共通の趣味の話
「あー、先輩またDVG?……でしたっけ。
それ見てるじゃないですか〜」
「おい、人のスマホ勝手に見るなよ……」
今日は少し遅れてバス停にやってきた奥宮が、気づけば俺の後ろに立っている。
俺は急いで、スマホの電源を落とす。
何かやましいものを見ていたわけではないけど、反射というやつだ。
「はぁ、先輩と共通の話題を作るのは難しそうですね」
「まあお互いに、あんまり寄り添う気も無いからな」
「いやいや、私はめちゃくちゃ寄り添う気ありますよ?」
……絶対嘘だろ。
俺は奥宮を怪しむような目でじっと見つめる。
「何ですか、疑ってるんですか?
じゃあ良いです、そのDVG……的なやつ私にも教えて下さいよ」
「ええ、DVGか……。
うーん、まあ良いけど」
DVG、正式名称デーモンvsゴッド。
今、俺たち友達間で流行ってるカードゲームだ。
中には発売された時から数十倍まで価値が高まり取引されるカードもあるほど、熱狂的なファンも多いし近年の人気も凄い。
「ただな、このゲームとにかく後攻が強いんだよ。
それで俺は毎回じゃんけん負けて先攻になるんだ。
だから今は先攻でも戦えるデッキがあるんじゃないかって調べてみてて……」
「そういえば、バス来ませんね……」
分かってた、絶対奥宮には響かないと思っていた。
ただ、少しでも興味を持つ素振りを見せられたら嬉しくなっちゃうもんなんだよ。
はあ、と一息つく。
「とにかく、分かっただろ?
俺たちでは、共通の趣味を作るなんて不可能なんだ」
「えー、こんなに話せるのにですか?」
「こんなに話せるのに、だ。
何か相談事をする時は意外と性格が離れている人を選ぶべき、っていうだろ。それと同じ」
「いや、聞いたことないし繋がりもよく分かんないです」
やっぱり納得いかない様子の奥宮。
面倒臭いが仕方ない、ここは先輩として気を遣おう。
「……じゃあさ、奥宮の趣味は?
もしかしたら、合わせられるかもしれないぞ?」
「私ですか?……カラオケとか、運動したりとか」
「何か、俺がもうちょい行けそうなやつないの?」
「じゃあ……アイドルとかどうですか?」
……一旦落ち着こう。
アイドルって言ってもジャンルが沢山ある。
「例えば……誰?」
「一番好きなのはアープロとか……」
「地球侵略プロジェクト!?」
つい声出た……。
地球侵略プロジェクト、通称アープロは五人組アイドルユニットで、それこそ今人気絶頂と言えるほどの人気だ。
俺も少し前から入った新参者ではあるが、まさかここでその名前を聞くとは思ってもいなかった。
「凄い、あったわ共通の趣味……」
「だから言ったじゃないですか!
私たちには潜在的にアープロを推してるという共通点があったから、ここまで話せるようになったんですよ」
「ああ、もうそれでいいや」
あまりにも奥宮がアープロ好きであったことが衝撃的でもう共通の趣味云々もどうでもよくなり始めてる。
ここ一週間はもう、アープロの話で良いかもしれない。
「ちなみにいつから?
……ていうか、偏見だけどあんまり奥宮がガチで推してるイメージが湧かないんだけど」
「失礼な!……聞いて驚かないでくださいよ?
私なんて、結成当初からのファンですから!」
「今まで失礼いたしました、ここまでの無礼を謝罪させて下さい」
思ったよりガチだった。
ワープロだって、最近ようやく芽を出し始めたグループだし、それ以前からのファンっていうのだけでも凄い。
「よし、じゃあワープロへの愛を今叫びましょう!
周りは森林なので、思いっきりやっちゃって下さい!
まずは先輩からですよ!」
「よし……ワープロさいこーう!!!」
ふう、案外気持ちいい。
……やっぱちょっと恥ずかしいか。
「じゃあ次奥宮……」
奥宮は俺のことを真顔で見つめている。
奥宮、と声をかけても全く反応しない。
……どうやら、完璧に嵌められて俺だけ叫ばされたらしい。
「おい、どうしてくれるんだよ奥宮。
俺今、恥ずかしさが倍々に上がってきてるぞ」
「まあ、だって先輩言ったじゃないですか。
後攻が基本有利だって」
「いやそれDVGの話だから……」
……そこは聞いてたのかよ。
そのタイミングでバスが到着して、ちょっと救われた。