬休みにまで訪れそうな気がしていつもと違う長期休みに、どうしても胸が躍ってしまう。
こんな日常がどれくらい続くのか俺には分からないけどまあ、とりあえず来年の夏くらいまでは続きそうだ。