謎の転校生の話
「先輩、たまには話題出して下さいよ」
隣に座るなり、急にそんなことを言いだす奥宮。
仕方ない、ここは先輩として一つ頼まれてやるか。
「……えーと。
あの、今日学校であった面白かったこととか……。
あったりする?」
「先輩……マジですか?」
マジです、俺は話題を出すのは結構苦手だ。
今まで奥宮に頼りっぱなしでバレていなかったのに、まさかのタイミングで化けの皮が剥がされてしまった。
「面白かったことって、そういう先輩はあるんですか?」
「俺?勿論ないよ」
「無いんだ……いや、私も特にないですよ?
知らない女子同士の身内ノリとか聞きますか?」
「……聞かない」
よく考えてみたら俺も、いつもと変わらず身内で雑談しながら過ごしていただけだ。
面白かったこと、という題材に普通に答えたりする芸能人たちにリスペクトのようなものが芽生え始めている。
「でも実際、そろそろ学校生活もマンネリ化してきましたし、何かしら起きてもいい頃かもしれませんね」
「何かしら……か、まあ近くで言えばクリスマスとか」
「違いますよ、そういう定期開催のイベントは意外性が無いじゃないですか」
「じゃあ、何が起こるっていうんだ」
「そうですね……謎の転校生がやってくるとか?」
謎の転校生、何だか惹き込まれる響きだ。
確かに何の因果か突然やってきた転校生とか、友達になれなかったとしてもちょっと上がるイベントかも。
「じゃあ、私のクラスにやってきたとしましょう。
その人はめちゃめちゃに美少年で、いずれ私と恋に落ちるんです……」
「あれ、趣旨めっちゃ変わってない?」
「ゔん…………どうも、転校生の風間っす!」
突然声を作った奥宮に吹き出してしまう。
それをみた奥宮は嬉しくなったのだろう、ニヤニヤしながら、熱演を続ける。
「自分、よくテレビとか見るんだけど……それ関係だったら色々話せると思うんで、仲良くしてください!」
「風間、何か思ったより普通の男だな」
「……確かに、謎の転校生風間のプロフィール考えてみますか?」
「いいよ、じゃあまず趣味は……やっぱり楽器とか?」
「それまた意外性に欠けますね、やっぱりパチンコとかが良いんじゃないですか?」
「一応高校生なんだよなそいつ……」
もう、完全に適当に喋ってる奥宮。
まあ、風間の顛末くらいは見届けてやるとするか。
「サバイバル生活が長かったので、毎日お昼にはその場で鶏をしめるんですよね」
「実は、伝説の覆面レスラーなんだよな」
「走っているだけで車に追いつけるらしいですよ」
もうとんでもないことになってきた。
……あれ、そういえば。
「一応風間ってさ、奥宮と恋に落ちるんだよな」
「え?、ああ…………ゔん…………ごめん奥宮さん。
感性が合わないから付き合うことはできないんだ」
「バンドが解散するみたいな理由で振られてる……」
まあ、風間は普通の女子校生選ばないだろうな。
もっとなんだろう……世界最強の女とか。
「いや、良かったですね先輩。
風間とは付き合えなかったので、これからも先輩と放課後お喋り出来ますよ!」
「何か風間いるみたいになってるけど。
……いや、その世界線なら風間と話す方が面白そうな気がする」
「え〜!?」
まさかのライバルにめちゃくちゃ焦り散らかす奥宮。
その後は奥宮が延々と自分のセールスポイントを訴え続けるのだった。