やりたいバイトの話
いつものバス停、今日は珍しく奥宮が先にいる。
いつもと様子が違うようで、忙しなく財布を開いたり閉じたりしている様子にどうするべきか悩んでいると、奥宮に見つかってしまう。
「先輩……お金が足りませ〜ん!!」
「おいおい、ちょっと一旦落ち着けって」
奥宮を落ち着かせて、ベンチに座らせる。
項垂れる彼女に、原因を聞く。
「いや、私が悪いんですけど……。
今月お金使いすぎました」
「なるほどな、遊びか?」
「はい、カラオケにご飯にファッションにとにかく色々」
……確かに、今月は奥宮がバス停にいないことも多かったかもしれない。
どうりで今やってるスマホゲームのイベントがやけに進んでいるわけだ。
「まあ、今月ももう少しだし我慢だな」
「ですよねー……ああ、本当はバイト出来たら良いんですけどね」
「まあ、俺たちには厳しいよな……」
そう、俺たちはかなり田舎の方に住んでいる。
今だって学校からかなり歩いてここまで来てるし、夜になればバスの本数も少なくなる。
バイトは正直言ってかなり厳しいのだ。
「家の近くにコンビニすらありませんよね。
昔無理して歩きで行ったら、地獄見ました」
「俺も取れるタイミングが来たらすぐ免許取るわ」
「っていうか、先輩は大丈夫なんですか?
前、私よりお小遣い少ないって言ってましたよね?」
「俺は、あんまりお金使うタイプじゃないからな」
「え……とにかく、バイト出来たら良いんですけどねぇ」
今こいつ、ちょっと借りようとしてなかったか?
まあ、どちらにせよ貸して変な感じになるのも嫌だから貸すことはないが。
「せめて、理想のバイトくらいここで喋らせてください」
まあ、何かちょっと可哀想にも見えてきたしそれくらいは聞いてみるか。
「じゃあ、何やりたいの?」
「……そうですね、やっぱりファミレスとかは憧れですよね〜。制服可愛いかったりするし、休日なら賄いとかも出そうだし」
「おお良いじゃん、奥宮接客とか得意そうだもんな」
「はい、実際コミュニケーションとか取るの苦手じゃないですし、楽しいと思いますよ」
「うわぁ、俺も久しぶりにファミレス行きたい……。
ファミレスって別に料理もめちゃくちゃ美味いよな」
「あ、じゃあ先輩お客さんとして来てくださいよ。
ポテトくらいだったらサービスでき……………………」
急に喋るのを辞める奥宮。
「おい、急にどうした?」
「いや、よくよく考えたら今までの話って全部妄想ですよね……」
「まあ、そうだな」
どうやら現実に戻って来てしまったようだ。
またさっきのように財布の中身を見つめる。
つい俺の視界にも入ってしまった、まさかの札なし。
確かに、今月はもう何もできないだろう。
「はぁ、私にも出来るバイトないですかね」
「ないない、あったら俺がとっくにやってる。
まあ、一応内職とかあるかもだけどダンボール持っていくのにも車必要だしな」
「……ですよね、来月は上手くやりくりします」
結局、俺たちは将来を待って車に乗る権利を手に入れるしかないのだ。
それまでは、耐え忍ぶだけだ。
絶望の最中にいる奥宮は、もう再起不能なようなのでスマホに目をやる。
え?やばい、このゲーム2出るんだっけ……。
発売日めちゃくちゃ近いじゃん。
っていうか、最近カードとか買ったばっかなんだよな。
あ、そういえば最近ハマってるアニメのグッズも。
……ちょっと計算してみるとするか。
その数分後、バス停のベンチには項垂れる人間が二人並んでいた。
田舎暮らし優遇のバイト、募集中……。